戌丸アット
2022-05-29 23:07:22
37730文字
Public 戦国basara
 

狐七化け、狸八化け

三家(戦国basara)



空が歪み周りの景色が砂のように流れて消えながら、胃の中の物がせり上がってくるような感覚が襲ってくる。
その突然の気持ち悪さに思わず三成は、態勢を崩し、刀を地に突き刺して脳の揺れが収まるのを待って、吐く事はなんとか留めた。

「うぐぅっ!」
「やはり人には辛いか」
「うる、さいっ!」
「暫し休め、目的地の近くに移動したから焦るな」
「黙れ! 私を知ったように語るな!」
「おい!……はぁ」

まだ少々、足元が覚束無いにも関わらず三成は刀を納刀し、いつものように左手に収めると宛も無く歩き出してしまった。
あまりの無鉄砲さに九尾は思わず、ため息を吐いたが進む方角に問題は無いので、そのまま三成の後ろに付いて行く。
すると、すぐに小さな鳥居と小屋くらいの社の前に居る筈のない男が立っていた。

「っな!? 貴様はっ!」
……九尾、凶王殿、早かったな」

鳥居の前には囚われた筈の三朗が微笑んで出迎えてきた。
これには流石の三成も険しい顔を更に険しくさせ、構えを取る。
だが三朗からは殺気や敵意は全く感じず、ただ立っているように見えた三成は己の目的を三朗に問いただした。

「答えろ! 家康は此処に居るのか!」
「東照、か……あぁ、この先に居るよ、行きたければ行くと良い」
「ふん! 貴様の許可など知るか!勝手にする!」
「待て!凶王! ……男はどうした? 何故、貴様だけ自由になっている!」

売り言葉に買い言葉で今にも三朗を通り過ぎてしまいそうな三成の肩を掴み、九尾は止めた。
あまりにも三朗の様子が怪しかったからだ。
すると案の定、三朗は動いた。

「そんな事、今から死ぬお前には関係ない……!」
「っチ!!!」

一瞬にして空気も、地面も、空も、殺気に包み込まれたかのような感覚に襲われた三成が、気付いた時には隣に居た九尾は吹き飛ばされていた。
斬撃の速さなら最速を誇る三成でも捉えきれなかった見事な奇襲とも言える早業に、三成は一筋の汗を流しながら目を見開いて三朗の手を見た。
その手に黒々とした独特の篭手は無かったのだ。
すると受け流したのか、態勢を直した九尾が叫ぶ。

「っ貴様! 巫山戯ているのか!? 武器はどうした!」
「篭手があろうとなかろうと……殺す時には関係ないだろう? お前こそ」

一度見れば忘れないであろう三朗の篭手を武器と呼び、無い事への尋問をした所で三朗は何処か人が変わったような受け答えをしながら、また構えを取った。
そして次の言葉が途切れた瞬間、今度は消えていた。

「殺気はどうしたんだ?」
「ぐぁっ!!!」

三朗の声が耳元から聞こえたと認識した瞬間、九尾は腹に感じる激痛と共に樹木に叩きつけられていた。
しかし九尾は追いかけていた時の殺気が不思議と湧いてこなかった。

九尾は三成の言葉を聞いて決めたのだ。
首を跳ねるのも、心を暴くのも、全て己のみが許された権利なのだ、と叫んだ三成の言葉に共感したのだ。
その時間を誰かに奪わせはしないと決めた。
同時に三成の邪魔もしないと決めたのだ。

「っ凶王!!! 行け!!!」
「っ! ……言われるまでもない!!!」

九尾の気持ちが伝わったのか、それとも最初から己の思うままに動いているだけなのかは分からなかったが、答えて直ぐに三成は社へと駆けた。
すると三朗も邪魔する気はないのか、最初に言った通り、横目でチラリと走り去る三成を見ただけであった。

「さぁ、決着をつけよう……九尾」
「言われる、までも無い!!!」

ポタリと口の端から零れた血を拭いながら、冷めた瞳を九尾は苦々しく見返して、押し潰されたような心と共に吐き捨てて、刀を抜いた。