Dr.ギャップ
2023-11-16 22:36:03
72744文字
Public 二次創作短歌オンリー歌会
 

2023二次創作短歌オンリー歌会(メイン歌会)

2023年秋に開催した二次創作短歌オンリー歌会(メイン歌会)の参加作品とコメント一覧です(参加申込順・敬称略)。

企画詳細→ https://privatter.net/p/10391147
企画用ハッシュタグ→ #二次創作短歌オンリー歌会


水川怜


君の眼は神代かみよの秘密を閉じ込めた翡翠のように遠くにあって


【選評コメント】
●君を見つめる時の距離は瞳の色がわかるほどとても近いのに「遠い」と思ってしまう寂しさや途方もなさを感じます。私は見ているけれど、君は私を見てくれないさみしさ。秘密がどんな秘密かはわからないけれど翡翠に閉じ込められた秘密は高潔で自分勝手に暴いてはいけないような気持ちになります。声に出して読んだ時に君・秘密・翡翠と音の繋がりが重なるたびに硬度を増していき内容と相まって透明度の高い鉱物のイメージを持ちました。またこの歌から熱のような圧縮されている手触りも感じていて不思議で綺麗な歌だと感じます。──山と森と街

●「神代の秘密を閉じ込めた翡翠」、秘境にこんこんと湧く泉のようなきらびやかさと、静謐さがあります。「目」は「遠くにあって」しかるべきものなのかもしれません。手元にないことで、美しくなるような気がします。──おかのきくと

●比喩が神秘的で美しく、「君」の存在がとても遠く、手の届かないものであることをよく表していると思いました。「君」は人ではないのかもしれませんね。人であったとしても、決して主体を見てはくれない気がします。おそらくすぐ近くでその眼を見ている主体は、もどかしい思いを少なからず持っているのではと想像しました。──ゆの

●ミステリアスかつ遠い存在であることを表現する語彙が素晴らしく、うっとりします。翡翠、緑の瞳かつ、秘密を抱いているキャラクターを何人か思い浮かべました。この「君」がどう思っているかはわかりませんが、主体と君の関係性が気になる短歌です。原作も知りたいものです。──四月

●長い時間をかけてできる翡翠という宝石と、神代からこれまでの時間の長さと、「君」と主体との距離の遠さが、静謐さと共にオーバーラップするような歌だと感じました。──toico

●遠くにあるだけで美しく感じられるし、美しいだけで遠く感じられるの、神代のエモだなと思いました──てくてく

●眼を「翡翠」にたとえ、翡翠は「神代の秘密を閉じ込めた」と表現されている、修飾が美しい歌だと思います。儀礼に用いられる宝玉、神秘的の付与の観点から見ても、まるくて輝きがある眼球をたとえるという視点から見ても、翡翠の読みはヒスイかなと思って読みました。しかし結句を鑑みるとカワセミでも読めるような気がして。そこにある、いるのに届かないさみしさを感じる歌だと思います。──池田いくら

●神秘的で近寄りがたく美しい人を想う歌で、とても素敵です。──海月雪夜

●馥郁たるファンタジーの香りにうっとりとなる一首でした。
※〈閉じ込めた〉を終止形ではなく連用形として読んでいます。
 〈君の眼〉が遠くを見つめるのではなく〈遠くにあって〉と描写されているのが印象的でした。遠くを見つめているイメージも残りつつ、〈君〉そのものが“私”から遠いところにいるのだろうと。〈神代〉〈秘密〉〈翡翠〉といった神秘性を感じるアイテムで形容されていることとも合わせて、〈君〉は巫女のような特別な能力を持った存在で、だから〈遠くに〉いるのかなと想像しました。うつくしい〈君〉に対する“私”の憧憬の視線が印象的です。──Dr.ギャップ

【作者コメント】
原作「千と千尋の神隠し」
たいていの方はあらすじをご存知だと思います。千尋を助けるハクは川の神で龍神です。設定資料にはハクは「常にどこか遠くを見ているように」と書かれています。千尋に優しくしたかと思へば「ハク様と呼べ」と冷たくなったり、湯婆婆に何かやらされていたり映画中盤までは謎めいています。千尋から見たハクのイメージをハクの翡翠のような眼に込めて歌にしてみました。実際に日本神話には川と翡翠を司る「奴奈川姫」という女神か登場します。とても美しく賢い女神だそうで女神版のハクのようです。翡翠は古代よりお守りや神事で重宝されており、神道と関わりの深い鉱物です。もしかしたらハクの眼が緑色なのもそんな由来なのかもしれません。──水川怜



どれほどの悪意がこの世にあろうともまことの人として生きてゆく


【選評コメント】
●悪意に染まらないという主体自身の決意の強さや高潔さを感じました。──toico

●「呪術廻戦だ!真人だ!」と読んだ瞬間興奮しました。しゃんと胸を張る真人の姿が浮かびました。──月ノ華

●おそらくこの歌は「君たちはどう生きるか」から題を取っているのかなと予想します。その場合、物語の冒険が終わってからも続く真人の人生における決意、その道行への祝福の歌として読めて、とても好きです。
一方で『呪術廻戦』の真人の可能性も考えました。とすると意味は反転し、人の恐怖や悪意そのものから生まれた呪霊が自らを「真の人」と名乗るとき、そこには「人間とはなにをもってして人であるのか?」という問いが見えてくるのではないでしょうか。この場合は「どれほどの悪意がこの世にあろうとも」が最高に皮肉の効いた生存への仮定として浮かぶので、これはこれでいいですね……──南天

●語り手のつぶやきのような言葉選びが好きです。世界は悪意に溢れているけれど、自分を曲げずに生きていく。難しいことです。でも、語り手はそうありたいと思うし、歌を通して、口に出していく。とても、強い人です。──おかのきくと

●この原作において「真」という言葉がどう使われているのか、どの定義において真なのかとても気になりますね硬い言葉づかいからも前をまっすぐ見つめるような主体の覚悟が伝わってきます。──四月

●悪意に立ち向かうのではなく、悪意に満ちた世界と決別する歌だと感じました。主体は世界と混ざりあうのではなく、「真の人」として生きることで自己の純度を保つ道を選んだ。その潔癖さに少しの危うさも感じつつ、厳しい道をあえて選んだ主体を応援したくなりました。──ゆの

●主体が自分自身のことを描写しているというより第三者目線で語られるキャッチフレーズっぽいと思いました。内容がかなりまっすぐなので自分の口で表現するには気恥ずかしさが出るかもと思ったのですが、その手の照れがないタイプの人だと大丈夫だったりするのかな。「真の人」という語の選択がちょっと堅めなので、時代背景は現代日本より古いのではないかなと想像します。──池田いくら

●〈真の人〉あるいはそうではない存在としてこの”私”が想像しているのはどんなモノなんだろう、ということが気になりました。一般に人間性と呼ばれるものを保持した状態で、ということなのかなとふんわり想像しています。
 力強い言挙げだと感じる一方で、「悪」ではなく〈悪意〉を対象に挙げ、また〈悪意〉を個別具体的にではなく〈この世に〉広がるものとして捉えているのが独特の視点に感じられて印象的でした。「あの敵が許せない」という構図ではなく、まるで気体のようにこの世界に〈悪意〉が蔓延したとしても、自分はそれには染まらず屈せず、またそれに対抗しうる〈真の人〉であろうという形での矜恃なのかなと。──Dr.ギャップ

【作者コメント】
原作 ジブリ映画「君たちはどう生きるか」
主人公眞人の決意を短歌にしてみました。宮崎監督はこれまでのジブリ映画で一貫して「この世は生きるに値する」というメッセージを込めていると私は考えています。この映画の終盤で主人公が穏やかに、しかしはっきりと「元の世界で生きていく」と口にします。監督のメッセージを短歌にするのもおこがましいですが、映画の感動を歌にしてみました。──水川怜