戌丸アット
2022-05-29 23:07:22
37730文字
Public 戦国basara
 

狐七化け、狸八化け

三家(戦国basara)



左近は今の状況にほとほと困り果てていた
縁側には狸が化けていると言う心底信用ならない青年と、その斜め後ろには青年を静かに見据える主人の三成が居たからだ

正直言うと、左近はこの場から離れたい程に怖くてしょうがない
その理由は、左近が心霊や妖怪などの類はとことん苦手な為である
しかも実際に見たとはいえ、理解し受け入れられるほどの猶予がなかったのもあり動揺しっぱなしであった
そんな左近を気にする事なく、青年は落ち着きを取り戻して三成から目線を逸らすと左近へと苦笑いを向ける

「あの、凶王の部下殿、凶王殿はなんで怯えきった目だなんて言うんだ?」
「え、え?お、俺?そんなの知るかよ!自分で考えろって!!!あと俺は島左近って言う名前があんの!」
「おい、それで逃げたつもりか!私の質問に答えろ!狸!」
「うーんなら答えるが、ワシに怯えているつもりは無いし恐れる理由はないまぁ、戦いが好きと言う訳ではないが」

今度は少し考えた後、青年は真っ直ぐに三成を見据える
その目に三成が見た先程の怯えは無く、ただ凛々と光る黒目が光っているだけだった
再び睨み合いとも、見つめ合いとも取れる事をしている二人に既視感を覚えながらも先程よりも冷静さが出てきた左近はこっそりとため息をつく

左近は気付いていた、自分の主がある人物と青年を重ねている事を
しかし肝心の主である三成は自分が青年と家康を重ねている事にも、重ねる事で心を癒している事にも気付いていなかった
だがそれは青年も同じだと言えた
青年も何処かの誰かの面影を三成に重ねていたのだ、三成との違いは自覚していると言う事だけだ

「自覚はないと言う事かまぁいい、もう用はない、好きにしろ」
「そうか、ならさっさと御暇(おいとま)するとしよう」

三成の興味が失せたのを感じた青年は、これ幸いといったように微笑みながら怪我を感じさせない動きで立ち上がろうとする
しかし左近は驚いたように青年を止めに入った

青年の怪我はギリギリ致命傷を避けているが一つ一つの傷は、まるでその身に傷を残そうとするかのように深く青年の体を傷つけていたのだ
熱を出さずに動けている事が不思議な位であった

「へ?ちょ!アンタ、その深手で何処に行くつもりだよ!!!大人しく寝てろって!」
「いや、もう十分すぎる程に世話になっている、これ以上の迷惑はかけられない」
「拾ったのは俺だぞ!迷惑じゃないから此処に居ろって!」
「そうか、なら言い方を変えよう………ワシは一人の男に命を狙われている、一ヶ所に留まるのは気が進まないんだ」
「な、なるほどな!うーん……………なら一日!!!いや、今晩だけでも休んでけよ!な?」

左近の説得に断固として頷こうとしない青年に大慌てになりつつも、左近も譲る事なく説得する
今は熱が出ていないだけで倒れない保障は何処にもなかったからだ
そんなあまりに必死な左近に青年は目を丸くしたが、暫くすると照れながらも嬉しそうに微笑みつつ答えた

「ふふっあぁ、分かったよ、その言葉に甘えて今晩だけ世話になろう」
「お!そうこなくっちゃ!あ、部屋は流石に此処じゃ駄目だから俺と同室になるけど
「あぁ、全然構わないよ、宜しく頼む」
「おう!………えっと、名前なんて言うわけ?」
「あっ!名乗ってなかったな、ワシの名は三朗(サブロウ)、狸の化身まぁ妖怪みたいな者だな」
「うぅやっぱりそうなのか
「そう固まらないでくれ、悪戯なんてし、ない、から……………
「え、ちょっ!おい!しっかりしろ!」

妖怪と言う言葉に素直に難色を示す左近に三朗は気にする事なく微笑んでいたが、言い切る前に三朗はその場でネジの切れた人形のようにその場に倒れてしまった

慌てて左近が倒れた三朗の体を抱え見てみると、先程までの元気そうな表情が嘘のように顔は赤く抱える体は火のように熱い
左近と話していて気が抜けた為に意識していなかった熱が出たのだろうと、何処か冷静な自分が理解しつつも突然の事に左近は動けずにいた

「何を呆けている、左近!使用人に冷やせる物を運ばせろ!」
「っはい!!!」

それを見かねた三成の言葉に冷静さを取り戻した左近は弾かれたように立ち上がると、使用人を呼ぶ為に奥へと駆けていく
緊急事態の為、騒がしく走っていく左近を叱る事なく三成は気を失って大粒の汗を大量にかいている三朗に近づくとその体を横抱きにして持ち上げた