fedge
2026-03-10 20:20:19
53651文字
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ドラゴンテールへようこそ!

ナタ+αのCPなしオールキャラ。
竜とふれあいながら飲めるイベント「ドラゴンテール」を開催することになったナタの面々。お呼ばれした風神と付いてきたファルカも混ざって大宴会!

※普段カピオロ書いてる奴の文章です。ご了承願います


夜神の国にて

 ところ変わって夜神の国。薄暗い空が広がる下には、仄かに光る白い花が一面に咲いている。花々の咲き誇る丘の一角には簡素な木造の小屋が建てられており、製材されぬままに組み上げられた無骨なそれは、辺りの神秘的な雰囲気から少しばかり浮いていた。
 ギィ、と扉が軋み、開いた扉からのそりと黒い影が現れた。その影の主は肩をぐるりと回して首を鳴らし、大きく伸びをする。そのまま手近にあった水瓶を抱え上げると、静かに流れる川のほうへと向かった。
 夜神の国で生活する分には、水も食事も要らない。だが他にやることもないのだ。それならば、「暮らす」ことを楽しんでみても良いだろう。眠っているのも、もうとうに飽きた。
 好きにしていいと夜神からも承諾を得て、適当な樹を伐採して小屋を作った。中には寝床と机、簡素な調理台を設えた。生命の維持としての食事こそ必要ないが、嗜好品としてのそれは、多少の暇つぶしになる。
 昼夜がなく一日の感覚すら掴めない夜神の国で、日課をこなす。目が覚めれば河原まで歩き、満足いくまで素振りをする。そのあと清流で身体を濯いで、水を張った瓶を小屋まで持ち帰るのだ。長い闘いを終えたというのに鍛錬を続ける必要があるのか、と自問自答したが、そうするのが一番落ち着くのだから仕方がない。
 一から十……否、百通りに、無心で剣を振るう。型を繰り返して一息つくと、黒い詰襟と仮面を脱いで清流に身を浸した。
 ここまでは何度も繰り返した事象そのものだった。だが今回は、一つ違った。
 視線を向けられている。この周辺に、他の魂が現れることは稀だ。危害を加えてくる様子は無さそうだが、不審なものを放り置くわけにもいかない。それに、この気配には覚えがある。
 装備を纏いなおして懐かしい気配をたどれば、その先には小さな草むらがあった。よくよく見れば、ほんのわずかばかりだけ、蝙蝠の薄耳がちらりと端を覗かせている。
 気づかれていると悟ったのだろう。焦りを訴える草むらに向けてずんと歩みを進め、おもむろに手を差し入れた。首根っこを掴まれた気配の主は、ばつが悪そうな顔をしていた。

「何故お前がここにいる」
「気づかれてしまったか。やはり、君には見破られてしまうな」

 降参だ、と両手を挙げたオロルンを地面に降ろしてやる。幾分か筋肉がついたようだが、別れた時と大差ない、そのままの姿だ。しばらく目を泳がせ、何やら口にしかけた様子だったが、ふるふると首を振った後、オロルンはまっすぐ隊長を見上げて、言葉を紡いだ。

……久しぶりだな、『隊長』。元気そうでなによりだ」
……お前も、相変わらずのようだ。それで再度問うが、お前は何故ここにいる。ここは夜神の国だぞ」
「夜神様に聞きたいことがあって来たんだ。そうしたら、『それなら、隊長に聞いてみるといいわ』って言われて、ここに飛ばされた」

 強く窘めて現世に送り返そうとしたのだが、どうやらここの主が許しを出してしまっているらしい。それであれば急ぎ送り返すことも出来ないと、隊長は諦めた様子で深く溜息を吐いた。彼の身体のためにも、さっさと用件を片付けさせるべきだろう。

「それで、俺に聞きたいこととは何だ」
「ああ。『キノコ酒』の作り方を教えてほしい」
「何だと?」

 単刀直入に尋ねた問いに返されたのは想定外の事柄で、隊長の口からは思わず抜けた声が漏れてしまった。

「『キノコ酒』の作り方だ」
……お前は、その為だけに危険を冒してまで夜神の国に来たというのか?」
「僕が地脈の状態に敏感なのは君も知っているだろう。君と旅人のじいちゃんを夜神の国で引き合わせたときより、遥かに安定しているのは確認済みだ。無茶はしていない」
……そういう問題ではないだろう」
「そういう問題だ。僕はどうしても『キノコ酒』が作りたい」

 梃子でも譲らないのも、変わりないらしい。オロルンはむすっと顔を膨らませながら、隊長をまっすぐに見つめている。

……教えたら、さっさと帰るように。それと、俺の現状は他言無用だ」
「もちろん。それは夜神様とも約束している」
……ついてこい」

 水瓶を抱え、隊長は小屋へと戻る。オロルンは満足げな笑みを浮かべると、隊長のすぐ隣へと駆け寄って歩き始めた。
 道すがらオロルンが語るに、どうも史料の中にあった『十字路の主のキノコ酒』に興味を持ったようだ。だが物語として残されている記録ばかりで、肝心のレシピが見当たらなかったらしい。それで、十字路の主が夜神の別名であることを思い出し、夜神に直接聞きに行こうという考えに至ったようだ。

「俺が知っているのは、俺の故郷で行っていた製法だ。お前の探しているものとは違うかもしれんぞ」
「構わない。それに、夜神様が君に訊くように、と言っていたのだから、きっと正しいはずだ」
……あまり盲目的に信じるな」
「大丈夫だ。僕は僕なりに考えがある」

 小屋に帰り着き、棚からちょうど飲み頃になっていたキノコ酒を取り出す。暇をつぶす嗜好品の一つとして、夜神の国でも採れるキノコを漬けていたのだ。

「これがそれだ。飲んでみろ」

 小さな器に注いで渡してやると、オロルンはくんくんと香りを嗅いだ後、くいと呷って一息で飲み干した。

「独特な風味だな……キノコの旨味を感じるが、花の匂いでほとんど埋もれているみたいだ」

 オロルンは器の底を覗き込み、確かめるように器に残る匂いを嗅いでいる。

「仕方ないだろう、ここで手に入る酒がその花をベースにしたものしか無い。お前が作るなら……そうだな、炎水あたりを使えば、キノコの香りを邪魔せずに作れるだろう」

 瓶の殺菌方法、キノコの処理方法、どの酒につけるかでどう変わるか……カーンルイア式ではあるが、覚えている限りのことを伝えた。オロルンは頷きながらさらさらとペンを走らせ、しっかりと書き留めていく。

「炎水ならいくらか家にある。……質は、まあまあだけどな。ありがとう、隊長。教えてもらった方法で作ろうと思う」
「ああ……上手くいくよう願っている」
「君に教えてもらったんだ、きっと最高のものができる」

 ぱたんと持ち込んでいた手帳を閉じ、オロルンはにかっと微笑んだ。

「おっと、そろそろ戻らないとまずいな。ばあちゃんに気づかれてしまう」
……あまり皆に心配をかけてやるな」
「じゃあ、またな、隊長」
……ああ」

 ふわっ、とオロルンの姿が消え、巫術の残り香が漂う。再び静寂が訪れ、周囲にはもう、何の気配も感じられない。騒がしい奴だったなと後片付けをするために手を伸ばすが、ある言葉が引っ掛かった。

……待て、またな、と言ったか」

 隊長は大きなため息を吐き、手酌で器に酒を注ぐ。誰もいない小屋の中で静かに、一息で呷った。


 * * *

「さて……と。帰ったらさっそく作ってみよう」

 ルラを匿ったことのある洞穴で、オロルンはゆっくりと目を開けた。謎煙の主に伝わる香を焚きしめていたため、服に独特の香りが染みついている。

「んん……臭うな。ばあちゃんに見つからないように帰らないと、また何か言われそうだ」

 幸いにも辺りはもうとっぷりと日が暮れており、オロルンのほうがシトラリよりも夜目が効く。もし見つかっても逃げきれるだろう。
 オロルンは道すがら蛍光ツノキノコを毟りながら、星明りの薄暗い中で一人帰路へとついた。