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奏
2024-09-14 15:03:20
99456文字
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セフィクラ
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【SC】(R18)非情なる夜明け revised edition
セフィクラ
高級男娼クと、英雄セのはなし(椿姫パロ)
二次創作を開始する前、習作として作文した椿姫パロの改訂版です。
原作では死別オチですが、ハッピーエンド。
◆24年11月に開催されるオンラインイベントに合わせて、オフ本を少部数発行予定です。
BOOTH頒布ページ:
https://120520aqua.booth.pm/items/6108399
pixiv版:
https://www.pixiv.net/novel/series/12355229
はげましのおたより💌
https://forms.gle/ovNkYwMhkS9WhdMg8
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自宅へ帰っても眠ることができず、セフィロスは鬱屈とした思いで本社ビルにある科学部門のフロアを訪れていた。ソルジャーとして前線に出ることの多いセフィロスは、作戦中休みなく働き続けることはそう珍しくもないが、改めて休暇中に見る社員たちの顔色は皆冴えず、神羅の使い捨てを良しとする社風が透けて見え、塞いだ気分を加速させた。まだ始業したばかりの時間で、社内は朝の眠気と抜けきらない社員たちの疲労を漂わせているようだった。
わざわざ本社まで足を運び面会を要求した人物は、予定していた実験を止めてセフィロスの呼び出しに応じると言う。目的の場所へ着くと、怪しげな実験器具や測定器、乱雑に積まれた大量の書類や研究書、図鑑に囲まれて、セフィロスはじっとその男を待った。
「お前からここへ来るとはね」
皺だらけの白衣を気にもとめず、その男
――
宝条は現れた。神経質そうな巻き肩に、一つに結った白髪の交じった脂っぽい長髪。睨めつけるような視線で、眼鏡の向こうからセフィロスの様子をじっと窺っている。セフィロスは眉一つ動かさず、宝条へ冷ややかな視線を投げた。
「
……
まあ、用件は検討がついている」
そうすればセフィロスの苛立ちを煽れるとでも思っているのか、踵を鳴らしながらゆったりと室内を歩いて、宝条は定位置である自身のデスクの椅子を引き出し、長時間座りすぎてくたびれた座面に腰掛けた。経年劣化した椅子は、ぎいと大きな悲鳴を上げる。
「どれ。何をしに来たか、当ててやろう。お前が今執着している青年、クラウド・ストライフのことだろう」
クラウドの名前が宝条の口から出たことで、セフィロスの口角がぴくりと震えた。それを見逃さず、宝条は目を細めて薄ら笑いを浮かべる。自らを天才だと言って憚らないこの傲慢な男は、セフィロスの動揺や冷静を欠いた言動を楽しむ悪癖がある。
愉快そうに顔を歪めて笑いつつも、宝条はさらに続けた。
「私は長年お前を研究対象として様々なデータを集めてきたが、最近新しいフェーズに入ったと小耳に挟んでね」
セフィロスは何も言わない。ここで口を挟むより、自説に陶酔し饒舌になっているこの男の自己顕示欲を満たしてやるほうが、多くの情報を引き出せると長い付き合いで知っていた。知りたいことさえ聞けてしまえば、あとはどうなろうと構わない。
「お前は
あ
・
れ
・
と番う気でいるな?」
セフィロスはまだ、何も言わない。しかし、セフィロスの造り物のように美しい顔へ、耐えきれなかった不快感が顕になり、その眉間に皺が寄ったのを見て、宝条は短く喉を鳴らした。
「なあに、彼に何かをしようという気はない。そこらに掃いて捨てるほどいるただの人間に興味はない。
――
彼は魔晄に耐性がなくて、病気がちだそうだね。私の権限で、ここで治療を施してやってもいい。私は最高傑作のお前が、ここまで他人に執着する姿を初めて見た」
そこで一度言葉を切って、宝条は乾燥で皮剥けた唇を不健康そうな色をした舌で一舐めした。
「その執着
……
愛と呼んでやるべきか? 愛というのは非常に非科学的だから、私は言いたくないが、なんでもいい。お前に愛する者ができたとき、一体どんな行動をするのかデータを集めたい。実に下らないが、守るものができると、生物は押し並べて本来よりも強い力を発揮することがある。およそ知性が備わっているとは思えない荒野のモンスターですら、子育て中は気性が荒れる」
「何が言いたい?」
長大な独り言のような話に不愉快が頂点に達し、セフィロスはとうとう口を開いた。地響きにも似た不機嫌なその声は、巣に立ち入られて威嚇するドラゴンの咆哮のように冷たく怒りに満ちていた。しかし、宝条と対峙するときのセフィロスはほとんどの場合同じような態度を取るので、宝条は一向に気に留めない。
「ふん。つまり、クラウド・ストライフを
伴
・
侶
・
としたお前が、検査で良い結果を出す間は、私は彼に干渉しない。いや、多少検査の強力は要請させて貰うがね。あくまで要請であり、拒否権は本人に与えよう。形式的なものでなく、実質的なものだ。お前の好きなようにあの男娼を扱うといい。魔晄耐性を上げるための処置も、うちの研究員が作成中の試薬のテスト要員として推薦してやろう。しかし、悪い方向へ作用して詰まらん結果が出たときは、もちろんその限りではない」
言われたことを胸中で振り返ってみたが、想像していた展開との落差が激しく、一瞬理解が遅れてしまった。この男は一体何を言っているのか。とうとう、気が狂ったのだろうか。発言の内容は理解できているはずなのに、脳がその理解を受け入れない。あまりにも突飛だと思った。
「
……
私がお前を応援するのが、そんなにおかしいかね」
じとりと上目に見つめられて、セフィロスは眉間の皺を深くした。応援というのはどういう意味だったか。力を添えて、手助けすること。宝条が? 人や動物を、科学の発展のためと称して痛めつけて愉悦を感じ、それが生き甲斐であると躊躇なく言ってのけるあの宝条が?
「ふむ。少し情報の処理能力に問題が出ているか? やはり彼は私のラボで預かるか」
「待て」
「私から言えることは以上だ。せっかくここまで来たんだから、簡単な実験をやっていくかね? お前の監視は常に続けているが、お前が自ら生殖行為を行ったあとのデータは取ったことが
――
」
「帰る」
そう言うなり宝条へは一瞥もくれず、セフィロスは部屋を出ていった。少しでも長くここへいると胸が悪くなりそうだったし、どうにも様子のおかしいあの男と同じ空間にいるのは、例え短時間でも消耗が激しい。どうせろくなことを考えていないのであろうことは推測できるが、突然言われた『応援』という言葉の不気味さに、エレベーターを待つ間も顔を顰め続けていた。
時は遡って、一日前。
『休暇は明日までだ』
それだけ書かれたセフィロスからのメッセージを見て、クラウドは少々不安な気分になった。色っぽいことを書いて欲しいとは言わないが、もっと他にも優しい言葉をかけて安心させて欲しかった。クラウドが作るメッセージの文面も、散々エアリスや旦那連中から冷たいと言われてきたが、その度に用件が伝われば何でも良いと反論したものの、輪をかけて愛想のない返信が来ると気になってしまうものだった。これでは、ランチの誘いを受けて貰えたのか、拒否されたのかもわからない。もう一度誘ったら、察しの悪いやつだと思われるだろうか。
寝室のベッドの上で寝返りを打ちながら、頭を悩ませる。二人を引き裂くように昇った朝日を合図にセフィロスを帰したあと、マリンに頼んで汗で濡れたシーツ類を全て取り替えてしまったので、恋しい人の温もりも残り香も消えてしまった。つい数時間前まで、手を伸ばせばそこに優しく抱きしめてくれる逞しい身体があったのに、今はもうこんなにも寂しい。
顔を合わせている間に、今夜は会えないと伝えてしまえれば良かったのだ。しかし、今夜会えない理由が他の男と会うからだということを、どうしても言いたくはなかった。クラウドは今から自分がすることを考えて、重いため息をついた。
初めてセフィロスを劇場で見かけたとき、驚いたのと同時に恥ずかしさで消えてしまいたくなった。自身の稼業のパートナーであり、愛人とも呼べるコルネオに連れられて行った人気劇団の公演で、まさかその姿を目にするとは予想もしていなかった。夜空に冷たく輝く月のようなその銀の髪に、鍛え上げられた屈強な肉体、彫刻のように整った顔立ち。幼い頃ほのかに憧れ、彼のようになりたいと思っていた英雄セフィロス。ミッドガルだけでなく、星中でその名を知らない者はいない見目美しい戦士。
コルネオはクラウドが嫌がることをするのを好む。人前でクラウドの所有者として振る舞いたがるし、人目のあるところであちこちを触ったり舐めたりしたがった。あのとき、セフィロスの姿を見たクラウドは、打ちのめされたような気分になった。すぐそこにいるというのに、手を伸ばしても絶対に縮まらない距離。いっそこちらから目を背けて欲しくて、コルネオと会う前は必ず飲む興奮剤にふらつく頭で、誘うように笑いかけてみた。これはあんたが見るべき俺じゃない。だからどうか目を逸らして、見ないでくれ。そう願ったが、セフィロスはいつか雑誌で見たのと寸分違わない涼しい表情を崩さぬまま、じっとこちらを見つめ続けた。堪らなくなって、クラウドは桟敷席のカーテンを自ら閉じた。見せたがりのコルネオは不満そうにしていたが、いつもしないことをしてやれば誤魔化せるだろう。祈る気持ちで、やる気を見せたクラウドに高揚し緩んだその顔へ唇を寄せた。
ジェネシスがセフィロスを連れて桟敷を訪ねて来たときは、記憶が曖昧だった。その日も飲んでいた興奮剤も作用して、完全に舞い上がって、しばらく後になってから桟敷へ一人でいることに気がついた。普段見ることのないスーツ姿のセフィロスは眩しいほどに格好良くて、頭が真っ白になった。もし、刀を握り敵を切り倒すあの大きな手がクラウドの手を取り、接吻の一つでも落としたとしたら、その場で心臓が止まるだろうと思って恐ろしかった。
ただ、彼が何も言葉を発さず桟敷を出ていってしまったことだけは覚えていて、無理やり連れてこられて、クラウドのような身の上の者と会話をする気など起きないだろうということに納得した。そのときに、抱いていた淡い憧れは敗れて散った。暗い記憶ばかりのスラムを出るときに、これまでの過去は全て忘れてしまおうと決めたはずなのに、別世界で煌めく英雄への憧憬だけは、病んだ胸に染みのように残ってしまっていた。
エアリスとザックスと共に家へ来ると聞いたとき、冷や汗をかいた。その日、クラウドの家には忌々しい間抜けが何のかんのと理由をつけて居座っていたし、よりによって娘の代わりに会っている老人と帰る約束のために、女物のドレスを身に纏っていた。よっぽどセフィロスだけは来ないでくれと言いたかったが、エアリスからセフィロスがクラウドに会いたがっていると熱弁されたため、結局了承してしまった。
我が家にいるセフィロスなんて想像してみたこともなく、実際に自宅にいる姿を見ると不思議な感じがした。その見事な足の長さに、既製品では丈が足りないから、服は全てオーダー品だろうかとどうでもいいことを考えた。
握手をする距離から見下ろされたときの感動。そして、寝込んでいた間、毎日花を贈ってくれていたのがセフィロスだと明かしたときの、くらくらするくらい美しい微笑み。今度こそくっきりと記憶へ焼き付けた。間違いなく、それまでの生涯で最上の一時だった。
その後の夜食で一緒に飲んだお気に入りのウイスキーも、発作で喀血したクラウドを介抱してくれたことも、全てが嬉しくて、苦しかった。任務や仕事で忙しい中こんな魔窟のような場所へ来て、はしゃいで喀血した自分を見られたことが恥ずかしかった。
しかし何を言ってもクラウドを心配するのをやめなかったその真剣さに、どんなに救われたかわからなかった。立場や住む世界の垣根を超えて踏み入って、クラウドが抜け出せないどろどろした沼から掬い上げてくれるような強さがあった。だからこそ、縋るわけにはいかなかった。抱えている後ろ暗い過去に、幻滅されるのが怖かった。
寄り添って、手を握られて、咄嗟に突き放すように戻した呼び名さえ即時に上書きされた。嬉しいはずなのに、つらくて仕方なかった。『俺のことだけを考えていろ』と言い、鎧のような筋肉のついた男らしい胸へ抱かれたときの甘美な震え。あの魅力に逆らえる人間がいるとしたら、きっと神に近い精神力を持っていることだろう。
とうとう肉体の関係を持った日の、天国に行くようなあの気持ち。今までの何よりも、誰よりも気持ちが良くて、満たされた感じがして、いっそこの命が短いのなら今ここで死んでしまいたいとすら思った。どこもかしこも完璧で、所作すら無駄なく優雅なセフィロスが、クラウドの身体に反応し痴態を受け入れるばかりか、欲情を隠さずにあの風変わりな瞳で見てくれたことが嬉しかった。がっしりした太い腕も、引き締まった腰も、艷やかな微かな吐息も、そのときだけは他の誰でもなく彼はクラウドのものだった。それまで性行為というのはただやらされるものだった。クラウドの意思とは関係なく、金銭授受をもって開始され、相手の気持ち一つで終わる。一度たりとも、それが好きだと思ったことなどなかった。それなのに、自分からこの人と深く交わりたいと思えたのも初めてだった。
短い間に思い出しきれないほど色々なことがあった。この都市に溢れている魔晄に蝕まれているというのに、抜け出すこともできずにいるクラウドへ、生きていれば良いこともあるのだと思わせてくれた出来事ばかりだった。
けれど、楽しい時間は必ず終わりがくる。店で客を取っていた頃、泣かされる十分間は永遠にも感じられたのに、休憩の十分間は瞬きするように過ぎていった。こんな速度で嬉しいことが起こり続けたら、残りの人生が出がらしのように詰まらないものになってしまいそうだった。
だから、セフィロスがクラウドを欲しいと言ってくれている間に、この生活を手放してしまおうと決めた。心から好きな人と身体を重ねる幸福を知ってしまったからには、セフィロスと別れたあと、どんなにこの仕事が苦痛になるか検討もつかなかった。
コルネオがスラムで違法営業する風俗店からクラウドを買い取る際に支払った金額は、五百万ギルだと聞いていた。恥も外聞もなく旦那たちへ相談を持ちかけて、思いつく限りの理由を並べてとにかく金をかき集めた。
今日はセフィロスが出ていってから、老人のご機嫌取りをしたあとに業者を呼んで、自分の持ち物は全て質入れしたり、売ってしまう手続きをした。この家で現在クラウドの自由になるのは、伏せているベッドのマットレスと、値段のつかなかった僅かな衣装だけだ。ブランド品も、宝石も、アクセサリーも、家具も、食器も、大好きなチョコボ車も、大切に使ってきて良かった。大きな借金はどうにか返済をして、残った分は別の仕事でもなんでもして地道に払っていけばいい。あと少し。あと少しで、五百万ギルを貯められる。その目処もようやくついた。セフィロスには最後まで言えなかった、クラウドの秘密の計画だった。
(俺が男娼を辞めると言ったら、喜んでくれるかな。この家は出なくちゃいけないから、住むところをまず確保しないと。しばらくはエアリスが泊めてくれるって言うけど、いつまでも甘えてはいられない)
計画の相談を受けたエアリスは、猛反対していた。セフィロスの愛なんて一時的なものであるから、別れたあとどうやって生きるのかと聞かれて、クラウドははっきりした答えを言えなかった。十四歳で身を持ち崩して、それ以外の生き方を知らないクラウドに、別れたあとの展望なんてないのと同じだった。それでも、セフィロスを愛してしまった自分が、これまで通り何人もの旦那たちへ身体を開くことなど考えられなかった。例えそれが、彼に捨てられたあとのことだったとしても。
短い人生の中で、たった一時でも人に恥じない生き方をしたいと思わせてくれた。それで充分だった。きっと後悔はしない。後悔したとしても、この決意をなかったことにしたいとは思わないだろう。
目を閉じると、困ったように呆れて微笑むセフィロスの面影が瞼へ写った。
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