2024-09-14 15:03:20
99456文字
Public セフィクラ
 

【SC】(R18)非情なる夜明け revised edition

セフィクラ
高級男娼クと、英雄セのはなし(椿姫パロ)

二次創作を開始する前、習作として作文した椿姫パロの改訂版です。
原作では死別オチですが、ハッピーエンド。

◆24年11月に開催されるオンラインイベントに合わせて、オフ本を少部数発行予定です。
BOOTH頒布ページ: https://120520aqua.booth.pm/items/6108399

pixiv版: https://www.pixiv.net/novel/series/12355229

はげましのおたより💌 https://forms.gle/ovNkYwMhkS9WhdMg8



 観劇が趣味だと公言するジェネシスは、劇場でセフィロスに会ったことが嬉しかったようで、丁度退勤時間の重なった日に「次は別の演目を是非観に行こう」と誘ってきた。同僚であり、また数少ない友人でもあるジェネシスからの誘いを断るだけの大した理由もなく、セフィロスは再度劇場を訪れていた。先日はただ任務の遂行上必要があって出かけただけで、もちろん気乗りはしなかった。しかし、いけ好かないプレジデントと同席したよりも、気心の知れた者と並んで座っているほうが桟敷席から見る景色は遥かに良く見えた。ざわざわと場内に低く響く囁きの声も、今日は神経に障らない。
 開演を待つ間、演目について演説を打つジェネシスの声を聞き流しながらあの日と同じように客席を見回していると、印象的な金髪に目が留まる。心臓がどくりと跳ねた。様々な人種の集まるミッドガルでもよく目立つ透けるようなプラチナブロンドの持ち主は、クラウドだった。
 クラウドはオペラグラスを顔にあてており、海のような瞳の色を見ることは叶わなかった。何かに気づいてこちらへ顔を向けたクラウドは、片手を上げて手のひらを上へ向け、人差し指を数度曲げて「こちらへ来い」という手振りをした。
「うん? 呼ばれているな。ちょっと挨拶をしてくる」
 それを察知したジェネシスは驚くでもなくそう呟いて、席を立ってその場を離れようとした。
「おい、あれと知り合いだったのか」
 非難の調子を感じ取ったのか、セフィロスの問いにジェネシスは目を細めた。
「名誉のために行っておくが、俺は客じゃない。前に行った通り、彼は有名人だ。何度も劇場で顔を合わせている。あの手の人間は、ちょっと知り合って楽しく遊ぶのには都合が良い。身元のわからない馬の骨より、ずっと立場を弁えている。――そうだ、お前も会いに行くか」
 セフィロスは「それではお前はあれとのに、一晩何万ギルもの対価を支払っているのか」と言いかけて止めた。いくら友人とは言えそれは踏み込みすぎなように思えたし、セフィロスが一方的に容姿と名前を知っているだけのあの青年に対して、そんなことを言うのもおかしいと思った。
「俺は知り合いではないから、ここで待っている。お前だけ行くといい」
 言いかけた言葉は飲み込んで代わりにそう断りを入れると、そんなセフィロスの様子を遠慮と受け取ったのか、ジェネシスは尚も食い下がった。
「以前、英雄が同僚だと言ったら、興味を持っていたぞ」
「そうか。だが、初対面で突然行くのも不躾だろう」
 珍しく強引な同僚に、断りの文句も歯切れが悪くなる。どうにも彼はクラウドとセフィロスを引き合わせたがっているように感じて、どうしたらそれを上手く躱せるかと思案した。今、あの青年に会いたくない。それが何故かは見当もつかなかった。
「少し立ち寄って、夜の挨拶をするだけだ。向こうも大した用事じゃない。行くまでに売店でボンボンを買おう。彼にはこだわりのメーカーがあるんだ」
 言われてみれば、クラウドを見かけるときは常に菓子を食べるか探すかしていた。そんなことを思い出しながら、とうとうそれ以上の拒否はしきれず、ほぼ引きずられるようにクラウドの桟敷へ向かうことにした。

「麗しの君、今日はお加減が良いようですね」
 売店で購入したボンボンを差し出しながらジェネシスが気障な調子でそう言うと、椅子に座ったままのクラウドは白い手を差し出し、それを受け取りながら微笑んだ。感謝のこもった柔らかい笑みだった。
 クラウドの桟敷には、他にもう一人女がいた。背中を丸出しにした黒のドレスを着て、ぼってり厚い唇がやや前へ突き出しているのに、わざわざ目立たせるように真っ赤な口紅を塗っている。その顔を取り巻く髪はブロンドではあったが、恐らく手を入れて染めたものだろう。絶世の美人とは言えないものの、素晴らしく体つきの良い女だった。クラウドの同業者だな、と直感で推測する。桟敷の空いた椅子の座面には、演目のパンフレットと共に白い椿の花が一輪置かれていた。
「こんばんは。ありがとうございます、ジェネシスさん。……今日は珍しいお連れ様がご一緒なんですね」
 深い海の瞳が、ちらりとセフィロスを見る。同じく女のほうもセフィロスを驚いた顔で見て、ガラス玉のような目が意味深にぎらりと輝いた。
 セフィロスはジェネシスの一歩後ろで起立したまま、これまでで一番近くでクラウドの天然の眩い金髪を眺めていた。今日クラウドを包んでいるのは、細身のネイビーのスーツに、落ち着いたブルーのネクタイ。ポケットチーフまで同系色で統一されている。間近で見ても既製品ではなく、自らのために繕わせた上等な服であることがよくわかった。こんなに美しい男が、身なりまで整えて隣に並んでいて、連れの女は一片の緊張さえしていない。
「クラウド、こちらはセフィロスだ。彼と俺は同僚だと前に話したな。会いたがっていただろう」
 その紹介を聞いて、クラウドは困ったように隣の女と顔を見合わせた。すると、二人とも同時にげらげらと声を上げて笑い出した。
……ああ、びっくりした。まさか本当にお会いできるなんて。思っていたよりも、ずっといい男ですね」
「初めまして。私、大ファンなんです。あなたならむしろ、こっちからお金をお支払いしてしたいくらい!」
「馬鹿言うな。セフィロスさんは大変お忙しい身の上なんだから、俺たちみたいなのにものは、金はあっても時間をお持ちじゃないだろ」
 突然交わされる品のない皮肉の応酬に、セフィロスは目を瞬かせて固まった。これまでの人生で、こういう稼業の者とここまで接近して会話をする機会などなかったし、あけすけに性的なからかいの視線を送られた経験もなかった。
「ねえ、本当にご興味ないの? 私たち、秘密を守ることと、ベッドで寝そべって動くことは得意なんですよ、ほんと」
 何と言えばこの場を切り抜けられるかと考えているうちに、念を押すようにさらに女がそう言うと、二人はまたげらげら笑いを始めた。ジェネシスがため息をつき、呆れた顔をしてそれを咎める。
「せっかく連れてきたのに、そんな態度を取ったら彼も困るだろう。俺の友人にはもっと優しくしてやってくれないか」
 ジェネシスの言葉を受けたクラウドが女と同時に「やさしく」と小さく復唱すると、それがまたおかしかったようで、一際大きな声で笑い出す。何がそんなにおもしろいのか理解できず、ただ、少しも歓迎されていないということだけは伝わってきたので、冷えた声で「邪魔をした」と告げると、セフィロスはあとの反応は無視をして桟敷を出て行ってしまった。

 ざわざわと落ち着かない気持ちを抱えて早足でその場を離れ、自身の席へ戻ろうと歩いていると、追いついたジェネシスが肩を掴んで引き留めた。
「すまなかった。連れがいるとは思っていなかったんだ。気分を悪くしただろ」
 否定の言葉がすぐに出てくれば良かったが、そのときセフィロスは自身が少し傷ついていることを発見した。
 戦場で敵にいくら罵倒や呪いを吐かれても、それは元からお互いが敵対者である認識を持っているため特に何も感じることはなかった。だが、今起こった出来事はどうだろう。セフィロスはあの二人に敵だと思われることは何もしていない。そもそも、一言も発していない。
 そうして考えているうちに、今までいかに『英雄』の肩書に守られて生きてきたかを思い知った。かけられる言葉も、態度も、全てセフィロスという一人の人ではなく、彼の背負っている看板へ向けられたものだった。ある意味で初めて人として扱われたような気になり、そのことへの感情を、どう受け止めていいのかわからなかった。
「いや、構わない。少々困惑したが」
 怒りを滲ませるわけでもなく、素直にそう話すセフィロスの返事に満足したのか、ジェネシスは真剣な顔で頷いた。
「ああいう連中には気遣いなどは不要だ。うちの上層部に対するようにでもやり返してやればいい。――お前は仕事と離れた知り合いを作るべきだと思っていたが、今日は日が悪かったな」
 再度すまない、と謝罪を口にすると、ジェネシスは促すようにセフィロスの肩を軽く叩いた。友愛の情の感じられる、励ましの込められた動作だった。それを合図に二人は並んで歩き出し、自分たちの桟敷へと戻って行った。

 芝居が始まってしまうと、長々としたジェネシスの演説は終わり、彼は集中して舞台に視線をやっていた。演劇の内容にさして興味の持てなかったセフィロスは、先刻の出来事を何度も胸の内で反芻した。手酷い対応を取られたことは理解できたし、それに衝撃を受けた自分にも気がついた。しかしそれ以上に、手を伸ばせば届く距離で見たクラウドの瞳の色が深く刻まれていた。
 ジェネシスがボンボンを渡したあとの、一瞬だけ互いの視線が混ざりあった瞬間が、何度も脳内で繰り返される。まるでそれしか覚えていないかのように。
 本来なら、起こったことに対して腹を立てるべきなのかも知れないが、何故か怒りよりも切ないという気持ちになった。身体の中のわからないどこかがきゅうっと締め付けられるような感覚。長く共闘した兵士が死んだときだって、悲しいとか切ないというよりも諦めが勝っていたというのに、クラウドに受け入れられなかったことのほうが堪えているらしかった。
 眉を寄せて、セフィロスはもう一度クラウドのいる桟敷のほうを見た。黒いドレスの女は死角に入って見えないのか、もしくは別の自分の席に戻っていったのか、とにかくクラウドは一人で舞台を見ていた。背もたれに深く身体を預けているというのに、居心地悪そうに上体をゆっくりと揺らしている。あの瞳がもう一度こちらを見てはくれないかと期待して、セフィロスはその後の時間のほとんどを彼の観察に使ってしまった。誰にも見られていないところで、またあの目を、視線を独占することができれば、気分が晴れるような気がした。
 しかし、クラウドはその日、二度とセフィロスを見ることはなかった。

 幕間の休憩時間ごとに、クラウドの桟敷へは入れ替わり誰かが訪れて何かを話しては去っていった。互いの席の位置のせいで、クラウドが訪問者の対応のため立ち上がると、その姿は見えなくなってしまう。ジェネシスが頼んだスパークリングワインで空調によって乾いた唇を潤しながら、セフィロスはただクラウドの席のことを気にしていた。
 こんなに長く他人を見ていたいと思ったのは初めてだ。あの哀れな身の上の男が、どんな顔で笑い、喜び、驚いて泣くのか、そしてその表情がどんな切っ掛けで呼び起こされるのか、知りたくて堪らない気持ちになった。セフィロスをからかったときの冷めた顔。その顔に浮かぶ、勝ち誇ったような微笑み。あの挑発するような顔に囚われてしまった。
 セフィロスは愛や恋という感情は自分とは遠いものだと思っていた。愛するものがないわけではない。酷く疲れる任務のあと、ベッドの上で微睡んで眠りに落ちる直前の一瞬の身体の浮遊感や、夜と朝が交差する時間の、言い表せない空の色。魔晄に覆われた都会を離れて遠方へ任務に行ったときの、自然の中での澄んだ空気の最初の一呼吸。そういうものは、愛していると言ってよかった。しかし、性愛という意味での愛は、きっと己の人生には無縁なものであると確信していた。
 自身の感情の振れ幅がとても狭く抑圧されていることには、ずっと以前から気がついていた。しかし、それを解放するための手段を持ってはいない。常に諦めることを強いられてきた気がする。我を忘れて何かに縋るような瞬間は来ないのだと、そう思っていた。
 クラウドと出会ったことで、体内の奥底へ鍵をかけてしまいこんだ欲求がにわかに目を覚ました気配を感じている。彼がその欲求の答えになり得る人なのかはわからなかったが、いつもどこかが欠けているセフィロスに、足りない物を教えてくれるような気がしてならなかった。

 物語がフィナーレへ向かっていく頃、クラウドは突然身支度を始め、帰る準備をしているようだった。無意識に、呼応するようにセフィロスも席を立つ。
「結末とカーテンコールは見ていかないのか?」
 舞台に注いだ視線はそのままに、ジェネシスが抑えた声色で問いかけた。
「いや、充分だ。……本社に残してきた用事を片付けてくる」
「そうか。また明日な」
 強引な誘い方をしたことと、開幕前のことに気後れしているのか、セフィロスのついた見え透いた嘘を見逃して、ジェネシスは何も追求せずに別れの言葉を述べた。
 桟敷を出ると演目の最中のロビーは人影も少なく、点在している休憩用のソファにも客はおらずしんと静まっていた。煌々とついた明かりの中、ホールの扉越しに盛り上がった演奏が薄く響いてくる。終幕後の混雑を見越してか、化粧室の清掃を終えて出てきたスタッフと廊下ですれ違った。
 正面玄関まで歩みを進めていくと、エントランスに横付けされたチョコボ車が見えた。間違いなく、いつか街で見たクラウドのものだった。横目で確認して通り過ぎ、駐車場まで早足で辿り着くと送迎のために客を待っているタクシーを捕まえる。
「どちらまでご用ですか?」
「あのチョコボ車の後を追ってくれ」
 丁度ゆっくりと移動を開始したチョコボ車を確認すると、運転手は少し間を置いて、指示通りその後ろについて動き出した。

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