井見
2023-02-28 23:48:16
82721文字
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嶋の美少年 勝手に電子版

嶋の美少年 本文全文です PDFで見るのがきちいので文字に起こしました。
激長そうですが本文約6万字、240ページ程度の分量です。

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伊藤銀月 著『嶋の美少年』,春陽堂,明40.10. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/886638
(参照 2023-03-02)


 其八 意味いみある衝突しやうとつ
 
 生捕いけどりにした山豚やまぶたは、山本やまもとせて漁船れうせん父島ちゝじまかへるのにたのんで、ヱー先生せんせいもとおくつたが、其後そののち田邊たなべ勢力せいりよく盆々ます〳〵さかんで、やゝもすれば、專横せんおう態度たいどしめすことがある、一めんからたらあるひ此男このをとこ長所ちやうしよかもらぬが、一たんしたことは、中途ちうとさとつても、けつしてあとへはかへさず、何所迄どこまで無理むりとほさなければまないので、これがため隨分ずいぶんなやませられるものがある、二十七ねん正月しやうがつむかへてから、此傾このかたむきが一そうはなはだしくなつた、ソロ〳〵不平ふへいこゑこえるやうになつた、けれども、一ぽう不平ふへいこゑおこると、ほかの一ぽうには田邊たなべ盲從もうじうするものしやうずるのが、むをない趨勢すうせいふものであらう、えうするに、田邊たなべ態度たいどあきらかになるにしたがつて、田邊たなべたいするもの態度たいどあきらかになるのである。
 元日ぐわんじつよる山番やまばん柴浦しばうらで、二よる自分じぶんあたつた、あくる三あさ數頭すうとう番犬ばんけんれて、ねむをこすり〳〵小屋こやかへ途中とちうおもけないところしぬけに山牛やまうしの一れにつくわした、自分じぶんはモウれてるので、左程さほどおどろかないが、山牛共やまうしどもびつくりしやう非常ひじやうである、泡食あはくつてせたあとに、うまれてない數頭すうとうこうしがまご〳〵してるのをみとめた。
 小屋こやかへつて、其事そのこと一同みんなはなすと、平生いつも自分じぶんはなしわざとらしくかぬかほするくせ田邊たなべが、一ばん熱心ねつしんみゝかたむけた。
きみこうしがそんなにたのかえ』と、何時いつになく狎々なれ〳〵しい。
たよ、まだ可愛かあいらしいのが』自分じぶんなるるべくこころむなしくしてこたへた。
『それじやア、山牛狩やまうしがりをやつて、こうしみんな捕獲ほくわくしやうぢやアないか』
愉快ゆくわい、やらう、けれども、山牛やまうしるのは、山豚やまぶたよりほねれるだらう』
 自分じぶんほうになるにいたつて、田邊たなべその本色ほんしよくたる面憎つらにく微笑びせううかべ、傲然ごうぜんとしていださうとするのである、きうにムカついてたけれども、對話たいわ順序じゆんじよとして、かれ講釋こうしやくとなることをまぬかない。
『それア、うしつよいに、つのがあるから、ぼく山豚やまぶた親玉おやだま組打くみうちしたやうなわけにはかないさ、おもこうし生捕いけどりにするのを目的もくてきとして、親牛おやうし邪魔じやまをしたら、おもつて銃殺じうさつするのほかはないのさ、それに、山牛狩やまうしがりには時期じきがある、あめつたあとがいゝ、何故なぜかとなれば、地面ぢめんれてうし足跡あしあとく、それをたづねてうし居所いどこめるんだ、さうして、つてこうしは、小屋こやつてあるうしちゝしぼつてそだてるのさ、面白おもしろからう、けれども此仕事このしごとは、大膽だいたん機敏きびん熟練じゆくれんとの三拍子さんびやうしそろつたものでなければうまかない、だから、りの塲合ばあひにはぼくことつま命令めいれいだね、命令めいれいをよくまもつてれなけれアこまる』
 おはつて、くゝ自分じぶん眼下がんか見下みくだすのである
 六ばん丁度ちやうど田邊たなべまうけたあめつたので、七あさかれだれよりもさききて、だれよりもさき自分じぶんおこし、自分じぶんつぎには、
『オイ山本やまもときろ』と、亂暴らんぼうにもまくらあしけてうごかした。
 それでも、熟睡じゆくすゐして少年せうねんまさない。
かまはずかしてたまへ、おほきいものばかりでかうぢやないか』と、自分じぶんつた
『今からソロ〳〵仕込しこんでかないと、ものになりやアしないから』と、わらひをびながらくちきびしくむすんで、いきなり山本やまもと胸倉むなぐら鷲摑わしづかみにし、はづみをたしてグツトちうげた。
 少年せうねんは、とこうへゆめを、虚空こくうつてまさせられた、力自慢ちからじまんをとこうでまかせてするのであるからたままらない。
人殺ひとごろしツ』と夢中むちうさけんだ少年せうねんは、田邊たなべ節瘤立ふしこぶだつたうでヘシタヽカいた。
『アイタ、こん畜生ちくせう』と、おとしてグーツとほど蹴着けつけた。
 かうなると、ケートル郡島ぐんとう恐怖きやうふしやうせられた怪少年くわいせうねん山本やまもとである、ものをもはずきて、山豚やまぶたたいする獵犬りやうけん筆法ひつぽうまなび、相手あいて咽喉のど目掛めがけてらすに、田邊たなべもやゝ案外あんぐわいおもひをしたらしく、一あしがつてそうこぶしにぎり、きつかまへた、其間そのあひだんだのは自分じぶんである。
したまへ、田邊君たなべくんきみ手段しゆだんは、我等われ〳〵全體ぜんたい監督かんとくするひととしては、少々せう〳〵痛烈つうれつぎる、山本やまもともモツとおとなしく長者ちやうしや服從ふくじうしろいゝから、そつちへんでろ』
 山本やまもと不思議ふしぎ自分じぶんことく。
山豚やまぶため、おぼえてろ』と獨言ひとりごとのやうにつて、ズーツとすみほう退いた、田邊たなべ山豚やまぶた見立みたて、おの自身じしん猛犬もうけんベーをもつつてにんじ、脾腹ひばらきばつらかれるまでも、理不盡りふじん虐待ぎやくたいむくいる覺悟かくごであらう。
 柴浦しばうら山代やましろなども、自分じぶんつづいて和解わかいつたので田邊たなべつひ其拳そのこぶしおさめた、けれども、うらめしさうに自分じぶんにらめたかれ視線しせんが、フト自分じぶん視線しせん衝突しやうとつしてあはてゝよこれたのに、なにかの意味いみければならぬ。
 田邊たなべかしらにして、自分じぶん其他そのたにん青年せいねん山牛狩やまうしがりつた。
 赤土山あかづちやまあめあがりに山牛やまうし足跡あしあとたづねて、そのむれ居所ゐどこめた、我等われ〳〵田邊たなべ指揮しきしたがづて、親牛おやうし牽制けんせいしてあひだに、かれは、その自慢《じまん》にそむかぬ、大膽だいたん機敏きびん熟練じゆくれんとをもつて、首尾しゆびく二とうこうし手捕てどりにしたのである。
 みんなその手柄てがらめると、田邊たなべ何故なぜきう機嫌きげんわるくして
山本やまもと小僧こざうれてると、せてことがあつたのに』と舌打したうちした。
 田邊たなべ今年ことし二十八、十六のとしから海員かいゐんになつて、なみうへ渡世とせいをすることほとんど十ねん其間そのあひだ難破なんぱやくつて、九うちに一しやうたこと二ぼう無人島むじんとうわたつて、餓死がしひんしたこと一くわい其他そのた一筋ひとすじ生命いのちつなめるやうなあぶな瀬戸際せとぎはを、幾度いくどわたして、南洋なんやう貿易ぼうえき會社くわいしやり、カロリン群島ぐんとうちうの一とうること三ねん去年きよねん春歸朝はるきてう途中とちう又々また〳〵つたふね難破なんぱしたので、附近ふきんしまんで米國べいこく宣秘師せんけふしから、巡教用じゆんけふようそなへてく二十餘噸よとん小帆船せうほせんけ、覺束無おぼつかくもなみたゞようて臺灣たいわんちやくし、臺灣たいわんから便船びんせん日本にほんかへり、東京とうきやうつてヱー先生せんせいいへきやくとなつたが、その人物じんぶつ經歴けいれきとを見込みこまれて、事業じげふ監督かんとく重任ぢうにん此島このしまわたつてたのである、かれは、少年せうねん時代じだいからの辛苦しんく艱難かんなんその性格せいかくつくられたためであるか、めう苛酷かこくで、特務とくむ曹長さうちやうふうがある。
 

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