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さもゆ
2024-11-15 22:45:21
59923文字
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BF
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【BF腐】これは私の宝箱だ
8月に開催されたついったーの素敵企画「青いバナナの皮をむく」に参加させて頂いたやつと、リクエスト募集した時に書いたものをぎゅっとして箱に詰め込みました。本当にありがとうございます!
2019.10.3 たまごのお粥pixiv投稿作品
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お題
…
A英、花吐き病パロ
※謎の世界線、嘔吐表現、ありきたりなハピエン注意
完全無欠の秒速ハピエン
大切な友人が目の前で花を詰まらせて死ぬなんてことになったら、トラウマものだと思う。
しかも、花びらを大量に詰まらせるならまだマシかなと思うけど、そうじゃなくて、ウッと嘔吐いたかと思えばげぼげぼ重苦しい咳をして、それからばさりと口から枝を生やしたら。
僕はちょっと古めのホラー漫画の登場人物ばりに大声を上げて、これは何かのドッキリだと思い込むのに失敗し、「うわあ! いやだ、死なないでくれ!」無様に喚きながら彼の前へ膝を着いた。
僕はそれが死をもたらすことのある奇病だと知っていた。
ニュースでもよく取り沙汰されるし、夏の特別ドラマの恋愛のスパイスにだってされる。あのドラマは、最終的には悲恋だった。終わったあとのSNSで批判が多かった。僕もこっそり悲しく思っていた。だって、てっきり、主役二人は結ばれると思っていたから!
現実もきっとあんな感じだ。吐いた花を束にしてお互いに贈りあってハッピーエンドに幕が下りるなんてことは、希少なことに違いない。
目の前の男には絶対にその希少なことを体験してほしかった。だって、そんな、嘘だろう?
まさかきみに恋い焦がれる人がいたとは!
僕は知らなかったんだ。気づかなかった。
ねえ、きみ、分かってる? きみが今床に向かって嘔吐いて必死に吐き出そうとしているそれは、きみの恋心なんだよ。おかしいよね。この病気を世界で最初に発症した人の台詞、見たことあるでしょう? “私は気づかぬうちに目に見える愛を吐けるようになってしまった”そのあと、必ずこう続くんだ。“そしてこれは、とても汚い”その人はきっととても苦しい恋をしていたんだろうね。じゃなけりゃ、そんなこと、言えやしない。
汚くないよ。汚くない。きみはそれが自分の恋心だって、気づいていたのか気づいていなかったのか、とにかく、溜まりに溜まってとうとう溢れるほどになってしまった愛だってことを、ちゃんと分かってるはずだ。きみは臆病で卑屈だから、どうせ隠そうとしていたんだろう、こんな汚いものをって。そして僕は、まんまと宝探しが勝手に始まっていることに気づかず、きみの口から意図せず宝が零れてようやく知った。一体いつからだ?
僕はきみが誰かに恋しているなんて、気づかなかったし、知らなかった。
すごく気になるよ。とても気になる。きみが片思いする人間はどれほどのもんだろうって。ごめん、少し上から目線なのは許してほしい。心配ゆえの言い方だ。
だって、僕たち、大切なのに。
正確な言葉を選べないくらい、一番の存在なのに。
どうしてその僕に黙って耐えてたんだよ!
僕はそんなに信用できない人間だったのか? そりゃ、色恋については完全なるビギナーだよ、異論はないさそこには。けどでもだって、しかし、しかしながら! 死ぬかもしれない病に罹っていることを教えないのは、どうかと思う! 恋愛面については一緒に暮らしている上で気遣いが大事だから、別に、相談してくれなくたって構わないけど、生死については違うだろう。わけも分からず大切な同居人が衰弱して死にゆく様を想像してみろよ、ついでにそれを見守る僕のことも想像してみろバカやろう。
とにもかくにも、頼む。死なないでくれ。きみが誰に恋しているかはあとでいい、死なないでほしい、きみに死なれたら僕は、
……
それに、誰かに片思いしたまま死ぬなんて、悲しすぎる。きみには幸せになって貰わないと、生きていて貰わないと、そのためには僕は──
「ごめんアッシュ!」
──僕は彼の口から生えた、喉でつっかえているらしい枝を掴み、勢い良く引き抜いた。
嘔吐恐怖症の人が聞いたら卒倒しそうな呻き声とともに、花となった胃液やら涎やらがぼとぼと落ちていく。ううえええ、アッシュが這い蹲って咳き込む度、床が彩った。
それは全部薄紅色だった。見知った花だった。アッシュの喉から引っこ抜いた、僕の手にある枝は、たくさん花弁が咲き誇っていた。
……
桜、だ。
さくら、桜! ここで重要なのはこの病で吐く花はランダムで、想い人に対する花言葉の花を吐くとか、イメージカラーに見合った花を吐くとか、そういう分かりやすい規則性は未だ発見されていないということだ(ただし、ドラマや小説の中ではお話の嘘としてそういうのが用いられることがある。あのドラマもそうだった)。この病は、ただ、ただ、花を、吐く、だけ! そして実らぬ恋に翻弄され衰弱して死ぬ。規則性がないのは、恋に規則性がないからかもしれない。たまったもんじゃない。くそ。
僕は久方ぶりに見た母国の花に一瞬懐かしさを覚えたが、それがなんの解決にもならないことを思い出して、震えるアッシュの肩をすぐに掴んだ。
「アッシュ、アッシュ、大丈夫かい? 窒息せずに済んだ? 水はいる? 何か言うことは? 死んだりしない? 誰に恋してるんだ、僕はきみが生きるためならその人を引っ掴んだってきみに惚れさせてみせるし全面的に協力する、僕が邪魔で恋愛できないってんならすぐにでもここから出てい」バネのように腕が伸びあがって僕の胸倉を鷲掴み、普段からは考えられないほどよく回る口を閉ざさせた。
そして床に引き倒される。
薄紅の花弁が二人分の急な動作を受けて舞い上がり、それらが着地するより早くアッシュが言った。
「なんで引き抜いたりした」
口元に桜の花びらが引っついている。僕を見下ろすせいで顔にかかる金髪にも薄紅が見えた。こんな状況じゃなければ、素直に綺麗だと言うところだ。
彼はとてつもなく怒っていた。
枝ごと花を嘔吐するというのは人体にとても負担がかかる。その直後に、僕を力任せに引き倒し、馬乗りになるくらい激怒している。理性的になろうと必死に呼吸し、感情を殺そうとしている。
「嘔吐中枢花被性疾患。接触感染する。根本的な治療法は未だなく、完治するのに必要なのはおとぎ話のお姫様になることだけだ。ハッピーエンドの」わざとおどけて言おうとしたらしい声は変に上擦り、余計に怖かった。「分かるよな? なんで引き抜いたりした」
僕は胸倉にある腕を掴み、「だって」腹の底がむかむかし出したままに言う。「普通、引き抜くだろう。口から、枝が生えて、死んじまうかと」
「お前が手を貸さなくったって俺は一人で吐けてたんだ」
「喉に餅を詰まらせたお年寄りはみんなそう言うだろうね」
「ここはアメリカだ」
「それがなんだよ。アメリカ人だって餅は脅威──」
「お前が、もし、感染したら」
胸倉を掴んでいた拳を震わし、アッシュは僕の肩口に頭を寄せた。
「俺は、お前を、手放さなきゃならない」
言葉のわりに、縋る響きがこもっていた。
「どこの国の相手とも知らねえ人間を追っかけて、この国を出て、それでお前が死なずに済むなら、俺は大人しく身を引くよ。
……
約束する」
何かがおかしい。
思ったが、それに彼の中で事態が飛躍していることも察したが、よく考えて発言する時間を設けたら彼は自分の上から退いてそのままどこかへ行ってしまいそうな気がしたので、僕は逃がしたくなくて咄嗟に金髪頭を抱え込んだ。
「ええと、待って、まず最初に、僕はまだ、感染していない」
……
腹の底が、むかむかする。
「感染していないというか、だって、そんな相手、いないよ」
この国を出てまで追いかけていきたいような相手は、今のところ、この国から出ていく予定がない。
「だから、別に、きみの吐花を触ったところで平気だし、きみは僕を殺さない。平気さ、アッシュ。そんなことより、僕のことよりきみの方が」
その時、腹の底、胸の内、喉の奥、場所は明確じゃないが、体内を駆け上がってくるものがあった。
鼻に芳香が上り詰めた。
ウエッ。
羊の首を絞めたようなひどい声と、それに似合わない鮮やかな黄色が舞った。僕の口からビックリ箱宜しく飛び出した。
げほっ、溢れ出てくる。まずい。これは駄目だ、苦しい。仰向けは自殺行為だ。アッシュがハッとして身を起こし、「英二!」怒りか悲しみかで歪んだ表情と手を向けてくれる。
助け起こされ、僕は遺憾無く嘔吐いた。背中を撫でさすってくれる掌に促してもらい、げろげろ不慣れに吐花した。ひらひら、黄色い花びらが落ちる。ぼとぼと、本体が続く。
向日葵だった。胃液や涎や唾、何もかもが花や葉に変わり、それを吐き出すのは途方もなく大変だった。幸いなことに、茎は付いていない。でも、症状が進行したら、そのうち根ごと吐けるようになったりするのかもしれない。
床は最早二つの季節が入り乱れ、ちょっとした吐瀉花アートになっていた。
「あ
……
っ、ゲホッ、あっしゅ、」
「喋るな。黙って吐け、そのうち治まるから。
……
やっぱり、お前、」
「ちが、うえっ」
「すまない」
違うんだ。即答したいのに、実際は違わなかった。きみのせいじゃない。きみのせいじゃないけど、きみは僕を殺せる。
片思いを拗らせると発症する花吐き病。
僕はきみが人間の中で一番大切で、好きで、愛している。これが片思いであると病原菌は判断したらしい。恋愛ドラマの題材にされるような恋心である、と。
ふざけるなよ。そんなもんで一括りにするな。そんなんじゃない。僕は、あのドラマの主役のように、身を焦がすような苦しくて切ない想いになど囚われていない。
でも、結局、あの悲劇的な主人公のように、相手を慮って身を引ける。僕はそうすることができる。そうすることで、何より大切な人の命が助かるなら、当然だ。
やっぱり現実は完全無欠のハッピーエンドにはならない。
アッシュ。僕は彼の名前を呼ぼうとした。僕のことはいい、きみについて話し合おう
――
。
「ごほごほっ、うあ、あー
……
げほっ」
言葉は一つとして出てこなかった。喉が
……
、喉に、花びらが張りついている。ぺったりとくっつき、それが更に嘔吐感を増幅させ、生理的な涙に作用する。
あらかた向日葵を吐き終え、それでも噎せ続けている僕を心配して、アッシュが顔を覗き込んできた。
「おい、大丈夫か」
「うええ」
僕は喉を押さえて首を振った。水、水があったら取れる。涙目で訴えると、彼は口をぐっと引き結んだ。それから静かに言った。
「
……
約束はやっぱ無理だ。手放せない。ごめん」
打って変わってヤケクソな手つきで僕の顎を掴むと、唇をぶつけてきた。
「ぶっ」僕の唇が潰れ、歯もがつんと音を立てた。口同士が衝突事故を起こした、という認識は、そののちアッシュが舌を突っ込んできたのでもしかしなくとも救出作業である、と改められた。
口の中に割って入ってきた舌は上顎をなぞり、柔らかいところをつついてくる。「んえ
……
っ」花に変わらない普通の唾液が滲み出て、アッシュのものと混ざり、ぐちゅりと水っぽい音を響かせた。
「やっ、うぐ」
舌が奥まで入り込んでくる。息をするのも忘れ、苦しくて追い出そうと舌で抵抗を試みるも、逆に絡み取られ舐られて、これじゃあキスみたいだ! と愕然とした隙に逃げられる。そして、上顎の奥、喉に差し掛かっているところを先端で弄られた。「んぐ
――
ッ」吐く! 思わず彼の胸板を叩く。
そうして舌は奥から手前に舐めたのを最後に、あっけなく出て行った。涎が僅かに糸を引くのを見て、僕は慌てて口を覆う。忘れていた呼吸を荒々しく思い出した。
「
…………
」
アッシュは、舌で剥がし取った向日葵の花びらを指先でつまむと、濡れた口を拭っていた。
「
……
ああ、あー、アッシュ」
目を合わせられない。
咳は治まっている。
「その、ありがとう」
「違う」
「な、何が」
「今のは、
……
下心も、あった」
「下心」
アッシュが咳き込んだ。胸を叩いている。また吐花するのかも、僕に下心ありでキスした、その口で。誰かを想って? なんだかちぐはぐだ。下心だって?
「アッシュ。よく分からないよ、つまり、え? 僕はどうすればきみを」
「死から救えるか?」
「そう。きみは想い人と両思いになって、治さないと、死んじゃう」
「キスして」
「ぱーどぅん?」
「英二がキスしてくれたら治る」
「なんだって?」
げほごほっ、アッシュは体を折って咳込み始める。ひゅうひゅう鳴る喉から絞り出された声は掠れていた。
「でも、お前は、違うだろ」
僕の胸からも込み上げてくるものがあった。奥底から甘いにおいが漂ってくる。けほ、咳をした。けほけほ、けほけほげほっ。食道を上がってくる。しかし花となって口から出るには決定的なものが足りていなかった。
お互いキレがない吐き気に気持ち悪くなりつつ、そんな彼の腕を引っ張って僕は翡翠を見据えた。
「違くない。治療法は一緒だ。キスして」
目を見開くタイミングは一緒だったと思う。
僕たちはとうとう、げぼりとそれを吐いた。
薄紅と黄色の中に白銀が二つ転げ落ちる。大ぶりの百合だ。お互いがお互いの口から百合がまろび出るのをしかと見ていた。
この病は、片思い相手と両思いになったら完治する。その際、白銀の百合を吐いて、それで終わり。とことん奇妙で、不可解。だから恋物語のスパイスにされる。
お互いの吐いた花を束にして贈りあってハッピーエンド、おとぎ話の愛する二人がキスして幕が下りる、なんてこと、そんな希少な現実は
――
「英二!」
「アッシュ!」
――
どうやら僕たちが起こすみたいだ。おわり!
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