戌丸アット
2022-05-29 23:07:22
37730文字
Public 戦国basara
 

狐七化け、狸八化け

三家(戦国basara)




残念ながら斬撃は男が煙から作った剣により相殺されてしまったが、斬撃を放った正体はすぐに現れた
その姿を確認した家康は格子に近寄ると声を張り上げた


「何をしている、貴様!!!」
「九尾!!!気付いたんだな!三朗殿を助けてくれ!」
「やはり居た、か子狸も東照権現も手に入れた今、君の魂に興味はないのだが
「黙れ!今すぐ東照と三朗を返せ!!!」
「ふぅ、相変わらずの強欲さのようで残念だ相手をするのも面倒な気分だよ」
「なんだとっ!!!」


挑発しているのか本心なのかは掴めなかったが呆れたように溜息をついて男は、先ほどの剣を消したかと思うと悠長に傘を差して肩の水滴を払っている
一方、九尾は慌てて駆けつけたのか傘を差すどころか草履すら履いていない裸足の状態であった

しかも男の挑発的な言葉により空気が震えているのではないか、と思わせる程の闘気を出していた
だが、一向に男は気にしていない
するとこの闘気のお陰なのか違うのか、屋敷の廊下の奥から場を和ませるかのように間の抜けた寝起きの声が家康に届いた


「ふぁあんぁ?ちょいとアンタら、そこで何してえぇ!?家康!おまっ、どうしたんだよ!」
「け、慶次!!!こっちに来るな!逃げろ!」


声の持ち主は、今回の集まりの主催と言う事になっている前田慶次その人であった
寝ぼけてお腹をかいて歩いていた姿は間が抜けているが着物は派手でありながら洒落ている
一目で身なりの良い格好を着崩していた慶次は、檻に入っている家康を見るやいなや駆け寄ってきた

巻き込みたくなかった家康は逃げるようにと声を張り上げたが、慶次は笑いながら動きやすいように袖をまくる


「水臭いこと言うなよ!このニヤニヤしてるオッサンが犯人かい?ちょいと痛い目を見てもらうよ!」
「慶次!!!」
「はぁ、また増えたか私は必要以上の物は求めない主義なのだが」
「綺麗事を抜かすな!貴様がセン様から鏡を奪おうとしたのを忘れていないぞ!」
「おや?意外と記憶力が良いようだ、なら覚えておくと良い………君は騙されているのだよ?」
「なっ!?どういう事だ!!!」


敵意を向けている九尾の隣に立った慶次を見て、男は深くため息を吐いたかと思えば九尾は騙されていると告げる
しかし九尾の目は"真実を見極める"
嘘や隠し事は通じない筈なのだ

だが九尾は男を見て、戸惑った
男から嘘の気配を感じなかったのだ
嘘の気配がないと言う事は"男は嘘をついていない"と言う事になるからである
咄嗟に九尾の戸惑いを感じ取った三朗が、すぐ声を張り上げる
そんな三朗の様子は、家康から見ると何処か焦っているようにも見えた


「九尾!その男は嘘も真実も捻じ曲げる男だ!耳を貸すな!」
「っ!貴様に言われるまでもない、そこで大人しくしていろ!」
「九尾!」


三朗の言葉で戸惑いを振り払う事が出来たのか、九尾は三朗の言葉を強気に返す事で居住まいを正す
そんな九尾の反応を三朗も狙っていたのか、少し緊張がほぐれたような顔をする
これでいつも通り戦えるだろうと考えていたのだ
しかしそんな2人を見ていた男は、乾いた笑みと皮肉混じりの言葉を送る


「ふっ、子狸は子狐が滑稽な様を見せていても構わないと見えるまぁ、暇つぶしにもならないのは確かだ、帰らせてもらおう」
「なっ!?待て!!!」
「えぇっ!?うっわ!な、なんだこれ!」
「慶次!!!九尾!!!」


帰ると言い出した男に九尾は、持ち前の速さで男に斬りかかろうとするが刃は黒煙を斬ったのみであった
その間も慶次や九尾の周りには頭上まで黒煙は2人を包んでおり、もはや自分以外は確認出来ない程であった

そして煙が消えると共に男も、家康も、三朗も跡形もなく消えていた
何処からか響く、九尾と慶次を挑発するような言葉を残して


「もし彼らを取り返したいのなら、土地神の社へ来るといい私は君らを歓迎しよう」



幸い雨のお陰ですぐに煙は消えたが、まとわりつくように漂う黒煙に苛立ちを感じて慶次は八つ当たりのように大きく手を動かす
その間にも銀髪の青年九尾は止み始めた雨にも、まとわりつく黒煙にも抗う事無く一心不乱に上空を見つめていた
しかしそんな九尾を気にするでもなく、慶次は持ち前の明るさで彼に話しかける
部外者であろうと家康誘拐の場に居合わせたのだから無視は出来ない

「っはぁーなんなんだアイツ!と、とにかく政宗に言わないとちょっとそこのアンタ!アンタもついて来てくれ!」
何故だ、私は行かなければならない」
「行く?………まさか助けに行くつもりか!?」

慶次の言葉を無視して何処かへと去ろうとする九尾に首を傾げたが、すぐに合点のいった慶次は慌てて肩を掴んで止める
慶次からすれば見知らぬ青年は刀一本携え体中、包帯姿で悠々と消えようとしているようにしか見えない
しかも見かけた事もない部外者なのだ
勝手な事は阻止せねばならない
しかし、九尾と言えば不愉快そうに眉間に皺を寄せながら、慶次の手を鬱陶しそうに払う
九尾は慶次の事など眼中に無く、一刻も早く家康を助けに行くのが第一なのだ
外見からは想像出来ないが、家康と三朗が誘拐された事で九尾は十分動揺していた
なんとか助けねばと言う想いだけで九尾は立っているのだ
だが慶次も引くわけにはいかない
相手は変わった技を使うのだから、不用意に知らぬ者を巻き込みたくはない
慶次は喧嘩は好きだが戦う事、死が付きまとう事は嫌っている
巻き込まなくて済むなら青年、もとい九尾にも大人しくしていて欲しかった

「当然だ、私が助けに行かねばならない」
「ちょっと待てって!あんな変な奴を相手に一人で行くのは無茶だ!そもそもアンタ何処から入って来たんだよ!」
「貴様に説明する理由は無い」
「あのなぁ!」

しかし相変わらず慶次の想いなど知らぬ存ぜぬと、当然のように九尾は説明をしない
それは九尾と言う青年の、目的達成以外はどうでもいいと言う極端な性格を表している
此処で三朗ならば、言葉巧みに慶次を丸め込んだかもしれないが九尾はそれすらしない
九尾の態度に頭を掻きながら困り果てていると、左近が寝間着の格好で廊下から駆け寄ってきた

「あれ?慶次さんじゃないっすか!今日は早いっすねって!昨日の銀髪くん!」
………誰だ貴様は?」
「えぇ!?てか睨むなよ!あーアンタ、気を失ってたもんな俺は島左近!三成様の家臣だ!」
「みつなり?………そうか」

九尾を見るやいなや少々驚いたような表情で左近は思わず、指を指して声を張り上げた
しかし銀髪くんと呼ばれた九尾は、左近の顔をまともに記憶していなかったので眉を潜めて見つめるばかりである
だが九尾が左近に見覚えがないのは当然である
気絶したフリをしていて、目は開けていないので覚えていなかったのだ
しかし左近の知り合いか?と感じた慶次は先程より少々力を抜いて、九尾の肩を軽く叩く

「ちょっとちょっと!何々?二人共知り合いだったの?アンタもそう言ってくれればさー!」
「知らん」
「え?」
「声に覚えはあるが知らんもういいだろう、私は行かなくてはならない、邪魔するな」
「え?えぇ!ちょっ!勝手にどっか行くなよ、銀髪くん!えっとほら!家康は知ってるのかよ!」

知らないとさっさと話を切り上げようとする九尾に左近は慌てて、九尾の前に立つと家康を持ち出して止めようとする
だが家康の名前にピクリと眉を潜める九尾には、誰も気付かない
そして微妙な間が流れた後、左近の言葉に慶次が言いづらそうに話し出した

「いや、それがさ家康が攫われちゃって今、政宗に言いに行こうと思ったんだけどコイツが助けに行こう、と………あ」
「え!?家康がっすか!慶次さん?………み、三成様っ!」