柚子子
2024-09-23 10:25:00
101523文字
Public ベリーベリー
 
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微原作沿 爆豪長編(3)

サイトに掲載している爆豪長編の第三章です

 いずれにせよ、現ナンバーワンヒーローのもとで一年生のうちからインターン経験を積むなど、普通の学生ならばそうそうあることでもないだろう。やはり、爆豪くんの実力を見込まれて、ということなのだろうか。
「ちなみにだけど、それって爆豪くんがお願いして実現したの? それともエンデヴァーの方から爆豪くんにオファーがあったの?」
 試しにそう聞いてみる。もちろん、どちらにしてもマッチングしているのだから、すごいことに変わりはない。
 私の質問に爆豪くんはむっと眉を寄せ、不服げに舌打ちをしてから答えた。
「誰がわざわざ頭下げるかよ。向こうから来てくださいって言われてんだよ」
 爆豪くんのあまりにもな言い方に、私はうっすらと疑いを抱く。本当だろうか。爆豪くんが絶対に頭を下げなさそうなのは分かるのだけれど、それと同じくらい、いやそれ以上に、エンデヴァーが爆豪くんに来てほしいと頼むところも想像できない。けれど、
「んー、なるほど」
 その疑いをわざわざ口に出すのは、やめておくことにした。爆豪くんがそういうのなら、そうなんだろう。どのみち私にはどちらだろうと関係ない話だ。爆豪くんの機嫌を損ねてまで、真実を追及する理由もない。
 重要なのは、爆豪くんがナンバーワンヒーローの事務所にインターンに行くということ。それだけだ。
「いや、でも本当にすごいよねぇ。まさかくじ引きで行き先が決まるわけでもないだろうし、そういうトップレベルの現場って、誰でも誘われるものでもないんでしょ」
「まあな」
 今度はまんざらでもなさそうだった。実家にいるからだろうか、今日の爆豪くんは少し機嫌がおもてに出やすくなっているような気がする。
 階下からうっすらと人の話し声が聞こえてくる。爆豪くんのお父さんが帰ってきたのだろうか、と思ったけれど、爆豪くんは特に気にしていないようだった。
 紹介されるまでは、私から余計なことをいうものでもないのかもしれない。そんなことを思いつつ、意識を会話に引き戻す。
「ええと、たしか爆豪くんが体育祭で戦ってた氷のひとが、エンデヴァーの息子……なんだっけ?」
「根暗のくせに知ってんのかよ。ヒーローのことなんか微塵も興味ねえだろ」
「まあ、うん。それはそうなんだけど」
 頬をかきつつ、私は苦笑した。
「少し前に、爆豪くんと氷のひとが一緒になって、強盗をとっつかまえたことあったでしょ。ほら、あの仮免とりたての日のやつ。あれでうちのクラスに彼のファンが発生していまして。ほら、インタビューとかあったし」
「インタビューの話はするんじゃねえ」
 苦々しげに言われ、私はさらに苦笑を深めた。
 事件当日のニュースでこそ爆豪くんと氷のひとの両方が取り上げられたものの、その後のメディア露出では、爆豪くんは氷のひとにはっきりと後れを取ったかたちになっている。後れをとったというか、はっきりいって勝負にもなっていないというか。
 華々しい活躍とはうらはらに、インタビューでの爆豪くんは限りなく影が薄かった。
 あまりにも爆豪くんの存在が消されているため、不思議に思って麗日さんに確認したところ、その理由を聞かされた。
 曰く、爆豪くんは口を開けば問題発言を繰り返し、そもそも座っている姿からですら態度の悪さが透けて見える。イメージ保護を優先した結果、爆豪くんが発言した部分をまるまるカットせざるをえなくなった、というのが、事の真相だったらしい。
 インタビューを見たうちの母親は「爆豪くんずっと見切れてるけど、調子悪かったのかな?」と訝しんでいた。母には真相を隠している。口と態度が悪くて地上波放送に堪えないと判断されただなんて、あまりにも悲しすぎる。
「あ、でも私の高校の友達からは、爆豪くんのインタビューも大好評だったよ? 『名前ちゃんの彼氏、ずいぶん寡黙になったんだね』って褒められたし」
「てめえまじで覚えてろよ……
「いや私の意見じゃなくて友達の意見ね」
 ちなみに中学の友人からは「爆豪勝己ってまだあんなんなんだ。やばすぎ」と連絡が来ていた。中学時代の爆豪くんを知っている人間からすれば、爆豪くんのシーンがまるごとカットされているのも丸わかりだったに違いない。残念ながら、今回ばかりはさすがに同意せざるをえない。活躍が帳消しになるレベルのインタビューって、本当にどうしたらそんなことになるというのだろう……
「氷のひとの名前って、轟くんだっけ」
「半分野郎の名前なんざ、心の底からどうでもいい」
「半分……ああ、髪の毛が紅白だから」
 縁起がいい見た目だなとは思っていたけれど、半分野郎……。まあ、間違ってはいない。というか、かなり分かりやすい命名だ。私の「根暗」に比べても、客観的事実を呼称にしているだけなので悪口度が低い。
「それで、エンデヴァーのところでは、轟くんとふたりでお世話になるの? 体育祭の上位ふたりで?」
 轟くんの場合は親子だからという事情というか、そういうかねあいのようなものもあるのだろうか。私がそう尋ねると、爆豪くんはものすごい勢いで眉間にしわを寄せた。険しいなんてものではないレベルのしかめ面で、答えたくないとばかりに口を曲げる。
「え? なに? さっきまでのご機嫌さんはどこいっちゃったの」
「誰がご機嫌さんだ!」
 がーっと怒って、がーっと怒鳴って、それで爆豪くんはふたたび黙り込んだ。少し怒りが発散されたのだろうか。放っておいたら話し出すだろうか。そう考え、しばらく黙って待ってみた。
 やがて爆豪くんは渋々、本当に渋々といった感じで口を開いた。
「クソナードも一緒だわ」
「えっ、緑谷くん?」
 聞き返すも爆豪くんは無言。それが私の問いへの答えだった。
 何とも不機嫌そうな爆豪くんに、なるほどそういう事情があったのか、と得心がいった。それと同時に、深く感心もする。爆豪くんと轟くんは分かるけれど、まさか緑谷くんもナンバーワンのもとで学ぶことになるとは。
 私が最後に緑谷くんと会ったのは夏休みだけれど、きっとあれから、相当頑張ったにちがいない。爆豪くんを敵連合に拉致されただけでなく、緑谷くんもまた戦闘で身体をぼろぼろになっていたはず。それが今や、爆豪くんと並んでインターンにいくまでになっている。
 爆豪くんにすごいな、と思うときとはまた少し違う、深い感慨のようなものが、胸にじんわり広がっていく。あの緑谷くんが。無個性だからといじめられていた、あの緑谷くんが。
「そっか。緑谷くんすごいなぁ……。個性の発現遅かったのに、もうそんな雄英のトップ争いに絡んでるなんて」
 私も頑張らないと。以前から緑谷くんには、シンパシーのようなものを感じている。いや、無個性から雄英上位まで昇りつめつつある緑谷くんにシンパシーなんて、おこがましいにもほどがあるのかもしれないけれど。
 と、そうしてしみじみしていると、
「はァ!? 俺のがすげえに決まってんだろうがてめえ脳がゴミか!?」
 爆豪くんが当然のように噛みついてくる。これは予想できたことだったので、私のほうがさっさと折れた。
「誰も爆豪くんより緑谷くんのがすごいなんて、そんなことは言ってないよ。でもまあ、ごめんごめん」
「適当に謝ってんじゃねえ!」
 どこに怒りポイントがあるか分かったものではない爆豪くんだけれど、緑谷くんの話をすれば百発百中で怒る。それだけは分かっていた。実際、緑谷くんが自分と同じインターン先に行くというのは、爆豪くんにとっては面白い話ではないのだろう。
 麗日さんと芦戸さんから、爆豪くんと緑谷くんが大喧嘩を経て、多少の和解をしたらしいという話は聞いている。けれどだからといって、いきなり友好関係に転じているはずもない。緑谷くんのほうはともかく、爆豪くんのこじらせかたは、無関係の私から見ていても根が深い。
 普段の私ならばきっと、ここでこの話を打ち切っていただろう。限られたデートの時間で、わざわざ爆豪くんを怒らせるような話をしたくはない。
 けれど、せっかくの機会だ。今日はもう少しだけ、ねばってみることにした。
「べつに、爆豪くんと誰かを比べるつもりなんてないんだけどね。でもやっぱり、私としては緑谷くんのことは多少は気になるんだよ」
 これでも私は、爆豪くんと半年以上付き合ってきたのだ。たいていのことは話せば理解してもらえるということを、今ではちゃんと分かっている。それに、こうして腰を据えて話せるのは久しぶりだ。ふだんは言えないこと、思っていても言わないことを、たまには聞いてほしかった。
 私が言うと、爆豪くんは不機嫌そうに私を睨んだ。それでも話をさえぎったりはしない。
「緑谷くんと幼馴染の爆豪くんほどじゃなくても、私だって緑谷くんのことは同じ中学で、知らない仲じゃないんだし……、それに、個性の発現が遅かったもの同士っていうのもあるしさ。そういう、なんていうんだろう……親近感? っていうのかな。なんとなく応援しちゃうわけよ、やっぱり」
 あまり言い訳がましくならないように、けれどこちらの思っていることが過不足なく伝わるように。言葉を選びながら、私は話した。
 やがて言いたいことをすべて口にし終え、私は口を閉じた。あとは黙って、爆豪くんの返事を待つ。
 爆豪くんはしばしの沈黙のあと、
……あいつはそういうんじゃねえよ」
 と、ぼそりと発した。
「え?」
 爆豪くんらしからぬ静かな物言いに、私の心が一瞬の引っかかりを覚える。
 けれどその引っかかりは、
「だから、てめえごとき凡人が一丁前に応援してんじゃねえっつっとんだ!」
 先ほど発した、妙にしんみりとした一言の雰囲気とは打って変わって、すぐさま怒鳴る爆豪くんの声によってかき消されてしまった。
 こうなると、もう話をして分かってもらおうという空気ではなくなってしまう。まあいい、言いたいことはだいたい伝わったことだろう。
 爆豪くんの怒号に、私も乗っかることにした。
「まあ、そうだね。爆豪くんは私が緑谷くんを応援するのが気に食わないんだね?」
「ハァ?」
「私が応援するのは爆豪くんだけでいいと、そういうことを言いたいわけね」
「ばっ、んなわけねえだろアホが今すぐ脳を洗浄しろ!」
「あれ、違った?」
 首をかしげて尋ねると、
「違ェに決まってんだろうが!」
 爆豪くんが尋常ならざる吠え声を出す。あんまり大きな声を出すと、階下のご両親に聞こえちゃうよ、と思ったけれど、爆豪くんの両親ならば息子の大声など日常茶飯事なのだろう。
「おかしいなあ、私の中の爆豪くん語変換機はそう変換したんだけど」
「んなカス機能捨てろ!!」
 があがあとがなり立てている爆豪くんを無視して、私は思考を切り替えた。ひとまず緑谷くんの話からは逸れたので、本筋の話題に戻る頃合いだ。そもそも本筋の話題ってなんだっけ、と記憶を少しさかのぼる。ものすごく脱線してしまったので、思い出すのに少し時間がかかった。そうそう、最初はたしかインターンの話をしていたのか。
「じゃあ年明けしばらく、冬休みが終わるくらいまでは爆豪くんには連絡しない、ってことでいい?」
 緑谷くん絡みの会話をまるっとカットして、急カーブで元の話題に戻る。まだ何やら怒っていた爆豪くんは、唐突に切り替わった話題に「あ?」と間をとったあと、むすっと不満げな顔をした。
「なんでだよ」
「え? だってインターン中でしょ」
 これまでの半年間を思い出しても、そう考えるのが妥当だろう。なぜ理由を聞かれているのか分からず、こちらのほうが困惑した。
 爆豪くんはストイックにプロ志望だから、せっかくのインターン期間の一分一秒だって無駄にしないに違いない。それに、こう言ってはなんだけれど、エンデヴァーほどのプロのもとに学生が勉強にいったとして、爆豪くんがそれについていけるかも分からない。
 爆豪くんはかなりまめに連絡をくれるタイプだと分かっているけれど、それでもやはり、ヒーロー科の活動のほうが忙しいときには連絡の頻度が減る。無精をしているのではなく、そもそも携帯を見る時間がないのだと思う。
 それならばいっそ、最初からお互いに連絡は最低限と決めておけばいい。そのほうが私も休み明け試験の勉強に集中できる。