さもゆ
2024-11-15 22:45:21
59923文字
Public BF
 

【BF腐】これは私の宝箱だ

8月に開催されたついったーの素敵企画「青いバナナの皮をむく」に参加させて頂いたやつと、リクエスト募集した時に書いたものをぎゅっとして箱に詰め込みました。本当にありがとうございます!

2019.10.3 たまごのお粥pixiv投稿作品


お題何某かの理由で猫耳と尻尾が生えてしまったAを見た英の反応
※A英のつもり(自由に捉えたってください)



KAWAII




 人の頭から猫耳が生え尻から尻尾まで生えたというのに存外冷静なものだな、と少しつまらなく思う自分がいる。
 まあ、そりゃ、驚天動地の勢いで騒がれたら辟易するけれども。
 それにしたって、詳細は省くが猫耳尻尾が生えたと告げた時の彼の反応は普通すぎた。普通に驚き(「エッ、それって本物なの!? すげぇや!」)普通に疑問を抱え(「痛みとかは? 聴覚過敏になったり……あっ、人間の耳もちゃんとある。いつ元通りに?」)それから普通に家事に戻っていった(「洗濯するやつ早く出してね」)。
 普通、もう少し、突っ込んでこないだろうか。……もし英二に黒い猫耳と尾が生えたら、自分もそんなに気にかけないようにするかもしれない。目のやり場に、困るだろ、だって。……いい意味で。
 だがまさか英二も目のやり場に困っているわけではあるまい。人間の、しかも男の頭に獣の耳がつくなんてゾッとするが、そこらのビール腹のおっさんよりは似合っているはずだ。奇妙だが、おぞましくはない、はず。たぶん。傍から見て。(自分的にはわりとおぞましく、変態が喜びそうな見た目だとは思うし、きっと事実だ)……それに、日本人の感性ではKAWAIIに分類されるんじゃないのか、こういうの。あいつったら、触りもしなかった。
 そこまで考え、いやいや決してそういうふうに思われたいわけじゃなくただ単にあれだ、思ったより興味が薄そうで面白くないだけだと首を振る。頭を掻こうとして、手が髪とは違う感触を捉えて鳥肌が立った。うん、やはりあまりいいものではない。
「アッシュ、今日のお昼どうしようか? さすがにキャットフードは……
 洗濯から戻ってきた英二は扉からひょこりと顔を出し、ソファに座るアッシュをまじまじ見つめた。
……今ならアジの開きだって食べられそうな気がする」
 おどけて言うも、返事はない。「英二?」
 彼はちょっと躊躇って前に進み出ると、「許容範囲って、どれくらいかな」体の前で指先を弄んだ。
「許容範囲?」
「きみに、近づいてもいい距離?」
「なんだそれ」
「だって、猫……
 人差し指が頭をとんとんと示す。アッシュは見えるわけではないが目を金髪頭にやって、それから英二に戻した。
「山猫がお前と一緒にいるんだぞ。猫になったって変わらないだろ」
 大真面目に至極当然なことを言うと、英二にとっては当然でなかったのかきょとんとされる。「なんだよ」アッシュは意味が分からなかった。
 猫=警戒心の強い生き物、の公式があるらしい英二が、どうして今更それを持ち出すのか摩訶不思議だ。お前、今まで一体誰と暮らしていたつもりなんだ。一緒にいるのは山猫と恐れられるギャングのボスなのに。許容範囲も何も、……それはお前が決めるものだろう。
「じゃ、じゃあさ」
 英二はそわそわと足踏みした。
「触っていいの?」
…………いいけど。耳なら」
 答えると、足音を立てたら飛びかかられるとでも思っていそうな足取りで近づいてくる。アッシュよりよっぽど猫みたいだった。
 そうして目の前に佇み、これまたそろりと手を伸ばしてくる。「さ、触るぞ」「どうぞ」なんだかこちらまで緊張してくる。アッシュは頭を差し出した。
 掌がまず窺うように側頭部を撫でた。爪が僅かに耳(人間の方のだ)を掠り、それは触る必要がないのではと思ったものの好きにさせる。髪を掻き混ぜられた。
 掻き混ぜたくせに指先で梳いてきて、ストリートの女たちが長い髪でお互い遊んでいたのを思い出した。男でもああいう心境になったりするのかもしれない。
「髪、さらさらだ……
 感心したように呟き、ようやっと指の腹で猫耳を摘んだ。感覚的には、肘の皮膚を触られたのと似ている。
「うわ、わー、薄い……猫の耳だ……本物だあ……
 生え際をやわやわ揉まれる。すりすり撫でられた。アッシュは下唇を噛んだ。なんだこれ。すげえ恥ずかしい。
「おい、英二」
 もういいだろ、堪りかねて言おうとしたら、遠慮をなくした英二が楽しそうに声を上げた。
「なんだよもう、飼い猫みたいじゃないか。かわいいなあ」
 KAWAII……アッシュの四つの耳は確かにその音を拾った。
 じわ、と首が熱くなる。頭を撫でる手つきは少しガサツで、多くの慈愛に満ちていて、耳をくすぐったくさせる。
 アッシュは猫の髭でも胸の内に入り込んだかと思った。咄嗟に頬を触る。大丈夫だ、生えてない。
……くすぐってえ」
「あ、感覚あるの?」
「多少」
「へえ、凄いな、ほんとどうなってんだろこれ」
 両の猫耳をぺたぺた触っていた手は、やがて、その下の人間の耳にまで至った。「おい、」ぎょっとして肩を跳ねさせる。お構いなしに耳朶を揉み始めた英二は変わらず楽しげだった。
「あはは、なんだろう不思議だ。猫耳もあんのに人間の耳もって。音が二倍で聞こえたりする?」
「いや、……おい、英二、」
「耳たぶの方が柔らかいや。猫耳は動かせるの?」
「おい」
「これが似合う男って中々いないぜ? 高校の文化祭で見たことあるけど、野球部はひどいもんだった……あ、ねえ、にゃあって言ってみてよ。こんな機会そうそうな──」ドスッ、目の前の薄い腹に頭突きをかました。ほぼ鳩尾に入った上から呻き声が降ってくる。「ぐっ」よろめいた体に腕を回し、回されて、アッシュは英二の胸から恨みがましくやけくそに見上げる。
………………にゃあ」
 英二は間抜けにも口をぽかっと開けると、アッシュをじっと見つめ、ゆっくり視線を逸らし、その後しがみついていた手で金髪をぎこちなく撫でていった。そっぽを向いた横顔が、ほんのり赤くなっている。じわわ、アッシュの首から熱が上がった。
「か、かわいいなーきみ。かわいいかわいい」
 なんだこれ。
 アッシュは目のやり場に困って、離れるのも悔しくて、腹いせにぐりぐり頭を押しつけてやった。
……ちなみに尻尾は」
……金取るぞ」