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匣舟
2024-06-18 20:25:09
68641文字
Public
東リベ
辿り着きたいのは美しい終焉
今まで書いたものをまとめました!年内には完結させたいなあと思っています!
転生パロです。関東事変で🎴くんと🦋くんを庇っ
て、死んだら直ぐに転生した🎍くんの話です。一応キャラクターの死表現あります。そこだけ注意してください。
若干pixivに出しているのと加筆修正やタイトル変更をしたものです。まあ気にしないでください。
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ハロー、マイヒーロー
カタカタと指を滑らせながらキーボードを打ち、納期が早い書類をテキパキと纏めていく。ずっと眠れない鶴蝶にとって、仕事をすることが唯一の息抜きになっていた。最後にぐっすりと寝たのはいつだったのか。もう覚えていない。
今日は、特に仕事をしていてもなんとなく落ち着かなかった。パソコン業務では入力ミスばかりしてしまうし、書類上に押す押印も逆さになってしまっているのもある。
終いには施設の子どもたちにでさえ、ちゃんとねれてるの〜?なんて聞かれてしまった。子どもでも分かる隈の濃さなのか
…
と鶴蝶は少し驚いた。次からはちゃんと隠そうと心に刻んで。
こうなってしまう原因は分かっていた。それが鶴蝶が眠れていない理由にも直結するから。
今日は、鶴蝶のヒーローだった、花垣武道が死んだ二月二十二日。彼の命日だ。
「ほら、早く行ってこい。今日はもう終わりだ。」
定時から一時間ほどすぎた十九時すぎ、イザナから唯一の息抜きになっているパソコン業務を中止させられ、半強制的にシャットダウンされた鶴蝶はイザナに文句を言おうとしたがイザナの絶対零度のような目線に逆らえず、やむなく施設をあとにしたのである。
彼が好きだったポテトチップスをコンビニで買い、最後に花屋に寄って、花束を買ってから鶴蝶のヒーローが死んだ、横浜第七埠頭へと向かう。
最初はここ、横浜第七埠頭と武道の墓前でさえ訪れることすらできなかった。鶴蝶は未だに武道が死んでいるという事実を受け止めてきれていないのだ。武道が死んだところをいちばん、間近で見たというのに。
受け止めきれていないけれど、どうにか少しずつ訪れることができるようになってきて今では毎年、こうして彼が死んだ埠頭に足を運んでいる。鶴蝶がこの埠頭に足を運ぶのはこの日だけだ。
いつもこの日だけ足を運んで、天国の彼に毎年何があったのかをそこに彼がいるかのように一人で喋るのだ。
前はこんなことがあって大変だったとか、施設から一人巣立って行っただとか、他愛もない話をする。話したいことが尽きると鶴蝶は花束を埠頭に置いてゆき、また来る。とだけ言って去るのが毎年のルーティンのようなものになっていた。
今年もたくさん彼に話したいことがある。マイキーがバイクのレースで優勝した話だとか、三途がYouTuberになっただとか、イザナが施設の子どもたちからのサプライズでちょっと泣いてた話だとか色々。こんなコンテナだらけの埠頭に足を踏み入れるのは鶴蝶ぐらいで、周りは静寂に包まれている。
もうすぐ、目的地である横浜第七埠頭が見えると言ったところで、静寂に包まれていた埠頭から人の声が聞こえた。
コンテナに隠れて息を潜めた鶴蝶は、先客が早く立ち去るのを待つ。早く、立ち去ってはくれないだろうか。と思っていると、先客がこう言ったのだ。
“さようなら、花垣武道。“
と。息を潜めていた鶴蝶の喉がキュッと鳴った。ここら一体はコンテナしかないから潮風が強く、幸いにも鶴蝶が出した音は聞こえていなかったが鶴蝶はそれどころでは無かった。
先客は今なんと言った?確かに花垣武道と言ったはずだ。聞き間違えようがない。さようならってどういう意味なんだ?と混乱した頭でグルグルと考える鶴蝶。
とりあえず、声の主を確認した方がいいと思った鶴蝶は、コンテナとコンテナの隙間から先客の様子を伺った。
彼は花束を海に投げたあと、埠頭の地面に手をついて用が済んだのか中華街にでも行こうかなあ〜と盛大な独り言を零している。そしてくるりと正面を向いた。彼の顔と瞳を見た瞬間、鶴蝶は呼吸の仕方を忘れそうになった。
(あ、の瞳は
…
。)
かつて、鶴蝶の幼馴染でヒーローだった彼と同じ、海のように透き通る綺麗な、キラキラ輝く青い瞳。周りに街灯がなくて顔ははっきり見えなかったけれど、あの青い瞳はそんな暗闇でも見えた。
動揺が隠しきれなかった鶴蝶は、手にしていた花束がパサっと地面に落としてしまった。青い瞳を持った彼が音がしたこちらを向いて、鶴蝶の姿を見ていなや目を見開いた。
「
…
た、け
…
みち
……
?」
鶴蝶が震える声でそう呟くと、彼は下を向いたままで鶴蝶の姿を見ようともしなかった。コイツは、武道だ。と鶴蝶は確信する。
武道はいつもなにか疚しいことがあるとすぐ下を向いてしまう癖があった。それは、幼馴染である鶴蝶が知っていることだった。
自分の腕の中で、看取ったはずの武道が目の前に居るという奇跡に鶴蝶はボロボロと泣き出してしまった。
そんな、なにも出来ずに泣き続ける鶴蝶から逃げることも出来ただろうに、目の前に居る男は逃げ出そうとはせず寧ろ鶴蝶の姿を見てその場に立っているだけだった。
そんな彼の姿にとぼとぼと歩いていった鶴蝶は、思い切り彼のことを抱きしめる。
「い、きてる
…
、たけみち
…
ッ、」
ドク、ドクと彼の心臓の音が聞こえる。最期、鶴蝶が握り続けていた冷えきった手よりずっと、ずっと暖かい手。
それらが彼が今、ここで生きているという証を証明してくれている。武道はあの日、撃たれて死んだ。それは事実で変わりようのないことだ。だって鶴蝶は目の前でその光景を見たのだから。
しかし、今目の前にいる彼はこうして息をして喋っているし、なにより、温もりがある。それに気づいてしまったらもうダメだった。
ずっとずっと我慢していて耐えていたものが一気に溢れ出したかのような感覚に襲われて、まるで子供のようにボロボロと涙を流しながら嗚咽を漏らす。
「
…
久しぶりって言った方が、いいのかな
…
?」
久しぶりだね、カクちゃん。と自分が花垣武道であることを認めた目の前の男。その言葉を聞いた瞬間に鶴蝶は武道のことを抱きしめる力を強めた。
武道は、そんな鶴蝶に応えるように鶴蝶の震える背中に腕を伸ばしてくれたのである。
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