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匣舟
2024-06-18 20:25:09
68641文字
Public
東リベ
辿り着きたいのは美しい終焉
今まで書いたものをまとめました!年内には完結させたいなあと思っています!
転生パロです。関東事変で🎴くんと🦋くんを庇っ
て、死んだら直ぐに転生した🎍くんの話です。一応キャラクターの死表現あります。そこだけ注意してください。
若干pixivに出しているのと加筆修正やタイトル変更をしたものです。まあ気にしないでください。
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潤む瞳に揺れるもの
「たけみち、」
「なあに?」
「たけみち、」
「もう、どうしたんだよ、カクちゃん。」
「たけみち、ごめん、」
「オレ、キミに謝られること何もしてないよ。」
かれこれ数分この状態が続いている。武道の名前を呼ぶことで彼が生きていることを確認する鶴蝶を見ながら、未だに震えている背中を武道は撫でる。
鶴蝶がここまで泣いているのは武道が自分を庇って死んだことに少なからず責任を感じているからだと武道は知っている。だからこうしてずっと武道に向けて鶴蝶は謝っているのだ。
「カクちゃん、あれはキミのせいじゃないよ。」
「オレなんか、庇わなかったら
…
」
「オレなんかなんて言わないでよ。あれは無意識に体が動いただけ。カクちゃんは悪くない。」
「
…
で、もそのせい、で。」
「あのね、カクちゃん。オレはキミを庇ったこと、悔いたことなんて一度もないよ。だからね、そんな意味もない贖罪を背負うのもやめて、自分のこと許してあげて?」
武道は鶴蝶やイザナを庇ったことに対して悔いたことも、恨んだこともなかった。それが例え自分が死んだとしても。あの場ではあれが最適解だと武道自身あのときも、今も思っているからだ。
ずっと稀咲に吠え面をかかされていた武道にとって、稀咲の間抜けな顔は一生忘れないだろう。
自分はヒナの未来を、みんなの未来を見届ける義務があった。みんなでハッピーエンドを迎えるために。それでもあの場でイザナと鶴蝶を見捨てることはできなかったのだ。
だから、自分が代わりに撃たれた。別に、自分がそのハッピーエンドの輪の中にいなくても良いと武道は考えているから。ただそれだけの事だ。
「でも、」
「カクちゃん。」
武道は幼い頃のようにまた優しい手付きで鶴蝶の涙を拭う。そして、またあの真っ直ぐな瞳でオレを見てと訴えた。
鶴蝶を見るその目はずっと、今も昔も変わらないままだった。海のように透き通る青い瞳と目線がかち合う。
また、こうして鶴蝶のだいすきな青い瞳に出会えたと改めて思うと、途端に止まりかけていた涙が再び溢れ出して止まらない。
そんな自分の涙腺をどうにかして欲しいと思いながらも目の前のヒーローから目を離すことは出来なかった。
「オレはちゃんと生きててここにいるから大丈夫だよ。」
ほら、ちゃんと心臓の音も聞こえるでしょ?と武道が言うと、その言葉を聞いてからなのか、鶴蝶は落ち着き始める。だけど涙は少し出たままで。
「だからもう謝らないで。」
オレのためにもカクちゃん自身のためにもね!と言う武道の笑顔はやっぱりあの頃と変わりなくて、また涙が出てきてしまった。
でも今度は悲しい涙ではない。嬉し涙だ。そんな武道を見て、自分も泣いてしまっているというのについ笑ってしまった鶴蝶がそこにいた。
「今までどこにいたんだ、」
少し冷静になった鶴蝶は面接官のように様々な質問を武道へと投げかける。どうしてここにいたんだとか、いつ記憶を思い出したんだとか色々。
聞きたいことが沢山あるのは分かるけれど、武道は笑いながらそんなに質問されても聞き取れないよ?と笑った。
「東京と、横浜じゃないところ、かな。オレが産まれたところは東京も横浜も遠いよ。」
「いつ、思い出したんだ」
「
…
五歳の時、インフルエンザに罹って高熱を出した時かな。その時にバチンッて記憶が流れてきて、大変だったなあ。」
「なんでこんな所にきたんだ」
「
…
強いて言うなら、過去と決別するためかな。今世は施設育ちで一人で生きていかなくちゃならないから、いつまでも過去に縋りつかない為にも
……
」
「武道、今なんて?」
「いつまでも過去に縋りつかない為にも?」
「そのまえ」
「今世は施設育ちで
……
」
施設育ちだと言った途端、幼馴染の目が変わったことがわかった。鶴蝶の瞳には燃え上がるような怒りが映っている。
なんで施設にいるんだ、親はどうした、という質問を武道に投げかける。武道はひとつひとつ丁寧に鶴蝶の質問に答えていった。
「施設育ちなのは、肉親に捨てられたからだよ。胸のど真ん中にある痣が気持ち悪かったみたいでね。」
「どこのどいつだ、」
「
…
分からない。産まれてからちょっと経ってから捨てられたから。でもね、いいんだよ。」
確かに捨てられたのは悲しいよ。すこしだけ、ね。彼女は彼女なりにオレの事を愛そうとしてくれたことをちゃんと知っているから。と武道は鶴蝶に向けてへらりと笑っ
た。施設に置き去りにさせられる前に、母親と思わしき人物が自分の頬を擦りながら大粒の涙を流していたことを武道は知っている。
だから別に捨てられたと思い知った時、そんなには悲しくなかった。彼女は、施設に預けることで武道の命を繋いでくれたのだから。
そんな武道を見た鶴蝶は何も言えなくなった。本当は見つけ出して武道を捨てたことに対して罰を与えてやらないと気が済まなかった鶴蝶。
だけど武道が自分の中で折り合いを付けているのなら、自分の出る幕は無いと思ったのである。
「
……
これから武道はどうするんだ。」
これからひとりぼっちで生きていかなければならない武道がどうやって生きていくのかただ純粋に鶴蝶は気になった。
ここ、横浜第七埠頭に来たのは過去と決別する為だと武道は言った。武道にとっての過去は関東事変で死んだ時の事だ。
だから過去から決別する中にオレたちとの縁を切ることも入っているんじゃないかと鶴蝶は思ってしまった。
ずっとひとりぼっちで、かつての記憶を持ったままここまで生きてきた武道。自分はイザナという王が居たからこそ、孤独なんて感じなかったし、天涯孤独というレッテルも軽々しく破ることができた。
だけど武道は。今日という日に自分と出会わなかったらずっと、ひとりぼっちで生きていくつもりだったのでは無いかと鶴蝶は思ったのだ。
「オレ
…
?オレはね、大学進学するよ。」
「それからは?」
「
…
それから?」
「大学を卒業してからは?ずっと、ひとりで生きてくつもりなのか?」
鶴蝶が言い放ったひとりという単語に武道が少しだけ動揺を見せたのを鶴蝶は見逃さなかった。
かつて武道の周りにはたくさんの仲間がいたのに、そんな彼がひとりぼっちになろうとする意味が分からなかった。
「なんで、そんなにひとりになろうとするんだよ
…
?」
鶴蝶の悲痛な叫びに武道は顔を歪める。武道にとって鶴蝶たちは過去の人間であるようにまた、鶴蝶にとって今の武道はこの場に来なければ一生関わることのなかった人間だ。
彼らは、武道のいない日常をずっと生きてきた。だから武道は別に自分が居なくても良いと思ってずっと生きてきたのだ。
もうタイムリープをすることもできないから、もう誰かを救うことも命を張ることもできない。助けてくれ!とあの頃のように言われてももう何もすることも出来ない。
武道にはあの頃の勇気も覚悟も正義も何も備わっていない。そんななにもできない惨めな自分が、彼らの隣にいていいわけが無い。彼らは
ヒーローだった
・・・・・・・
自分を見てくれていた。なんにもない自分なんて見てくれないのだと。
だから、過去の縁を全て断ち切ってひとりぼっちで生きていかなければと思っていた。そのはずだったのに、どうしてか目の前の男は泣きそうな顔で武道のことを見ている。
なんでそんな顔するんだよ。と武道は思ったがそれを口にはしなかった。その代わりに武道の口から出てきたのはなんとも情けない声だった。
「カクちゃん。キミはさ、勘違いしてるんだよ。
…
キミのヒーローはあの日死んだ。今、キミの前に立っているオレはただの他人だよ。」
武道はこれ以上過去のことを引きずってほしくないと思ってわざと突き放すような言い方をした。自分と関わっても良いことなんてひとつもないと思ったからだ。
もう彼らは武道が居なくても、自分たちの力で幸せになれるのだから。自分で言っておいて泣きそうになっている武道はなんとか泣かまいと唇をかみ締めた所で鶴蝶はまだ、オレのヒーローはいるよ。と言い切った。
…
武道の目をはっきりと見て。
「
…
ッ、ちが、う!」
「
…
違わない。今までもこれからもずっと、武道はオレのヒーローだ。」
「違うッ!」
「
……
違わない。」
「もう、オレは
…
ッ、何もできないんだ
…
ッ!何にも守れないんだよ
…
ッ!」
今まで泣かなかった武道の目からついに涙が零れた。武道は、鶴蝶から顔を逸らし地面を見た。こんな事を言って欲しくない。だって、今目の前にいる彼にそんな事を言われたらまた縋ってしまうかもしれないからだ。今日は過去と決別する為に来たのに。
ずっとひとりで生きていくという武道の今までの覚悟が揺らぐ気がして、武道はこれ以上何も聞きたくないと耳を塞いだ。それでも、目の前にいる彼の声は武道の耳に届いてしまう。
「なあ、武道。」
「
……
」
「あの日、最期に約束したこと覚えてるか、幸せになってって言ったの。」
あの日、武道が死んだ日。最期に鶴蝶に一方的に取り付けた約束。そういえば鶴蝶に幸せになれなんて映画の最後のシーンのような台詞を言ったんだっけか。
「
……
お、ぼえてる、けど。」
そう言った武道を見て鶴蝶はそうか、覚えてるんだな。と笑みをこぼした。
「
…
あれからずっと、幸せになろうとしたけどなれなかったんだ。イザナと天竺という名の国を立ち上げた時も、施設の子どもたちがすくすくと育っていくところを見ている時も。幸せなのにどこか胸にぽっかり穴があいたみたいだった。」
なあ、武道。なんでだと思う?という問いに武道は答えられなかった。なんでかなんて、そんなこと武道にわかるはずがないからだ。そんな武道を見て、やっぱりお前は変わらないなと苦笑いをする鶴蝶。
他人の感情には敏感なくせに、自分に向けられる感情には鈍感だよなあ、昔からずっと。と独りごちた。
「武道、オレはオマエがいないと幸せになれないんだ。」
だから、もうひとりぼっちになんてなろうとするなよ。と昔のように笑う幼馴染に武道はまた泣きそうになる。
自分が居なくても彼は幸せになれたはずなのに、どうしてそんなことを言うのだろうか。なぜそんな顔を自分に向けるのだろうか。武道は分からなかったけれど、その答えを見つけるよりも早く、視界が歪んでいくのがわかった。
「オレ、はッ、まえみたいにヒーローにはなれないよ?」
「
…
うん。」
「キミたちを、助けることも守ることもできないんだよ?」
「
…
もうオマエに守られてばかりの弱虫なオレじゃないから大丈夫だ。
…
今度はオレが武道を守ってやる。」
「オレ、は
……
ッ、」
「なあ、武道。オレはオマエがいいんだよ。」
自分がいない方がいいとでも言うように精一杯自分の粗探しをする武道になんにもできなくたっていい。ただ隣にいてくれるだけでいいんだ。それが、オレの幸せだから。とそうはにかみながら愛おしそうに武道を見つめる鶴蝶に、グラグラとぐらついていた武道のずっと一人で生きてゆくという意思は見事にバラバラに砕け散った。
ずっと、ひとりで生きていかなければならないと思っていた。今世で生きる武道は、過去で死んだ武道とは違うから彼らと関わってはいけないのだとずっと武道は思っていた。
関わることのなかった人間が関わるとロクな事がないと武道はタイムリープをしていた時に何度も実感したことがあったからだ。
前世、関わることのなかった彼らに介入してしまった自分がいちばん、分かっていたことだった。
何度も、なんども、自分が不甲斐ないせいで彼らを死なせてしまった事があったから。だからこそ、それを戒めにして一人で生きていかなければならないと思っていたのだ。
だけど、本当は誰かに助けて欲しかったのかもしれない。手を差し伸べて欲しかったのだと思う。ずっと孤独だった、ひとりぼっちだった自分を、見つけて欲しかったのだと思う。
記憶を思い出してからテレビや雑誌で彼らが生きているということを実感する度に、やっぱり自分が居なくてもちゃんと生活しているんだな。と安心している傍ら、あぁ、自分の居場所はもうないんだな。と思った時もあった。
(嬉しいはずなのに、なぁ、)
彼らが生きているということが分かっただけで嬉しいはずなのに、それに対してオレは本当に一人ぼっちになってしまったんだなと孤独感を実感させられた気がして、彼らがテレビや雑誌に出ているものを避けたりもした。
一番辛いのは孤独なことだと、かつて八戒に向けて言った言葉が今の自分が置かれている境遇に返ってきている気がして嫌だったのだ。きっと。
結局、ずっと一人で生きようとしていた癖に矛盾だらけな自分の思考に笑えてくる。
だけどもう武道はひとりぼっちになろうと思えなかった。武道の目の前にいるかつての幼馴染が自分に向かって優しく手を差し伸べているから。もうその優しさに抗える力なんて武道には無かった。
なんとも震える声で彼の名前を呼ぶ。そんな武道に彼は優しく微笑んだ。
「か、くちゃ
…
」
「どうした、武道。」
鶴蝶から差し伸べられた手を掴もうとした瞬間に武道は少し躊躇した。本当にこの手を取っていいのだろうかとか、これまでの努力はなんだったんだ!と心の中の武道がそう問いかけているからだ。
本当に自分はこの手を取っていいのだろうか、また関わって彼らを不幸にしないだろうか。色んな不安が武道に襲いかかる。
やっぱり、この手を掴まずに走り去った方がいいんじゃないだろうか。なんてそんな武道の考えを見透かすように、鶴蝶は武道。ともう一度彼の名前を呼ぶ。
そんな鶴蝶に呼ばれた武道は目の前の彼を見る。鶴蝶の瞳と視線がかち合った瞬間、グルグルと頭の中で渦巻いていた不安は何処かへと消え去ってゆく。
鶴蝶は今まで見たことのないような優しい顔をしていた。早く、こっちに来いとでも言うように。そんな顔をされてしまったら、もう武道には抗う術なんてなく嗚咽を漏らしながら鶴蝶から差し伸べられた手に自分の震える手を重ねた。
「か、く
…
ッ、ちゃ、ん」
「うん?」
「ひとりにしないで
…
ッ、」
「
…
ああ、もちろんだ。」
やっと素直になったな。と安心したように微笑む幼馴染。そんな幼馴染を見て武道はまたぽろぽろと涙を流していた。それにつられるようにして笑いながら涙を流す鶴蝶。
ふたりは抱きしめ合いながらずっと泣き続けた。コンテナの隙間を通り過ぎていく潮風だけが、彼らが再会したことを祝福するようにピュウ、ピュウと音を立てていた。
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