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溶けかけ。
2025-04-12 15:55:13
27453文字
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花雨
なみセレ開催おめでとうございます!
エピローグまで更新終わりました。
みなさま、ご精読ありがとうございました!
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全ては日の下へ(デイジー)
さて、何にしようか。
可愛らしい色とりどりの花が並べられたフラワーショップの前。その愛らしい雰囲気に似合わない深く暗い、夜の海の色と銀波のような色彩を纏った男性が一人、顎に手をかけて考え込んでいた。
最高審判官であるヌヴィレットは目立つ。とにかく目立つのだ。彼の様相だけでなく、その立場も人々の注目を集める一因となっている。
「
……
」
「
……
店主」
「は、はいっ!」
一時間ぶりに声を発したヌヴィレットに周囲で固唾をのんで見守っていた人々がざわめき出す。いったい、最高審判官様は何を買うのか、と。
「
……
これを」
ヌヴィレットが長い時間をかけて選んだのは希望や平和の花言葉を持つデイジーであった。
「畏まりました」
形も色も様々なデイジーが可愛らしい包装紙に包まれ、青いリボンで留められる。
「またのご来店をお待ちしております」
花を手渡した店主がモラを受け取り頭を下げる。デイジーの花を見た野次馬たちは興味を失ったようで、店を出たときには人垣は消えていた。
ヌヴィレットは花を抱えて悠々と歩き出す。幾分、歩きやすくなったせいか、石畳を踏む足音は軽やかであった。
ヌヴィレットがたどり着いたのはアパルトマンのとある一室。ドアをノックすれば「はーい」という軽やかな返事とともに、同じように軽やかな足音が近づいてくる。
「はい、はい、どちらさま
……
って、ヌヴィレット!?」
「ごきげんよう、フリーナ殿。すまないが、家に入れてくれないだろうか?」
「それは構わないけど
……
」
フリーナがヌヴィレットを招き入れる。ドアが閉まったのを確認するとヌヴィレットは矢継ぎ早に花を手渡した。
「ヌヴィレット、これって
……
」
困惑の色を宿した瞳がヌヴィレットと花の間を行き来する。ヌヴィレットは彼女の質問には答えずに、静かに言葉を紡ぐ。
「黄色いチューリップの花言葉は『望みのない恋』そして、本数にもそれぞれ意味がある」
ビクッ、とフリーナの肩が大きく跳ねた。予想通りの反応にヌヴィレットの口角が持ち上がる。
「一本ならば『あなたは運命の人です』そして、三本ならば──」
「『私はあなたを愛しています』
……
なんだ、もう気づいちゃったんだ」
ヌヴィレットの言葉を遮るようにフリーナが言葉を返す。彼女は悪戯っ子の笑みでぺろりと舌を出した。
「──それで? キミは答え合わせに来たわけじゃないんだろう? こんな、御大層な小道具まで準備をしてさ」
じっとりとした視線がヌヴィレットに絡みつく。どこか試すような視線の奥には臆病な彼女の本音が透けて見える。
「『希望』『平和』
……
デイジーの花言葉で最も有名なものだ。だが、他にもある
……
それは」
「『あなたと同じ気持ち』とでも言うつもりかい?」
「
……
知っていたのか」
ヌヴィレットが息を呑む。フリーナの瞳が伏せられ、唇は自嘲するように微かに歪む。
「
……
同情のつもりかい? 一縷の望みを花に託すことしか出来ない僕への。だったら、余計な」
「違う!」
咎めるように飛んできた声にフリーナの瞳が揺らぐ。ヌヴィレットは、すまない、と謝罪の言葉を口にすると唇を噛み締めた。
「違う、違うのだ
……
フリーナ殿。どうか、私の話を聞いて欲しい」
ヌヴィレットの懇願にフリーナは小さく頷いた。そのことに僅かな安堵がヌヴィレットの胸に広がっていく。
「私はずっと君のことが好きだった」
「嘘だ」
「嘘ではない
……
。ただ、君からあの花を貰い、花言葉を知るまで自覚すらなかったのだ。愚かなことにな」
ふっ、と無意識に吐き出された呼気。きっと、今の私は見るに堪えない顔をしていることだろう。
市井に下りて数年。
彼女はその間、私に対してずっと好意を示してきたというのに。
「君のことが好きなのだ、フリーナ殿。──愛している。
……
君はどうだろうか?」
ヌヴィレットの優しい瞳がフリーナを射抜く。ひくっ、とフリーナの喉が震え、青い色違いの瞳から大粒の雫がほたほたと溢れた。
「遅いよ
……
僕、ずっと苦しくて
……
」
その言葉にヌヴィレットはフリーナを抱きしめる。フリーナの手から落ちたデイジーの花束が二人の足元に色とりどりの花をまき散らす。
「すまない
……
」
「ごめんで済むなら執律庭は要らないん゙だよ゙っ゙」
「ああ、そうだな
……
」
掠れた声でそう言って、フリーナがヌヴィレットを抱きしめ返した。
「ごめん
……
取り乱して
……
」
フリーナがベッドの上で枕を抱きながら、鼻を啜る。その頰が薄っすらと赤く染まってることから、どうやら淑女らしからぬ自身の行いを恥じているらしい。
「いや
……
構わない。むしろ、君のそのような姿が見られて嬉しく思う」
ヌヴィレットが微笑めば、フリーナがバツが悪そうに瞳を逸らした。ヌヴィレットの窃笑がフリーナの耳に届く。
「ところでフリーナ殿」
ヌヴィレットが真面目な顔で顎に手を寄せる。
「私はまだ、君からの返事を聞いていないのだが?」
「うぇえ!? ぼ、僕から言うのかい
……
? というか、キミ、僕の答えなんて分かりきっているだろう!?」
「すまない、フリーナ殿。この身は龍
……
故に人の心の機微に疎いのだ」
「何でも知らない、って言えば許されると思うなよ!?」
フリーナは大声を上げたあと、頭をガシガシと乱暴にかいた。丁寧に巻かれた銀糸が解れる。
「ああ、もう! 一回しか言わないからな! 良く聞けよ! ────」
フリーナが言葉を紡ぐ。ヌヴィレットは矢も盾もたまらず、彼女に飛びついた。
デイジー(雛菊)の花言葉 「平和」「希望」「あなたと同じ気持ち」
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