さもゆ
2024-11-15 22:45:21
59923文字
Public BF
 

【BF腐】これは私の宝箱だ

8月に開催されたついったーの素敵企画「青いバナナの皮をむく」に参加させて頂いたやつと、リクエスト募集した時に書いたものをぎゅっとして箱に詰め込みました。本当にありがとうございます!

2019.10.3 たまごのお粥pixiv投稿作品


お題A英、天使パロ
※ふぁんたじー。めっちゃワンシーン。天使かどうかも怪しい。



見捨てられた子たち




 神様はお前をお見捨てなさったんだよ。

 という台詞は、一体誰が初めに言い出したのか明確に思い出せないほど浴びせられてきたものだった。
 それに関していやいやそんなことはない僕は神様を信じているしたとえそうだとしてもきっと神様が与えたもうた試練なのです、と返せる信心深さはもちろん持っておらず、端から俺は神頼みで生きてないんだ残念だったなとせせら笑う性悪さしか持ち合わせていなかった。
 神様が俺をお見捨てなさった?
 見捨てるも何も、生まれた時から一度も見守られた記憶がない。俺を見捨てたのは人前に姿を現さずそのくせ人の心に胡座かいて座っている尊大な神などではなく、それにまんまと操られている恐ろしい人間たちだ。俺にもその人間たちと同じ赤い血が流れているというのが更に恐ろしい。世の中クソである。
 ということをつらつらと考えながらなんとか生きてきて早17年。ここまで生きてこられたのが嘘みたいだ。本当に。
 神様を第一に絶対的に支配者に置いているこの街で、俺のような人間は大体早死にする。8歳の頃聖職者にレイプされたあの時に死んでいたっておかしくなかった。病気、暴力、事故、薬物、エトセトラ。俺を殺せるものが溢れ返っていたし、死にそうな目に何度も遭ったのに。神様に見捨てられた、というのはそういうことなのだ。見捨てられた者は不幸に死ぬ。
 それをふざけんなよと抗って生きてきたけれど、さすがにちょっとこいつはおかしいぞと思った。
 こんなに生きていられるわけがない。
 十を超えたあたりで一種の絶望にさえ襲われた。神に見捨てられた人間がどんなに足掻こうとそれくらいには死ぬ(もしくは殺される)のだ。もちろん、ふざけんなよ、と思っていた。死んでたまるか、と血反吐を吐いた。けれど、しかし、ほんの少しだけ期待していたのも確かだったのだ。やっと生きている苦しみから解放されるのでは? と。
 なのに十七まで生きている。
 これは、どちらだろう。神の情か罰か。絶対に後者だ。
 生きながらえさせておいて、酷い死に方をさせられるに違いない。
 その証拠に、ほら。
 足元から地獄の業火が舐ってきている。

 本人がおかしいと疑っていたのだから、それを周りが気づかぬはずがない。神に見捨てられた俺に対する不信は瞬く間に街中を食らいつくし、民衆を忠実な蛆のように蠢かせた。
 あいつ、まだ生きているの?
 神様に見捨てられたのに?
 なぜ? あんな人間が生きているだなんて。
 もしかして、悪魔にでも憑かれたんじゃないのか。
 悪魔?
 ……そうだ。
 そうね。
 火刑に処してしまおう!
 大まかな流れはこんなもんだろう。街の人間に束になってかかられたら17年で培ってきた戦術は何も役に立たない。殴られ縛られ括りつけられ、油を引っ掛けられて点火されて終わり。お終い。

 ──足裏の皮膚が焼ける。広場を満たす民衆(蛆の塊か、醜い化け物、はたまた悪魔に見える)の歓喜と祈りが炎の爆ぜる音と相俟ってまるで地獄を賛美しているみたいだ。ははは。笑えねえジョークだ素晴らしいな。
 こんな状況になっても、神様どうか、の一つとて浮かんでこない。祈る相手がいない。願う相手がいない。助けを乞う相手がいない。
 熱いだとか痛いだとか苦しいだとか死にたくないだとか、そういうことを感じるより俺を覆ったのはとてつもない孤独だった。
 ずっとひとりだった。
 ようやく、誠に遺憾ながら、生から逃れられるけれど。
 焼き殺されたって、ずっと、ひとりのままだろう。
 それはちょっと、嫌かもしれない。
 ぐっと瞼を閉じた。涙が出そうな気がしたが、気がしただけだった。出たところで、すぐに蒸発する。この炎を消せやしない。
 豪雨か、神風でも起こらない限りは、炎は俺を灰にする。奇しくも俺の名前の通りに。そうして、そうしたら、風に乗ってどこまでも行こう。それがいい。俺をお見捨てなさった神のところまで飛んで行って、灰だらけにしてやる。さあ、早く、早く──その時。
 その時、神風が吹いた。
 背後から吹き荒れた暴風は炎を攫い、広場を舞い踊らせ、人々を逃げ惑わせた。一瞬で視界が赤く燃え盛り、賛美歌は悲鳴に変わった。
 俺を焼くものはなく、磔刑場だけが無風で、熱もない。瞠目した目前に、白い何かが降りてくる。

「くそ」それが忌々しげに吐き捨てた。

 人間のようで、人間じゃなかった。悪魔とも違った。
 背中から三対六枚の真っ白い羽を生やしている。肩甲骨から生えた二つで頭を、腰骨から生えた二つで体を隠し、残りの二つで羽ばたいている。宙に浮いている。
 天使だ。
 天使が言った。
 
「神様は僕をお見捨てなさった。ちくしょう、もう使えてやるもんか!」
 
 それから翼の一枚が、まるで俺の代わりとでもいうように、音立てて炎を噴き出し燃え尽きた。顔を隠していた一つだったため、後頭部があらわになる。白とは対象的な黒髪だった。
「あんた、何」
 ほとんど発声できていない掠れた言葉に、中途半端になった翼を羽ばたかせ、振り返る。神様に見捨てられたと宣った、黒い髪に黒い瞳の天使は、炎を背後に力強く笑って見せた。
「ずっときみの味方になりたかった。ようやくなれた。遅くなってごめん、つらい思いをさせて、ひとりにさせて、ごめん」
 跪き、俺の戒めを解いて、そして抱き寄せてくる。
「僕はきみの味方だ。たとえ、神様に見捨てられようと、僕だけは」
 なんてちんけな台詞。
 だが、それは、本当は、俺が心の底から欲しかったものだった。
 
 街が燃える。
 誰かが──神がとても怒っている。
 
 ……神様は、お前たちをお見捨てなさったんだよ。
 それを一番初めに言うのは一体誰か。一人じゃなくなった今、そんなことはどうでもいいことだった。俺はどうやら、ずっと、見捨てられてなどいなかったのだ。