Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
柚子子
2024-09-23 10:25:00
101523文字
Public
ベリーベリー
Clear cache
Customize name
757661
Customize name
微原作沿 爆豪長編(3)
サイトに掲載している爆豪長編の第三章です
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
★
物形さんに送り出され、私は路地裏を出た。腕時計を見ると、爆豪くんとの約束の時間がせまっている。書店から駅まで、走ってぎりぎり間に合うかどうかというくらいだろうか。
早く着きすぎたからと書店をのぞきにきたけれど、こんなことならば駅から動かなければよかったと思う。まさかこんなことになるなんて、ちっとも思いもしなかった。
正直にいえば、すでに疲れていた。まだ爆豪くんと会ってすらいないのに、すでに心身ともに疲労困憊だ。
物形さんからの気持ちに、まったく気が付いていなかったわけではない。けれど、すべて私の勘違いであればいいのにと思っていた。思わせぶりなことをしたつもりはないだけに、勘違いだと思いたい気持ちが捨てきれなかった。
いや、それも言い訳か。いろんなことを考えるのがしんどくて、めんどくさくて、適当にごまかしていたツケが回ってきただけ、ともいえる。
いずれにせよ、しばらくはこの書店には来られない。さすがにこんなことがあって、すぐに顔を出せるほどツラの皮があつくはない。爆豪くんの言葉じゃないけれど、私の根暗人生において、爆豪くん以外の男の人から好意を寄せられるなんてことが、まさかあるとは思わなかった。
爆豪くんに目をつけられただけでも、私の人生の異性からのモテは使い切った感があるというのに。人生、何がおこるか分からないものだな
……
。
そんなことを考えつつ、大通りに出た。駅に向け駆けだそうとしたところで、前方に見覚えのある制服の後ろ姿を見つける。
「爆豪くん」
気持ち大きな声で呼びかける。思ったとおり、爆豪くんは足をとめ、くるりとこちらに振り返った。
小走りに駆け寄り、爆豪くんの隣に並んだ。
「爆豪くんも、今から駅に行くところ?」
「悪ィかよ」
「いや、悪くはないけど
……
」
出会いがしらにいきなり喧嘩腰なのはどうしてなのか。怯みこそしないものの、多少は警戒する。
今日は機嫌が悪い日なんだろうか。いや、爆豪くんはだいたいいつもこんな感じか。顔を合わせるのが久し振りなせいで、いろいろと勝手を忘れている気がする。
爆豪くんが歩き出す。その横を、私もついていく。
それにしても爆豪くんは、どうしてこの場にいるのだろうか。たしかに今いる道も大通りではあるけれど、一本隣の通りを通る方が、雄英からのルートとしては自然に思える。
この道を歩いているということは、別の場所に寄り道したあとだったりするのだろうか。たとえば、そう、私と同じように書店に立ち寄ったあと、とか。
「もしかして、さっき本屋さんのなかにいた?」
できるだけさりげない調子で、私は爆豪くんに尋ねた。
物形さんと話をしていたのは書店の裏手。だからもし爆豪くんが店内にいたところで、私たちの話が聞かれていたとは思わない。とはいえ万が一ということもある。
内心どきどきしていたけれど、爆豪くんはいつものように、どうでもよさそうにそっぽを向いた。
「
……
んなわけねえだろ。今ちょうど通りかかったとこだわ」
「そっか、そうだよね」
心のなかでひっそりと安堵しつつ、私はうなずいた。爆豪くんは補講帰りなのだ。そもそも書店に立ち寄っているような時間はなかったに違いない。
今日は駅の近くのカフェに行く約束になっている。立地的に高校生の客を見込んでいるのか、カフェのわりには価格帯が良心的だ。クラスの何人かが食事もドリンクも美味しかったと言っていたので、少し前から気になっていたのだった。
爆豪くんと行きたいとは思いつつ、爆豪くんの忙しさを考えれば、無理かもしれないとも思っていた。だからこうして一緒に行くことができて嬉しい。
「なんかちょっと、会うの久しぶりだね。仮免試験の補講のほうはどうなの」
隣を歩く爆豪くんに話しかける。
「ふつうに余裕」
「心強い返答」
言いつつ、私は爆豪くんの様子をうかがった。
出会いがしらこそ喧嘩腰だったものの、ふたを開けてみれば今日の爆豪くんは、むしろ静かすぎるくらいおとなしい。
補講帰りなのだから疲れているのは当然かもしれないけれど、爆豪くんは多分、疲れていることを認めはしないだろう。私のほうで、早めの解散になるように考えたほうがいいのかもしれない。
「めっきり涼しくなったねえ。もう朝晩とか寒いくらい」
ひとまず世間話を振ってみる。爆豪くんの反応は、やはりかんばしくない。というより、私が爆豪くんを観察しているのと同じように、爆豪くんも私を観察している
……
? なんだろう、さっきから妙に爆豪くんからの視線を感じる。
思わず、道路横の店のショーウィンドウにうつる、自分の姿を確認した。
変な恰好してきたつもりはないのだけれど、もしかして私の恰好がお気に召さなかったのだろうか。制服姿の爆豪くんと並んでもおかしくないように、おとなしめの恰好をしてきたつもりだったのだけれど。
「えーと
……
。あ、おなか空かせてきたんだよね。せっかく行きたかったお店だし、いっぱい食べようかな」
「好きにすりゃいいだろ」
な、なんだろう。この、微妙に打っても響かないというか、心ここにあらずというか、ぼんやりした爆豪くんは
……
? めったに見ない様子の爆豪くんに、私は不審がるのを通り越し、激しく恐れおののいた。
もしかして、本格的に疲れているのかもしれない。やっぱり無理して来てくれているのかな。
そうはいっても、あんまり「無理ならいい」と言いすぎて、このあいだの通話でも怒られたばかりだ。こういうとき、どうするのが恋人として正解なのだろう。難しい。
そもそも、本当に爆豪くんはただ疲れているだけなのだろうか。以前に一度だけ、眠たげな爆豪くんを見たことがあるけれど、今日はそういうのとは少し違う感じがする。なにかもっと、ほかのことに注意を向けているというか、思考をつねに他のことに割かれているというか。
注意力散漫
……
? よく分からないけれど、私の持っている語彙のなかだと、これが一番しっくりくるような気がする。
本来ならば、注意力散漫になっていそうなのは私のほうだ。なんといっても、さっき唐突に告白を受けてきたばかりなのだから。
その私にすら注意力散漫だなと思われる爆豪くん。一体なにがそんなに気にかかっているのだろう。私は内心で首をひねった。そしてそのまま、口をつぐむ。
たしかに不思議ではあったけれど、わざわざ爆豪くんに詳しく突っ込んで聞こうとまでは思わなかった。
緑谷くんのときよろしく、今回もまた、爆豪くんがひとりで乗り越えるべき課題なのかもしれない。土台、ヒーロー科にかんすることであれば、私の出る幕ではない。
私にできるのはただ、それとは関係ないところで、余計なことを言わずにおくくらいだ。
話題を探しつつ、視線を街並みにうつす。よく見れば駅前はすでに、そこかしこにクリスマスの装飾がほどこされていた。そういえばクリスマスまであと一か月くらいだ。
「ね、来月にはクリスマスだね」
私が言うと爆豪くんも、ちらと周囲を見回した。そして一言、
「くだらねえ」
ぼそりと呟く。
クリスマスといえば、一年でもっとも街が華やぐイベント。街が華やぎ活気づくということは、そこかしこでトラブルが発生するということでもある。
ヒーローを志す爆豪くんにとっては、ただ浮かれていられるだけの時期ではないのだろう。けれど私は一般市民。当然ながら、クリスマスといえば家族や恋人とすごす、楽しい楽しいイベントだ。
クリスマスだからといって、爆豪くんが呑気に遊びに繰り出せるとは思えない。だからクリスマスデートに期待はしていない。そのぶん、せめてプレゼントくらいは用意できたら、と思っているけれど。
「爆豪くん、クリスマスのプレゼントは何がほしい?」
「実用に足るもん」
ほとんど即答だった。もしかしたら、ある程度欲しいものが決まっているのかもしれない。
「難しいこと言うなぁ
……
。実用に足るもの、なんだろう
……
? 文房具? 飾るものとかは無しってことだよね?」
「そんくらいてめえで考えろ」
「ノーヒントなんだ。厳しい」
ちょっといい文房具、とかでもいい気がするけれど、なにせ相手は爆豪くんだ。中途半端なものを贈っても喜ばれないどころか、最悪その場で捨てられる。
いや、さすがにそれは言い過ぎか
……
。けれど使ってもらえず、机の中にお蔵入り、というのは十分有り得る。そもそも爆豪くん、もとから結構いい文房具を使っていそうだ。
ああでもないこうでもない、と思考を巡らせていると、
「
……
そっちは」
今度は爆豪くんが尋ねてくる。
「ん?」
「クリスマス。なんか欲しいもんあんのかよ」
そう言われると、案外ぱっとは思いつかなかった。こまごまとした物欲はあるものの、クリスマスに恋人に贈ってほしいものとなると、咄嗟には特に思い浮かばない。なるほど、爆豪くんの先ほどの『実用に足るもの』というのは、困った結果の苦肉の策だったのかもしれない。
それにしても、クリスマスか。そもそも爆豪くんからものを贈られるということ自体、あまり想像がつかない。私と爆豪くんが出会って一年以上は経過しているものの、これまで贈り物を渡すようなイベント、たとえば誕生日なんかは完全にスルーしていた。
「えー、そうだなぁ
……
。なんだろ、特に何も思いつかないけど」
「ふざけんな二秒で思いつけ」
「わかった、じゃあ、今月中には考えておくね」
「おい! 二秒っつってんだろうが!」
「なにがいいかなぁ」
「聞け!!」
爆豪くんの怒号が響き渡ったところで、目的のカフェに到着した。何はともあれ、少しは元気になってくれていたのなら幸いだ。
そんなことを考えつつ、私は爆豪くんが開けてくれた店の扉をくぐった。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内