2024-09-14 15:03:20
99456文字
Public セフィクラ
 

【SC】(R18)非情なる夜明け revised edition

セフィクラ
高級男娼クと、英雄セのはなし(椿姫パロ)

二次創作を開始する前、習作として作文した椿姫パロの改訂版です。
原作では死別オチですが、ハッピーエンド。

◆24年11月に開催されるオンラインイベントに合わせて、オフ本を少部数発行予定です。
BOOTH頒布ページ: https://120520aqua.booth.pm/items/6108399

pixiv版: https://www.pixiv.net/novel/series/12355229

はげましのおたより💌 https://forms.gle/ovNkYwMhkS9WhdMg8



 エアリスの家は本当にクラウドの住むマンションの真隣にあった。日々花を届けていた頃、近所にある店で彼女から花を買っていたのだから、住んでいる場所が近いことは何もおかしいことではなかったが、なんとも運命的な偶然に感じられた。三人でエアリスのマンションへ入るとき、隣の建物にクラウドのチョコボ車はまだ着いていないようだった。
 家まで無事送り届ける『ボディガード』としての仕事を終えると、エアリスはお礼にお茶でも飲んで行けと二人を部屋の中まで招いてくれた。セフィロスは当然、この提案も微笑んで受け入れた。彼女と、その隣にいる落ち着きのない同僚のことはどうでもいい。ここまで大人しくやってきた目的は、クラウドただ一人だった。
はもう帰っているのか?」
 ジャムとクッキーと共に出された紅茶に優雅な動作で口をつけながら、セフィロスは訪ねた。
「クラウド? どうかな。多分、そろそろだと思うけど。今日は例のお爺さんが迎えに来るって言ってたから、寄り道しないで帰るんじゃない」
 時計を見ながら、もう二十一時を回っているので、老人はそう長居せずに帰るだろうとも付け加えた。ダイニングテーブルにつき、長い脚を窮屈そうに机の下へ収めゆっくり紅茶を飲むセフィロスを、ザックスは不思議そうに見ていた。セフィロスが自ら神羅の外の人間と会いたがったり、こうして他人の家でもてなしを受けているというのは、おかしいことをしているという自覚はあった。ザックスはしばらくセフィロスの様子を注意深く見てはいたものの、やがて考えることが億劫になったのか、エアリスとのお喋りに集中しはじめた。
 二人の間で交わされる他愛もない会話に口を挟まず、セフィロスはただ静かに時間が過ぎるのを待った。ザックスはおそらく今夜彼女と二人きりになれるのを期待していたのだろうが、それを邪魔する形になってしまっていたため、せめてもの気遣いだと思い気配を殺す。
 そうしてどこか地に足のつかないお茶会を楽しんでいると、セフィロスの耳へコツコツと何かを叩く音が聞こえてきた。視線を音のしたほうへ向けると、同じく強化された身体を持つザックスも気づいていたようで、同時に顔を上げたため目が合った。エアリスも会話を止めて辺りを見渡していると、静かになった室内へ、再びコツコツと音が鳴った。今度はエアリスにもしっかり聞き取れたようで、彼女は「あ」と小さく声を上げた。
「クラウドが呼んでるみたい」
 言うなり立ち上がって、エアリスは部屋の奥へ行ってしまった。残された耳聡い二人は、部屋を分ける扉の向こうでぼそぼそと交わされている会話からどうにか意識を逸らそうとして、逆に黙り込んでしまった。セフィロスはそわそわとティーカップを持ち上げたり置いたりを繰り返しているザックスを見て、その落ち着きのなさが段々おもしろくなってきた。やはり、この男がじっと座って芝居を観るだなんてできるはずがない。顔を合わせてからずっと、セフィロスの様子が普段と違うことに勘付いてはいるものの、何があったのかを聞くべきかどうかを決めかねているのだろうと思った。
 屈強な軍人二人がテーブルへ座り、紅茶をすする音だけが虚しく響いている。ザックスの配慮と我慢が限界を迎えそうになった頃、エアリスが戻ってきた。
「困ったお客さんがいて疲れてるから、二人を連れてきて追い出すのを手伝って欲しいって言うんだけど……いい?」
 少し呆れたような顔をしてそう言うと、エアリスはさっき脱いだばかりのコートを手に取って、慌ただしく外出の支度をし始めた。こういう要請は珍しくないのか、突然呼び出されたことへの苛立ちは感じられない。
「今から二人を連れて行くのは、クラウドがお客さんを早く帰すのを手伝うため、だからね。その人より大人しくして、いい子にできる?」
「できるできる。任せてよ」
 大人しくいい子に、の部分を特にザックスへ言い含めるよう強調して言うが、当人はまるで気にしていないようで、にっこり笑顔を作ったザックスも早々にテーブルを立った。セフィロスも紅茶の礼を言い席を立ち、ほら行くよ、と促すエアリスに続いて部屋を出た。

 何度も来たことのあるクラウドのマンションのエントランスへ初めて入ると、どうにも現実感が薄いような気がした。歩いている床がふわふわと揺れて、いまいち足元がしっかりしていない。セフィロスはほとんど酒に酔うことはないが、酩酊しているような感覚だった。気分が高揚しているせいだとわかっていても、あまりにも物事が調子良く進んでいくため、むしろ気後れするくらいだった。
 彼と再会したとき、一体何と言えばいいのかを考えた。ちらりと脳裏に無言のセフィロスを嘲笑するクラウドの顔が浮かび、すぐに消えた。
 慣れた手つきで暗証番号を入力しオートロックの扉を解錠すると、エアリスはエレベーターを呼び出し、目的の部屋まで迷わずどんどん歩いていく。クラウドの住まいは小規模なマンションで、彼の住む四階が最上階だった。隣り合った建物の、同じ階の角部屋同士だからこそ、あんなに気軽にエアリスを呼び出せるのだろう。
 ドアホンを鳴らし玄関の扉が開かれると、そこにいたのは見知らぬ少女だった。緊張のため鼓動を早くしていた心臓に不快感を抱いていたセフィロスは、待ち構えていた対面の瞬間が伸びたことへ拍子抜けした。
「中でお待ちです」
 少女は白のブラウスに紺色のスカートを穿いて、濃い栗色の髪を一つにまとめ、あどけない背格好はまだ十歳前後に見えた。エアリスは少女に二、三の挨拶を伝え、更に廊下を進んでいく。ザックスは大きな手で少女の頭を撫でたが、つんと澄ました顔で腕を振りほどかれてしまった。どうやら、住み込みでクラウドの世話でもする小間使いのようなものらしかった。
 廊下の奥にはリビング・ダイニングがあり、四人がけのテーブルへ暗い顔をした若い紳士が一人で座っていた。この男が、さっきエアリスが言っていた『困ったお客さん』のようだった。老人の気配は感じられないため、クラウドを送ったあと、入れ違いでこの紳士が訪ねてきたのだろうか。
 リビング側に置かれた見事な装飾が施されたソファで、クラウドは片膝を立てて背もたれに身体を斜めに預け、冷たい表情で雑誌をめくっていた。外から帰ってきたまま着替えもせずにいたようで、劇場では外套に覆われて見ることができなかった彼の衣装に、セフィロスは小さくない衝撃を受けた。
 深い青のフィッシュテールドレスに、黒いシフォン生地のボレロを肩にかけ、膝を立てているため太ももまで大胆に見えている脚は黒のガーターストッキングを履いている。透けている足の指先は真っ赤に染められて、整った顔は化粧が施されており、ベビーピンクに塗られた形の良い薄い唇はつやつやと濡れたように輝いていた。どんなウィッグをつけているのか、特徴的な跳ね上がるトップの金の髪と連なるように、同じ色の長い毛がくるくると巻かれて耳の後ろから胸元へ垂れている。
「クラウド、こんばんは」
 少しの動揺もなくエアリスがそう声をかけた。ザックスと共にクラウドの格好を当たり前のように受け入れているのを見るに、クラウドが女の格好をするのは特別なことではないらしい。男娼という職業は、セフィロスが想像していたよりも奥深いのかも知れない。
 エアリスの挨拶を聞いて、クラウドは手元から視線を上げ、待ち侘びていたように雑誌を閉じて立ち上がった。
「ああ、いらっしゃい」
 友人を歓迎するその嬉しそうな声色と表情を見て、彼がこんな顔や声も持っているのだという新しい発見に、セフィロスはまた気分が良くなるのを感じた。

「ザックス。席に呼んだのに来なかったじゃないか」
 劇場で何度も合図を送っていたのに訪ねなかったことを咎めて、一歩前へ踏み出しながらクラウドは言った。空気が動いて、ふわりと濃密な香りがセフィロスの鼻腔を撫でる。クラウドから受け取ったカードに残されていた香りと同じだったが、本人から香っているためか、一層うっとりするような芳香に感じられた。
「いやあ、あのあとすぐ帰ろうって話になってさ。ごめん、ごめん」
 頭をかきながら、ザックスは軽い謝罪を繰り返した。
「友達なんだから、ちょっと顔見せるくらいしてくれたっていいのに」
 唇を突き出し拗ねた口調でそう言うクラウドは、とても新鮮に映った。様々な表情を見せながら確かにそこで生きていることに感動を覚え、セフィロスは立ち尽くして彼の全てを観察しようとした。
「ほんと悪かったよ。なあ、セフィロスのこと紹介していい?」
……うん、いいよ」
 ブルーの瞳が、背の高いセフィロスを真っ直ぐ見上げる。神秘を閉じ込めたようなその瞳は、マスカラで束が作られたまつ毛に飾られていた。身長は百七十センチを超えるくらいだろうか。二メートル近いセフィロスが側に立つと、かなり見下ろす格好になる。開いたドレスの胸元に浮かんだ鎖骨のラインが美しく、幼く見える顔との対比が艶かしい。男を感じる身体の部位を巧みに隠すデザインのドレスを着ているため、中性的な顔貌も手伝って、こうして見ていると背が高く骨格の良い女だと言われたら信じかけてしまいそうだった。
「初めましてと言いたいところだが」
 セフィロスは、過去の自身の振る舞いを思い出しながら言った。
「実は、既に会ったことがある」
 少しだけ首を傾けて、クラウドは記憶を辿っている。美しい眉をきゅっと寄せて現れた眉間の小さな皺さえ、丁寧に作り込まれたその顔を彩るスパイスのようだった。
「ああ、思い出してきた……ジェネシスさんとご一緒でしたね」
 忘れていてくれても良かったが、挨拶へ行ったにも関わらず何も言わず立ち去る者は余程記憶に残ったのか、クラウドは罰の悪そうな照れ笑いを浮かべた。形の良い白い歯が、まっすぐ綺麗に揃っているのが見えた。
「あのときは、あなたをちょっとからかってみようと思っただけで。馬鹿なことをしました。すみません」
 控えめな笑顔を向けながら、右手を差し出してくる。その指先の爪は、透ける淡い紫色に染められていた。手を取って握手をすると、クラウドの手のひらはしっとりと熱いのに、指はかじかむほど冷たかった。
「俺、魔晄の耐性が低いせいで、しょっちゅう熱を出したり、たまに癇癪を起こしたり――神経の発作がどうとかで……意地の悪いことをしてしまうんです。許して下さいますか?」
 上目遣いをして許しを請うその姿は、華々しい外見とはかけ離れた幼い子どものようだった。クラウドの後ろめたそうな謝罪を聞いて、セフィロスはいよいよクラウドという男を気に入ってしまった。この男は、自身の容姿の価値を他の誰よりも知り尽くしていて、自分の表情がどういう作用を相手に与えるかを全て理解し効果的に実行へ移している。もちろんそれは彼の稼業による影響が大きいのだろうが、ほんの数年で完璧に身につくものではないだろう。生まれ持った魔性とも呼べる性質に、セフィロスは身体の奥に小さな炎が宿ったことを感じ取った。この男の全てを自分のものにしたいという欲求が、強い衝動となって心を揺らす。
「今は元気そうに見えるが」
「しばらく湯治に行っていたんです」
「それは、知っている」
 彼が寝込んでいるということを聞き、密かに花を贈り続けたことを思い、セフィロスは自然と頬を緩ませた。あの日々も無駄ではなかった。心底欲しいと思える対象を見つけることができて、これまでに感じたことのない喜びで満ちている。長く人生に欠けていたピースを見つけたような安堵に、ようやく『完璧』になれる予兆を見出し胸が踊る。
 セフィロスの作り物ではない笑顔を見て、クラウドはぱっと顔を赤らめて焦ったように視線を逸らした。
「どこでお聞きになったんですか、そんなこと」
「とにかく知っていたんだ、クラウド。毎日見舞っていた」
「あの花を毎日届けて下さったのは、あなたですか!」
「セフィロスと呼べ。もう知り合いになったのだから」
 こんなに穏やかな話し方ができるとは思ってもいなかった。クラウドから発せられている生命のエネルギーが、まるで自分のものと呼応し増幅するように、全身の細胞に染み渡っていく。この男といれば全てが上手くいくと、根拠もなく確信できてしまう。少し話をしただけで気分が高まり、精神の感動が身体へ伝わり心臓が高鳴るのを感じた。名前で呼んでくれという要求に、クラウドはまた顔を赤くしたが、微笑でそれに応じた。

――セフィロスさんは、強くてかっこいいだけでなく、とても心が広くてお優しいんですね。……あんたは俺の具合を知ったって、そんなことしてくれないもんな?」
 突如部屋へ割り込んできた三人の客、特にセフィロスの存在に萎縮しきっていたらしいダイニングの紳士は、急に振り返り声をかけたクラウドの冷ややかな問いかけに顔を引き攣らせた。
「僕は、君との付き合いはまだ二ヶ月ほどだからね」
 意地の悪いクラウドの刺すような視線に虚勢を張って見せるが、若い紳士のどこにもセフィロスに勝る点などあるはずもなく、その声は畏敬に震えていた。
「俺がセフィロスさんと知り合ってから、まだ五分も経ってない。あんたってほんと、間の抜けたことばかり言うんだな」
 鼻を鳴らしてばさりと切り捨てる態度は、かつて初対面のセフィロスに見せたものの何倍も痛烈だった。あのときセフィロスはすぐに場を離れて対峙を避けたが、その判断は間違っていなかった。あのままやりあっていれば、きっとクラウドと知り合いになるどころか、二度と会えずに関係は切れてしまっただろう。
「さて……僕はそろそろ帰らねばならない時間だ」
 額に滲んだ汗をハンカチで拭いながら、紳士はクラウドへ言った。不機嫌そうにしているクラウドの返事はない。迷ったあと紳士はクラウドへ近寄って行き、改めて別れの挨拶を告げた。
「もう帰るのか」
「君をこれ以上退屈させてしまっては悪いからね」
「今日はいつもより退屈しないで済んだ。……次はいつ?」
「いつでも。君の都合のいいときに」
「そう。さよなら」
 氷のような冷淡な仕打ちに、三人は肩を落として部屋を出ていく紳士への同情を禁じ得なかった。どうやらクラウドという男は、一筋縄ではいきそうにない。しかしセフィロスは、そんな彼の言動を愉快に感じてしまう自分を止めることができなかった。

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