fedge
2026-03-10 20:20:19
53651文字
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ドラゴンテールへようこそ!

ナタ+αのCPなしオールキャラ。
竜とふれあいながら飲めるイベント「ドラゴンテール」を開催することになったナタの面々。お呼ばれした風神と付いてきたファルカも混ざって大宴会!

※普段カピオロ書いてる奴の文章です。ご了承願います


仔竜のお願い

 イファは医者だ。となれば、条件や報酬なんかの交渉は専門外である。そもそも竜と会話できない。
 カクークはそういったイファの不得手とする部分を補ってこそ、優秀な助手といえるだろうという信念のもと、炎神様から任された今回の重大任務にあたっていた。

……という条件だ。協力してくれないか?》
《いい機会だ、おまえがやりたいなら行くといい》
《やるやる! おいしいもの、たべたい!》
《助かるぜ。ありがとな、きょうだい!》

 『ドラゴンテール』に来てもらう竜のスタッフを集めるため、イファとカクークは往診を兼ねて各部族を回りつつ、働いてくれそうな竜に声をかけていた。
 今回のコンセプトが『仔竜と触れ合えるバー』であるので、スカウトするのは子供たちだ。そうなればもちろん、親御さんからの承諾も要る。カクークは真摯に親たちに交渉を持ち掛け、仔竜たちの業務内容を――興味をもつように多少盛りながら――伝えた。子どものきらきらとした期待の目を無下にできる親が、そう多く居るわけもない。カクークの目論見通り、交渉は順調に進んだ。テペトル、コホラ、ユムカ、イクトミ、クク、ライノ。ナタに暮らす全ての種の仔竜がそれぞれ二匹ずつ、催し物に協力してくれることとなった。

 一通り声を掛け終えて参加してくれるスタッフが確定したので、イファは一度全員……全竜を草臥の家に集めた。もし万が一、竜同士の相性が悪いと喧嘩になってしまう恐れがある。本番でいきなり顔を合わせるより、事前にいちど顔合わせをしておくべきだという考えらしい。

「ありがとな、カクーク。お前のおかげで順調に事が運びそうだ」

 集めた仔竜たちは、仲がよさそうに和気あいあいと遊んでいる。懸念していた喧嘩も起きる気配は全くない。思いのほかあっさりとスタッフが集まったことに、イファはほっと胸を撫でおろした。
 功労者をねぎらうように、カクークの頭をわしゃわしゃと撫でてくる。くすぐったくも心地よい掌の感覚に、思わず目が細まった。

《ねーえ、おなかすいた! おいしいもの、どこ?》

 人の耳にはクアッ、としか聞こえないが、一番激しく遊びまわっていたクク仔竜がとてとてと二人の元へと歩み寄ってきた。イファは抱きかかえていたカクークを降ろして、そのクク仔竜へと手を差し伸べる。もう少し堪能させてくれたっていいじゃないか。でもまぁ、仕事をおろそかにするわけにはいかない、とカクークは己の役目である翻訳をすることにした。

「イファ、ごはん! ごはん!」
「ああ、腹が減ったのか。いっぱい遊んだもんな、ちょっと待ってろ」

 イファは腰に下げた鞄の中からジャーキーを取り出した。イファお手製の、竜用に塩気を抑えたものだ。クク仔竜は差し出されたそれを咥えてもちゃもちゃと咀嚼しているが、どうも期待と違うようで首をかしげている。様子のおかしさに気が付いたカクークは、仔竜の隣にぱたぱたと飛んで着地し、理由を尋ねた。

《どうした? 口に合わなかったか?》
《おいしーけど、おもったのとちがう!》
《どんなふうに違うんだ?》

 んー、と目をきゅっと瞑って顔を寄せているクク仔竜は、かなり悩んでいる様子だ。

「様子が変だな、でもさっき診た時は身体に異常は無かったはず……。カクーク、この子が何を言いたいか教えてくれ」
「まってろ、きょうだい」

 この子は今一生懸命考えているから少し待ってほしい。イファに一言入れたところで考えがまとまったらしく、クク仔竜がぴょんと跳ねた。

《ザクザクで、あまいの! まえに赤い髪の人間がくれた!》
《赤い髪のにんげんの甘いの! ぼくもそれがいい!》

 ザクザクの甘いの、に反応したのか、近くでごろごろと床に転がっていたライノ仔竜がすくっと起き上がり、クク仔竜の隣へと歩み寄ってきた。

《赤い髪……炎神様に何かもらったのか?》
《ううん、ちがう! ふわふわで、つのがあった!》
「ざくざく、あまい! あか、ふわふわ、ツノ!」
「甘いのがいいのか? それならクッキーがあるが……ツノ?」

 角がある人間と聞いて浮かぶのは、豊穣の邦のヴァレサくらいだ。雰囲気もふわふわしている。でも彼女の髪は赤というより桃色だ。イファにそのまま伝えてみたが、どうも同じく心当たりは無いらしい。

《ヴァレサに何かもらったのか?》
《ううん? ヴァレサじゃない! ふわふわのひと! おどってた!》

 違うらしい。ますます謎が深まるばかりだが、今はいったん仔竜たちのおなかを満たすことが先だ。イファが「ザクザクで甘いもの」であるクッキーを鞄から取り出すと、騒いでいた二匹以外も、匂いにつられてわらわらと集まり始める。

「慌てなくても全員分あるからなー、順番に並べー」
《みんな、クッキーが食べたかったら、ここに並んでくれ!》
《はーい!》

 仔竜たちは聞き分けよく並び、イファの手から順番にクッキーを受け取っていく。一番最初に受け取った先ほどのクク仔竜とライノ仔竜も、貰ったクッキーをむしゃむしゃと食べている。だが思い描いていた「ザクザクで、あまいの」とは違ったらしく、だんだんと不満げな顔になっていった。
 カクークもまだ仔竜ではあるが、今ここに集まっている竜たちの中では年長だ。幼い竜たちが残念そうにしているのを見かねたカクークは、彼らが求める「ザクザクで、あまいの」を探そうと決めた。

「ん? 食べてはいるけど、やっぱり他の子より元気がないな。……もしかして、違うものが食べたかったのか?」

 イファも仔竜たちの望みに気が付いたようだ。それなら一緒に探してもらおう。

「そうだぞ、きょうだい! ざくざく、あまい! あか、ふわふわ、ツノ!」
「赤、ふわふわ、ツノ……それが、この子たちが欲しがっているものなのか? いや、違うな。ざくざくで甘いのまでは合ってるから最初は喜んでくれた。でも本当に欲しいのはその赤、ふわふわ、ツノに関連してる別の何か、ってことだな」

 理解が早くて助かる。流石イファだ。

「さて。『赤、ふわふわ、ツノ』……全然見当がつかないが、こいつらの為にも頑張って探してやるか」

 協力してくれるんだから、俺たちも相応に応えてやんねーとな、と、イファは優しい眼差しを、クッキーに群がる仔竜たちに贈っていた。

「それにしても、みんなジャーキーよりもクッキーが好きみたいだ。本番のおやつはクッキーを多めに焼いておくか。また蜜を分けてもらわねーと」
「そう言うだろうと思って持ってきた。二缶で足りるか?」
「わっ! オロルン、お前、いつの間に」

 竜たちの後ろから、ぬっと長身の黒い影が覗く。手にしていた缶をどさりと床に置くと、両手をお椀型にしてイファの目の前に差し出した。

「ちゃんと並んだぞ。僕の分のクッキーは無いのか?」
……これは竜用だ、後で別に焼いてやるよ。ところでオロルン、『赤、ふわふわ、ツノ』ってキーワードに覚えがあったりしないか?」

 クッキーが貰えないとわかって少しむすっと表情を曇らせたオロルンだったが、イファからの謎の問いかけを聞いて思考が切り替わったのか、けろっと元の表情に戻った。やっぱりこいつは面白い奴だ。

「『赤、ふわふわ、ツノ』か? ううん、思い当たるものは無いな……
「こいつらがそれを探しているみたいなんだ。みんなを家に帰した後、それを調べようと思ってる。暇なら手伝ってくれ」
……すまない。この後行かないといけないところがあるから、残念ながら暇じゃない。『赤、ふわふわ、ツノ』は覚えておこう。もし何か見つけたら教える」

 オロルンには断られてしまったが、とても申し訳なさそうにしていたので重要な用事なのだろう。先約があるなら仕方がない。
 蜜だけ渡して帰るつもりだったのだというオロルンに、ついでにイクトミ仔竜の送迎を頼んだ。残りの仔竜たちを親元へ一度帰すため、イファとカクークは草臥の家を後にする。

「本番までに、こいつらが本当に食べたがっているのが何か見つけてやんねーとな」
「やるぞ、きょうだい!」