溶けかけ。
2025-04-12 15:55:13
27453文字
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花雨

なみセレ開催おめでとうございます!
エピローグまで更新終わりました。
みなさま、ご精読ありがとうございました!

プロローグ 春の訪れ

 
 暖かな風が頰を撫で、色褪せた葉を攫っていく。
 灰色だった空や廷内は今ではすっかり春の華やかな花々に彩られ、香りや色彩を人々に振りまいている。
 春が来た──すれ違う人々は誰も彼も明るい顔をして、街全体もどこかそわそわとした空気に包まれている。それは、ヌヴィレットとて、例外ではない。普段は見向きもしない花を買ってしまったのも偏に春の陽気のせいだ、と心の中で言い訳をする。
 腕の中の花たちが風に揺られて抗議の声を上げる。僕たちのせいにするな、そう、言われている気がした。
 花を抱え直し、ヌヴィレットはゆっくりと歩き出す。歩幅も心持ちもさほど変化はないはずなのに、少しだけいつもより早歩きになってしまうのは仕方のないことだ。
「ヌヴィレット」
 声を掛けられて、振り返る。そこにいたのは二人の友人。
 旅人とパイモンであった。
「君たちか。久しいな」
「久しぶり。元気にしてた?」
 挨拶を皮切りに軽快な言葉のキャッチボールが続く。やがて、話すことがなくなり始めたあたりで、旅人が腕の中の花束に視線を向けた。
「ごめん。何か用事があった?」
「いや、大したことではない。ただ、少し、春の裾分にと思ってな」
 ヌヴィレットの瞳が春の日差しのように柔らかく暖かなものに変わる。彼が手ずから分け与える者の心当たりなど二つしかない。
「そっか。フリーナによろしくね」

 二人と別れ、ヌヴィレットは再び歩き出す。そして見えてきた青にふわりと笑みをこぼした。
 ああ、春が始まる。