井見
2023-02-28 23:48:16
82721文字
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嶋の美少年 勝手に電子版

嶋の美少年 本文全文です PDFで見るのがきちいので文字に起こしました。
激長そうですが本文約6万字、240ページ程度の分量です。

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伊藤銀月 著『嶋の美少年』,春陽堂,明40.10. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/886638
(参照 2023-03-02)


 其二 警戒けいかいすべき靑年せいねん
 
 自分じぶんいまかへつて明治めいぢ二十六ねん十一ぐわつ記憶きおくばなければならぬ。
 其日そのふ夜明前よあけまへ媒島なかうどじまの一かくに二くわい絕叫ぜつきうおこつた。
 だいくわいさけびは、一かういのちびろひをしたよろこびのこゑであつた、八にん靑年せいねんが、媒聟兩島なかうどむこりやうたうわかんで、他日たじつ大活動だいくわつだうすべき根據こんきよたことを、しゆくするこゑであつた、これから幾年いくねんあひだ芋堀いもほりとなり、鱶突ふかつきとなり、飯炊めしたきとなり、一とうキングとなつて、此島このしまひらかうと宣言せんげんであつた。
 この希望きぼうたされた、一こゑむや、一どうまた打揃うちそろつて、ワーツと、しま周國ぐるりあつまつた正覺坊しやうがくぼうどもびつくりしてくびちゞめさするほど大聲おほごゑした、此聲このこゑしたには、説明せつめいすべき理由りゆうがある。
 先住者せんぢうしやしまわたして引揚ひきあげるとき島民とうみんゆい一の食料しよくれうたる玉蜀黍とうもろこしけたのと、十一とううしとがのこつてあるめ、父島ちゝじま本部ほんぶいてケートル群島ぐんとう經營けいゑいせられるヱー先生せんせいは、我等われ〳〵買う渡島迄ととうまでとの約束やくそくで、二人ふたり靑年せいねん留守居るすゐかれた、それをいまかうこゑてゝふのである。
『オヽイ』
『オイ』
何所󠄁どこるんだ』
此島このしまひとはどうした』
 各自めい〳〵咽喉のどやぶれよとこゑしばるけれども、これこたへるものは、最前さいぜんからしのみだしてあめおとと、折々をり〳〵赤兒あかごくやうな氣味きみわるこゑしてこれ調子てうしはせる鰹鳥かつをどりと、あめなかおほきくむやうななみおととばかりである。
 一人ひとりならず二人ふたりまではずのものが、かほどんでも返事へんじをせぬとは、よも尋常事ただごとではあるまい、なに凶變きょうへんおこつて、二人共ふたりとも生命いのちうしなつたのではあるまいかなどおもふと、せなかみずそそがれるやうながする。
 是非無ぜひなく、案内者あんないしや忠之丞ちうのぜうさきてゝ、松明たいまつちからしまなかあるまわつてることにした。
 づ、一かう生命せいめいともふべき端艇たんていケートルがう磯邊いそべたかげて、大丈夫だいぢやうぶなみもつかれないとしん所󠄁ところいた。
 これだけでもつかてた我等われ〳〵にはぎた骨折ほねをりである。
 それから忠之丞ちうのぜううしろしたがつて、はぎむばかりにどろふか坂路さかみちのぼり、兩側りやうかは灌木くわんぼく生茂おひしげつて谷川たにかはのやうにみずはしほそみちくと、やがて廣々ひろ〳〵とした野原のはらた、こゝには幾軒いくけんかの小屋こやがある、留守居るすゐもの此所󠄁こゝるであらう、いな此所󠄁こゝよりほかは、此島このしまひとすむむべき所󠄁ところいさうである。
 其中そのうち一つが食事小屋しよくじこやくより、つかれた靑年せいねんわれわすれて一かたまりになり、ころげるやうになつてんだ。
 かまどには、さかんにつた。
 昨朝來さくてうらいかぜあめなみの三大敵てきなやまされて、襯衣しゃつまい窄袴ずぼんちゃくになり、惡鬪あうとうつた健兒等けんじらは、きそうて此前このまへ立塞たちふさがつてだんるのである。
ひどかつたなア』
じつひどかつた』
ぼくはモウ駄目だめかとおもつてあつた』
『それにふかがパク〳〵やつておよいでるんだもの、一つつくりかへつたらそれツきりだらう』
なんだつて君等きみらはそんな弱󠄁󠄁音よはねくんだ、あんなこと凹垂へこたれるやつに、これからの冐險事業ぼうけんじげう出來できるか』
『さう〳〵、そんなやくにもたないことひまに、食事しよくじ用意やういでもはじめやうぢやないか』
 一どう空腹くうふくはれて立働たちはたらき、朝飯あさめし出來できた、甘蔗かんしょ信天翁あほうどりたまご鹽漬しほづけ豚肉ぶたにくあへ御馳走ごちさう不足ふそくだとははれぬ、しきりに舌皷したづゝみちつゝ、各自めい〳〵おどろくばかりあたゝかこめめしんだ。
 所󠄁ところが、はらふくれてからくと、何時いつにかまつたはなれてる、しかしそれは不思議ふしぎでないが不思議ふしぎな事には、我等われら首腦しゆのうとして一かう此島このしまれてられたヱー先生せんせいえない。
 何所󠄁どこかれたんだらうと不審ふしんまゆひそめる我等われらには頓着とんちやくく、先生せんせい呑氣のんきにも小屋こやはいつてやすんでられるのである。
先生せんせいなんとも申譯まうしわけがありません、先生せんせい矢張やはり我等われ〳〵と一しよ召上めしあがつてゐらつしやるんだらうとおもつて、モウめしをやりはじめました』
『いや、ぼく此所󠄁こゝ御馳走ごちさうになつてるから、遠慮えんりよしずにやつてたまへ』
 はれて一どうは、きもつぶした、のぞいてると、成程なるほど先生せんせいほか見慣みなれぬ一個ひとり靑年せいねんて、其周園そのぐるりには、鐵砲てつほうなた小刀こがたなまき棍棒こんぼうなどがらされてある。
 までく、これぞ二人二人靑年せいねん一個ひとりであらう。るだらうとおもつたときにはなくつて、ないものめたときるのであるから、我等われ〳〵おどろくに無理むりはあるまい、まだ名乘なのはぬうちから、めうになる靑年せいねんである。

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