外伝 瑠璃色の真珠【完全版】

あらすじ
かつてこの国には名探偵がいた。あらゆる謎を解き明かしたその探偵は、悪の教典と共に暗い滝壺で眠っている。
舞台は英国。不可思議な事件を巡る、残された者の物語__。
月が一際大きく輝く日。ヒトの姿に擬態できないエマ=ジェームズ・ワトソンはバケツの中でのんびり過ごしていた。そんなある日ワトソンの元に奇妙な案件が持ち込まれる。四人の女性に『購入した覚えのない宝石が突然届いた』という。その宝石は瑠璃色に輝く真珠で__? その宝石が持つ意味は何か。背後で渦巻く愛憎と犯罪とは……?
「窒息しそうな思いの果てに、あなたは何を願うのかしら」


ッシャオラ~~~~!!!! パワーで完結させました。『瑠璃色の真珠』!! 多分大体二か月ちょっと放置していた気がするんですけどもなんとか終わりました。
こっちもこっちで新章みを残しておくみたいな感じで終わらせたのはアレです。雰囲気です。雰囲気大事。なんだかすみません。全部繋がった状態の完全版なので長いです。お時間あるときに読んでください。パワーゴリ押し完結なのであんまりこう、その、何と言いますか。パワーです。はい。
楽しんで頂けたら幸いです!
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数時間程度で二度も同じ人物が来客する、という珍事にも、ミザリーは「あらあら」とよくある事なのかあっさり俺とジェームズを迎え入れてくれた。
彼女は紅茶が入った温かいポットと茶菓子を持ってくる。イギリスへ渡ってからは久しく目にしなかった小ぶりのたい焼きが三匹皿に置かれていた。

「最近ハマってるの」

ミザリーは楽しそうに笑う。カステラっぽい皮の内側は日本でもお馴染みのこし餡だ。

「日本のお菓子って、甘過ぎないからいいわ」
「久々に見たなぁ」
……魚の型焼き?」

不思議そうにジェームズがたい焼きを手に取る。腹から真っ二つに割ってみると、その中身はカスタードクリームだ。割と日本でもありがちである。

……うん。確かに、美味しいですね」
「そうでしょう」
「そいつは嬉しいねえ」
「それで、探偵さんたち。何か進展でもあったのかしら」
「ユリカ・コリンスという女性をご存知ですか」 ジェームズは尻尾側を一口で丸呑みにして切り出し、写真を表示させたスマホを手渡した。
「ええ、知っているわ。ロンドン大学の公開講座を教えているのだけれど、そこに来ている」
……実は、彼女にも『瑠璃色の真珠』が届いているそうです」
「どういうこと? 何故彼女にも?」 ミザリーの言葉には本気の困惑が滲んでいた。
……件の真珠が届けられた人物は、貴女を入れて四人います。ユリカ・コリンス、キャサリン・ドーベル、そしてアリスティアラ・イーグルアイ。いずれもケンブリッジ大学のミステリー研究会に所属していました。貴女もでしょう?」
「ええ、そうだけれど、私がいたのなんて随分昔の話よ」
「んでこの四人全員と関われた可能性のある人物に、ジュワイユーズ・イシュタリテ卿がいるわけ」
「待って、シャルルマーニュ。貴方まさかジュワイユーズを疑っている? 彼は私にアマネセールさんを紹介してくれたのよ?」
「疑っているわけじゃない。イシュタリテ卿がこの三人を知っているとは限らないからな。彼は確かに『関われた可能性がある』から__」

俺は言葉を切った。温かい紅茶を勝手に注ぎ、優雅にティータイムを洒落込んでいる相棒は何かに意識を集中させているらしい。俺はとりあえず話を続ける事にした。

「今の段階で彼を真珠の贈り主候補から外すにはちと根拠が弱い。だから彼に会いたい。取り次いでくれるか」
「できなくはないけれど、そんな事せずとも会おうと思えば会えるでしょう。アマネセールさんがいるじゃない」 ミザリーは困ったように笑った。
「それは〜そうだけど〜。ヘカチェが、っていうよりかは……『渡りの一族』にこれ以上借り作ると、ロジェにどやされそうだからなぁ」
「よくわからないけど、わかったわ。いいわよ。電話するから少し待っていて」

ミザリーはそう言ってリビングを出て行った。静寂が満ちる部屋に茶器を扱うジェームズが発する音だけが響いている。

……どう思う?」 何の脈略もなくジェームズが切り出した。
「どうって、何が」
……ミザリー・シュピッツナーの事だ。果たして本当に彼女は、差出人不明の宝石を貰ったのか」
「おいおい、前提を疑い出したらキリがないぜ? 貰っても困るから、って俺に貸してくれたのによ〜」

ジェームズは俺の手から真珠を奪い、そっと光に透かした。オパールの遊色のようにプリズムが煌めき、色を様々変えている。先程見た時とは少々様子が異なっているように見えた。


……何かがおかしい」

そっと手のひらに真珠を乗せてジェームズが呟く。そして決まって彼の感じた『おかしさ』は的中する事を俺はよく知っていた。
ぱき、ぱき、と音を立てて真珠だと思い込んでいたそれに縦線が走る。まるで何かが生まれるかのように左右に揺れ動き、ついに一箇所破片となってジェームズの手で砕けた。俺はポカンとアホ面を晒したまま、彼の手のひらを凝視する。そしてずるんと小さなアナゴのような魚に似た何かが外へ出た。それはみるみるうちに大きくなり、形を変えてゆく。ジェームズが慌てて両手でお椀を抱えるようにしてそれを抱えた。

……し、信じられない」

ジェームズの声が震えている。俺は嘘みたいな光景を前にして固まった。

……竜だ……



「これは__これは、『泡泳竜』だ!」

ジェームズの声が室内で反響する。
大きな瞳が愛らしい、手の中のアンシーリーコートにそっくりな幼竜は、小首を傾げて俺と彼を交互に眺めていた。



***