ゆの
ではお茶を淹れてたまには語ろうか我が師父の手のあたたかさなど
【選評コメント】
●この場にいない師への思いが伝わりました。師がいない悲しさより師がくれた暖かさが思い浮かびました。──海月雪夜
●「我が師」「父」は亡くなっているのでしょうか。お通夜や酒の席で、誰かとの思い出話をしているような印象です。死者は忘れられた時に二度目の死を迎える、なんてよく言いますが、彼は、だいぶ長生きしそうですね。──おかのきくと
●なんだか寂しさが穏やかに光っている感じがして、くううううとなりました。手の暖かさが祈りのようです〜──てくてく
●小説の始まりのようなフレーズのリズムの良さが個人的にとても好きです。「たまには」の四文字で我と師父の関係性がいかようにも想像できるところがロマンがありますね。──四月
●小説の冒頭、おとぎ物語が始まっていくシーンのような、やさしい書き出しのような歌だと思いました。すぐその辺りにいる人の手のあたたかさをかしこまって語るのは気恥ずかしさが勝つように思えるので、その人はもう存命ではないか、もう簡単には会えない存在なんじゃないだろうかと想像します。「手のあたたかさ」から話し始めたくなる存在であるなら、主体にとっては良い思い出、良い関係だったと想像します。──池田いくら
●主体は背伸びしたい年頃でしょうか?あらたまった印象の口語に「手のあたたかさ」という幼い組み合わせでそう感じました。──谷澤
●接続詞から始まる短歌に心底弱いんです
……!! シンプルに格好良いですし、一首の前に広がる時間や世界に思いを馳せることになるので
……
短歌の“私”と語りかけられている対象との絶妙な関係と二人の時間が垣間見えて素敵でした。〈我が師父〉とあるので兄弟弟子同士ではなく、むしろライバルであったり〈師父〉の弟子と友人だったり、近しくはあるけれど親密さとはやや違うような、近しくも礼儀が忘れられることはない関係性をイメージしました。けれど〈たまには〉いつもより少し空気を緩めて、それぞれにお茶を手にしながら語らいの時間を持とうという、ささやかで嬉しい時間があること。台詞としてとても自然な雰囲気でありながら、彼らの関係や時間の繊細な部分まで重層的に感じられて、とても好きな一首です。──Dr.ギャップ
【作者コメント】
「銀河英雄伝説」より、ユリアン・ミンツを詠ませていただきました。原作後、亡き人たちのことを偲ぶ夜があったらという想像の場面です。
不敗の名将と呼ばれた養父ヤン・ウェンリーと共に暮らし、その哲学やひととなりを誰よりもよく知るユリアン。彼が大切な人と語りたいのは、歴史には残らないヤンとの思い出や、ふとした瞬間の印象だと思うのです。大の紅茶党だったヤンに紅茶を淹れるのはユリアンの大事な役目でした。
「師父」は外伝2巻『ユリアンのイゼルローン日記』で、ユリアンがヤンを指して使った言葉です。養父への思慕と敬愛の念が詰まった言葉だと思い使用しました。──ゆの
魂喰いの手から零れた種からも命は芽吹く世界は進む
【選評コメント】
●「魂喰い」は悪者なのでしょうか。そんな存在からも命は芽生えるし、世界は回る。邪悪な存在でも、何かの痕跡を零しながら生きている。そういった不条理もまた、悲しいけれど、この世の掟であり、自然なあり方です。──おかのきくと
●上の句でかなり重たい原作なのかなと思いましたが、下の句でぐんと力強さとスピードが上がるような感覚が好きです。命が芽吹くことが希望なような、一方で世界は進むことに少し焦燥感を覚えるような、そんな歌に感じました。──四月
●「種」をどう読むかがこの歌の肝かと思います。魂喰いというからには魂を食べているのだと思いますが、その手からこぼれていくと描写されているのは魂ではなく種。魂が種(植物)に例えられているのか、種(植物)を魂と言い換えているのか。後者だとするとベジタリアンの魂喰い
……とちょっと面白くなってしまいましたが「魂喰い」って字から想像する荒々しさや不穏さからするとその読みは合わない感じもします。構造が凝っているのでうまく読み解けていない気がするのですが、おこぼれのように命を繋いだ者にもこの世界で果たす役割はある、みたいなことなのかなと想像しました。──池田いくら
●死と生が共存している歌でとても好きです。
下の句の力強さがとても素敵です。──海月雪夜
●〈魂喰い〉という人の理から外れた存在の手からも零れた種からであっても命は芽吹く=「理から外れた存在などないのだ」という歌のように感じました。この世界で〈魂喰い〉がどういう存在なのか(すごく単純化すれば”悪”とされるのかそうでないのか)は分からないものの、〈命は芽吹く〉という回収のされ方に、世界は思っているよりも優しい形をしているのだと言われたような気持ちになります。一方、〈世界は進む〉は〈命〉の成長のイメージにつながる一方で〈魂喰い〉を置いて進んでいるのかもという印象があり、それが寂しいような、でも〈魂喰い〉は〈命〉の背を押すのかもという想像もあり、優しさとさみしさの混じる読後感でした。──Dr.ギャップ
【作者コメント】
来年HDリマスターが出る名作RPG 『幻想水滸伝Ⅰ』より、主人公の親友テッドを詠ませていただきました。
この世界には「27の真の紋章」という世界を動かす理(ことわり)があり、テッドはそのひとつ、「生と死を司る紋章(通称ソウルイーター)」を右手に宿しています。紋章の呪いで少年の姿のまま、300年もの間世界を放浪したテッドの旅に思いを馳せてみました。
死神と呼ぶにふさわしい禍々しい紋章を宿しながらも、諦めずに旅を続けられたのは、生命の力を信じられる瞬間があったからだと思っています。
結句は、ゲームのテーマ曲『予感』の歌詞「希望は世界をめぐり、進んでいく」からお借りしています。歌手のヤドランカさんはサラエボ出身、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は彼女の故郷の出来事でした。故郷を失う痛切な思いが歌われたこの歌は、故郷を失ったテッドの心情そのものだと感じ、使わせていただきました。──ゆの
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