シノハラ
2025-11-05 00:17:44
76995文字
Public 無風
 

无风短編まとめ

全部全年齢です


お題「待ち合わせをしている无风」

 風息はいくらか早めに待ち合わせ場所に向かう性分だ。
 それは相手のルーズさには依存しないらしく、いつも時間ぎりぎりか下手したら大幅な遅刻をする無限であっても変わらない。

 初めこそ風息は遅れる無限に腹を立てていたが、毎度苛立つのも意味がないと悟ったらしい。
 風息は待つことを止めて、最近はいつも誰かと通話をしているようだった。
 その相手はいつも同じという訳ではないようなのは、彼の口調から何とはなしに分かる。

 待ち合わせ場所の近くにあったベンチに座っている彼は随分話が盛り上がっているらしかった。
 周囲を気にしてか大きな声で笑うような事はないが、表情を綻ばせているのが遠目でも分かる。

 いつもなら気がつく距離までやってきても風息が視線を上げないので、無限はぴたりと足を止めた。
 なんだか随分楽しそうに話しているので、わざわざ割って入って水を差すのも悪い気がしたのだ。
 いつも無限が待たせているのだから、たまには自分が待っても何ら問題ない。

 数分話し込んだ所で、風息が無限に気づいたようだった。
 ぽつねんと立っている無限に少し目を丸くして、それから少し苦笑したらしい。
 通話を続けながら風息が手招きをしてくるので、無限は呼ばれるままに風息の横に腰を下ろす。
 風息はまだ通話を打ち切るつもりはないようだ。

 雑踏から離れた場所から人の流れをぼんやりと眺めながら、無限に向ける時よりもいくらかやんちゃに響く声に耳を傾ける。
 受話器の向こうの声までは分からないが、もしかしたら古なじみが相手なのかもしれない。
 珍しい調子が何だか心地よくて、しばらく話し込んでくれてもいいな、なんて考える。

 ふくふくと太った鳩が無限の足元をふらついて、何ももらえないと察したのかすぐに離れて行ってしまった。
 つくつくとあちこちを突いているが、何か口に入れられているのだろうか。
 そんな事を考えていると、ベンチに付けていた手に温かな感触が覆い被さってきた。

 何事かと思って手を見ると、見慣れたひとの手が無限の手を捕らえている。
 視線は今まで通りどこを見る様子もないけれど、意識はいくらかこちらに向けてくれているらしい。

 にぎにぎと指先が動いて、風息が指を無限の指の股の間に潜り込ませようとする。
 随分可愛らしい事をしてくれるものだと彼を窺うと、風息がこちらに視線を寄せた。
 その瞳は気分に引っ張られているのか、悪戯めいた光を宿している。

 スマートフォンを掴んでいる手の人差し指を口元に伸ばして、風息が静かにしているようにと無言で無限に言いつけてくる。
 そんな事を言われなくても無限が風息の邪魔をしたことはないが、指先で悪戯をしているが故なのかもしれない。
 どうやら風息は恋人の手で遊びながら、そんなこととは露知らぬ相手と話し込みたいらしい。

 居心地のいい場所を探しているのかそろそろと動く指先がくすぐったい。
 この手の平に反撃したくなる気持ちが疼くのを抑えながら、無限は風息が満足するのを待つことにした。