2024-09-14 15:03:20
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Public セフィクラ
 

【SC】(R18)非情なる夜明け revised edition

セフィクラ
高級男娼クと、英雄セのはなし(椿姫パロ)

二次創作を開始する前、習作として作文した椿姫パロの改訂版です。
原作では死別オチですが、ハッピーエンド。

◆24年11月に開催されるオンラインイベントに合わせて、オフ本を少部数発行予定です。
BOOTH頒布ページ: https://120520aqua.booth.pm/items/6108399

pixiv版: https://www.pixiv.net/novel/series/12355229

はげましのおたより💌 https://forms.gle/ovNkYwMhkS9WhdMg8



「おかえり」
 水色のエプロン姿で玄関に立つクラウドは、今日も時間通りに無事で帰ってきたセフィロスを笑顔で迎え入れた。家へ来いと言われてから数日後、スーツケース一つに収まるだけの少しの荷物を持って、本当にセフィロスの家に滞在していた。マリンへは当面の現金を渡して、エアリスに頼りながら留守を預かるように伝え、旦那連中へは療養で遠くへ行くと言ってある。そうして、クラウドを取り囲んでいたあらゆる人物との連絡を絶った。
 セフィロスの家へ来てから二日後には、神羅の研究施設へ呼ばれた。見たこともない綺麗な建物の中で最新機器での検査と診察を受け、魔晄で病んだ肺に効くという薬を受け取ってきた。あくまで試験段階の薬だと言っていたが、ここへ来る以前と比べてずっと体調が良い。たった数種類の錠剤を毎日服用するだけで、日に日に色艶を良くしていく自身の顔を見てかなり驚いた。
 男娼稼業は厳しい世界だ。若さと容姿という、生きていれば必ず失っていくものに対して、客たちは容赦なく値踏みの視線を向ける。クラウドは自身の容姿が金になることは嫌と言うほどわかっていたが、それでも美しさを保つことに手を抜いたことはなかった。ただでさえ入っていくものより出ていくものの多い仕事だから、膨れ上がった借金を少しでも大人しくさせておくために、の手入れを欠かしたことはない。高価な化粧品を買い、入浴後のボディケアをさぼったこともなかったし、見苦しい体型にならないよう筋力トレーニングだって続けていた。自分を磨くことを怠ってはいなかったはずだが、いざ魔晄への耐性を薬で補強できるようになると、ここまで顔色が良くなるのかと不思議だった。一番効果があるのは、セフィロスとの生活で得た安寧かも知れないけれど。
「今日もどこへも行かなかったのか」
 この家へ来て以来、クラウドはどこにも行きたがらなかった。今までは、コルネオの息のかかった部屋で、気に入らない旦那候補たちがいつ訪ねて来るかもわからない中塞いでいるのが嫌になって、あちこちへ奔放に出歩いていた。特に夜が近づくと、段々胸が苦しくなり、つい熱があっても人のいる場所へ出ていきたくなった。戯れに興奮剤と酒で馬鹿になって、普段なら絶対に受けない誘いに乗ったりして、随分無茶をして生きてきた。
 そうやって身を削って、自身の持っている小さな命を切り崩しながら日々を過ごしていたクラウドが、今はセフィロスの家でじっとしているだけなのを、セフィロスは少し気にしているようだった。出かけていないのかと問われても、クラウドはいつも首を振る。慣れない広い家の家事をしたり、彼の書斎にある様々な本を開いてみたり、時々テレビをつけてニュースを見るくらい。クラウドと外の世界の繋がりは、今やセフィロスしかなかった。
 あれだけ頻繁に通っていた劇場からもすっかり足が遠のいているので、気を遣ったセフィロスは、体調が落ち着いているのならそろそろどこかへ出かけようかと聞いてくる。
「ううん。調子がいいから、じっとしていても嫌なこと考えなくなったんだ」
 そう言ってダイニングの前で立ち止まり、振り返ってセフィロスの厚い胸へ顔を寄せると、すぐに二本の腕が背中へ回り、しっかりと抱きしめてくれる。発熱が治まっているおかげで、この胸の暖かさをよりはっきりと感じられるようになった。具合の悪さや発作を忘れ、静かに恋人を待つだけの日々は、長年縛り付けられていた稼業さえも忘れさせてくれそうだった。

 神羅の英雄が近頃定時で帰りたがる理由は、もちろんクラウドが家にいるからだった。詰まらない仕事のあとでも、笑顔で出迎えてくれるクラウドを見れば、苛立った神経を簡単に鎮めることができる。
 セフィロスと共にいる時間が長くなるにつれ、クラウドの表情からは険が取れていき、まるで別人に生まれ変わったようだった。外へ出歩いて深夜に喀血するまで飲酒をすることもなく、家へこもって毎日慎ましく過ごしているらしい。高級なブランド品で身を飾り、常に旦那や同業者たちに派手に囲まれ、社交界に名を馳せたクラウド・ストライフがこの人だと言っても、今はもう誰も信じないかも知れない。
 朝はセフィロスと同じ時間に起き、簡単な朝食の準備をし、夜はセフィロスの帰宅に合わせて夕食の支度をする。夜更かしの悪癖も鳴りを潜めているようで、あの恐ろしい咳も止まっていた。
 唐突に始まったおままごとのような一時は、二人の間に依然としてあった微妙な距離を急速に埋めていった。お互い話し好きな性質をしてはいないから多くを語ることはないものの、それぞれの存在をひたすらに受け入れ許容し合う生活は心地よく、無言で過ごす時間も、同じ空間に居さえすれば愛おしく感じられる。英雄と男娼の装いを脱ぎ捨てた二人は、そのとき確かにただの若い恋人同士だった。
 ある天気のいい日、クラウドを散歩へ誘ってみたところ、視線を落として行かないと言う。
「俺とあんたが並んで昼間歩いていたら、なんて言われるか……
 困った顔をしてそう言うのが気に入らなくて、セフィロスは彼の顎を掴んでその先をキスで封じて、ベッドで散々泣かせたあとに少々強引に散歩へ同行することを了承させた。あまり身体を動かさずじっとさせているだけなのは治療にもよくないように思えたし、陽の光の中で穏やかに微笑むクラウドを見たら、きっとセフィロス自身もいい気分になるだろうと考えたからだった。
 車が苦手だというクラウドのためにチョコボ車を手配してやり、魔晄の影響の少ない郊外の自然公園へ向かう。軍用車が道のない森を抜けるよりは格段に居心地の良い揺れるキャビンの中、クラウドは窓から差し込む太陽の光に目を細めて幸せそうにしていた。
 公園の近くには小さな売店がいくつか並んでおり、軽食と飲み物を買って木陰のベンチで持ち寄った本を読む。ふと顔を上げればそこには美しい恋人がいて、視線が合うと微笑みかけ、顔を寄せると少し呆れた顔をしてキスをしてくる。染み付いた夜の匂いはクラウドの身体から消え去って、生来の清廉さが際立ったように感じられ、もうクラウドは寂しそうな青年にしか見えなかった。それからセフィロスが昼間に時間のある日は、外で過ごすことが多くなった。
 また、今まで挑戦しなかったこととして、クラウドは料理をしてみたいと言い出した。食材の見分けがつかないくらい料理には疎いと彼が言ったとき、多少の不安はあったものの、家にいるばかりでは退屈だろうとキッチン用品を一式新品で購入してやった。クラウドは決して頭の悪い男ではなかったし、やっていく内に楽しみを見出して慰めになれば良いだろうと思っていたが、クラウドの壊滅的な料理のセンスはセフィロスの想像を遥かに超えていた。味覚は常人並にある本人も向いていないことを悟ったのか、しばらく何かに挑戦しては失敗するのを繰り返したのち、「食材に申し訳ない」と言って食事は外注することで二人は合意した。
 身体の治療のため生活指導まで受けたクラウドは、酒の痛飲も興奮剤の常用も一切しなくなった。食事に合わせてごく稀にワインを飲む程度で、彼が今手にするのは入手困難なウイスキーではなく、セフィロスが好んで飲む専門店のコーヒーだった。

 のんびりと遊んでいるような暮らしが一ヶ月を過ぎた頃、帰宅したセフィロスをクラウドは初めて出迎えに来なかった。何か家のことでもしているのかとリビングへ進むと、ソファの上で抱えた膝へ顔を埋めているクラウドを見つけた。
「クラウド、どうした」
 そっと後ろから近づき肩へ触れると、クラウドはびくりと身体を揺らし、セフィロスの帰宅にも今やっと気付いたようだった。
「セフィロス――おかえり、ごめん」
 謝罪を口にしたクラウドの顔色が、あまり良くないように見える。胸の奥へざわざわと嫌な感じが過ぎり、セフィロスは彼の肩に置いた手へ軽く力を込めた。
「ああ、今帰った。具合が悪いのか」
 現在はまだ対処療法の段階と聞いているため、また発作が起こったのかと危惧して問いかけた。久しぶりに見るクラウドの青白い表情は、セフィロスの焦燥を嫌でも煽る。
「いや。ちがう。身体はすごくいい。なあ、あんた今夜はどこにも行かない? ずっと側にいてくれる?」
 慌てたように体調不良を否定し畳み掛けられて、セフィロスはそのただならない様子へ眉を寄せた。朝家を出るまではいつも通りの柔和な笑顔でいたクラウドが、今はなぜ側にいて欲しいなどと言うのかわからない。この一月で、セフィロスがどこへも行かないということを証明するには、足りなかったのだろうか?
「ああ。今夜は緊急の呼び出しがきても全て断る。本当に、大丈夫か」
「わかった……わかった。いいんだ、ごめん。最近、あんまり幸せで怖くなったんだ。大丈夫」
 うわごとのように、セフィロスへ視線も向けずにそうつぶやくと、クラウドはセフィロスの腕から逃れてソファから立ち上がり、胸へ縋るように抱きついてくる。
「あんたがいればいい。それだけでいい」
 泣いているように語尾が震えたので、セフィロスは優しくクラウドの顎を掬い上げてその瞳を見た。じっとこちらを見つめるブルーの瞳は、室内灯を反射して今日もきらきらと輝いている。抱きしめた身体から伝わってくる呼吸は正常で咳も出ていないが、病気を由来とした神経の不安なのかどうか、セフィロスでは判断がつかなかった。それでもクラウドが求めるままに、その日は食事もせずに彼を抱きしめて、眠りにつくまで髪を撫でてやった。

 以降、クラウドは度々どこにも行かないかとセフィロスへ尋ねるようになった。普段から少なかった口数はさらに減り、何かを考え込んでいるのか、セフィロスの問いかけにすら反応しないこともあった。夜になり、寝る準備をしてくると言って三十分も戻って来ないので様子を見に行くと、バスルームで携帯端末を見ながら歯ブラシを咥えてぼうっとしている。ある日家へ帰ると、朝の見送りのあと一歩もそこから動いていないかのように玄関前で座り込んでおり、セフィロスの姿を見て激しく動揺していたこともあった。そうしたことが起こるたびに、セフィロスは優しく声をかけ彼の手を引いてやり、腕の中へ抱きとめて、どこへも行かないと言い含めてやった。
 何かがあったことだけは確かだったが、クラウドは何も話さず、ただセフィロスが離れていかないということを何度も確認したがった。抱きしめて髪を撫でてやると一時は持ち直すものの、数日もするとまた元に戻ってしまう。せめて泣いたり怒ったり、感情を思い切り発露してくれれば、彼を蝕む不安が何に由来しているのかを探ることができただろう。しかし、クラウドは青い顔をして、黙って何かに怯えているだけだった。

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