匣舟
2024-06-18 20:25:09
68641文字
Public 東リベ
 

辿り着きたいのは美しい終焉

今まで書いたものをまとめました!年内には完結させたいなあと思っています!
転生パロです。関東事変で🎴くんと🦋‪くんを庇っ
て、死んだら直ぐに転生した🎍くんの話です。一応キャラクターの死表現あります。そこだけ注意してください。
若干pixivに出しているのと加筆修正やタイトル変更をしたものです。まあ気にしないでください。


約束の地に睡るわたしのたましい

 あれから数年後。保育園児たちのテンションにどうにかついて行きながら保育園を卒業し、ずっと避けて通ってきた勉強に力を入れ、そこそこの成績を取りながら小学校、中学校、高校を卒業した武道は、高校卒業記念と称して一人旅を満喫している所であった。
 今世の武道は勉強を死に物狂いで頑張ったお陰で大学への進学が決まっていてもうすぐ施設から去る前に、一人暮らしが始まる前の忙しくない時にひとりで旅行に行こうとずっと思っていたのである。今回の一人旅はずっと今まで頑張ってきた自分に対するご褒美のようなものだった。
 武道が旅の行き先として決めたのは横浜。ただ単に中華街に行って、本場みたいな中華料理を味わいたいという単純な理由と、彼が記憶を思い出してからずっと横浜でしたいことがあったからである。
 武道がゆかりがあるのは前世、ずっと生まれ育ってきた東京だ。何故、東京にしなかったのかと言うと、実は東京は一度だけ武道は足を踏み入れたことがあるのだ。
 まあ、それも修学旅行で、だが。小学校はお馴染みの大阪と京都だったが、中学校の修学旅行は東京だったのでかつてのマイホームに足を踏み入れたわけだが、所詮中学生なのでグループ行動しかなく、自由に散策することなど不可能に近かった。
 自由に散策が出来たのなら、龍宮寺たちが居るであろうバイクショップや、松野たちが経営しているであろうペットショップなども見て回りたかった。
 けれど団体行動が基本なので単独行動することなんて許されず、かと言って単独行動をして同じ班のメンバーを困らせるなんて以ての外という考えの武道なので、自分のマイホームである渋谷に行くことは叶わず、修学旅行のお決まり(?)と言っても過言では無い国会議事堂や東京スカイツリー、お隣の県の某テーマパーク、そして雷門を見て回って帰ってきたのである。
 次の高校の修学旅行は沖縄だったし、それから一度も東京には行ってはいないが、進学先が東京の大学なので東京は在学中に見て回ればいいか!という武道の見解によりめでたく横浜行きが決定したのである。
「うー、さむ、」
 マフラーとモコモコの帽子に守られていない真っ赤な鼻を必死にマフラーで隠そうとしながら冬の寒い波風に耐えて埠頭を歩く。
 武道が今、歩いている場所は数年前、花垣武道という人間が犠牲になった関東事変が起きた横浜第七埠頭付近だ。
 そういえばあの抗争の時もこんな寒さだったなあ。と武道は思い出に耽っていた。
 まあ抗争だし、殴り合いの喧嘩やってれば寒さなんて感じなかったけれど。とも耽る。やっぱりこの場所に来るとかつて自分が死んだ時の最期の情景が思い出される。
 自分の最期の事は銃に撃たれたのが痛すぎてあまり憶えて居ないけれど、自分が撃たれたと同時に真っ先に駆け寄ってくれた久しぶりに会った幼馴染が、自分を見て泣いている姿と幼馴染が王と崇めている彼が驚いている姿と、そして武道を撃ったであろう彼のは?という呆気ない顔だけを憶えている。
 そんな稀咲に対して「テメェの思い、通りになんか、させねェよ、バーカ。」と笑ってやった事も思い出した。死ぬ間際にそんな挑発的な言葉を言ったのも若気の至りだよなあ。なんて思いながら武道は埠頭を歩き回る。
「マジで寒い
 横浜に来たというのにコンテナだらけの埠頭に足を踏み入れる人なんて武道ぐらいで、当然ながら周りには誰もいなかった。
 横浜に行くならもっとみなとみらいだとかそれこそ旅の目的だった中華街とかに行くだろうに。と誰もが言うだろうが、武道はそんなことを言われてもきっと気にしないだろう。
 彼は今、かつて ・・・の記憶を辿っている最中なのだから。
 ああ、あの喧騒が懐かしい。拳と拳がぶつかり合う音とか、抗争前の緊張感とか、抗争に向かう前のあのバイク音とか。全てが懐かしく思える。
 今世は不良のふの字にも掠らず真面目に勉強をしていたから、武道にとってはもう懐かしいという言葉に尽きるのだ。あの頃に戻りたいか?といわれたら即答で戻りたくない!って言うけど。
 もう辛いのも痛いのも懲り懲りだからだ。あの時は、彼らを救うという大切な使命があったから辛いのも痛いのも耐えられた。だけど今は無理だなあ。なんて武道はフッと笑った。
 懐かしさに浸りながら武道はかつて自分が撃たれたであろう場所で足を止めた。
やっと ・・・、決別ができるよ。みんな。」
 決別。再び会うことの無い別れ。武道は今からここで一人の人生の物語を終わらそうとしている。
 記憶を思い出してからずっとここに来たかった。関東事変が起こったこの場所で、終わりにしたかったのだ。
 花垣武道の物語を。
 物語には幕引きがあるように、花垣武道という人間の物語も幕引きをしなければならないとどこかで思っていた。
 でも小さな自分には何も出来なくて、この時を待つしか無かったのだ。施設からひとり立ちをする時にここに来ようと決めたのはずっと前の事だ。前世の記憶を思い出してからの決定事項だったように思う。
みんな、元気かなあ。」
 そんな過去を懐かしむ声は冷たい風と共に消えていく。だってここには武道しか居ないのだから。
 あんなに喧騒に包まれていた場所は、武道の息を吸う音と、寒くて鼻を啜る音と、武道が暖をとろうとジャケットのポケットに忍ばせたカイロをシャカシャカと振る音だけが聞こえている。
 かつて仲間に囲まれていたヒーローは、今はひとりぼっちになってしまった。
「ここまで、長かったなあ。」
 タイムリープをして戻っても中学生だったので、幼稚園児スタートは本当に骨が折れた。周りの子と合わせるのは大変だったし、周りの流行について行くのも大変だった。
 やっと精神年齢と一緒になってきた中学生からは楽になって周りと合わせなくていいようになっていたけれど、それでも早く大人になりたかった。ずっとこの日のために生きてきたまであるのだ。
 わざわざ日付を調整してまでこの埠頭に来たのは、過去と決別するためだった。関東事変が起こった二月二十二日という日に死んだ自分の魂をここに置いていくために。かつて、ここであっけなく死んでしまった花垣武道を遺して行くために。
 もうすぐ子どもから大人になる武道だからこそ、自分の魂の中に眠っている花垣武道を置いていかなければならないのだ。
 いつまで経っても過去に縋りついてしまう自分に、これからは前を進んで歩いて行けるようにとかつて自分が死んだ場所を訪れたのである。
「さようなら。花垣武道。」
 武道が手に持っていた紫苑の花束を海に放りなげた。バシャ、と音を立ててバラバラになった花束はプカプカとどこかへ消えてゆき、もう見えなくなってしまった。
 武道は、花束と一緒に過去を海へ捨てた。かつての自分の過ちも、失敗も、未練も全て捨てて未来に進むために。もう過去に縋りつかないために。
 今の武道にはタイムリープをすることも、誰かのために命を張ることも何もできないけれど、それでもきっとどうにか生きていけると確信を持って言えるようになったから。
ばいばい。」
 もう一度だけそう呟いて武道は横浜第七埠頭を後にする。もう二度とここには来ないだろうけど、別にそれでいい気がしたのだ。
 だってここは人生の分岐点の一つなのだ。前世で死んだのは確かにこの埠頭だけれども、今世の新しい始まりはきっとここだ。だから武道はここを決別の場所と定めて、そして、過去を捨てた。
 もう前だけを見て生きていくために。
「さ、中華街にでもいって肉まんでも食べよっかなぁ〜!」
 もうこの場所には来ないだろうから、埠頭の地面に手をついてこの場所にもさよならをして、もう一度立ち上がった。
 中華街に向かおうと埠頭を後にしようとすると、背後からパサっという謎の音が聞こえる。
 振り返ると地面には花束が落ちていた。花束の後ろには革靴が見える。自然な動作で上を見上げると、その人物と目線がかち合った。
た、けみち……?」
 そう武道の名前を呼んだのは、かつて自分が庇った幼馴染である鶴蝶だった。自分と同じように目を見開きながらこちらを見て突っ立っている。
どうしよう、こうなることは予想外だったと武道は頭を悩ませる。前世の幼馴染と会うことなんて全く考えてなかったからだ。
 人違いですというのもこんな人気のない埠頭に来ているから無理があるし走って逃げたとしても彼に勝てる勝算なんてゼロに等しかった。武道の足の速さは東卍の中でも群を抜いて遅いから。
 そもそも、武道のかつての幼馴染、武道が命を懸けて庇った相手である鶴蝶が生きているという確信が得られただけで武道は今、泣きそうなのに。
(はやく、にげないと)
 彼の問いには答えてはいけない。武道は過去をついさっき捨てたばかりだからだ。これからは一人で生きていくと決めただろ!と武道は唇を噛み締めた。
 ずっと下に向けていた顔を上げて、彼から逃げようと足を踏み込むとボロボロと泣き出す鶴蝶の姿が目に映った。彼の泣いている姿を見たのは喧嘩に負けて悔しいと言っていた幼少期の時と、最期に自分が死んだ時ぐらいだ。
 そんな珍しい彼の泣いている姿を見て動揺してしまった武道は、踏み出そうとしていた足をどうしていいか分からなくなってしまった。薄情な人間ならば泣いている鶴蝶を素通りすることも出来たかもしれない。
だけど武道は薄情な人間ではないから、そんなことをする勇気がなかった。動揺したまま、武道はなにも出来ないでいる。
 その場に立ち尽くして鶴蝶を見つめるだけ。早く、早く動け。離れろ。という感情も虚しく武道の足は竦んだまま動かなかった。
 そんな彼の心情を知らない鶴蝶はフラフラと武道の方に近づいてゆき、そして思いっきり武道のことを抱きしめる。
「い、きてる、たけみちッ、」
 苦しそうに呟く鶴蝶の姿を見てしまい、武道は彼の抱擁を拒むことは出来なかった。幼馴染の彼がここまで自分が死んだことに傷を負っていたことを今、知ってしまったからだ。
 武道の胸に顔を埋めて心臓の音を聞く彼を見て、武道は彼を、そして過去を突き放すことが出来なくなってしまった。
 先程、海に捨てたはずの過去をもう呼び寄せなくてはいけなくなってしまった武道。
 何とも短いお別れだった。本当に過去と決別するなら、走り去ればよかったのに。だけれど泣いている鶴蝶を見放して走り去ることなんて武道にはできなかった。
 結局、自分もかつての幼馴染を見て決意が揺らいだのだ。武道は人の涙に弱いから。
久しぶりって言った方が、いいのかな?」
 久しぶりだね、カクちゃん。そう昔のように呼んでいた名で呟くと、鶴蝶の抱きしめる力が強まった気がした。
 そんな鶴蝶の姿を見て武道はとっくに逃げるのを諦め、彼の震えている背中を包み込むように腕を伸ばした。