さもゆ
2024-11-15 22:45:21
59923文字
Public BF
 

【BF腐】これは私の宝箱だ

8月に開催されたついったーの素敵企画「青いバナナの皮をむく」に参加させて頂いたやつと、リクエスト募集した時に書いたものをぎゅっとして箱に詰め込みました。本当にありがとうございます!

2019.10.3 たまごのお粥pixiv投稿作品


お題月英
※謎の時間軸
※ふ、雰囲気雰囲気ぃ!



かわいそうな夜のこと




 どれだけ暴れても刺されることはなかった。
 意外だった。きっとすぐに、あの嘘みたいになんでもなさそうな細い針で、ぷすりと眠らされるかと思っていたから。
 ならば遠慮せず暴れてやろうと家具を破壊し、やってくる使用人に飛びかかり、知っている限りの罵詈雑言を叫んでいれば、ようやくこの館で一番押しのけたい月龍が出てきて、英二は振りかぶっていた電気スタンドを突きつけた。
「僕をここから出せ」 
 なんだかよく分かっていなかった。分からないままに、何日間も閉じ込められている。話を聞くより何より、彼のテリトリーから一刻も早く逃げ出してしまいたかった。誰だって、針の束を向けられているような空間には、いたくないだろう。彼は自分が嫌いなのだ。
 閉じ込めてから一度も訪れて来なかった月龍は、眩い明かりを向けられ寸の間顔をしかめたのち、仄かに笑った。
「暗闇でそうしてると、頭のおかしなやつみたいだね」
 言われた英二はぐっと電源コードを握り締める。
「もう寝るとこだったんだ。けどこのスタンドランプが」完全なる八つ当たり。「うるさかったから」眠るには瞼を焼きすぎる光だった。スイッチを押したりコードを抜くなどという穏便さで接するには、自分の寛容さが足りていなかったのである。
 月龍は向けられている攻撃性のない明かりを掴み、瞳孔をすっと細めた。蛇みたいだ、と思った。蛇。爬虫類。もしくは……龍。猫と似ているようで、その実全く似ていない捕食者の瞳。それがじっと英二を見ている。居心地が悪い。実際に針に刺された方がよほどマシだ。
「なんだよ。出してくれないなら、寝かせてくれよ」
「嫌いなやつに、寝かしつけを頼むの?」 
「きみが僕を嫌いなんだろ」
「嫌いだよ」
「そりゃどーも」
 こっちも同じさ、とは返さなかった。彼もそれを予想していたのか、言われなかったことで嫌そうに唇をひん曲げている。ザマーミロ。誰がお前の望むことなど言うもんか。
 苦手だけど、嫌いとか、そういうのじゃない。本音をぶちまけたら、そのお綺麗な顔が更に歪むだろうか。ちょっと面白いかもしれない。
 口を開きかけたところで、ぐいとランプを引っ張られた。「あっ」気をやっていなかった手元から、あっけなく武器兼防具が離れてゆく。ぶつり。コードが抜け、そして、部屋は暗闇に包まれた。
「何やって、ゆ」
 ユーシス、か、月龍、と呼ぼうとした喉は、ぶえっと間抜けな悲鳴を漏らした。闇が蠢いたように迫り、傾いた英二の体が背後のベッドに沈む。スプリングが軋んだ。心臓を氷で撫でられたか、もしくは針がぶっすり刺さる心地がし、息だけは確保しようと必死に顔を上向ける。仰向けにさせられた腹に体重が乗り、顔の横に闇が降ってきた。夜色のカーテン、それが隠している顔は月のように美しく冷たく、……それだけしか知らない。
「おい、なにす──」
 手首を強い力でベッドに縫いとめられる。
 視力はまだいっぱいの黒色に慣れていない。声だけが言った。
「嫌いじゃないなら、僕をどうか受け止めてみせてよ」 
 それきり彼は黙った。黙って英二の首に縋った。求め方や縋り方を知らない、ぎこちなくへたくそな動きで、頭を肩に押しつけてきた。
 掴まれた手首が痛がっている。
「そ、」
 そりゃないよ、と思う。
 ……きみは僕のこと嫌いなのに、そんな都合の良い話、そいつはないんじゃないのか。
 それに、受け止めるって、何をだ。だってきみ、抱えてるものが何か、一度だって僕に話してくれたこと、ないじゃないか。きみは僕のこと嫌いで、それだけが確かなもののはずなのに──
「離して……
 ──加えて何より腹立たしいのが。
「離してよ……
 求めているくせに、受け取ろうとしないのが、どうしようもない。
 僕は弱々しく訴える。離して。……手首はきっと痕がつくだろう。そうして、お前が受け止めてくれなかったのだと、非難してくるのに違いないのだ。これじゃ抱きしめることもできやしないのに。ばかやろう。