溶けかけ。
2025-04-12 15:55:13
27453文字
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花雨

なみセレ開催おめでとうございます!
エピローグまで更新終わりました。
みなさま、ご精読ありがとうございました!


冬の終わり(アーモンド)


「フリーナ殿。これはいったい……?」
 春の穏やかな日差しの下、青々とした緑の上に敷かれた深いレジャーシート(ブルーシートでは非ず)の上に所狭しと並べられているのは二人で食すには多すぎるのではないかと思うほどのお菓子たち。
 どれもこれもが甘い香りを漂わせ、香りに誘われて冬眠から目覚めたばかりの食いしん坊たちがあちらこちらで鼻をひくつかせている。
「何って、スイーツさ。お花見には必要なものだろう?」
 時計の時刻は午後三時。なるほど、確かに間違ってはいないのだろう。それが花見とイコールの関係で繋がるのかと言えば別の話だが。
「さあ、どうぞ」
 フリーナが皿に菓子を取り分けて、ヌヴィレットに手渡す。フロランタンに彩り鮮やかなマカロン、ダックワーズにフィナンシェまで。ありとあらゆる焼き菓子が白い皿の上を彩っていた。見る分には夢のような光景だが、食べる側としてはたまったものではない。
 皿の上の菓子にげんなりとしながらヌヴィレットは手を伸ばす。左手のグラスを持つ手には無意識に力が入っていた。

「些か、多すぎるのではないかね?」
 ヌヴィレットはフロランタンを噛み砕きながら問いかけた。よくキャラメリゼされたアーモンドスライスの香ばしい香りが口いっぱいに広がっていく。味は……きっと、美味しいのだろう。私にとっては口内の水分を奪う天敵でしかないが。
「ふふんっ。もうすぐ特別なゲストが到着するからね」
 ヌヴィレットの質問にフリーナが可愛らしく胸を張った。丁度同じ頃、遠くから「おーい!」という元気のいい複数の声が聞こえてきた。
……噂をすれば、というやつだ!」
 桃色の花吹雪の中、カラフルな色合いの人々が手を振っていた。
「お花見は皆でやるんだってさ。旅人とパイモンが教えてくれたんだ」
 手を振り返しながらフリーナが微笑みかけた。バスケットの中には、まだ手を付けていないガレット・デ・ロワがあった。
「なるほど。この催しにはぴったりの品ということか」
「そういうこと!」
 ヌヴィレットはもう一度、並べられた菓子に視線を向ける。フロランタン、マカロン、ダックワーズ、フィナンシェ──そして、ガレット・デ・ロワ。
 どの菓子にも惜しげもなくアーモンドが使われている。
 そして、青空に咲き誇る花もアーモンド。
 どうやら、菓子たちでさえ、長い冬の終わりを祝う宴を主催した彼女の演出のひとつであったらしい。
 ヌヴィレットはそっとバスケットの中を覗き込む。表面に刻まれたレイエは生命力を意味する太陽の形をしていた。
「さあ、リハーサルはおしまい! これからが本当の舞台の始まりさ!」
 パンッとフリーナがクラッパーボードの代わりに手を鳴らす。ヌヴィレットも釣られて、背筋を伸ばした。
 甘い香りが春風に舞う。新たな季節がすぐそこまで迫ってきていた。

 アーモンドの花言葉 「希望」