外伝 瑠璃色の真珠【完全版】

あらすじ
かつてこの国には名探偵がいた。あらゆる謎を解き明かしたその探偵は、悪の教典と共に暗い滝壺で眠っている。
舞台は英国。不可思議な事件を巡る、残された者の物語__。
月が一際大きく輝く日。ヒトの姿に擬態できないエマ=ジェームズ・ワトソンはバケツの中でのんびり過ごしていた。そんなある日ワトソンの元に奇妙な案件が持ち込まれる。四人の女性に『購入した覚えのない宝石が突然届いた』という。その宝石は瑠璃色に輝く真珠で__? その宝石が持つ意味は何か。背後で渦巻く愛憎と犯罪とは……?
「窒息しそうな思いの果てに、あなたは何を願うのかしら」


ッシャオラ~~~~!!!! パワーで完結させました。『瑠璃色の真珠』!! 多分大体二か月ちょっと放置していた気がするんですけどもなんとか終わりました。
こっちもこっちで新章みを残しておくみたいな感じで終わらせたのはアレです。雰囲気です。雰囲気大事。なんだかすみません。全部繋がった状態の完全版なので長いです。お時間あるときに読んでください。パワーゴリ押し完結なのであんまりこう、その、何と言いますか。パワーです。はい。
楽しんで頂けたら幸いです!
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3

断章
__アマネセール法律事務所




ハイドヘカチェリーナ・アマネセールは頭を抱えていた。目の前で半べそで喚く長髪の男__マクシミリアン・オフェムをどうやって追い返そうかと辟易していたのである。
彼は恋人から「一切身に覚えのない浮気」を疑われているらしく、証拠を突きつけられボコボコにされたのを必死で逃げ出してここへ来たそうだ。無論弁護士として彼を助けたい気持ちはある。……あるのだが。

「正直、これだけ証拠が揃っていては無理ですわ。裁判起こしても負けます」
「そんな!! そこをどうにかしてもらえませんか!? お願いしますハイドヘカチェリーナさん、本当に身に覚えがないんです、どうか助けて、助けてぇ!! う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!!」

という(ヘカチェの誇張が混じっているにせよ)やりとりをかれこれもう数十回繰り返しているのだった。
わたくし、禿げそうですわ。ヘカチェは内心独りごつ。

……何で信じてくれないんだシルヴィ……俺は君一筋三十年なのに……
「はぁ……あの、もう紅茶出涸らしですけれど、飲まれます?」
「追い出そうとしないで」

みっともなく縋り付くオフェムにヘカチェは分かりやすく顔を歪めた。

「もう貴方に縋る以外俺には何もないんです! 名探偵とその助手はシルヴィの友達だから絶対助けてくれないし」
「お待ちになって。シルヴィ? それってシルヴィアウッド様?」
「そうだよ……そう、だよ! 彼女に、シルヴィに捨てられたら俺は終わりだ……俺は、俺は__」
「少々、お待ちになって」

突如電流が走ったかの如く、ヘカチェの動物的な勘が働いた。目の前の男は己を半分魔女だと言う。無論シルヴィアウッドを愛する想いに偽りはないだろう。だが、おそらく__彼は魔女ではない。その確信があった。
理由は二つ。先程見えた首元、偏光する鱗。そして少し色の変わり始めた指先だ。

「貴方。魔女ではないわね」
「え」
「シルヴィ様は素直だから基本疑わないけれど。わたくしは違います。弁護士だもの。疑ってかかるわよ」 ヘカチェは一拍置いてオフェムを睨み、続けた。「貴方、本来なら人間に変態できないタイプの人魚でしょう。魔女から脚を貰った? それとも『魔女を食って魔女の性質を学習した』かしら」
「うぐ……!?」

オフェムは分かりやすく動揺してヘカチェから視線を外した。瞳が少し揺れ、必死で取り繕うように口元に笑みを作る。

「わたくしにとってはどちらでも構わないの。でも依頼人になりたいのなら自己開示は正確に。でなければ弁護のしようがなくてよ」
「そ、そ……それは……。う、うう、あぁ、お、俺は、し、死にたくない……!」
「え?」 あまりに唐突な死への怯え、その発露にヘカチェは面食らう。「どういう事よ。どうしてそんな話になるの」
「アンシーリーコート」
「はぁ?」
「アンシーリーコートを食えば、泡になって消えずに済む! そう、思ったのに……! あんな危険な橋、渡るんじゃなかった!! う、うあっ……!!」

オフェムはフラフラと椅子から立ち上がって後退り、脚に力が入らないのかもつれる様に床に倒れた。足の皮がズルズルと剥けるように尾鰭に変じ始める。ヘカチェは彼が置かれた状況の不味さを確信した。

「ちょっと、ミスター! しっかりなさって!?」
「すまない……、シルヴィ、俺は__」

パン! と、風船の破裂音の様な音が事務所内に響いた。
オフェムが倒れ込んでいた場所には、海水がただぶちまけられているのみであった。



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