匣舟
2024-06-18 20:25:09
68641文字
Public 東リベ
 

辿り着きたいのは美しい終焉

今まで書いたものをまとめました!年内には完結させたいなあと思っています!
転生パロです。関東事変で🎴くんと🦋‪くんを庇っ
て、死んだら直ぐに転生した🎍くんの話です。一応キャラクターの死表現あります。そこだけ注意してください。
若干pixivに出しているのと加筆修正やタイトル変更をしたものです。まあ気にしないでください。


王座の似合うひと

「カクちゃんッ、そろそろ下ろしてもらっても……?」
「厶オレはこのまま行っても良いんだが
 結局どれだけ足掻いても武道は鶴蝶の腕に収まりながらイザナの待つ部屋まで案内され、今、二人はその部屋の前に居る。
 ここに来るまでの道中は武道にとって黒歴史を作られたぐらいの出来事だった。恥ずかしすぎてまだ頬の赤みが収まらない。
 下ろして、下ろして!と何度言っても上機嫌な鶴蝶には聞こえてなかったのか下ろして貰えず武道はこうして現在進行形で鶴蝶の腕の中に収まっているのだが、流石にこのままの格好で鶴蝶がドアノブに手をかけようとするものだから武道は慌ててストップをかけた。
「いやいや流石にこのままじゃまずいよカクちゃん……。」
「どこがだ?」
 エッ、全部だけど?と答える武道に鶴蝶は首を傾げるばかり。そんな彼の姿に武道ははァと息を吐いた。
 鶴蝶は上機嫌になってしまうとごくたまに突拍子もないことをしたりすることがある。それは鶴蝶の幼馴染であるよく武道が知っている事だった。
 まあその行動が武道にとってあまり影響のないことだったから子どもの時はあまり気にすることもなかったけれど今となれば別だ。
 いい歳した高校生が抱えられながら社長室に入るってどうなんだろう。寒すぎはしないかと武道は一人でブツブツと考えている。
 やっぱり下ろして欲しいと鶴蝶に言いかけた所で、イザナがいる社長室のドアがバンッと音を立てて開き、武道はビクッと肩を揺らした。
「何時までそこで痴話喧嘩してンだよ。テメェらって何だその格好。」
 ドアを蹴破ったのはイザナで、鶴蝶に抱えられている武道の姿を見てプハッと肩を揺らしながら笑っている。鶴蝶は鶴蝶でイザナにいきなりドアを開けるな。当たったらどうするんだ。とイザナを咎めていた。
 鶴蝶に抱えられたままの武道は、こんな姿をイザナに見られてしまったという恥ずかしさとイザナが目の前にきてしまったという突然の恐怖に怯え、は、ハヒと日本語じゃない言語を喋っている。そんな武道の姿を見たイザナはカランッと耳に付けているピアスを鳴らしながら武道に近づいた。
「よォ、下僕二号。朝以来じゃねェか。」
「ピッ……
「恐竜の鳴き真似でもしてンのか?日本語喋れよ。」
「ヒィ……ィ」
 ムニムニと武道の頬を摘むイザナに程々にしてくれ。武道が怖がってるぞ。と鶴蝶が助け舟のようなものを出してくれているが、それならこの行為を止めさせてくれないか!と心の中で叫んでいる武道。鶴蝶の方を向いて助けを呼びたいがイザナに顔を固定されているのでそれは叶わなかった。
 アメジストを嵌め込んだかのような綺麗な紫色の瞳が武道のことを見つめる。イザナの視線に耐えきれなくなった武道はキュッと目を閉じてしまった。そんな武道を見たイザナはフハッと笑い、武道の頭を撫でた。
「ようこそ、我らが天竺へ。オマエが来るのをずっと、ずっと待ってた。」
 来るのが遅せェワ。と武道のおでこにデコピンを当てたイザナの表情は少しだけ泣いているように見えた。でもそれは武道の見間違いだったのかもしれない。
 だって彼のデコピンの威力が強すぎて武道の目が霞んでいたのかもしれないからだ。おでこを抑えながらいてェとボヤく武道のことを置いて社長室のイスに座ったイザナは、本当に頭に王冠が載っているのかというぐらい様になっていた。
 座れ。とイザナから指示を受けた武道はようやく鶴蝶の腕から逃れることができた。武道が座っている椅子は、イザナが座っているイスの真正面に配置されている。
 まるでこれから圧迫面接でも始まるのか?というぐらいの。一人にしないと言ってくれた鶴蝶は、この部屋には居るものの、恐らく定位置であるイザナの隣に収まってしまった。
 これは助け舟は当分来ないな。と察した武道は、恐る恐るイスに座った。
「さあ、洗いざらい話して貰おうか。なァ?武道?」
「オッ、お手柔らかに、オネシャス……。」
 目の前で手を組みながらニコニコと笑うイザナが、武道にはもう王様というか、大魔王のようにしか見えない。見つかったのが運の尽きだったな。と一人で感傷に浸りながら、今までの事を洗いざらい話した。
 前世というものを思い出したのは、五歳のときにインフルエンザで寝込んで休んでいたとき、突然脳内に前世の記憶が流れ込んで来たこと。そしてその時に自分が肉親に捨てられ、施設で育てられていることを知ったこと。
 記憶を思い出したときに、自分がみんなにしてあげられることが何も無いということを知り、今世はみんなと関わらずに生きていこうと決心したこと。
 最後に、十八歳になった記念として関東事変が起こった二月二十二日に前世との決別をする為に、横浜を訪れて一人で生きていこうという決心をしようとした時に偶然にも鶴蝶に会ったこと。
 説明が下手ながらも何とか言葉を繋ぎながら喋り終えた武道に、イザナはただ一言、よく頑張ったな。と声を掛けてくれた。なんで会いに来てくれなかったのか!みたいな言葉を掛けられると思っていた武道はイザナから掛けられた言葉に少し拍子抜けしてしまった。
「がんばった……?オレが?」
「頑張ったよ、オマエは。」
 孤独がこの世で一番辛いことはオレも知ってるからな。と口を開いたイザナを見て、
 かつて彼が異常なまでに血の繋がりを求めていた事を思い出した。武道は前世一人っ子だったから兄弟というものがどんなものかなんて知らなかった。一人っ子の武道からして見れば兄弟というものに憧れたことはあった。
 自分に姉や兄がいたら泣きついてばっかだったのかなとか、弟や妹がいたとしたら甘やかしてばっかりだったんだろうなとかそんなことをずっと考えていた時もあったくらいだ。
”オマエがオレから全部奪ったんだよ、マイキーッ!”
 彼が万次郎と戦っていた時のあの悲痛な叫びは今でも武道の耳にはっきりと残っている。幼い頃に妹と別れ、一人で施設へと送られ、孤独だった彼の気持ちを武道は少しだけは理解できる。
 記憶を取り戻してから自分はもうひとりぼっちで生きていかなきゃいけないのか。ということに気づいたときの底知れない不安と孤独感が武道にずっと付き纏ってきていたからだ。
 人生を何周もしている武道だからこそこうして立ち直って一人で生きていこうという決心をすることが出来たけれど、自分がイザナの立場だったとしたらきっと、ずっと孤独に苛まれながら生きていたに違いないと思う。
 結局、今世誰にもかかわらず一人で生きようとしていた武道も、孤独に勝つことなんて出来なかったし。
 それでも今、武道の目の前にいるイザナはあのときの孤独で血の繋がりを求める寂しそうな目をしていなかった。そんなイザナの瞳を見た武道は思わず無意識に言葉を発してしまう。
「いま、幸せですか?」
 一瞬驚いた顔をした目の前の彼だったがそれもつかの間、フッと笑みを零して。ああ。と答えた。
どっかのバカが命を削ってオレを守ってくれたおかげでな。」
 イザナが武道の頭をくしゃくしゃに撫でる。イザナにされるがままの武道はバカとか言わないでよォと言いながら耐えきれずにポタ、ポタと涙を流し、ずっと二人の話を聞いていた鶴蝶の鼻を啜る音が社長室に少しだけ響いていた。
 武道は本当にこの二人を助けることが出来て良かったと、心から思ったのだった。