fedge
2026-03-10 20:20:19
53651文字
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ドラゴンテールへようこそ!

ナタ+αのCPなしオールキャラ。
竜とふれあいながら飲めるイベント「ドラゴンテール」を開催することになったナタの面々。お呼ばれした風神と付いてきたファルカも混ざって大宴会!

※普段カピオロ書いてる奴の文章です。ご了承願います


きらきらの好奇心

「んん~……

 窓から差し込む朝の陽光が、シロネンの瞼に当たる。朧な意識のまま眉を寄せて身を返し、ごそごそと掛布を手繰り上げた。
 明日、新形式になってから十回目の『帰火聖夜の巡礼』が行われる。選手たちへの慰労と十回記念を兼ねた催し物もあるとのことで、その日は必ず空けておくように、とマーヴィカからお達しがあったのはもう一月も前だ。
 シロネン自身を含む六英傑も、いろいろと準備を手伝った。シロネンが用意したのは、仔竜のためのおもちゃだった。竜の力で引っ張られても壊れないくらい頑丈なボールだ。中に燃素を動力にしたモーターを入れているそれは、不規則に揺れ動くことで仔竜の気を引いてくれるだろう。
 急ぎの仕事は昨日すべて終わらせた。だから今日はゆっくりと睡眠を貪って、気が済むまで寝て、いい加減片付けないとまずいくらい散らかっている工房の掃除をするのだ。正直やる気は出ないけれど。
 陽の光のせいでぼんやりと目が醒めてしまったなと思いつつ、まぁいいかと寝なおそうとしたその時、嫌というほど聞いたエンジン音が耳に届いた。届いてしまった。最悪の目覚めだ。
 普段なら来そうな日はあらかじめどこかに避難しているのだけれど、今日来るのは想定外だ。今日はどんな難題を吹っかけてこられるのかと辟易しつつ、身支度を済ませ終わったところで、工房の戸が叩かれた。

「シロネン、私だ。起きているか?」
「マーヴィカ……。こんな朝から何の用? って、え?」

 見間違いか、と未だ少し眠気の残る目を擦る。だが見えているものは変わらなかった。マーヴィカの少し後ろに、桃色髪の少女と、暫くぶりに見た人、いや、ロボットが立っていた。

「イネファ!? どうしてここに?」
「お久しぶりです、シロネンさん。仔竜と触れ合える催し物があると聞いて来ました。アイノも一緒に来ています」
「こんにちは! はじめまして! アイノだよ!」

 アイノと名乗ったその少女の目線に合わせて屈み、目線を合わせる。ニペカと変わらないくらいの歳に見えるこの子が、以前イネファが言っていた「家族」なのだろう。

「こんにちは、アイノ。ウチはシロネン。よろしくね」
「シロネンねーちんだね! ねぇねぇ、このそーくりん? を作ったのってシロネンねーちんなんだよね? いーっぱい聞きたいことがあるんだけど、いい? あのね、ここのパーツがこうなってるんだけど、これってなんでこの形なの? こっちにこうやって曲げたら、もっとよくなると思うんだ!」

 早速本題だ、と言わんばかりに、アイノが目をきらきらと輝かせながらシロネンの手を掴んで、わぁぁっと言葉を並べてくる。理解が及ばず助けを求めるようにマーヴィカを見れば、愉快そうに笑っていた。

「アイノはナド・クライで技師として生計を立てているそうだ。シロネン、君にいろいろ聞きたいそうだよ?」

 ナド・クライにはアイノという天才少女がいる、というのは噂になってこそいたが、こんなに幼いとは思っていなかった。そういえば、イネファはアイノに作られたと言っていたなと、点と点が繋がる。
 目の前にいるのは幼い子どもではない、同業者だ。そう確信したシロネンはふっと口端を上げて立ち上がると、彼女たちが乗ってきた双駆輪のエンジン部分に触れた。

「アイノがいう通り、ここはこっちに繋いだほうが効率は上がる。この管の中に燃素を通してるんだけど……あ、燃素はわかる?」
「クーヴァキみたいなもの、だよね?」

 耳なじみのない単語だが、確か本で読んだことがある。ナド・クライ特有の力だったはずだ。記されていた特性は、確かに似ている部分があった。

「あー……そう、そうだけど、クーヴァキとは違って、燃素自体に熱があるから、それに耐えられる金属を使う必要がある。ってわけでここはその金属を使ってんだけどさ、それは曲げ過ぎると脆くなる特性があんの。だから、そう曲げちゃうと圧力に耐えらんない」
「そうなんだ! だからこの形なんだね。じゃあ、ここは?」

 アイノから次から次へと質問が飛んでくる。大方は十数回にも及ぶ双駆輪の改修の時に触った個所で、理由を含めて解説することができた。だが時折飛んできた鋭い質問の中には、検討したほうがよさそうなものもあった。確かにそれならもっと速度が出せるようにできそうだ……マーヴィカから依頼がない限りは、触る気はないけれど。

「ほう、それならば此度の宴が終わった後に、そこを調整してもらうとしよう」
……

 仕事が、増えた。

 * * *

 明日の競技大会と宴の準備のため、マーヴィカは帰っていった。アイノはまだまだナタの技術に興味があるらしく、夕方に迎えが来るまでシロネンの工房にいることとなった。用事は無いから別に構わないし、なによりアイノが純粋に好奇心から質問を向けてきてくれるのが嬉しかった。

「シロネンさん、工房内の掃除が完了しました」
「サンキュー、って、え? 掃除してくれたの!?」

 唯一やらなければいけなかったこと――つまりは工房の掃除からは目を逸らしていたのだが、アイノの質問に答えているうちに、イネファがやってくれたようだ。

「はい。ウォーベンやナタに関係した書物はこちらの棚に、他国のものは奥の棚にしまいました。受注票はこちらの箱に入れています」

 箱の中身を覗けば、仕分けされているだけでなく、受注日順にきれいに並べ替えられている。記憶喪失を抱えていた時にはウォーベンを焼いてしまうこともあったが、すっかり元気になった今は、本当にただただ有能な家庭用ロボットのようだ。

「野外の掃除を始めたいのですが、こちらの宝石はいかがしましょうか。見たところ、かなり乱雑に積まれているようです」

 イネファが指したのは、大小様々な宝石を積み上げている場所だった。宝石といってもきちんと研磨されたものではなく、産出したそのままの姿だ。炉の横に積み上げているそれらは、鍛造の時に使う炉の温度調節用で、すでに中身の燃素を使い切っている。

「あー、それ、要らないやつだ」
「こんなにキレイなのにいらないのー?」
「気に入ったのがあんなら持ってっていーよ。……そうだ。アイノは精密加工、興味ある?」

 イネファが掃除している間にアイノに聞かれていたことは、主にナタの鍛造技術についてだった。シロネンの本職ということもあり、その話は大いに弾んだ。
 金属の扱いについての話の中でちらりと話していたそれに、アイノはきらきらと目を輝かせた。

「あるある!」
「っし。じゃー、お土産にもなるだろうし、アクセサリーでも作ってみる? そこにある宝石から好きなのをいくつか持っておいで」
「いいの? やったー!」
「イネファも選んでいーよ、あんたの分はウチが作るから」

 嬉々とした足取りで、アイノは宝石の山に手をかけた。登って上のほうの石を取ろうとするのを見て、慌ててイネファが駆け寄って支えた。

「えーっと、アイノのはこれ! ラウマにはこの薄緑のがいいかな。ネフェルねーちんにはこのくっきりした緑色のにしよー!」
「この紫の宝石は奥のほうにキラキラとした結晶が見えます。フリンズさんが好むかもしれません」

 研磨作業は先にやるから、と、二人が選んできた宝石を磨く。ナタの陽光を吸い込んだように輝く宝石は、美しさには燃素の有無など関係ないのだと物語っていた。
 シロネンが普段扱っている中で一番加工難易度の低い金属を手に、二人を炉の前へと呼ぶ。

「大きいのが簡単だから、今日はブローチにしよっか。見てて」

 熱した金属を叩いて伸ばし、ブローチの台座を作る。炉の温度で汗がにじむ中、カンカンと小気味よくハンマーの音を鳴らす。おおよその形を作った後、専用の道具で形を整えていく。今回は……そうだ、せっかくだからナタらしいものにしてあげよう。
 テペトル仔竜をモチーフにしたデザインにし、おなかに宝石を抱えるように石受け用の爪を設ける。イネファの髪と同じ色をした薄水色の宝石をかちりと嵌め込めば、ブローチの完成だ。

「わぁ……! かっわいー! ねぇ、これって外にいた竜だよね?」
「そうだよ。テペトル竜の子ども。上手くできたっしょ」
「アイノもやる! チャスカねーちんと散歩したとき、可愛い生き物をいーっぱい見たんだ!」

 金属を熱するところまではやってやり、道具の使い方を教えてあとは見守る。流石に初めてのことはいくら天才少女でも難しいようで、思い通りにいかないと苦戦していた。
 しかし二個、三個と作るうちにコツを掴んだようで、お土産の分すべてを作り終えるころには、見習い職人にしては上手い、というレベルのものにまで成長していた。

「えっとね、これがクク仔竜で、こっちがカピバラ! これはフライングモモンガ!」
「いーじゃん、すっごく可愛い」

 いくらかぼてっとしたフォルムのそれらは、アイノらしい可愛さが存分に出ている作品となった。一通り作り終えたころ、イネファも掃除を終えて戻ってきた。

「シロネンさん、掃除が完了しました」
「助かったよイネファ、ありがとう。そだ、お礼は何がいい? 流石にただ働きさせたんじゃ、ウチの気が済まないよ」
「そうですね……では、あの宝石をもっと貰えますか? そのままで構いませんので」

 指さした先には、先ほどアイノたちにあげた宝石の残りがあった。

「いーけど、研磨はしなくていいの?」
「はい。その代わり、たくさんいただけるとありがたいです。いい餌になると思います。これがあれば、逃げないかもしれません」
……ナド・クライって、石を食べる生き物でもいんの?」

 まぁそのままにしててもゴミになるし、欲しいんならあげるよと、シロネンは残っていたすべての使用済み宝石を木箱に放り、カチャカチャ・クルムカケ工房に宛てて送ることにした。