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柚子子
2024-09-22 20:57:34
113107文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(1)
サイトに掲載している長編の第一章です。
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私が通う中学校、公立折寺中学校はゴミの掃き溜めみたいな学校だ。
モラルや倫理観を感じさせる生徒はごく一部だけ。あとの生徒は規則で禁じられているにも関わらず、校内でも平気で個性を使用し、あまつさえ無個性の子を、無個性だからというただそれだけの理由でいじめの標的にしたりする。
マナーもモラルも、あったものではない。悲しいことに、教員すらも笑いながら注意するだけだ。本当に、最低で最悪。
けれどそれを止めない私も、やはりもれなく、最悪な人間の中のひとりだった。
★
「
名前
はどこの高校行くの?」
次の授業の予習をしていた私は、声を掛けられ顔を上げた。友人の言葉はおそらく、前の時間に進路調査票が配られたのを受けての質問だ。けれど「どこの高校」という言葉によってさっきの不愉快な出来事を思い出し、思わず私は眉間に皺をつくった。
うちのクラスには無個性の生徒が一人いる。緑谷出久くん。とくべつ仲がいいわけじゃないけれど、クラスメイトなので時々言葉を交わすこともある。さっきの不愉快な出来事というのは、この緑谷くんに関連していた。
緑谷くんが雄英を受けるらしい──
それを聞いた瞬間、爆豪勝己は凄まじい怒りっぷりを披露したのだった。
爆豪勝己もまた、私のクラスメイトだ。こちらは緑谷くんよりもなお、私と縁が薄い。
彼と私とはほとんど会話をしたことがなかった。いや、ほとんどどころかまったく、視線すら合わせたことがない。爆豪勝己はいわゆるヤンチャな同級生で、はっきり言って私とは正反対の、できることなら今後も一生かかわり合いになりたくないタイプの生徒だった。
爆豪勝己が緑谷くんを馬鹿にし、何かにつけて目の敵にしているのは知っている。けれど、あれはさすがにやりすぎだろう。ああして大勢の前でひとりを嘲笑するなど、まったく理解の範疇を越えている。
誰がどの高校を受けようが、そんなものは個人の自由だ。それをとやかく言う権利は誰にもない。それに、折角の強い個性をあんな風に人を傷つけるために使うところも、はっきりいって軽蔑に値する。
「
名前
? 聞いてる?」
思い出してもやもやしていたら、友人に肩を叩かれた。完全にさっきの質問を無視して自分の世界に入り込んでいた私は、慌てて笑顔を張り付け答える。
「ごめんごめん、受験する学校だよね? 夢咲女子だよ。普通科」
わざわざ普通科と付け足したのは、クラスの大多数がヒーロー科を受験するから。『普通』科とは名ばかりで、昨今はヒーロー科に進学する受験生の方が多い。
しかし友人が気に留めたのは私が受験する学科ではなく、そもそも受験する学校名の方だった。
「えっ、そこって確か
名前
が中受で落ちたところじゃなかったっけ?」
驚いたように聞き返され、私は頷いた。
「そうそう。だからリベンジ受験」
「へえー、そんなに行きたいんだ。夢咲女子」
しみじみと言われたが、私は頷くこともせず、ただ笑って誤魔化した。
正直に言ってしまえば、どうしてもそこの学校に行きたいわけではなかった。その学校で、特にやりたいことがあるわけでもない。家から近いわけでもない。
ヒーロー科が主流になっているとはいえ、今でもほとんどの学校は普通科クラスを用意している。ヒーロー科というのは受験者数が多いだけであって、みんながみんな入れる学科でもない。もっと家から近い高校にも、普通科がある高校はたくさんある。
三年前、夢咲女子の中等部の入学試験の日、私はひどい胃腸風邪をひいていた。朦朧とする意識のなか、点滴をしながら何とか試験だけは受けたものの、試験中の記憶はほとんどなかった。結果は当然不合格、その後私は周りのみんなと同じく市立の折寺中に進学した。
受験に失敗したことについて、言い訳をするつもりはまったく無い。体調管理をできていなかったことは、当時小学生とはいえ自分の過失だ。
けれど時々思う。モラルも倫理観も常識もあるだろう私立のお嬢様学校である夢咲女子に、あの時受かっていれば──そうすればこんな環境で、無駄に三年間を過ごさなくてもよかったのかもしれない。
そうすれば、緑谷くんと爆豪勝己の連日のやりとりを見てもやもやしなくても済んだのに。
★
「おいおい根暗、なに見てんだ?」
授業後、帰り支度をしていた私は、急に声をかけられたせいでびくりと肩をはねさせた。
爆豪勝己が緑谷くんの大切にしているノートを爆破し、取り巻きたちと教室を出ていこうとしているところだった。私はその乱暴な遣り取りを、ぼんやり見るともなく見ていただけ。いつものように、関わらないように。
それなのに、どういうわけだかこうして爆豪勝己からいきなり因縁をつけられ絡まれている。こんなのは初めてのことだった。爆豪勝己の取り巻きすら、困惑した顔をして私と爆豪勝己を見つめている。
爆豪勝己が、かかとを踏んだ上履きをぺたぺた鳴らしながらこちらに歩いてくる。教室のなかは静まり返っていた。
「べ、別に見てないけど」
「見てただろうが、クソ生意気な目つきでよォ」
ドスのきいた声は、およそ私と同じ中学三年生のものとは思えない凄みを持っている。ごくりと唾を飲み込むと、私はこちらを睨む爆豪勝己の目を真っ向から見返した。
「見てないってば」
「俺の言葉に反論してんじゃねー」
バンッと派手な音を立て爆豪勝己が私の机を叩く。凄む爆豪勝己の顔は、もう私の目の前にあった。ぼぼ、と彼の手の平が音を立てて燻る。それが私への威嚇、示威行為であること明白だった。
昼間の一件を思い出す。教室の中だろうが関係ない。爆豪勝己は平気で個性を使用し、爆破を起こす。
「気に障ったのならごめんね、謝る」
身の危険を感じ、私は素早く謝った。けれどそれがかえって爆豪勝己の神経を逆撫でしてしまったらしい。
「心にもねえこと喋んなよ。殺すぞ」
さらに怒られ、凄まれる。謝っても怒られ、謝らなくても怒られる。それじゃあ爆豪勝己は私に一体どうしろと言うのだろう。
「気に入らねえんだよ、根暗が一丁前に睨んで喧嘩売ってんのか?」
「な、何のことだか分からないんだけど
……
あの、言いがかりは、ちょっと、」
次の瞬間、私の耳元で小規模ながら爆発音がした。さすがに教室の中がざわめく。そのざわめきを拾おうにも、小規模爆発のあおりを受けた左側の耳が聞こえにくいような気がして、思わず私は顔を顰めた──いや、顰めようとして気が付いた。
自分で気が付いていなかっただけで、私は今、かなり眉間に皺を寄せて爆豪勝己のことを睨み返していた。図らずも爆豪勝己の言っている意味を理解してしまう。
「
……
謝ってほしいならもう一回謝るけど」
「睨んでいた」という爆豪勝己の主張が正しいのであれば、こちらに非がある分については謝罪もやむを得まい。そう思い謝罪の提案をしてみるも、爆豪勝己は一層不機嫌そうに青筋を立てるだけだ。
「てめェ
……
」
教室の中の空気も、これはいよいよまずいという具合に緊張してゆく。と、その時。
「おいおい、何事だお前ら?」
爆豪勝己が大きく手を振りかぶった瞬間、ふいに割り込む声がした。誰かが呼んだのだろう、学年主任の教師が廊下から教室を覗き込んだ。もしかしたら爆豪勝己の起こした爆発音が聞こえたかもしれない。
爆豪勝己はチンピラみたいなものだが、頭は悪くない。教師の登場に振り上げた手を渋々下ろすと、私に舌打ちをひとつ寄越して、彼はどすどすと教室を出ていった。取り巻きたちが慌ててその後を追う。
やっと解放された、と息をついたのも束の間、教室中の視線が私に集まっていることに気がついた。その視線の中に好意的なものがひとつもないことくらい、私にだって分かる。
これ以上無用な注目を浴びることにも堪えられず、私は通学鞄を急いで手に取り足早に教室を出て行った。
とぼとぼと重たい足取りで一人帰路につく。
今日の爆豪勝己との衝突とも言えないような諍いは、完全に想定外で、かつ最悪の展開だった。中学を卒業するまではもう残すところ数ヶ月。その数か月を、私はこれまで通り目立たず波風立てず、背景に徹してやり過ごす予定だったのに。
いったいどうして、あんなことになってしまったのだろう。少なくとも、私から爆豪勝己に喧嘩を売るようなことはしていないはずだ。それでもあっちから絡んでくるのでは避けようがない。あれはもはや天災の類と言っても差支えないと思う。
「それにしても根暗ってひどくない
……
?」
繁華街を歩きながら独り言つ。
そりゃあ確かに私は目立つタイプじゃないけれど、だからといって別に根暗というわけでもない。百万歩ゆずって仮に本当に根暗だったとしても、爆豪勝己とは喋ったことがないのだから、私が根暗かどうかなんて爆豪勝己は知らないはずだ。完全に適当にその場で思い付いたイメージで暴言を吐かれた気しかしない。つくづく失礼なやつだな、と元から悪い印象が最悪に傾いてゆく。
家につくと、すぐにテレビをつけた。部活を引退してからというもの、夕方のドラマの再放送が楽しみになっている。キッチンからお茶と煎餅を持ってきて、リビングのテレビの前に戻る。
ドラマの開始時刻は五分過ぎていた。けれどチャンネルを合わせたところで、画面に映るのは何か大きな事件の中継映像だけだった。その中継映像を見るに、どうやら事件現場はうちの近所で起きたものらしい。そういえば、下校中に何台かパトカーが通過していったような気がしなくもないが、如何せん考え事をしながらの帰路だったから、その辺りの記憶はあまりはっきりしない。
テレビ画面の中には見たことのある景色。その見知った景色にヒーローたちが集まっている様子が映し出され、なんだか不思議な気分になる。
煎餅をかじりながら、私は聞き流すようにしてリポーターのあくせくした言葉を聞く。どうやら敵に捕まっているのは私と同じ中学生らしい。どうりで報道が激しいはずだ。行儀悪く頬杖をつきながら、さらにばりぼりと煎餅をかじる。
やがて事件が解決しリポーターが人質になった中学生に駆け寄った。と、ズームになったその中学生の姿に、ぽろりと手から煎餅が抜け落ちる。あんぐりと開けた口が塞がらない。
──画面に写っていたのは誰あろう、爆豪勝己その人だった。
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