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柚子子
2024-09-23 10:25:00
101523文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(3)
サイトに掲載している爆豪長編の第三章です
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年が明けて一月。元日のその日から、爆豪くんはフレイムヒーロー・エンデヴァーの事務所にインターンにいっている。
同じ県内にいるとはいえ、寝泊りは事務所内の宿泊施設を使っているとのことで、当然ながら顔を合わせる機会ない。
ついでにいえば県内といえど別にうちの近所というわけでもないので、インターン活動中の爆豪くんの姿を垣間見るということもない。これまでの人生で私は一度も実物のエンデヴァーを見たことがないのだから、エンデヴァーの管轄区域で活動する爆豪くんと遭遇するはずがないのも、考えてみれば当然といえる。
エンデヴァーのイベント登壇なんかがあれば、姿を見ることくらいはあったかもしれない。けれど残念ながら、この冬休みのあいだに、そういうイベントはなかった。
爆豪くんにいわれたとおり、私は日に一度程度はメッセージをしたため、爆豪くんに送っている。返信があるかどうかはまちまちだけれど、もうそういうものだと割り切っているので、あんまり気にならない。こちらもこちらで冬休み明けの試験の準備で、それどころではないというのもあった。
そんなふうにして、いつも通りといえばいつも通りの日常を過ごした冬休みを終え、新学期。少し前には爆豪くんから、寮に戻ったという報告もあった。通話の声から察するに、なんとなく機嫌がよさそうというか、調子がよさそうで、よほど冬休みのインターンが充実していたのだと推察する。
そして新学期早々に待ち受けていた試験をのりこえ、数日。
すべてのテストが戻され、偏差値とともに順位が発表される個票を受け取った私は、自分の席でおおいに頭を抱えていた。
昼休み、落ち込む私のもとへやってきた友人は「よほど、ずっこけたと見える」と笑った。私を冬期講習に誘ってくれた友人だ。
「ああー、順位落ちた
……
。冬休み、結構頑張ってたのに
……
冬期講習もまじめに通ったのに
……
」
「どれどれ見せてごらん。
……
あ、すごい。見事に理系で足引っ張ってる」
机の上に出しっぱなしになっていた私の個票を、友人はあらあらまあまあと言いながらつぶさに眺めた。
「
名前
ちゃん、文系教科は強いんだけどねぇ」
「というか数学と物理がここまでこけてなかったら、もうちょっと上狙えたよね
……
」
「今の順位でもじゅうぶんだと思うけどね」
高偏差値で知られる夢咲女子では、学年上位十パーセントに入れば優秀な層ということになる。順位は落としたものの、その圏内には入っていた。一学期の私からみれば、今回のこの成績でもじゅうぶんすぎるほどの飛躍だ。
それでもやはり、がっくり来るのはたしかだった。こんなことじゃいけない
……
、どうしても、そんな焦りが心にうまれる。
「
名前
ちゃんって文系いくんだっけ」
「そのつもり。この通り、理数は惨憺たる成績だし」
「そこまで言うほどじゃないって。私文?」
「国文」
「それでもそんな、悲観するほどではないと思うけど」
と、私を慰めていた友人はふいに、にやりと口角をあげた。ごそごそと制服のポケットから携帯を取り出し、
「まあ? 『バクゴー』くんの彼女としては、もう少し頑張った方がいいかもしれませんねえ?」
そう言って、友人はネットニュースを画面に表示した状態で、これみよがしに私の目の前に携帯を差し出した。
画面に素早く視線を走らせる。それからすぐ、私は「見た見た」と携帯を返した。
その記事ならば、私も読んでいる。先日起きた敵犯罪の続報で、記事の最初と中頃には大写しになったエンデヴァーとともに、若いインターン生の写真も掲載されていた。
学生とは思えぬ活躍をしたというのを差し引いてもなお、エンデヴァーならびにインターン生三名をべた褒めする内容の記事だったと記憶している。
「大活躍じゃん、バクゴーくん」
「緑
……
デクとショートもだけどね」
「エンデヴァーが学生指導してるのもすごいけど、そこに選ばれてるのもすごい」
「ね。私もそう思う」
「なぁに、テンション低いねぇ」
友人に言われ、私は「テスト悪かったからね」と返事をした。
エンデヴァーといえば、オールマイト引退後の今の日本において、第一線で平和をけん引する存在。九州の一件のあとは、押しも押されもせぬナンバーワンヒーローとして、世間に認知され始めている。
そのエンデヴァーのもとでインターン活動する爆豪のメディア露出が増えるのは、考えるまでもなく自然なことだった。
トップの事務所には当然、連日連夜すさまじい量の事件の協力依頼が飛び込んでくるはず。事件といっても大きなものから小さなものまであるのだろうけれど、量が多ければそのぶん、活躍の機会にも恵まれる。そして爆豪くんは、その機会を取りこぼしたりしない。爆豪くんが名を揚げるのは当然の帰結といえる。
「バクゴーくんって良くも悪くも、ものすごーく目立つわけでしょ。これでめちゃくちゃファンとか増えちゃったりしたら、
名前
ちゃんどうする?」
「どうするも何も、ファンは増えたほうがいいに決まってるからね」
二年後には本格的にヒーローとして活動を始めるのだ。それまでに知名度を高めてファンをつけておけるのは、雄英生の有利な点でもある。爆豪くんはうっかりするとアンチ量産機になってしまいかねないので、そういう意味でもファンづくりは重要だ。
「そのうちネット記事とか作られてさー、『彼女はいるのか? 調べてみました!』とか出てくるようになるわけよ」
「また、そんな具体的に嫌な話を
……
。少なくとも雄英在学中は、そういうのは学校側がある程度取り締まってくれるんじゃない?」
「そうかもだけど、でも
名前
ちゃんたちって、結構ふつうにデートしてるでしょ。ネットに
名前
ちゃんの情報が出るのも時間の問題だと思うね」
訳知り顔で言われ、私は黙り込んだ。ヒーロー界隈やファンダムについて、私はほとんど無知といっていい。事情通の友人からこうも言われてしまうと、それ以上の反論のすべは私にはない。
「バクゴーくんの彼女っていわれて
名前
ちゃんが出てきたら、やっぱりバクゴーファンとしては、ちょっとイメージ違うってなるのかな?」
友人が笑いながら言う。他人事だと思って言いたい放題だ。
「自分でもそれはそうかもとは思うけど
……
。いや、でも、そんなにイメージ違う? 逆に爆豪くんのイメージってどんななの?」
「激しくてうるさくて地上波放送に堪えない問題児、だけど実力は折り紙つき
……
みたいな?」
「まあ、正しい」
私はうなずいた。非の打ちどころがない正しい評価といえる。
「そうなると、その彼女もやっぱ激しくて強くてーってイメージになるんじゃない? そうじゃないとバクゴーくんと渡り合えないっていう意味で」
「そう言われるとそうなのかも
……
?」
「あるいは逆に、バクゴーくんの激しさをおおらかに受け止められる精神の持ち主か、だね!
名前
ちゃんはどっちかいうと、こっちなのかな? でも
名前
ちゃん、全然聖母ってキャラではないよね」
「聖母を自認したことなんか一度もないよ」
「ね。だから
名前
ちゃんは、『バクゴーくんの恋人』のパブリックイメージからはずれるよねってこと」
こうして言葉にされると、なるほどたしかにと思わざるをえなかった。そもそも私が爆豪くんと付き合っているということからして、いまだに自分で理解ができない不思議な現象なのだ。緑谷くんや芦戸さんからは「付き合うべくして」といわれたけれど、その評価の根拠もよく分からない。
私や爆豪くんのプライベートをまったく知らない第三者からしてみれば、私が爆豪くんと付き合っているというのは、本当に意味が分からない、納得できないことなのかもしれない。
考え込んでいると、唐突に肩を叩かれた。顔をあげる。友人がにこにこ笑って、私の顔をのぞきこんでいた。
「でも、まあいいじゃん? パブリックイメージがどうであれ、誰がなんと言おうとバクゴーくんの彼女は
名前
ちゃんなんだし」
「いや、まだ誰にも何も言われてないけど」
「私がバクゴーくんの彼女よって顔をして、まとめサイトだろうがパパラッチだろうが、どーんと待ち構えていればいいんだよ。私の彼氏はこんなにすごいのよーって」
「うーん、まあ、考えとく」
論点がずれたというか、最終的には私が考え込んでいたのとは別のところに着地したような気がする。とはいえこれ以上、この話を深めるつもりもなかった。
机の上に置きっぱなしの試験結果の個票を机のなかのファイルにしまいこんでから、私たちはようやく昼食の準備を始めた。
その日の晩、寝る支度をととのえたころ、爆豪くんから電話がかかってきた。
インターンは新学期が始まってからも継続されるらしい。平日にもインターン活動があるぶん、授業のしわ寄せが平日の夕方以降にまわることになる。
今まで以上に変則的な生活になるということで、今後当分のあいだは通話は爆豪くんからかける、ということになっていた。
「そういうわけだから、理系科目が今後の課題なんだよね。国立狙いで受験勉強していくとなると、文系でも理系科目をそう安易に捨てられないし」
「ガリ勉なら苦手だなんだいってねえで、全教科きっちりガリガリやれ」
「そうなんだよね。結局はそういう話になるんだよね
……
」
昼間に返されたばかりの試験結果を報告し、嘆息する。世間からの注目を浴び、絶賛大活躍インターン中の爆豪くんからしてみれば、私の試験結果など取るに足りないものだろう。それでもこうして、一応は聞いてくれるからありがたい。
「爆豪くんのほうはどう? エンデヴァーの事務所のインターン生が大活躍ってニュースは、ネットでちょこちょこ見かけるけど」
「受け持つ事件件数からして、そもそもそこらの事務所とは規模が違ェ」
「だからインターンの爆豪くんたちにも、それなりに仕事が回ってくるってことだよね?」
「
……
」
なぜか爆豪くんが黙った。寝たのだろうか。この一瞬で?
「あれ? 爆豪くん?」
「うるっせえ!」
「うわっ、びっくりした」
急に大声を出され、私は耳から携帯を離した。爆豪くんがいらだたしげに舌打ちをするのが、少し離した携帯から聞こえる。
「ナンバーワンだろうが関係ねンだよ、今に追いついたる! んで俺がナンバーワンの仕事を片っ端からぶん獲る!」
「なるほど、今はなかなか追いつけずに悪戦苦闘中ってこと」
「解釈と翻訳をしてんじゃねえ!」
「否定はしないあたりがね。よっぽどすごいんだなぁ」
どうやらニュースになっているのは、活動のうちのほんの一部らしい。きっとニュースになっていないところで、ナンバーワンとの実力の差を見せつけられるようなことがあるのだろう。
エンデヴァーだって、伊達にナンバーワンではない。ナンバーツーヒーローだった時代も含め、つねに最前線に立ち続けているヒーローだ。いきなり高校一年になめられるような仕事はしていない。
「よかったね、ナンバーワンの事務所でインターンの経験を積めて」
私がいうと、爆豪くんは不満げに鼻をならした。同意はするけれど素直に認めたくはない、というところか。ノンバーバルコミュニケーションでここまではっきり意思表示ができるの、一周回ってすさまじいな。
と、どうでもいいところで感心していると、
「そういやてめえ、進路調査票どうしたんだよ」
脈絡なく爆豪くんが問いかけてくる。
「え、すごい。爆豪くん覚えてたんだ」
「俺の記憶力はてめえと違ってカスじゃねえ」
「私の記憶力もべつにカスではないけどね」
進路調査票というのは、冬休み前に提出するよう言われていた「将来の夢」を書いて提出するプリントのこと。爆豪くんにはそういうものがあるという話はしたものの、詳しく説明はしていなかった。
「一応、提出したよ。興味のある分野は出版って書いといた。特に今は何になりたいとか、そういうのないし」
「ケッ、ふわふわ生きやがってゆとりが」
「雄英ヒーロー科に通う高校生に比べたら、世間の大半の高校生はふわふわ生きてるよ」
恵まれた個性や素質を持ち、明確な目標と高いモチベーションを維持している高校生など、この世にそう多くないはずだ。夢咲女子は進学校なので、高校一年から志望大学が定まっている生徒はそれなりに多いけれど、その先まで考えている生徒となるとぐっと数が減る。
「爆豪くんみたいに、なりたいものがはっきり決まってるの、かっこいいなと思うけど実際にはなかなかね」
「くだらねえ、凡人は凡人らしく悩めや」
「んー、そうだね。まあ、言ってもまだ受験まで二年近くあるし。もう少しのんびり考えるよ」
はなから何者かになろうなんて、たいそうなことは考えていない。そもそも何者かになれるような人間は、今の爆豪くんのようにすでに頭角をあらわしているのだろう。そう考えれば爆豪くんのいうとおり、私はまぎれもなく凡人だ。
「そういうわけで、私のほうはちゃんとやってるから。爆豪くんはなにも憂うことなく、インターンに邁進してください」
「言われるまでもねえんだよ」
それじゃあね、と通話を切り、少し悩んでから単語帳を開く。何者かになれない凡人は、やれることをやっていくしかない。
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