fedge
2026-03-10 20:20:19
53651文字
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ドラゴンテールへようこそ!

ナタ+αのCPなしオールキャラ。
竜とふれあいながら飲めるイベント「ドラゴンテール」を開催することになったナタの面々。お呼ばれした風神と付いてきたファルカも混ざって大宴会!

※普段カピオロ書いてる奴の文章です。ご了承願います


スイート・ドリーム


 一方その頃。
 白熱したレースが繰り広げられている裏で、草臥の家では『ドラゴンテール』の準備が進んでいた。
 バーテンダーをする予定になっている旅人とパイモンは、ナタの皆が用意してくれた様々な飲み物を確認しつつ、どんなドリンクを作ろうかと思案していた。

「わぁー! オイラが見たことのないジュースがたくさんあるぞ!」
「これはロマリタイムフラワーのジュースだね。それとこれは……ヴァレサの果樹園で作ったものかな?」
「小さい瓶もたくさんあるぞ。これは蓋にリンゴのマークが描いてあるし、きっとリンゴジュースだ!」

 棚と机上に大小様々のカラフルな瓶が並べられている。皆で準備したこともあって、酒や飲み物の種類は、両手の指では足りないほどだ。

「えっとこれは……スイートドリーム!?」
「どうした、旅人? ん、見たことあるやつだな……なんだっけ?」
「ティティ島で作っていた、幻覚の見えるお酒だよ。持ってきてくれた人には申し訳ないけど、さすがに危ないから、手の届きづらいところに隠しておこう。処分したほうが良いんだろうけど……万が一、気化したものにも作用があるといけないからね」
「お、おう……なんでそんな危ないものがあるんだ?」

 記憶が確かであれば、醸造家のエズリが作っていたお酒だ。確かティティ島のバー・ドランクハニーの関係者だと言っていたが、蜜酒を持ってきたときに紛れてしまったのだろうか。
 そんなことを考えつつパイモンと共にドリンク案を練っていると、草臥の家のドアが開けられた。まだ開店まではだいぶ時間があるはず、と思ってそちらを見ると、まあるい桃色の仔竜がぱたぱたとパイモンの横に飛んできた。

「久しぶりだな、きょうだい!」
「おう! カクーク、久しぶりだな! 『ドラゴンテール』をやろう、って決めた日からだから、一か月ぶりか?」

 各地の知り合いからなんやかんやと頼まれごとを受けたのもあり、旅人とパイモンがナタを訪れたのはしばらくぶりだ。正確に言えば、その頼まれごとの中で訪れたりしてはいたが、変種のキノコンと一緒に観光をしていたので友人たちに逢う時間が取れなかった。

「もうそんなに経ってたのか。月日が経つのはあっという間だな。そら、ここが今日みんなに居てもらう部屋だぞ」

 カクークに続いてイファも店内へ入ってきた。その後ろをぞろぞろと仔竜たちがついてきている。合鴨の親子のように、てちてちと列をなして近づいてくる仔竜たちは本当に可愛いなと、思わず目が緩んだ。

「ところでイファ、その箱は?」
「ああ、これは――

 入ってきたイファは大ぶりな木箱を抱えていた。ガタガタと煩く揺れる箱からは、聞き覚えのある声が漏れてくる。

「聖龍である吾輩をこーんなボロ箱に閉じ込めるなんて、ふざけるなよキィニチ! こんな箱すぐにぶっ壊してやるからな!」
「はいはい。じっとしてろって。今、キィニチが選手として出場してるだろ? だからアハウが余計なことをしないように、こいつを閉じ込めた箱を預かることになったんだ」
「ムキー!」
「みんなはアハウと違って静かについてきてくれて偉いな。待ってろ、おやつがあるからな」

 イファは暴れる木箱を机に置いて、今日のスタッフを請け負ってくれた仔竜たちにおやつを配り始めた。白く小さな四辺形のそれが袋から出されると、ふわりと甘い蜜の香りが漂った。

「それは?」
「ああ。竜用に改良した『ナツメヤシキャンディ』だ。スメールの人に貰った竜がいたらしくてな、ねだられて作ることになったんだ」

 もう何度もそうやっておやつを与えているからか、仔竜たちは何も言われずとも一列に並んでおやつを受け取る。
 その時だった。

「ぎゃう!」

 列に並んでいたユムカ子竜の好奇心を、ガタガタ揺れる箱がくすぐった。おやつのことが一瞬で頭から抜け、ユムカ仔竜は机の上へとぴょんと跳び乗る。他の仔竜よりも逞しく育っている後ろ足でじゃれるように箱を蹴りつけると、アハウの入っていた箱はごろんと転がり落ちた。
 木箱は大きな音を立てて床にぶつかった。緩んでいたのだろうか、落ちた衝撃で留め具が飛んだ。
 ずる賢いアハウがそれを見逃す筈もなく、僅かに開いた隙間からぺらっぺらの身体を滑り出させる。抜け出したアハウは三人の手が届かない位置に飛ぶと、にへへと意地悪に笑った。

「はっはっはー! そこのチビ、褒めて遣わす! ったく、この吾輩を閉じ込めようだなんて五百年はえーっつーの!」

 嘲笑うようにアハウが飛び回り、会場の飾り付けがいくらか引っ掛けられて外れた。旅人は慌てて駆け寄って飾りを受け止め、壊れていないことにほっと胸を撫でおろした。

「こらアハウ、じっとしてろってキィニチにも言われただろうが!」
「そうだぞ!」

 イファとカクークがアハウを叱るが、言われた本人……本竜はそんなこと屁でもないのだと尻を振る。

「へっへーんだ! 逃げられて悔しいんだろ! 悔しかったらもう一度捕まえてみろってんだ!」
「クァーッ!」

 カクークが飛びかかるが、アハウはひらりとそれを避けた。ケタケタと笑いながら、狙いを外したカクークを馬鹿にするように煽っている。

「カクーク、落ち着け。アハウの思うつぼだ」
「クゥ……

 そう言いつつ、イファが目くばせしてきた。成程、こちらは四人(三人と一匹)だ。調子よく笑っているアハウがカクークに夢中なうちに、旅人、パイモン、イファで三方向から囲むように立ち位置を変える。

「そらっ!」

 アハウを追い込むように、イファがアハウに手を伸ばす。虫取り網のように帽子を振るが、寸でのところで躱された。

「そう簡単に掴まるかってーの! っと、あっぶね!」

 イファが避けられるのは想定済みだった。だが、抱きつこうとした旅人の腕も、虚しく空を切った。

「パイモン!」
「おう!」

 旅人の呼びかけに応じる形で、パイモンの小さな両手が伸びる。その両手はアハウの短い両足を確かに捕らえたが、あまりにも小さな足は、するりとすっぽ抜けてしまった。

「あー! もうちょっとだったのに!」

 逃げのびたアハウはバーカウンターへと飛んでいくと、机上にあった瓶を掴んだ。

「へっへーん、無駄無駄ぁ! お、うまそーなジュースがあんじゃんよ!」
「こら! 勝手に飲むな!」

 聞く耳を全く持たないアハウは、瓶の蓋を器用に開けて全てを一気に喉に流し入れた。

「ハッハァ! ここにあるジュースはぜーんぶ、吾輩への供物として貰ってやろう! このフルーツも、うまそうな匂いがする料理も、ぜーんぶだ!」
「お前が暴れてるから、その料理の用意も進まねぇってーの! 早く降りてこい!」
「はぁ? 何言ってんだ、ここにうまそーな料理が山ほどあるだろうが」
「ぎゃう!」

 その時だった。じゃれるような声があがり、緑色の影が跳んだ。ふよふよ浮かんでいるアハウをおもちゃだと思ったのだろうか。宙を舞ったユムカ仔竜の身体は、高所で得意げにしているアハウの身体に当たって、巻き込みながら壁に飛んだ。
 べちん、と壁にぶつかる音がした。慌てて壁に駆け寄ったイファがユムカ仔竜を抱き留めると、痛かったのだろうか、おでこを抑えてキュウキュウと鳴いている。

「よーしよし、すぐ手当してやるからな……っと、旅人、すまない、こいつを」
「うん、わかってる」

 このチャンスを逃すわけにはいかない。壁と仔竜に挟まれて文字通りぺちゃんこに伸びているアハウを、元の木箱に放り入れて留め具を嵌め直した。強めに留め具を押し込んで、邪魔にならないところに木箱を置きなおす。今度は仔竜がじゃれついても落っこちないように、床に直置きだ。

「相変わらず騒がしいやつだな、こいつは……
「ハハッ」

 隅に追いやられた木箱に、パイモンとカクークが呆れた目線を送っていた。


 * * *


「お手柄だけどな、無茶はダメだぞ。怪我したら痛いだろ?」
「きゃぅ……

 イファが大捕り物の立役者であるユムカ仔竜の手当をしていると、もう一匹のユムカ仔竜が近寄ってきた。ぺろぺろと仲間を舐め始めたので、どうやら心配しているみたいだ。
 微笑ましいその様子を見つつ、途中になっていた準備を再開する。道具は大丈夫、ドリンクの種類も確認した。レシピを覚えている有名どころのカクテルは、問題なく作れそうだ。
 スタッフを務めてくれるという仔竜たちはとても大人しく、仔竜たちだけで静かに遊んでいた。時折外からワァと聞こえる歓声だけを音楽代わりに、ゆったりと準備を進めていった。

 しばらくすると競技場の歓声も聞こえなくなった。確か川の方を走るコースだと言っていたから、観客も気球に乗って移動したのだろう。奇妙なくらい静かな中で作業を続けていると、ギィと入口の扉が開けられた。フードから蝙蝠耳をぴょこんとのぞかせたオロルンが、大事そうに大きな瓶を抱えて入ってくる。

「こんにちは、旅人のじいちゃん。お酒を持ってきたんだが、どこに置けばいいだろうか?」
「いらっしゃい、オロルン。結構大きな瓶だね……それなら、カウンターの下に置いて欲しいな。大きな瓶のお酒はそこに纏めてあるから」
「わかった」

 瓶を抱えたオロルンが、しゃがみ込んでカウンターの影に消える。……どことなく瓶が光っているように見えたけれど、気のせいだろうか。気のせいであってほしい。
 お酒を所定の位置に置いたオロルンが立ち上がると、カラフルな小瓶を手に小首をかしげている。

「じいちゃん、この空きビンは何の瓶だ? カウンターの下に落ちていたんだが……
「あ、たぶんさっきアハウが勝手に飲んじゃった瓶……って、スイートドリーム!?」

 嫌な汗が背を伝い落ちた。違和感の正体にようやく気がついた。静かすぎるんだ。
 慌ててアハウを入れていた木箱に駆け寄る。留め具を緩めて中をそっと覗き込んでみると――

 木箱は、もぬけのからだった。