柚子子
2024-09-23 10:25:00
101523文字
Public ベリーベリー
 
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微原作沿 爆豪長編(3)

サイトに掲載している爆豪長編の第三章です

 そんなつもりでの提案だったのだけれど、どうやら爆豪くんのお気には召さなかったらしい。
「てめえは報連相っつうもんを知んねえのか」
 完全になじるように問われ、びっくりしてしまった。なじられるようなことを言った覚えはないのに。
「え、なに? ほうれん草?」
「報告! 連絡! 相談!」
「ああ、そっちの」
「そっちしかねえだろうが!」
 爆豪くんが怒っていうけれど、果たしてそうだろうかと私は内心で首をひねった。
 たしかに話の流れとしては報告連絡相談の話が正しいのだろう。けれどそもそも、言い出したのが爆豪くんなのだから、正しく結びつかなくても仕方がないと思う。報告連絡相談の重要性を知っている人間が、ふだんの連絡であんなに情報密度がすかすかのメッセージばかり寄越すとは、まさか思わないではないか。
 それならまだしも緑黄色野菜のほうのほうれん草の方が、爆豪くんとちかいところに位置していると思える。爆豪くんだってほうれん草は食べるだろうし。
「情報伝達の基本だろうが」
「正論ではあるんだけど、恋人との連絡をビジネス的な情報伝達と同一視している……?」
「ほぼ変わんねえだろ」
「そうかなぁ……
 どうにも釈然としないけれど、こうはっきり言い切られると、それ以上強く反論する気もおきなかった。たしかに爆豪くんの言うことも一理あるのかもしれない。爆豪くんと私のやりとりって、ほとんど事務的な内容になることが多いし。
 ともあれ、爆豪くんの言い分を要約すると、こうなる。
「つまり、爆豪くんが返信を寄越すかどうかは別として、私からの連絡を怠ることは許さないと」
「当然の確認をすんじゃねえ」
「当然なんだ、なるほど。さすが爆豪くん」
 当たり前の顔をして、平然と私に連絡を強いてくる爆豪くんだった。その堂々たるわがままぶりに、高校入学直後のことをついつい思い出す。
 春休み中に一切連絡をしなかったことで、新学期早々、駅で爆豪くんに詰められた思い出。今思い出しても、あれってめちゃくちゃ理不尽だった。そういうところは、今も以前もまったく変わりない。爆豪くんは一貫して、わりと分かりやすい形での交流を求めてくる。
 けれど、と唐突に思考が浮かぶ。
 爆豪くんが自分の忙しさに私を付き合わせることはあっても、その逆はきっとないのだろう。たとえば私が試験前で忙しくしているとき、爆豪くんは連絡を控えることはあっても、返信しなくていいから、と連絡をくれることはないのだろうと思う。少なくとも、これまでそういうことは一度もなかった。
 ふと頭の中で開きかけた思考の箱に気付き、私はあわてて蓋をする。自分のなかで納得しているはずの思考が、ついつい文句として飛び出しかけていた。
 いけない、今日はそういうことを言いにきたのではない。年の瀬なのだし、またしばらくは爆豪くんが忙しそうなのだし、せめて今日は楽しく過ごさなければ。そういうつもりで今日は来ている。
 ふーぅ、と長く息を吐きだし、嫌な思考を散らした。余計なことを考えるのはやめておこう。
 心を落ち着け、顔を上げる。と、爆豪くんがじっとこちらを観察していた。
 まただ。少し前のデートのときにもあった、この静かに見定めるような目。なんとなく居心地が悪くなって、私は口を開いた。
「や、でも、連絡っていっても、私から提供できる有益な情報は何一つないと思うけど」
 念のためにそう伝えると、爆豪くんは馬鹿にしたように笑う。
「んなもん、端からてめえの人生に期待してねえ」
「たしかに有益な情報を含有しない人生ですけども」
 まったく期待されないというのもどうなんだろうか。変に期待されるよりはましなのだろうか。
 溜息をつきつつ、爆豪くんの様子をうかがった。今はもう、いつも通りの爆豪くんだ。ほっと安堵の息をもらす。
「まあ、連絡くらいしろって言われたらするけども。くれぐれもエンデヴァーに迷惑かけないようにね」
「てめえ誰に向かってもの言っとんだ」
「爆豪くんだからこその進言です」
 それからしばらく、最近のお互いの近況報告をした。お互いのとはいっても、もっぱら話をするのは私のほうだ。爆豪くんはおもに聞き役に徹している。ときどきちゃんと聞いているのかな、と思うときはあるけれど、ずいぶん前に話したことや私の友人の名前も意外と覚えていたりするから、聞いていないように見えて結構ちゃんと聞いてくれているのだろう。
 気付けば、ずいぶん時間がたっていた。爆豪くんが立ち上がり、部屋の電気をつける。ちょうど話題が一段落ついたところだった。
「まあ、とにかく。今年も一年おつかれさまでした」
 私がそういうと、隣に戻ってきて腰をおろした爆豪くんが、ふんと鼻を鳴らした。
「色々あったけど、でも、楽しい一年だったね」
「そうかよ。どうでもいいわ」
「えっ、爆豪くん楽しくなかったの?」
 うっかり普通に聞き返してしまった。いつもの軽口だと分かっているけれど、反射のようなものだ。
 ばちっと視線があった爆豪くんは、一瞬バツが悪そうな顔をした。それでも私がまじまじと爆豪くんのことを見つめ続けていると、やがて非常に不本意そうに、
……悪かなかった」
 と低い声で認めてくれた。
「ふふ、なるほどね」
「つーか勘違いすんな、てめえの存在と俺の一年の生活の質に相関関係は一切ねえからな。おい、にやにやしてんじゃねえ!」
 これでにやにやするなというほうが、どうかしているのではないだろうか。一周回って、爆豪くんって逆にものすごく素直なのではないかと思えてくる。
 がうがう吠えている爆豪くんをいなしながら、窓の外に視線を向けた。そろそろ帰る時間が迫っている。結局爆豪くんのお父さんは紹介されていないけれど、あとで下におりたときにでも紹介してもらえるんだろうか。
 私が外を見ていたことに、爆豪くんも気が付いたらしい。ふいに爆豪くんは怒るのをやめて静かになった。爆豪くんは今、何を考えているのだろう。聞いても教えてもらえないだろうことは分かっているから、わざわざ言葉にはしなかった。私と同じことを思っていてくれていたら、いいなとは思う。
 と、そこで私は大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。忘れないうちにね」
 言いながら、私はすぐそばに置いてあったかばんを手繰り寄せ、中身を取り出す。いつもよりも大きなかばんで来たのは、今日は荷物が多かったからだ。
「はい。これ、遅くなりましたがクリスマスのプレゼント」
 かばんから取り出した包みを、爆豪くんに手渡す。「ん」と受け取って、爆豪くんは特に何も言わずにラッピングのリボンをほどき始める。
 爆豪くんの大きな手が、包みのなかにつっこまれた。かなり考えて選んだだけに、見ていてむしょうにどきどきしてくる。
 包みから取り出したプレゼントを、爆豪くんは矯めつ眇めつしつつ、あぐらをかいた自分の足のうえに置いた。
「えーと、マフラーと、あとキャップにしてみました」
 爆豪くんが何も言わないので、私のほうから説明した。
 何を買おうか悩みつつ百貨店を眺めていたとき、私の目に飛び込んできたのがこのマフラーだった。もともと爆豪くんは身体をあたためた方がいい個性を持っているし、季節にもあっている。ふだん身に着けるもののほうが、あまり会えないぶんいいようにも思えた。
 ただ、マフラーだけだとどうしても季節が限定されてしまう。高校生が持つにはかなり上等なマフラーではあるものの、予算にはまだ余裕がある。そこで、少し奮発してキャップも買うことにした。これなら季節を問わず使える。
「い、いかがでしょうか」
「悪くねえ」
 言いながら、爆豪くんはマフラーを巻いてみたり、キャップをかぶってみたりしている。その姿を見て、私は心の底からほっとした。よかった、まじで突き返されたらどうしようかと思っていた。
 爆豪くんの私服のセンスを考えつつ選んだものとはいえ、最終的にはかなり自分の趣味に寄ってしまった自覚もある。気に入ってもらえたようで何よりだ。
「マフラーは爆豪くんが今持ってるのと似たような色にしちゃったけど、よかった?」
「別にいい」
 爆豪くんが今使っているブラウンのマフラーは、中学時代から使っているものだったはず。まだ使えはするけれど、新しいものに買い替えてもいいくらいの使用感はあった。
「根暗が選んだのかよ」
「そりゃあもちろん……なに、なんかダメ出し?」
「違ェ。てめえのセンスならもっと、クソ根暗っぽいもんが出てくんのかと思っとっただけだわ」
「逆にクソ根暗っぽいプレゼントってなんなの」
「んなもんてめえで考えろや」
「思いつかないからって適当な振りするのやめてね」
 軽口を叩きつつも、爆豪くんは露骨に機嫌がよかった。マフラーは丁寧に折りたたみ、キャップはテーブルの上に置く。
 よく見ると、プレゼントを入れていた包みとショッパーも、きちんとたたんでわきに置いてあった。プレゼントだけでなく、渡したもの全部をぞんざいに扱わないところに、爆豪くんのいいところが詰まっている気がする。と、
「ちょい待ってろ」
 そう言って立ち上がると、爆豪くんはクローゼットを開いた。何やらごそごそしていると思ったら、中から黒地に白の上品なショッパーを取り出し、こちらに向かって放り投げた。
「えっ、ちょっと」
 きれいな放物線を描いて放られた包みは、さいわいそれほど大きなものではなかったため、私でも簡単にキャッチすることができた。お世辞にも運動神経がいいとはいえない私がきちんとキャッチできるのだから、爆豪くんのコントロールと力加減が素晴らしかったことはいうまでもない。それはそれとして、いきなり物を投げるのはやめてほしい。
「これ、プレゼント?」
「見りゃ分かんだろ」
 それもたしかにそうだった。クローゼットを閉じた爆豪くんが、無言でこちらに戻ってくる。その視線にうながされて、私もプレゼントの包装をといた。
 ショッパーのなかには、小さな箱がおさめられている。ショッパーと同じ色みの小箱を取り出し開け、
「うわっ、可愛い」
 思わず私は上ずった声をあげた。
 台座におさめられていたのは、ゴールドのイヤーカフだった。けして細身ではなく、どちらかといえばごついシルエットのカフは、シンプルながらころんとしていてかわいらしい。
「これ爆豪くんが選んだの?」
「俺以外に誰がいんだよ」
「いや、女子に意見を求めたのかなって」
「んなわけねえだろ」
 だって、あまりにも可愛すぎる。こんな可愛いものを爆豪くんが、オンラインとはいえ自分で選んで注文したという事実に、めまいがしそうになった。
「はーぁ、可愛いねぇ……
 手に取るのがもったいないような気がして、私は台座におさめられたままの状態で、まじまじと見つめ続けてしまう。というかこれ、下世話な話で申し訳ないけれど、もしかして結構お値段するのでは……? 一応プレゼントの予算は取り決めてあったはずなのだけれど、どう見ても決めた予算内でこれが買えるとは思えない……
 爆豪くんのことだから、ものすごく上手なお買い物をしたという可能性もあるけれど。いや、でもさっきのショッパーのなかに保証書ついてたしな……
 そんなことを野暮な考えつつも、うっとりとカフを眺めていると、爆豪くんが私の手からカフを取り上げた。
「貸せ」
「え」
 つられて爆豪くんのほうを向いた瞬間、息が止まるかと思った。
 膝立ちになった爆豪くんが、私の目の前まで身体を寄せていた。
「動いたら殺す」
 低くおさえられた声で宣告され、私は身じろぎひとつできなくなる。爆豪くんの手が私の顔のちかくまで伸びてきて、耳にかかった髪をするりと払った。
「えっ、やっ、あの」
「どうせおまえ自力でパッパとつけらんねえだろ」
「それはそうだけど、でも」
「根暗に合わせてもたもたなんざしてられっか。時間がもったいねえ」
 さんざんな言われようだけれど、ろくな反論もできなかった。爆豪くんの手が頬や首を掠めるたび、震えそうになるのをどうにかこらえた。
 爆豪くんが顔を傾け、私の右耳にふれる。力加減をしているのだろうと分かる強さで耳たぶにふれられる。そのふれかたは、爆豪くんから出力されるアクションとして、まったく想像の埒外にあるもののように思えた。そわそわとして、落ち着かない気分になる。
「ひい……
「おい。なに情けねえ声出してんだ」
「いや、だって、近いから……
 心底面倒くさそうに言われ、私は震える声で弁解した。
 というかこの距離、爆豪くんは平気なのだろうか。私たち、このあいだ手をつないだばかりなんですが。付き合って半年かけてやっと手をつないで、それでその次がいきなり、アクセサリーをつけるために顔周りにふれる? それはちょっと、いきなりレベルが上がりすぎている気がする。
 爆豪くんにふれられているあいだ、私は息を殺してじっと耐え忍んでいた。かろうじて目だけは開いているものの、視線はあっちへいったりこっちへいったり。この距離でまぶたを閉じてしまったら、キス待ちみたいになってしまって恥ずかしいからという、ただそれだけの理由で目を開いているようなものだ。
 いや、爆豪くんは恥ずかしくないの? 私から見てこんなに近くに爆豪くんがいるということは、爆豪くんから見ても私までの距離がかつてなく近いということのはずなのだけれど。
 爆豪くんにとっては、別になんてことないのかな……。なんかそこにあるな、という感じなのかもしれない。私はさっきから、爆豪くんからなんかいいにおいするような気がして、本当にまったく気が気じゃない。呼吸もままならなくなっている。
 カフが耳にはめられる。軽く耳を引かれるような感覚があって、私は細く息を吐きだした。
「痛くねえな」
「だいじょうぶです……
 爆豪くんが私の耳から手をはなす。そのまますっと身体を引いていき、私と爆豪くんのあいだの距離は、ようやく先ほどまでの適正な近さに戻った。
 今度は大きく息を吐きだす。よかった、心臓がばくばくしすぎて、おかしくなってしまうかと思った。自分の顔が赤くなっているのが分かる。多分だけれど、爆豪くんがふれていた耳たぶも、赤く熱くなっていたのだろう。恥ずかしい……