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溶けかけ。
2025-04-12 15:55:13
27453文字
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花雨
なみセレ開催おめでとうございます!
エピローグまで更新終わりました。
みなさま、ご精読ありがとうございました!
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誠実には程遠い(菫)
「また、やったのかい?」
呆れたような顔でフリーナがため息をついた。ヌヴィレットのコートには大量の血痕が付着している。
「この者たちが私を襲ってきたのだから正当防衛だろう」
「どこの世界に護身で相手を再起不能にする奴がいるんだい? キミのそれは過剰防衛だろう」
フリーナはヒールの音を鳴らしながら辺りで倒れ伏している者たちに近づく。胸や背中が小さく上下しているのが見て取れた。
ヌヴィレットを襲った刺客に息があることに安堵しつつ、やって来た警察隊員たちに彼らを引き渡す。
「ほら、帰るよ」
フリーナがヌヴィレットに手を差し出した。ヌヴィレットは僅かに逡巡したあと、その手におそるおそる自身の手を重ねる。
「うん。力加減を覚えたようでなによりだ」
フリーナは満足そうに頷くとヌヴィレットの手を引いて歩き出す。青い小さな背中はこう見えて頼りになることを理解し始めていた。
「今日もお疲れ様」
フリーナがグラスを掲げる。ヌヴィレットも見様見真似でグラスを掲げると小さく傾けた。
「今日は白のスパークリングワインか」
ヌヴィレットのグラスの中身は当然、水だ。だが、フリーナは違う。日によって、赤ワインであったり、白ワインであったり
……
時にはグラスですらないときすらある。
「そうさ。それもとっておきのね」
フリーナが弾んだ声で答えた。その様子にヌヴィレットは眉を顰める。机の上に置かれたワインはメーカーこそ由緒正しい企業のものだが、彼女が「とっておき」と表現するほどの価値があるようには思えなかった。
「『とっておき』なのはワインじゃないからね」
ヌヴィレットの不躾な視線の意味を理解したフリーナが返した。彼女は小さな缶を取り出すと蓋を開けて中に入っていたものを三個入れる。泡の弾ける水面に大きな波紋が立ち、グラスの中の液体が青みを帯びた。同時に爽やかな甘さを含んだ香りがヌヴィレットの鼻腔を擽る。その香りはワインの青が深まると共に強くなっていっているようだった。
「
……
それは何なのだ、フリーナ殿」
純粋な疑問が口をついて出た。ヌヴィレットの疑問にフリーナが目をきらりと光らせた。どうやら、罠だったらしい。
「これは菫の砂糖漬けさ。菫の咲く、春先にしか出回らない貴重な物なんだよ」
フリーナが砂糖漬けの菫を口に運ぶ。サクサクと雪を踏むかのような音が聞こえてきた。
「たまのご褒美ってやつさ。キミも一つどうだい?」
フリーナが蓋を開けた缶をヌヴィレットのへと差し出す。
「いや、止めておこう。水に何かを混ぜるのは好まない」
ヌヴィレットが断れば、フリーナは特に残念そうな様子も見せずに缶をしまった。
「そうかい。勿体ないね。こんなに美味しいのに」
くすくすと笑い声を上げながら、フリーナが立ち上がる。彼女はヌヴィレットのすぐ隣に腰を下ろすと彼の頭を抱き寄せた。
「謙虚で誠実なキミにはご褒美をあげなくてはね」
フリーナはワインを口に含むとヌヴィレットと唇を重ね合わせた。甘い香りと酒精が口内を満たす。
「
……
っ、離せ!」
ヌヴィレットがフリーナの肩を掴んで引き離す。互いの口からこぼれ落ちた薄青の液体がソファに染みを作った。
「フリーナ殿。戯れも程々に
……
!」
ヌヴィレットの抗議の声よりも早く、ゆらり、とフリーナの頭が揺れた。彼女はヌヴィレットに凭れ掛かるようにして彼の腕の中へと倒れ込む。
「フリーナ
……
?」
名前を呼ぶも返事はなく、代わりに小さな寝息が返ってきた。ヌヴィレットは安堵の息を吐き出すとフリーナをゆっくりと横たえた。
「手間のかかる神だ」
フリーナの手からグラスを取り上げ、机の上にのせる。そして少しだけ表情を緩めた。
「そのようなこともあったな
……
」
ヌヴィレットは愛用のグラスにワインを注ぐと菫の砂糖漬けを入れながら独り言ちた。数は記憶の中のフリーナと同じ、三個。少し待てば、ワインはゆっくりと青色へとその色を変えていく。ある程度変わったところで口に含めば、新緑と甘い花の香りが口内に広がっていく。
やはり、アルコールも菫も好きにはなれない。
菫の花言葉 「誠実」 「謙虚」
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