井見
2023-02-28 23:48:16
82721文字
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嶋の美少年 勝手に電子版

嶋の美少年 本文全文です PDFで見るのがきちいので文字に起こしました。
激長そうですが本文約6万字、240ページ程度の分量です。

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伊藤銀月 著『嶋の美少年』,春陽堂,明40.10. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/886638
(参照 2023-03-02)


 其十三  愈々いよ〳〵だい事件じけん
 
 山番やまばんつた柴浦しばうらは、くるあさかへつてた。
 自分じぶん充分じうぶんおぼえがある、えとつかれと睡氣ねむけとを重荷おもににして、あたゝかしる寢床ねどことをむねえがきつゝ、それをちからにやう〳〵あるいてかへるのが、山番やまばんくるあさである。
 それが、かへつてるとくだんのていたらくである、あががまちこしおとして、しばら言葉ことばかつたのももつともでないか、これが、身體からだ丈夫じやうぶ柴浦しばうらだからまだしもである、よわやつなら、さそはれてたふれるかもれない。
 かれは、始終しじう樣子やうす簡單かんたん自分じぶんかたらして、まゆひそ小首こくびかたむけたが
『いやかんがへてときでない、眼前がんぜん所置しよちをしゃう、きみもまだくならないのだから、あんまりはたらかずにやすんでたまへ』とつて、矢庭やにはがつた。
 やがて、小屋内こやうち汚物をぶつは、奇麗きれい柴浦しばうら掃除さうじされ、一々枕許まくらもと器物きぶつかれて、さんみだした病人びやうにんが一れつならび、草原くさはらたふれて者共ものどもも、おこされてうちはいつた。
山本やまもとないやうぢやアないか』と、柴浦しばうらはじめていた樣子やうす
ないよ』、自分じぶんこたへた。
『どうしたんだらう』
ぼく不思議ふしぎおもつてる』、これよりほか迂濶うくわつことへない。
『あんな氣性きしやうだから、くるまぎれにして、滅茶苦茶めつちやくちやくるまわつてるんだらう、山本やまもと一人ひとり打棄うつちやつとくわけにはくまい、ぼくさがしにやう』とは、柴浦しばうらところもつともである、この塲合ばあひ山本やまもと安全あんぜんだらうと、自分じぶんくちからひにくい。
 けれども柴浦しばうらさがしにしたくない、自分じぶん此任このにんあたりたい。
きみ草臥くたびれてるだらう、ぼくる』
『いや、きみ病人びうやだからいけない、ぼくるのが當然とうぜんだ』、これには自分じぶんあらそかねるのである。
『これをつてたまへ』、自分じぶんは、山本やまもといてつたかごなかものした。
大丈夫だいぢやうぶかえ』、柴浦しばうら苦笑にがわらひする。
どくはいつてるから劍呑けんのんだよ』、自分じぶん苦笑にがわらひした。
『さう白状はくじやうされては、はなけれア卑怯ひきようあたる、それぢやア生命いのちけで頂戴ちやうだいしやう、えたるものしよくゑらばずとふんだが、かうなつてれア、ぼくおもつたより大度量だいどりやうをとこだねえ』
 甘藷いもぶた樽樣れもんまかせてつては、無雜作むざうさく、けれども、くちつてとき少々せう〳〵困難こんなんいろあらはすのである。
大丈夫だいぢやうぶだよ、昨日きのふ夕飯ゆふめしまへからつてあつて、ぼく毒味どくみをしたんだから』
『さうかえ、それぢやアおもつてやらう』と、いま天下國家てんかこくか大事だいじにでもあたりさうなむづかしいかほになり、自棄じき頰張ほゝばつて、グツとくだす。
 いゝ加减かげんんで、しばら無言むごんつてたが『アヽ、これで元氣げんきいた、けれどもいまむねくるしくなつてるかもれない』と、自分じぶんじつる。
『そんなに神經しんけいおこすな、一同みんな病氣びやうき原因げんいんはまだわからないが、縱令よしなにかの中毒ちうどくだとしてもだれかの故意こゐか、偶然ぐうぜん出來事できごとか、愼重しんちよう態度たいどつて調しらべたうへでなけれア、斷定だんてい出來できまい、それに、大槪たいがい推測すいそくしてても、どくはいつてたとすれば、しるなかだらうぢやアないか、先日せんじつらいぼくはまだ食事しよくじ小屋こやかないが、山代やましろ昨夕ゆふべ椰子やしはいつたしるにほひにかれてくと、此始末このしまつかへつてたんだから、仔細しさいのあるのは其汁そのしるなかだらうとおもふ、しるなかだけだらうとおもふ』、自分じぶんわらひもせずにつた。
成程なるほど』、柴浦しばうらはじめて安心あんしんしたかほ
『ぢやア、もつとたまへ』、自分じぶんるべくかれめて、山本やまもとさがしにやりたくない。
『いや、モウ澤山たくさん山本やまもとさがしててからたやらう』山本やまもと搜索さうさくことばかりを念頭ねんとういてる。
つてるよ』と、柴浦しばうらりうともしやうすべき、馬鹿ばか落着おちついた足取あしどりでつたが、たちまち眼色めいろへてんでもどつた。
きみ〳〵
『どうした』
『いやどうも、愈々いよ〳〵大事件だいじけんだぞ』
『ヱツ』、自分じぶん不覺ふかくあたまのぼらした、山本やまもとがどうかしてたのかとおもつたからである。
ぼく先刻さつき一同みんないたものてたんだらう、あれをつたとりが、にはとりも七面鳥めんてうのこらずんでるんだ』
『それが大事件だいじけんかえ』
大事件だいじけんぢやァないか』
ぼくまた山本やまもとがどうかしてたかとおもつた』
此有樣このありさまぢやア、山本やまもろだつてどうなつてるかわかりやアしない、けれども、なんだか劍呑けんのんになつてたから、山本やまもとさがすよりまへ此事件このじけん原因げんいん調しらさなけれアならない』、柴浦しばうら意氣込いきごみは非常ひじやうである。
 またもやそとて、いしコロをあつかふやうに、あし戸口とぐち蹴寄けよせたのは、七面鳥めんてうまぢりのにはとり五六
諸君しよくんこれ見給みたまへ』とゆびさす。
 山代やましろのぞくのほかは、皆頭みなあたまもたげた。
何奴どいつおれ毒殺どくさつしやうとたくらんだにちがひない、ウヌ、ころさうたつてころされるもんか』、半死はんし苦惱くのうあひだからこゑしぼつてさけんだのは田邊たなべである。
 すると、今迄いままで死人しにんのやうにえた山代やましろは、臥反ねがへつて田邊たなべへ顏を向けた。
『タツ、田邊たなべ貴樣きさまよくけ、海野うんのぼくくるしんでてるのに、仕事しごといやでさうしてるのだとは、くもやアがつたな、どうだ、いまおもあたつたらう、先達せんだつては、貴樣きさま我等われ〳〵毒殺どくさつしやうとしたから、その返報へんぼうに、今度こんどぼく貴樣きさま毒殺どくさつするんだ、わかつたか』、れ〴〵におはるや、煤色すすいろしたみづ をシタヽカいて、るやうにつぶつた。
なにおつしやるんです、貴方あなたあんまりくるしくつてちがつたんですか、おつしやことこといて、貴方あなたどくれたなんて、わたしが貴方あなた食事しよくじ小屋こやれてつてげて、わたしがよしつてげた椰子汁やしじる召上めしあがつたら、どなたよりもさき貴方あなた御惡おわるくなつたぢやアありませんか』、タヲカは又泣またなくのである。
 田邊たなべ眞逆まさか山代やましろ仕業しわざとはおもはぬらしく、だまつてあらそはずにる。
だれ仕業しわざでもないさ、しるとき椰子やし一緒しよ毒蜥蜴どくとかげはいつたのに、だれかなかつたんだらう』、この調和ちやうわ言葉ちやうわは、らず〳〵自分じぶんくちからた。
 此島このしまには、おそるべき有毒ゆうどく蜥蜴とかげるのである、自分じぶんは、この大變事だいへんじが、あやまつてしるれられた毒蜥場どくとかげ作用さやうであらうとはしんじない、けれども、さうであれかしといのこころ充分ぢうぶんである。
『さうだ、それにちがひない、それをつたのが我等われ〳〵不運ふうんだ、みだりにひとうたがつちやアいけない』と、病人びやうにんなかで、自分じぶん調子ちやうしはせるものがある。
 柴浦しばうらの一だい事件説じけんせつが、どうやらされさうである。
 

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