井見
2023-02-28 23:48:16
82721文字
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嶋の美少年 勝手に電子版

嶋の美少年 本文全文です PDFで見るのがきちいので文字に起こしました。
激長そうですが本文約6万字、240ページ程度の分量です。

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伊藤銀月 著『嶋の美少年』,春陽堂,明40.10. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/886638
(参照 2023-03-02)


 其五 怪少年くわいせうねんきた
 
 我等われ〳〵案内者あんないしやとして聟島むこじまわたつた摸範もはん水夫すゐふ忠之丞ちうのぜうは、滯在たいざい數日すうじつのち父島ちゝじまかへると申出まをしでた、もとより豫定よていことであるから、田邊たなべ春山はるやまにんこれおくやくになつて、信天翁あほうどりたまごぶた甘藷さつまいもなどゝ一しよにケートルがうり、父島ちゝじまして出發しゆつぱつした。
 十一ぐわつなかばとなり、冬枯ふゆがれらぬしまながら風物ふうぶつんとあはれをもよほすとき、ケートルがうちがふ一さう漁船りやうせん南濱みなみはまいた、父島ちゝじまから媒島なかうどじまたのださうである。
 新生活しんせいくわつはじめてからまだ半月はんつきたぬが、此船このふねいたことが、我等われ〳〵たいするきはめてあたらしい出來事できごとで、またきはめてめづらしい現象げんしやうであつた、加之しかのみならず此船このふねからがつて我々われ〳〵仲間なかまはいつた見慣みなれぬ少年せうねんを、れい山籠やまごもりの怪兒くわいじ山本やまもとくや、一どう好奇心こうきしんまるくされた。
 我等われ〳〵媒島なかうどじま出發しゆつぱつしてのち日目かめ同島どうとう新經營者しんけいえいしやの一にん松永まつながが、檳榔びんろうやまりにつたときおも山本やまもと見附みつけたので、かないと強情がうじやうるのを、樣々さま〴〵なだめすかして、無理むり小屋こやれてかへつたが、其時そのとき山本やまもとは、亂髪らんぱつ蓬々ぼう〴〵着物きものはズタ〳〵にやぶれ、色靑黑いろあをくろく、姿痩すががやおとろへて、一見此世けんこのよひとおもはれず平生へいぜい剛膽家がうたんかもつされて松永まつながも、不意ふい藪蔭やぶかげつくはしたときには、ギヨツとして一足後ひとあしあと退さがつたさうである。
 所󠄁ところが、此少年このせうねん何所󠄁迄どこまでぎらひなのか、相變あひかわらず津田つだ倶不戴天ぐふたいてんかたき見做みなして、頑然ぐわんぜんとして對抗たいこう態度たいどあらためないのである、其儘そのまゝにしてくと、如何いかなる椿事ちんじ仕出來しでかすか、はかることが出來できない、これため津田つだまくらたかくしてねむられないのみならず、そば爆發物ばくはつぶつくやうで、はたもの不安心ふあんしんまたとほりでない、そこで是非無ぜひなく、父島ちゝじまからとほれふふねたのんで、山本やまもと此島このしまおくつて寄越よこしたのである。
 なににしろ、わざわひたまご新生活しんせいくわつのろふべくころげてたのである、我等われ〳〵どう油斷ゆだん出來できない、じつ迷惑めいわく千萬せんばんである、それにしても、わづかに十六の少年せうねんで、ケートル群嶋ぐんとうましもの名物男めいぶつをとことなつた山本やまもとは、沈香ちんこうかずらぬ凡倉ぼんくらくらべて、あるひゑらいのかもれない。
 山本やまもとをどんな怪物くわいぶつかとおもつて、とく注目ちうもくした自分じぶんか、あまりに豫想外よさうぐわいかんじた結果けつくわは、すなは無人むじん小島おじま舟遊ふなあそびとなつた次第しだいである。

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