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柚子子
2024-09-23 10:25:00
101523文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(3)
サイトに掲載している爆豪長編の第三章です
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爆豪くんに会えないまま試験期間に突入し、爆豪くんに会えないまま試験期間が終了した。心頭滅却すれば爆豪くんなしの生活もまた心安しということで、十月も後半にさしかかったこの頃は、それなりに生活が安定している。
試験も終わったし、芦戸さんからは爆豪くんのバンド練の動画も送ってもらった。当日の動画も送ってもらうことになっており、それを光己さんに送る約束もした。
日々自分がすべきことを、ひとつずつきちんと片づけている感覚は、視界がすっきりするようで気持ちいい。
寂しさもしんどさも消えてはいないけれど、視界に入れないようにさえしていれば、いつでも私は気分よくいられる。そういうことに、最近気づきつつある。
その日もいつものように、私は学習机に向かったまま、爆豪くんからの着信をうけた。試験が終わっても私たちの連絡は相変わらずメッセージベースのままだけれど、これはこれで楽に感じはじめている。
電話越しとはいえ爆豪くんの声を聞くのは、一週間ぶりくらいだった。
「試験の結果、聞いてくれないの?」
私が言うと、爆豪くんは面倒くさそうに鼻を鳴らす。
「聞いてほしいならさっさと言え」
「なんと、学年九位」
「ハッ、微妙すぎんだろ。一位じゃねーのかよ」
「いや、うちの学校で一桁とるのって、それだけでもかなりすごいことなんだからね」
いまいち凄さが伝わっていないらしい。私は電話の向こうには伝わらないと分かっていながら、くちびるを尖らせた。
中学までは優等生として通ってきた私だったけれど、高偏差値の名門校に進学したことにより、高校入学以降の成績はいまひとつぱっとしないものだった。けして悪くはないのだけれど、頑張っているわりには成績がついてこないというか、端的に言えばスランプ。低迷していた。
それが今回、なんと一桁の成績なのだ。ここのところの脱爆豪くん、勉強邁進月間の効果がはっきり出ている。それこそ、一学期のぱっとしない成績から比べれば、間違いなく大躍進だ。
実際、担任からは夏休みに何があったのか、彼氏と別れたのかと聞かれた。まさか教員にまで「雄英のバクゴー」と付き合っていることがばれているとは。ヤンキーの彼女をやめたので、やっと勉強に本腰が入ったと思われたのだろうか。別れてはいないながらも、若干惜しくはある。
圧倒的トップ独走を目指す爆豪くんからすれば、学内九位がぬるい結果なのは分かる。けれど私にとっては、まずは一歩大きな前進だった。
「まあ、でも、ここまできたからには、もっと上の順位をとりたい気持ちは、やっぱあるよね
……
」
手慰みに消しゴムを転がしながら、私は言った。
これでも一応、競争心はある。爆豪くんほどではないにしても、できるところまで昇り詰めたいという野望めいたものだって持っている。
「根暗が一丁前に上と張り合ってやがる」
「いや、そりゃそうでしょ」
「中学ンときゃ二位で満足つってなかったか?」
「言ってたかも。たしかに。よく覚えてるねぇ」
そういえば、そんなことも言ったような。たしか爆豪くんのテストの結果の順位が私よりも低かったときの話だ。私本人すら忘れているような話を、よくもまあ覚えているものだと思う。
「今更ではあるんだけど、私ももっと上を目指さないとなって、思ったんだよ」
「ハァ? 気付くのが遅ェ」
「あはは、そうかも。たしかに爆豪くんに比べればね」
それでも手遅れになる前に気付けたのだから、私にしてはよくやったほうだ。爆豪くんには言わないけれど。
私は話題を変えた。
「あ、あとこのあいだ爆豪くんと話してた映画、公開になったから観に行ってきたよ」
「映画って、どの」
「今ちょうどテレビでCMいっぱい流れてるやつ」
「ああ、そういやんな話しとったな」
「友達と観に行くって話しなかったっけ?」
「聞いた。で?」
「めちゃくちゃ良かった」
「語彙がねえ」
稚拙な感想だったため、即座に一刀両断されてしまった。うぐぐと唸りつつ、私は映画のアピールポイントを脳内で練る。
「えーと、そうだなぁ。あ、爆発が派手で
……
」
「てめえの映画評論は爆発の規模の評価しかねえんか」
「いやっ、違う
……
そうじゃないけどっ
……
」
せっかくひねり出した感想も、さっさとぶった斬られてしまう。
本当におもしろい映画だったはずなのに、爆豪くんにアピールしようとしたとたん、アホみたいな説明になってしまった。なにせ私がよかったと感じたのはラブストーリーの切なさだったので、そこを爆豪くんに熱弁したところで、共感してもらえるとは思えない。爆豪くんの関心を引けそうな部分となると、やはり爆発が一番手っ取り早いのではないかと考えてしまう。
「爆豪くんに映画の話するときって、なんでか爆発の話しがちになっちゃうんだよね」
「俺ァちゃんとストーリーも追ってんだよ」
「それも分かってるんだけど、でもやっぱ、個性の印象が強いからかな」
そんな話をしながら、私は机上に置きっぱなしにしていた映画の半券を手に取った。
本当なら、爆豪くんを誘おうと思っていた映画だ。何かの時に予告映像をたまたま一緒に見て、面白そうだから観たいねと話していたのだった。
そのあと爆豪くんは忙しくなってしまったし、映画を観に行く余裕もないだろうということで、この話はうやむやになっていた。そもそも限られたデートの時間で、会話もなく映画を観ることもないだろう。せっかくデートできるなら、もっとほかのことをする。
私が友人と観にいってくると伝えたときも、爆豪くんは何も言わなかった。もしかしたら公開されたら一緒に観に行こうと話したこと自体、忘れているのかもしれない。適当な世間話の延長だったので、その可能性はじゅうぶんにあり得る。
「爆豪くんもね、サブスク配信はじまったらぜひ見てください」
「覚えてたらな」
「寮の共有スペースって、サブスクの動画見られるんでしょ? 芦戸さんに聞いた」
「知らねえ」
「有志でお金出し合ってるって聞いたけど、爆豪くんはメンバーじゃないんだ」
「だから知らねえんだよ。つーか部外者が内輪の情報に精通し始めてんじゃねえ
……
」
「爆豪くんからは聞けない情報がぼろぼろ出てくるよ、芦戸さんから」
「まじでやめろ」
爆豪くんは本気で嫌そうな声を出した。
しかし爆豪くんには悪いけれど、芦戸さん麗日さんと連絡先を交換しておいてよかったと、最近になって本当にしみじみと思う。光己さんと連絡をとっているのもそうだけれど、とにかく爆豪くんとだけやりとりをしているのでは、私に知らされない情報が多すぎる。
文化祭の準備ひとつとっても、爆豪くんは「ふつう」「そこそこ」「初心者どもが手こずってやがる」という情報しかあげてくれない。芦戸さんが日報のごとく爆豪くんの情報を共有してくれなければ、何の曲を演奏するのかだとかバンドのメンバーがどんな子なのかとか、そんなことすら分からなかったと思う。
「そういえば文化祭の練習は順調?」
「まあまあ」
ほらね、と言いたい気持ちをぐっと堪えた。爆豪くんからの情報がほぼゼロの返答でも私が文句を言わないのは、芦戸さんからのリークがあるからにほかならない。
「芦戸さんに動画送ってもらったけど、爆豪くんって本当にドラム叩けるんだ」
「当然。つーかてめえ、なに疑っとんだ」
「いや、だってドラムだよ。爆豪くんとドラムの接点なんて私知らなかったし。音楽教室行ってたんだね、光己さんに聞いた」
私が言うと、電話の向こうで爆豪くんが「ハァァ?」と不機嫌そのものを固めたような声を出した。
「あのババア、個人情報をべらべら筒抜けにしやがって
……
! プライバシーの概念がねえのか!?」
「光己さん、動画見て喜んでたよ。自分で送ってあげればいいのに」
「誰が送るか、てめえも送ってんじゃねえ!」
「いや、送るよ。独り占めするのも悪いし」
というより、爆豪くんが自分の親にきちんと連絡をとればいい話なのだ。それを怠っているから、こういうことになる。
「そもそも、まだうちの親と連絡とってんのかよ」
「うん。ときどきだけど」
ケッ、と爆豪くん。光己さんは爆豪くんへの差し入れを買うたびに私に声を掛けてくれるので、私も定期的に爆豪くんの情報を共有している。まさか恋人のお母さんとこういう感じで親しくなるとは思いもしなかったけれど、互助精神というか持ちつ持たれつというかという感じで、それなりにうまくやっている。
「でも、本当に聴きたかったなぁ
……
」
「あ?」
私の呟きを、爆豪くんがガラ悪く拾う。独り言のつもりが、口からもれていたらしい。
「や、文化祭のバンドの演奏をね、聴きたかったなと思って」
関係者以外立ち入り禁止の文化祭とは聞いているものの、やはり口惜しさはぬぐい切れない。お化け屋敷やフード系の出店ならばともかく、バンド演奏。こう言ってはなんだけれど、爆豪くんが今後の人生でドラムを叩き、クラスメイトと合奏することなんてありえないかもしれない。
「爆豪くんの知らない私の一面、みたいなのって、たぶん全然ないと思うんだけど、爆豪くんって結構いろいろそういうのありそうだよね」
「人間としての深みの差だろ」
「流れるように悪口に持ち込むし」
まあ、爆豪くんの言うことも一理あるかもしれないけれど。私に人間的深みがあるとは、自分ではとうてい思えない。もちろん爆豪くんにそれがあるかは別として。
「そのうち聴く機会もあんだろ」
どうでもよさそうに爆豪くんが言った。何が? と聞き返すと、
「ドラム」
短く返事が返ってくる。
「いや、あるかなぁ。ここまでで爆豪くんが楽器を演奏してくれる機会って、まったくなかったんだけど。今後もしそんな機会があれば、爆豪くん演奏してくれるの?」
「気が向いたらな」
「気を向けていこう」
「うるせえ、指図すんな」
「これを指図ととらえるのは、爆豪くんが繊細すぎる」
どうでもいいような話をしながら、私はちらりと時計を確認した。
もうすぐ二十一時になる。爆豪くんと話をするときは、二十一時より遅くならないように気を付けている。爆豪くんはふつうにこのあとも起きているのかもしれないけれど、あくまで自分で課したルールのようなものだ。
「じゃあ、私はそろそろ勉強に戻るので」
「試験終わったんだろ」
「そうだけど、ふつうに明日の予習とかするよ。雄英ほどじゃなくても、授業のペース早いからついていくの大変なんだよ」
私が言うと、爆豪くんは黙った。しばらく待ってみるけれど、爆豪くんが何か話し始める気配はない。
「じゃあ、またね」
「ん」
「おやすみ、爆豪くん」
返事はなく、通話が切れる。通話時間を表示した画面を眺めてから、私は携帯を置いた。
久しぶりの通話は、ほとんどぴったり十五分。これが長いのか短いのか、判断するのは微妙なところだ。話し足りないという気はしないから、短くはないのだと思う。でもこれより長く話していてもいいと言われたら、たぶんそれなりに話すことはあっただろう。
りっちゃんと彼氏がデートで水族館にいったらしいよ、とか。折寺中の今の三年生は雄英合格のご利益にあずかりたくて、緑谷くんや爆豪くんが使ってた机をみんな使いたがっているらしいよ、とか。スニーカーを買い換えたいけど何色にしようか悩んでるんだよね、とか。
どうでもいい話のストックならたくさんあって、話そうと思っていたことも、話さなくてもいいこともいろいろある。けれどいつも、そうして用意していた話題のほとんどが「話すほどでもないこと」に変わっていってしまう。
友人と見に行った映画の予告で、爆豪くんの好きそうな映画があったよ、とか。一緒に見にいけたらいこうね、とか。話したかったことのうちのいくつかすら、「話さないほうがいいこと」になってしまう。
画面が暗転した携帯を見る。さっきまで爆豪くんと話していたのに、もう爆豪くんの声が聞きたくなった。けれど今からもう一度、電話をかけることはできない。
芦戸さんに送ってもらった動画を再生する。仏頂面でドラムをたたき、ときどき大声で怒鳴っている爆豪くんの姿を眺めながら、次に会えるのはいつになるのか聞くのを忘れたなと、そんなことを考えた。
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