井見
2023-02-28 23:48:16
82721文字
Public その他二次
 

嶋の美少年 勝手に電子版

嶋の美少年 本文全文です PDFで見るのがきちいので文字に起こしました。
激長そうですが本文約6万字、240ページ程度の分量です。

◎縦書きリーダー(ここ左下タブ)を使うと、くの字とかがちゃんと表示されます。
◎異体字・旧字体は端末によっては表示されないかもしれません。
◎ルビはふり中 サイト元PDF上では全てにルビがあるので参照してください。

元PDFはいつでも見られる!
国立国会図書館デジタルコレクションにアクセスして、表紙も口絵も見よう!

伊藤銀月 著『嶋の美少年』,春陽堂,明40.10. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/886638
(参照 2023-03-02)


 其十五 無言むごんなみだ無言むごんなみだ
 
 自分じぶんかゝつて山本やまもと手首てくびにぎり、さらをモギつてゆかへたゝきけた。
きみ勝手かつてなれない』とくゝさけんだ自分じぶんこゑおもひである。
 少年せうねんだまつてかしられた。
 柴浦しばうらすゝつた。
『オイ山本やまもときみ何故なぜ一同みんな毒殺どくさつしやうとした、そんなおそろしいことをするくらいだから、としすくなくつても度胸どきやうすわつてるだらう、をとこらしく白状はくじやうしてしまへ』
 これをいて、少年せうねん昂然こうぜんくびげた。
一同みんなころさうとしたんぢやァない、田邊たなべ野郎やらうひところさうとしたんだ』ハツキリつてわるびれない。
『だつて、一同みんなきみ毒汁どくじるはせられて、あんな有樣ありさまになつてるんぢやアないか』
『だから、ぼくんでぬんだ』、かれは、他人たにん生命いのちを二そくもんたふしたかはりには、おのれの生命いのち粗末そまつあつかはうとするのである、それで立派りつぱつみつぐなはれるものとおもつてるから、胸中きやうちうなんましきところく、答辯たうべんじつ正々せい〳〵堂々どう〴〵たるものである。
なにつてるか、一かう頑是ぐわんぜいからこまる』と、柴浦しばうら獨語ひとりごとして自分じぶんけたが、さらへて
『そんなら、何故なぜ田邊君たなべくんころになつた』
何故なぜつて、きみわからないのか、あんな惡黨あくとう野郎やらうわからずは、かしてくとくせになるからさ』
 快刀くわいとう亂麻らんまつがごとく、理義りぎ明白めいはくである、天下てんか是程これほど要領えうりやう痛語つうごい、自分じぶんおぼえず爽然さうぜん自失じしつした。
『どうもこまる、まるつきりわからないのだから、ひとごろしをそんなにたいしたことおもつてないらしい、あかぼう人形にんぎやうくびいたくらい見當けんとうだ』、柴浦しばうらあきれてわらした。
 自分じぶんはせると、柴浦しばうらまた少年せうねんし」んとにたれたのである。
海野君うんのくん、どうしたらよからうなアこの先生せんせい七日なのか七夜なゝよ問答もんだうしたつて、らちきさうにおもはれない』
『だから、A先生せんせい報告ほうこくして、指揮しきつのほかはないさ』、自分じぶん小氣味こきみくつて笑顏えがおきんずることが出來できない、柴浦しばうら此所こゝなけれア、山本やまもとげてほうくちびるれたかもれない。
『それぢやア、山本やまもと訊問じんもんはこれでおはつたことにして豫定よていとほり、あつちの小屋こや報告ほうこくしやうぢやアないか』、柴浦しばうら少年せうねん引張ひつぱつてかうとする。
ぼくひとりでけるよ』
山本やまもとうまい、までその調子てうしでやれ』、自分じぶんおもはずこゑはなつた。
 三にん小屋こやくちふさがる。
 柴浦しばうらくちひらいた。
諸君しよくん海野うんのくんぼくとは、諸君しよくんみみれるにしのびないむべきこと發見はつけんしました、その結果けつくわ山本やまもと調しらべて、かれ諸君しよくんどくすゝめたことをたしかたのです、けれども、かれ諸君しよくんどう毒殺どくさつしやうとくはだてたのではなく、田邊君たなべくんうらみがあつて、それをとう相手あいてに、諸君しよくんどうをばまり御相伴おしやうはんにしたのださうです、かれは、其手そのてつみつぐなひをすべく、毒汁どくじるさらげたのを、罪人ざいにん自殺じさつする資格しかくいとつて、海野君うんのくんうばりました、どうも、かれまるつきり子供こどものやうな、頑是ぐわんぜないことふにはこまります』
 いやにあらたまつた演説えんぜつ口調くてうで、半分はんぶん滑稽こつけいきこえるが、當人とうにんおほ眞面目まじめである。
なにツ、モウ一ぺんかしてれ、山本やまもとぼくうらみがあつてどくはしたんだと』、田邊たなべ悍然かんぜんおこした。
『さうだけれども』と、その見脈けんまくて、柴浦しばうら言葉ことばにごしかけた。
 けれどもかない。
畜生ちくせう非道ひどことをしやアがつたな』、げきしてかすれたこゑさけんで、いきなりがり、ヨロ〳〵と横歩よこあるきにあがかまちりてて、山本やまもとうへたふけた。
 んでもよはつても、力量りきりやう拔群ばつぐん田邊たなべである。
なにしやアがるんだえ』と手向てむかつた山本やまもとは、土間どませられて、ギユー〳〵おさけられた。
『オイ、諸君しよくん手傳てつだつて、こん畜生ちくせうなぐころしてれ、ぼくくるしくつて、なが我慢がまん出來できない、ヱヽこのほたる小僧こぞうめ』
 春山はるやま淺川あさかは、それから歸化きくわ西班牙すぺいんじんのカアレンまでがヨロめきつてりてた。
この惡魔あくまめ、なんうらみも我等われ〳〵を、よくもこんなひどはせやアがつたな』
 なぐつたりたり、ちいさい身體からだから、こぶしあしとがあまほどである。
 けれども、田邊たなべほかものには、なにとされてもすがまゝまかせ、胡座あぐらぢて觀念くわんねんする山本やまもと殊勝しゆしようにもまた見事みごとである。
 めるにもめられず、こんなめう塲合ばあひすくないもんであらう。
 この亂調子らんてうしなかへ、あまりにつよらされて、バラバラにいとれるときことおとかとばかりの、タヲカのこゑまれた。
山本やまもとさん、貴方あなた山代やましろさんをどくとはおもひませんか、可哀かあいさうとはおもひませんか、貴方あなた山代やましろさんになんうらみがあります、山代やましろさんは貴方あなたなんわることをしました、御覽ごらんなさい、山代やましろさんは、貴方あなたに二どくませられて、だれよりも一ばんわるくなりました、モウぬばかりです、だん〳〵身體からだえてます、貴方あなたどうかしてください、後生ごせうですからなほしてげてくださいわたしいくらあたゝめてげても、あたゝまらないんですもの』、これもまた子供こどものやうなことふてくるひわめくのである。
 子供こどものやうなことつてくつしない山本やまもとは、この子供こどものやうなことつてせまるタヲカに、一ばんなやまされた樣子やうすである、れたかしらが、くやうになつた。
 ところへ、何時いつあひだたか、二目ふためられぬ山代やましろ姿すがたが、淡墨うすずみいた幽靈ゆうれいのやうに、人々ひと〴〵なかあらはれた。
山代やましろさん、何故なぜ貴方あなたていらしつたの、わたしが山本やまもとさんへうらみをつてるから、澤山たくさんですよ、そんなことをなさると、なほわるくなるぢやアありませんか、こまるのねえ』と、タヲカがいたはる樣子やうすに、山本やまもとびつくりしてひらいた。
 すると、山代やましろ山本やまもと眞向まむき胡坐あぐらいて、すねすねれるやうになつてるのである。
 山本やまもと山代やましろとは、端無はしなくハタとつた。
 山代やましろ無言むごん山本やまもとみつめて、くぼんだ双眼さうがんからいづみのやうになみだながし、それが、いしのやうにえたほゝつたつて、幾條いくすぢ瀑布たきをなすのである。
 これを山本やまもとあやしくひかつてたが、ては、ワーツと大聲おほごゑげてした、ただしく山本やまもと山代やましろひとうらまぬ慈悲じひこゝろたれたのである、平生へいぜいしたしくまじは自分じぶんに、山本やまもと眞相しんそう説明せつめいされて、自分じぶんおなじくかれ同情どうじやうあたへて山代やましろは、いまかれためころされけてながら、毫末ごうまつ其人そのひとうらまず、かへつて盆々ます〳〵これあはれむのである、偶然ぐうぜん山本やまもところされるおのれの運命うんめいかなしむとともに、境遇きやうぐうせまられて大罪たいざいおかすにいたつた山本やまもと可哀かあいさうで、たまらないのである、鬼神きじんだつて惡魔あくまだつて、かうされてはどうしてかずにられやう、山本やまもと此時このときなみだは、物心ものごゝろいてからいまかつおぼえぬものであらう、ボタリ〳〵と土間どまおちるのが、すぐ蒸氣ゆげとなつてつのである、どんなにあついか。
 この瞬間しゆんかん山代やましろは、かみともほとけともたとへがたく、氣高けだかたふとあをほそつたその顏面かほその身體からだから、ひかりがさすばかりである、山本やまもとは、誠心まごゝろつて懺悔ざんげしたひとのやうに熱血ねつけつ全身ぜんしんみなぎり、熱汗ねつかん五體ごたいあふれてる、この二人ふたり有樣ありさまうて、今迄いままであしこぶしとをもちひてた三四にん茫然ぼうぜん氣拔きぬけけがしたやうにあとがつた。
『アヽ、山代君やましろくんきみじつ崇敬すうけいすべき人物じんぶつだ、嘆美たんびすべき人物じんぶつだ、ぼくは、きみ親友しんゆうたる光榮くわうゑい感謝かんしやする』おはつて自分じぶんつひいた。
『ねえ、山代やましろさんは感心かんしんかたでせう、立派りつぱかたでせう』タヲカは、に一ぱいなみだえて微笑ほゝえんだ。
 さうして山代やましろひざあごくばかりくヽして、じつかほのぞ
ほかかたみんな御癒おなほりなさるでせうし、貴方あなただつて、わたしが屹度きつとなほしてげます、縱令たとへ貴方あなた御生命おいのちはモウいものにしても、わたしの生命いのち貴方あなた差上さしあげたら屹度きつと御生おいきなさることが出來できませう』と、じやうえぬやうむねいてゆすつた。
『タヲカさん、ぼくきたつて、貴女あなたんぢやアまらない、その生命いのち半分はんぶんたまへ、二人ふたり半分はんぶんづヽきやう』
 

コメントなど👏:Wavebox