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柚子子
2024-09-22 20:57:34
113107文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(1)
サイトに掲載している長編の第一章です。
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「
…………
」
「ンだゴルァ」
「いや、なんでもない
……
」
「てめえぶっ殺されてえのか!?」
「なんで怒るの
……
」
隣の席に座った爆豪勝己は思いきり睨みつけると椅子を鳴らしてふんぞり返った。
朝一番に唐突に行われた席替えの結果、私の新しい席は教室の真ん中の列、一番後方の席になった。席の位置だけ見ればなかなかいい席だ。いい席のはずなのだ。
隣の席が爆豪勝己であること、以外は。
駅のコンビニではち合わせて以降、爆豪勝己にやたら絡まれることもなくなった。というより、あの二日間が異常だったのだろう。もとの地味な生活に戻った私は、こうしていたって平穏な日々を送っている。
そもそも爆豪勝己と私との間には、同じ教室で授業を受けているということ以外の接点がない。無意識の状態でも「ガンつけている」と因縁をつけられることが分かっているので、意識的に爆豪勝己から目を逸らすよう努め、あとはとにかく今まで通り爆豪勝己を避けまくる。それでひとまず、何の問題もないはずだった。
その平穏も、しかしこうして終焉を迎えようとしている。
隣の席で、行儀悪く机の上に足を投げ出している爆豪勝己の方をちらりと見て、私はすぐに視線を逸らした。あんまり見ていて、また先ほどのように急に怒られてはたまったものじゃない。
溜息をつき、次の授業の準備を始める。
切り替えだ。決まってしまったものは仕方がない。切り替えて、気持ちを立て直すしかない。
最悪の席を引いてしまったからといって、自分のやることは変わらない──滔々と、自分にそう言い聞かせる。大切なのは気の持ちよう、そして明確な目標への努力。
今はとにかく受験勉強に邁進するのみだ。ほかに気を散らしている余裕などあるはずない。
休み時間、単語帳をめくっていると、ふらふらと友人が近づいてきた。先ほどの席替えで一番前の席を引き当ててしまった子だ。どうにも顔色が悪いのは、多分その席のせいだろう。次の授業の先生は、一番前の席の生徒に答えさせることが多い。
「
名前
、私のこと助けると思って予習したところ写させてくれない?」
開口一番、泣きついてきた友人に、私は思わず顔を顰めた。
「ええ
……
、見せてって、予習してこなかったの?」
「昨日寝ちゃってさあ
……
本っ当に申し訳ないと思ってる」
そういうわりに、悪びれた様子もない。可愛らしく片目を瞑ってのお願いに、私は渋るふりとをしながら「わかった」とノートを手渡した。
「いいけど、ちゃちゃっと写しちゃってね」
「ありがとう! このお礼はいつか必ず」
「お礼はいい、それより急いだほうがいいよ」
友人は私からノートを受け取ると小走りで自分の席に戻っていく。その後ろ姿を、私は苦笑しつつ見送った。
私の友人はほとんど全員が優等生タイプだ。本来は予習や宿題に手を抜くことはなく、だからこそ、こうしたたまの頼みにノートを貸すことにも抵抗を感じない。
逆にいえば、まじめな性格の友人相手でなければ、私はノートを貸したりしない。自助努力を怠る人間を助けてやる義理はないからだ。
我ながら、あまり性格がよくない自覚はある。私がヒーロー科を志望しない理由のひとつだ。そもそも私は、ヒーローに向いた性格をしていない。
ぼんやりしていると、ふと隣から激しく痛い視線が刺さった気がした。隣──つまりは爆豪勝己だ。
視線が本当に向けられているのか確認しようにも、うっかり彼と目が合いでもしたら困る。またぞろ文句をつけられるに決まっているからだ。
隣からの視線には、気が付かなかったふりをした。そのまま視線を単語帳に戻す。しばらくして、ようやく刺々しい視線が外れたのが分かった。ほっと安心したのもつかの間、今度は確実に聞こえる音量で舌打ちをされる。
今の舌打ち、絶対私に向けての威嚇行為だ
……
。
内心冷や汗をかいた。爆豪勝己に舌打ちされるようなことをしたつもりはない。何が彼の機嫌を逆撫でしたのか皆目見当がつかず、そのことが余計におそろしい。
こんなことが次の席替えまで何度も続くのか。そう思うと気が遠くなりそうだった。
★
悪いことは重なる。朝一の席替えだけでも不幸のお腹いっぱいだったのに、受難はそれだけに留まらなかった。
三年生に進級してもう数か月経つというのに、うちのクラスは係や委員会の名簿を作成していなかったらしい。委員会自体は四月に決まっているが、それを一覧にして教室に貼るための掲示物については、未だ手つかずの状態だという。
そしてその名簿を作る係に、たまたま教師の目の付いた私と爆豪勝己が任命されてしまったのだった。これを不幸と呼ばずして何と呼ぶ。
「職員会議が終わったら見に来るから、それまでに頼んだぞ」
パソコンで情報を打ち込んだだけのメモと画用紙、油性ペンを私に押し付けて、担任はさっさと教室を出ていってしまった。残された私は釈然としない思いを抱きながら自分の席に戻る。内申点のため。内申点のためだから仕方がない。
頼まれたのは私と爆豪勝己だが、しかし放課後の教室には当然のように私しかいなかった。クラスメイトはみな下校したのか、とにかく誰もいない。爆豪勝己も、きっと下校したのだろう。
まあ、いない人間をあてにしても仕方がない。はなから期待もしていない。さっさとやって、私も帰ろう。怒る気も起こらず、私は作業に着手した。
「ええと、委員長はー
……
」
間違えてやり直しになるのを防ぐため、ひとりでも声出し確認しながら進めていく。いざ作業を始めてしまうと、案外すぐに没頭することができた。もともとこういう地味な作業は嫌いじゃない。ひとりで黙々と仕事を進めるのは、受験勉強のいい気分転換になった。
こうなってくると、爆豪勝己が不在でかえってありがたかったのかもしれない。そんな考えまで浮かんでくる。
なにせ私が何をしても、爆豪勝己はまず間違いなく怒るのだ。良くて舌打ち、最悪本気でケガさせられかねない。きっとこのクラスで彼にあそこまで嫌われているのは、私と緑谷くんくらいのものだろう。私が一体何をしたというのか、それはもう考えないことにする。考えたところで納得できるとも思えない。
頭の片隅で思考を遊ばせつつ、手元は淡々と作業を進めていいく。と、ふと机の上に大きな影が落ちた。つられるようにして、視線を上げる。
爆豪勝己が私の机の横に、ふんぞり返るようにして立っていた。
「う、うわぁっ!?」
驚きすぎて思わず大声をあげた私に、爆豪勝己はこれ見よがしに大きな舌打ちを打った。
「チッ、うるせえ根暗」
「ね、根暗じゃない
……
ていうか、え、帰ったんじゃないの?」
姿が見えないものだから、てっきりトンズラこいたと思っていたのに。呆然として尋ねれば、爆豪勝己は心底呆れたような、それでいて不機嫌さはしっかり滲んだ器用な顔面を作る。
「は? サボって内申下げられたらどうすんだ、便所行っとっただけだわ」
「あ、そうなんだ
……
」
存外真面目なところがある。爆豪勝己も私と同じ動機に突き動かされていることを知り、なんだか複雑な気分になった。同じモチベーションを持っているのに、驚くほど親近感を感じない。
私の隣の席にどかりと座り、爆豪勝己がこちらに手を差し出す。
「さっさと半分貸せ、陰キャ」
「陰キャ
……
」
随分ひどい言われよう。ともあれ一応、一緒に作業をやってくれる気はあるようだった。言われた通り作業用の用具一式の半分を爆豪勝己に手渡すと、すぐに彼は作業を開始する。真一文字に結んだくちびるから察するに、私を相手に余計な会話をする気ないらしい。なるほど、それなら大歓迎。こちらにとってもその方がありがたいに決まっている。
二人がかりで取り組んだ作業は、あっという間に完了した。完成した掲示物を、黒板の横の掲示板に画びょうで留めておく。わざわざ担任を待たなくても、掲示しておけば作業が終わったことは伝わるだろう。
この程度の軽作業であれば、別の機会にまた引き受けてもいいかもしれない。思いがけずすっきりした気分でかばんを肩にかけたところで、爆豪勝己がぶすっとした顔で私を見ていることに気が付いた。
「あれ、まだいたんだ」
ついつい本音が口からこぼれた。掲示物を留めたり、使った文房具を片付けたりといった仕事は私がひとりで済ませたので、今度もまた、てっきり彼は帰ったとばかり思っていた。
同じ教室内に居ながら完全に爆豪勝己のことを忘れることができたのは、私の日々の「爆豪勝己の存在を意識しない」特訓の賜物だろう。成果が出ていて喜ばしいかぎりだ。
「えーっと
……
一応、頼まれてた仕事は終わったんだけど」
ほぼ無言での作業だったため、もしかしたら進捗状況の共有ができていなかったのではないか。そう思い、とりあえず状況を説明する。しかし爆豪勝己は、
「あ゙ァ?」
「いやなんで喧嘩腰
……
終わったからもう帰っても大丈夫だよって言っただけじゃん」
凄まれ、こちらもむっつりと睨み返した。なんとなく、気迫で押されたら負けな気がした。
「うるせえ根暗モブ、俺に指図すんな」
「じゃあ私帰るから、さようならまた明日」
「何勝手に帰っとんだ殺すぞ!」
「本当に何なの爆豪くん」
同じ言語を話しているはずなのに、まったく意思の疎通が図れない。怒鳴りつけられているから、爆豪勝己が何かしらに腹を立てていることだけは分かるのだけれど、それ以上のことは何一つ伝わってこなかった。生後間もない赤ちゃんでももう少し分かりやすく泣くだろう。
と、爆豪勝己はぺたんぺたんと上履きを鳴らしながら、こちらに向かってきた。残すところ一メートルくらいまでその距離を詰めると、爆豪勝己はおもむろに「おい根暗」と私を呼んだ。
「私に話してる?」
「てめえ以外誰がいんだよ」
「私の知らない根暗な誰かがいるのかと」
「今この教室にいる根暗はてめえだけだ」
嫌なオンリーワンだな
……
。
「たしかに爆豪くんと比較したら、相対的に私の方が根暗ということになるんだろうけど
……
。まあいいや
……
それで、何かな」
不毛な議論に時間を費やすより、さっさと家に帰りたい。疲労や呆れが顔に出ないようにして返事をする。
爆豪勝己はぶすっとした表情のまま、しばらく威嚇するように私を睨んでいた。やがて、舌打ちしてから口を開いた。
「生意気なツラでガンとばされんのも大概腹立つがよォ
……
、てめェごときモブに無視されんのはそれよかさらに腹が立つ」
「
……
いや、ちょっと意味がよく分からないんだけど」
「てめェごときが露骨にシカトしやがって、どういう了見だァ?」
ぶつんと彼の血管が切れた音が聞こえた気がするけれどきっと気のせいだ。それよりも、ようやく判明した爆豪勝己の不機嫌の理由に、私は呆れを通りこし、いっそ感心すらしていた。
よくもまあ、そんなことでここまで怒り狂えるものだ。爆豪くんの言い方だとたしかに私に非があるように聞こえなくもないが、元をたどれば爆豪くんの方が私にそうさせるよう仕向けたも同然だというのに。
こうも立て続けにキレ散らかされていると、私の方でもだんだん、爆豪勝己のキレ芸に慣れてくる。
「もしかして最近私が爆豪くんのこと避けてた話してるの?」
「やっぱ避けてやがったんかてめェ!」
「そうだけど、
……
本当、爆豪くんって私が何しても怒るね」
「てめェが! 俺を! 怒らせてんだろうが!」
「そうかなあ? じゃあ、ごめんね」
「適当に謝ってんじゃねえ!」
もはやわざとやっているのではないかというくらい、何にでも怒る爆豪勝己。怒れる彼をなんとかなだめようと、私は適当に話を合わせた。一向になだまっている気配はないが、それもまあ仕方がない。
「ところで私帰るけど、爆豪くんも帰る?」
「帰るに決まっとるわクソボケが」
「クソボケって中学生が言う暴言とは思えないんだけど」
そんな悪口、今日日小学生だって言わないだろう。クソボケて。苛立ちすら湧いてこない。
爆豪勝己はいまだ、何やらぎゃんぎゃん言っている、ヒーロー志望とは思えない柄の悪さに閉口しつつ、私たちは教室を出た。明日から、爆豪勝己を避ければいいのか言い返せばいいのか、一体私はどうしたらいいのだろう。
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