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柚子子
2024-09-22 20:57:34
113107文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(1)
サイトに掲載している長編の第一章です。
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★
生まれてこの方、女に興味を持ったことがない。男に興味があるわけでもない。そもそも恋愛感情などという、なよなよしたもんを持ったおぼえが一度もない。
ガキの頃から、女と親しくすることがほとんどなかった。男と同じノリで遊ぶには、女は心身ともに弱すぎる。遊びのなかでうっかり殴ったりなどしよう日には、男相手のときとは比にならないほどの大騒動になる。
とかく女は、つるもうにも勝手が違いすぎて不便が勝つ。不便さを上回る見どころのある女にお目にかかったことなど一度もないし、いたところで別に近づきたいとも思わないだろう。
たまに近寄ってくる女がいたとしても、興味がないから名前を覚えることもない。振ってくる話題にもセンスがない。普通にしていればたいていの場合、女のほうから勝手に消えた。
そういうことがたびたびあった。その結果として今も昔も、俺に女っけはまったくないわけだが、取り立ててそれを不幸とは思わない。だいたいが、こんな田舎の平凡な中学で女を漁ろうという性根が、はなから俺に似つかわしくないではないか。
俺の完璧な人生に、多少の足しにはなる相手。
かりに将来そんなやつが現れたら、そのときは恋愛することを考えてやってもいい。そうじゃなければ、わざわざ伴侶を得たいとも思わない。パートナーがいようがいまいが、俺の人生に瑕疵はひとつも存在しない。
いつのころからか持つようになったその考えは、中三の二学期なかばとなった今でも、まったく少しも変化していない。
勉強なんざ本腰入れなくても苦労はしない。が、さすがに倍率三百倍の雄英の入試を突破するためには、それなりに受験勉強というものをこなさなければならないらしい。
実技の方は問題ない。あまり大っぴらな特訓はできないが、俺の個性を考えればそんなことは些事だ。自分の個性のことならば、自分が一番熟知している。俺の個性と実力を見たうえで不合格にするような学校があれば、それは見る目のない低ランクの学校でしかない。天下の雄英が、まさかこの俺を実技で落とすはずがない。
だから受験するにあたって対策すべきは、筆記のみ。倍率三百倍──つまり筆記は、とれて当然の満点狙いになる。
とある週末、俺は参考書を買うといってババアから金をふんだくり、ぶらぶらと本屋を歩いていた。
参考書なんて学校で買うもの以外ろくに見たこともなかったから、何を選ぶべきなのか判断基準がよく分からない。そもそもこれまでの人生、わざわざ書店で参考書を買い求めなければならないような状況になったことが、一度もない。
ひとまず雄英の過去問は買うとして、学校の問題集にはない発展問題が載っているようなのがいいだろう。適当に手に取った参考書をぱらぱらめくりつつ、異様にカラフルな書棚を眺めていると、
「あ、爆豪くん」
いい加減聞き飽きた声が、馴れ馴れしくも俺の名を読んだ。声の主が誰かなど、わざわざ振り返らなくても明らかだ。
呼びかけの声を無視して本棚の物色を続けていると、少し離れたところに立つ
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から、露骨に困ったような視線が送られてきた。話しかけてから「しまった」みたいなリアクションすんな。黙って立ち去れ。そう思いつつ、俺は無言を貫き通す。
この根暗女の神経逆撫でムーブにも、三年の秋ともなればだいぶ慣れてきた。
三年になってから何かにつけ接点があるこの女は、俺に媚びないかわりにビビりもしない。根暗の陰キャのくせに俺と睨み合っても喧嘩腰で返してきたり、小学生時代は殴る蹴るの喧嘩もしていたという。見かけに反して好戦的だが、とはいえ基本的にはあくまで根暗。俺にとってはぎりぎり名前があるだけの、準モブにすぎない。
そんな根暗の準モブ女は、しばしの逡巡のすえ、なぜかこちらにほてほてと寄ってきた。俺が参考書の書棚の前にいること、手に雄英の過去問集を持っていることを目ざとく観察し、おおかたの状況を把握したようだった。棚から一冊の参考書を引き抜いて、それを俺の視界に差し出す。
「受験勉強用の参考書、友達に貸してもらってこれ使ったけど、結構難しかったからおすすめだと思う。難関高校の対策本だから雄英の受験にも多分使えるはずだし」
「うるせえ、んなこた聞いてねえわ。つーか勝手に見んな」
「じゃあこの最後の一冊は私が買うけど」
「ざけんな置いてけ。んでてめえは速攻帰れ」
「文句言いつつ買うんじゃん
……
」
「あ゙ァ?」
いつも通り、
苗字
のクソみてえな言葉につい視線を
苗字
に向けて睨みつける。いや、睨みつけようとしたのだが──俺はそのままあんぐりと口を開けて
苗字
を見た。
正確には
苗字
の足を。
俺の隣に立っている
苗字
は、やたらもこもこしたスウェットと、それからアホほど短いショートパンツを身につけていた。太腿からスニーカーをはいたくるぶしまで、なんとその足のほとんどすべてをがっつり露出している。
本屋のしらじら明るい電灯が、
苗字
の足を妙に明るく照らしている、ような気がした。
「ばっ、て、おい、」
「エッ、何」
「てめえ、痴女か!?」
「は!?」
そのなまっ白い足に視線が行きそうになるのを、気合いでどうにかひっぺがす。なんで俺が根暗女のために視線の行き先を迷わせなきゃならないのか。そもそも休日に俺の視界に堂々とあらわれるあたりからして、こいつは何か間違っている。
が、どういうわけだか
苗字
は、俺に対して本気で引いた顔をしていた。その小憎たらしいクソ顔に、これでもかというほど腹が立つ。
ふざけんな、引いてんのはこっちだ。どんな露出狂の女だよ。普段のあのクソみたいなスカートの長さはどうした。陰キャのポリシーってもんがねえのか。
「なにを言ってるの爆豪くん
……
。痴女って、どんな語彙? 中学生が中学生に言う言葉じゃないよ
……
。ていうかこのくらい普通では」
「うるせえわ! そっちがクソ足出しとんのが悪ィんだろが! んなもん出すな! しまっとけや!」
「クソ足って。そりゃ大した足じゃないけど
……
」
「自覚あんなら出すなや!!」
怒りと衝撃に任せて怒鳴るだけ怒鳴ったら、少し平静を取り戻した。ふんと鼻を鳴らして改めて根暗女の格好を見れば、たしかにこいつの言う通り、ほかのモブ女どもがよく着ているような丈と言えなくもない。といっても女の服なんてちゃんと見たことがないから、ほかと比較などできようはずもない。
けちょんけちょんに貶された自分の足を「クソ足って
……
」とぼやきながら眺める
苗字
に、何とも言えない気持ちになる。なにちょっとショック受けてんだ。クソ足はクソ足だろうが。むかむかするのを抑え込み、俺は自分の視線を本棚に戻す。
こんなところで何してるんだと言いたくもなるが、こちらから話しかけるのも癪なので何も言わずにおいた。するとなぜか
苗字
は、うだうだと言い訳なんだかよく分からないぼやきを吐き出し始めた。
「そりゃあ制服のスカートは長くしてるけど、別に私服までださい服着てるわけじゃないからね
……
。普通に女子中学生なんだし、爆豪くんは私のこと陰キャ根暗認定してるけど、それもほとんど言いがかりだしね」
「実際問題、根暗だろうが。じゃなきゃあんなクソだせえ制服の着方できるか」
女の服装についてなど微塵も興味がないが、こいつの制服の着こなしが壊滅的にださいことだけは、さすがに分かっていた。芋くさい制服の着方をしておきながら、あくまで根暗ではないと主張するとは。いっぺん鏡見てこいやと言いたくなるにもほどがある、図々しい主張だ。
「だせえのは事実だろうが」
「ださいって、スカート丈の話? だってスカート短くしてて、女の先輩に目つけられるの嫌だったし
……
」
「あ?」
「それに、スカート短くしてまで可愛いと思われたい相手もいないから、そのままスカート長くても構わなかったというか
……
、陰キャだと思われるなら、それでもいいかと思って」
マジかこいつ。
俺は呆れ半分で目の前の女をまじまじと見た。常日頃ほかの女から多少ズレているとは思っていたが、俺が思ってたよりだいぶ、いやかなり、こいつはズレているらしい。たいていの女は、誰かのためだろうが自己満足だろうが、少しでもマシな身なりになるようにするものじゃないのか。それで実際マシになってるかはともかく。
大体、先輩がどうこうと抜かすのはせいぜいが二年までだ。三年にもなってそれを引きずっているのは、明らかに「今更スカート短くするのも面倒だな」という意識のあらわれでしかない。
こいつだって、こうやって普通の格好してりゃそれなりに──
「って! 阿呆かてめえは!!」
一瞬自分の脳裏に浮かんだ言葉に、激しく自己嫌悪した。その言葉をかき消すように大声で怒鳴れば、根暗女が迷惑そうに俺を見る。
「エッ、なに。お店の中でいきなり叫ばないでよ」
「うるせえ喋んな殺すぞまじで!!」
「うわっ、リズミカルに暴言を吐かれている
……
」
呆然とする
苗字
をその場に放置して、俺は参考書を手にその場を立ち去った。当然ながら、根暗女が俺を追いかけてくることはない。むしろ俺がいなくなったことで、今頃ほっとしているところだろう。
レジに向かって歩きながら、消しても消しても浮かんでくる思考を、俺はいらいらと否定し続けた。
ふざけてる。あの根暗女のことをそれなりにとか考える俺もだが、あんな阿呆みてえな格好しやがる
苗字
のやつこそ、ふざけてる。
そうだ、元をたどればあいつが悪い。クソほどふざけてる。あんな足、出したところで誰も得なんかしないだろうが。
運動なんて全然できなさそうな、細くて枝みたいな白い足。野郎のとは違う、でかい怪我の痕もない足。俺のとも、違う──
レジの店員に乱暴に金を払うと、むかむかしながら俺は店を出た。ふざけてる。俺が、あの根暗女のことを多少なりともマシだと思うなんて、そんなことがあるはずがない。
まして、ちょっといいと思うなんて、まじで絶対ありえない。五回生まれ変わってもあるはずない。絶対にありえない。
しかしありえないと思うほど、思考が、感情がはっきり浮き彫りになっていく。浮かび上がった感情は、いつしか主である俺の制御すらこえて、勝手に熱くなりはじめていた。
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