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奏
2024-09-14 15:03:20
99456文字
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セフィクラ
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【SC】(R18)非情なる夜明け revised edition
セフィクラ
高級男娼クと、英雄セのはなし(椿姫パロ)
二次創作を開始する前、習作として作文した椿姫パロの改訂版です。
原作では死別オチですが、ハッピーエンド。
◆24年11月に開催されるオンラインイベントに合わせて、オフ本を少部数発行予定です。
BOOTH頒布ページ:
https://120520aqua.booth.pm/items/6108399
pixiv版:
https://www.pixiv.net/novel/series/12355229
はげましのおたより💌
https://forms.gle/ovNkYwMhkS9WhdMg8
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クラウドは困り果てていた。きっかけは、ずっと連絡をしていなかったエアリスから届いた一通のメッセージだった。緊急の用件ですぐに会いたいと言うので、彼女の家までセフィロスが仕事に出ている間に出かけて行った。顔を合わせた途端に今にも泣き出しそうにおろおろと落ち着かないエアリスから、どうにか話を聞き出した。
クラウドの不在の間、郵便物などの管理も任せていたエアリスは、ある日クラウドのポストへ切手のない手紙が入っていることに気がついた。裏面の差出人の名前は例の老人で、嫌な予感がして中身を検めたエアリスは、大慌てでクラウドへ連絡を寄越した。
渡された手紙は、療養先で大人しくしていると聞いていたが行き先を言わなかったのは何故かという書き出しから始まり、噂でクラウドが別の旦那に完全に囲われた生活を送っていると耳にしたこと、嘘をついたことも新しい旦那が誰かもこの際追求はしないこと、自分の元へ戻ってくるのなら何もかも不問にしてこれまで通りの援助を継続すること、しかしそれを断り今の暮らしを続けると言うのなら、約束の金は渡すことができないことが書かれており、二度も娘を失う辛さを老い先短い惨めな老人に味わわせないで欲しいと、流麗な文字でしたためられていた。
何枚にも及んだ便箋をめくるたび、エアリスの大きな瞳からぽたぽたと涙がこぼれ落ち、彼女はそれを拭いながら、今すぐセフィロスと離れないと何もかもを失うことになると繰り返しクラウドへ訴えた。しかしそう言われても、今のこの平穏そのものの生活を、何よりもセフィロスを手放すことを、クラウドは考えられなくなってしまっていた。だが、当てにしていた老人の送金がなければ、コルネオと縁を切ることもできないし、残している膨大な借金の支払いもできるわけがない。
どうやってその日セフィロスの家へ戻ったのかは、わからなかった。ただ『終わりが近い』ことだけは実感していて、それなのにクラウドは安穏の中へ留まっていたくて、ぐずぐずと無為に日々を過ごした。そんなことをしていても、日に日に不安と焦燥が募っていき、セフィロスといても以前のような幸福な気分に浸ることすらできなくなっていった。
エアリスがクラウドへ老人の手紙を渡してから、そろそろ一週間になる。決断をしなければいけない。何も手につかず、慣れたセフィロスの広い家での家事も、ここのところずっと疎かになっている。察しの良いセフィロスに何も話さないでいるのも、もう限界だろう。毎朝の習慣にしている薬の服用のために錠剤を手に取ろうとして、山のように処方されたシートの残りが少ないことに気がついた。
(長く幸せを浴びすぎた)
陰鬱な気分で薬を飲んで、そのままソファで膝を抱えるように座り込んだ。じっとしていると焦りで胸が潰れそうになるが、かと言って、現状を打破するためにクラウドができることなど、ほとんど残されてはいない。静寂を破ったのは携帯端末の着信音だった。はっと顔を上げて液晶を見ると、発信者はコルネオだった。
「困るんだよなあ、無断でいなくなられると」
ろくな説明もなく電話越しに呼び出されたのは、コルネオが所有している建物の一室で、部屋へ入るなり両脇を部下に固められる。逃げ出すなという圧力を感じ不愉快だったが、この小狡い男と二人きりでいなくて済むことを考えて、クラウドは不満を口には出さなかった。
「別に
飛
・
ん
・
だ
・
わけじゃない。現にこうして呼び出しにも応えただろ」
いつかこんな日がくるとは思っていたが、予想したよりも早すぎた。あの老人の執着を軽く見積もっていた自分の見通しの甘さに、クラウドは下唇を噛んだ。
「で、一体今までどこで、何してたんだ? 旦那連中にしつこくせがまれて、必死こいて探しちまったよ。お前が見つけてきたあの爺さんなんて、今にも死にそうな顔して俺にお前の行方を聞いてきて、全く、見つからなかったらどうしようかと焦ったぜ」
葉巻に火を着けて一口大きく吸い込むと、もくもくと紫煙をくゆらせながらコルネオはそう言った。悠長な口調には焦りなど微塵もなさそうで、これはただ、クラウドの罪悪感を煽るために言っているだけだ。肺の悪いクラウドは、室内にたちこめる咽るような甘い葉巻の匂いに顔を顰め、胸がじくりと重くなるのを感じた。
「あんたには関係ない。用件はそれだけか? 連絡ならつくようにするから、もう放っておいてくれ」
怒鳴りつけたいのを抑えながら平坦にそう言い放ち、コルネオの返事を待たずに、クラウドは座っていた革張りのソファから立ち上がろうとした。この男とは、もう一瞬でも同じ場所にはいたくない。
「久しぶりに会うってのに、つれねえな。悪い子だ。
……
なあ、俺たち今までうまくやってきただろ。何が気に入らない? まさか俺の元から逃げて生きていけると思ってるわけじゃねえよな」
立ち上がったクラウドを止めることもなく、コルネオは咥えた葉巻を上下に振りながら話し続けた。返事をせずに、クラウドはただ黙って聞いている。
「だんまりかよ、かわいくねえ。男に股開く生き方しか知らないお前が、今さらまともに生きられるわけがねえ。金持ちに腰振るだけで、いい暮らしができるんだ。この俺が、そうやって全部整えてやっただろ。それともまた、
あ
・
の
・
店
・
に戻されてえのか? ん?」
深く低い声で凄まれて、さすがにクラウドは眉間へ皺を寄せ両手をぐっと握り込んだ。思い出したくない記憶へ土足で踏み入られて、狼狽が隠せず顔に滲み出る。そのまま二人は睨み合っていたが、クラウドは観念したようにふっと短く息を吐き口を開いた。
「俺はこの仕事を降りる。もう続けられない。どうせ長生きできないんだから、あとは俺の好きなようにする。あんたも俺で充分稼いだだろ。あの店を辞めさせてくれたときの金なら全額返す。五百万、きっちり揃えて払うから、もう俺に構わないでくれ」
静かに、だが怒りを孕んだ声でそう告げると、コルネオは喉奥でぐうっと唸り、テーブルに置かれたガラス製の灰皿へ葉巻を力任せに押し付けた。
「馬鹿言ってるんじゃねえ。お前にこれまでいくらかけたと思ってる? 家も、チョコボ車も、ブランド品も、宝石も、お前が金持ちに気に入られるように何もかもを仕込んだのはこの俺だ。五百万じゃきかねえし、これまでの旦那からの紹介料でなんて、とても賄える額じゃねえんだよ。お前は本当に、頭が足りねえな」
噛みつくようにそう言って、コルネオは興奮で赤黒くなった顔を強張らせてクラウドを睨みつけた。
「いいか、クラウド。俺たちいいコンビだっただろ。お前は危ない目に遭わずに仕事ができる。俺はお前に投資した分をゆっくり回収できる。俺の仕事のパイプ役としても、お前は優秀だったよ
――
ちょっとわがままで愛想がねえが、学もなけりゃ健康体でもないお前ができることなんて、他に何もねえ。誰に吹き込まれて足を洗うなんて思いついたか知らねえが、何なら俺がそいつにお前の境遇を話して聞かせてやる。そいつは、お前の借金の総額は知ってんのか? どうせ知らないんだろ。
普
・
通
・
の
・
金
・
持
・
ち
・
が払えるような額じゃねえ。まともな金貸しから借りてねえんだ、少しでも支払いが滞ったら、お前はあの店に居た頃より酷い扱いを受けて、最期はミンチになってモンスターの腹の中に入ることになるぞ。だから、俺がお前をまた助けてやる。
……
で、誰なんだ? お前を匿ってるおめでたいやつは」
ころりと猫なで声に変わったコルネオの問いに、クラウドは視線を落とした。セフィロスのことはまだ知られていないらしい。知られるわけにはいかない。しかし、コルネオの口ぶりから、もう五百万ギルを渡したくらいでは事態は解決できないのだということも理解した。どんなに幸運な奇跡に見舞われたとしても、この世界から抜け出すことはできないのだと、心のどこかでわかってはいたがはっきりと理解させられた。悔しさで、目の前が赤く染まっていくようだった。
「言わねえならそれでもいい。だがな、クラウド。俺は地の果てまでお前を追いかけ続けるぞ。こんな下らねえことで俺の手を煩わせるな。かけてやった情を忘れるなんて、そんな薄情なことは言わねえよな? あの花屋のお友達も、お前がいなくなって随分寂しがってたぞ」
エアリスの話を出されて、クラウドはさらに絶望へ叩き落された。見え透いた脅しではあるけれど、クラウドに自分自身だけでなく、セフィロスやエアリス、そしてマリンを守る力がないことなんて、他の誰よりもクラウド自身が骨身に沁みてわかっていた。身体中の悪い感情がぐるぐると渦巻いて、飲み込まれてしまいそうだった。喉がきゅうっと狭くなり、涙が出そうになるのを口を引き結んで耐えた。クラウドの考えていた他愛ない計画なんて、コルネオの前では幼子の思いつきにも満たないことのようだった。
「
……
よくわかった。悪かったよ、迷惑をかけて。家に戻る。ちょっと、家出したくなっただけだ。別に誰にも何も吹き込まれてなんかいない。客たちにも、俺から謝罪の連絡はちゃんと入れる」
顔を俯けて、自分の爪先を見ながらクラウドはどこか他人事のような浮ついた口調でそうつぶやいた。それを聞いたコルネオはにいっと下品な笑顔を作り、身体を揺すって満足げに勝ち誇った顔をした。
「ほひ~! いつもそうやって素直にしてりゃ、お前はかわいいのにな。
……
言っておくが、監視の目は今まで以上に厳しくなるぞ。お前がこそこそと質入れしたものは、全部取っておくように言ってある。すぐに戻してやるから、今日はまず家に戻って、明日一番にあの爺さんのところへ行け。他の客には、口でも穴でもなんでも使って許しを請うんだな。それから、次に連絡なしにいなくなったら、俺はお前が心配で何をするかわからねえ。よく覚えておけ」
これで終わりだ。何もかも。クラウドはもう一度わかったと小さく応えて、コルネオの部下に付き添われて建物の外へ出た。夕暮れにはまだ早く、空はどこまでも続くように高く澄んでいた。やや淡くなった日差しから隠れるように下を向いたまま、一ヶ月ぶりに自分のマンションへたどり着くと、そこには質入れしたはずの見慣れたチョコボ車が既に置かれていた。コルネオの仕事の早さに、改めて自身の浅い目論見を実感させられて、いっそこの星から消えてしまいたいと思った。
鍵を使って自室の玄関を開くと、部屋の奥から軽い足音がこちらへ近付いてきた。
「おかえり、クラウド!」
ほっとしたように微笑むマリンは、どうやら大量に戻ってきたクラウドの荷物の整理をしてくれていたようで、玄関から廊下に至るまで、そこら中にブランドのロゴが入った箱や紙袋が無造作に積まれている。
「
――
ただいま」
言った途端に、堪えきれずに瞳からぼろぼろと涙が溢れてきた。しゃがみこんで呆然と泣いているクラウドへ、マリンは柔軟剤の香りのする柔らかいタオルを差し出してくれて、それ以上何も言わず、出て行った日と同じように整えてある寝室へクラウドを促した。部屋を出て行き、しばらくすると温かいカフェオレを持って戻ってきて、誰か連絡が必要ではないか、お腹が空いてはいないか、欲しいものはないかと心配そうに尋ねてくる。かつての自分に重ねて同情心から引き取った彼女が、クラウドのようにはならずに立派に他人を気遣えるまでに成長しているのを見て、ますます泣くのを止められなくなった。問いかけの全てに首を振ると、片付けに戻ると言ってクラウドの肩を撫で、マリンはそっと寝室から出て行った。
清潔なシーツの張られたマットレスへ横になり、そのまま流れてくるのに任せて泣いたままでいた。自らが選んで、こうなることはわかっていたと言うのに、どうしてこんなに悲しいのか。今朝見送るときに、最後に見たセフィロスが笑っていたかどうかも思い出せなかった。もっとよく顔を見て、忘れないように全てを記憶しておけばよかった。いつか別れが来ると知っていたというのに、隣にいるのが当たり前になってしまっていた。
やがて窓の外が夕日で翳ってくる頃、重たい身体を起こしてポケットから携帯端末を取り出した。何度も書いては消すのを繰り返し、一通のメッセージを作り上げる。指がぶるぶる震えるのを感じながら、やっとの思いで送信ボタンをタップした。
『あんたといた日々は悪くなかったけど、元の生活が恋しくなった。置いていった荷物は捨ててくれ。さようなら』
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