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匣舟
2024-06-18 20:25:09
68641文字
Public
東リベ
辿り着きたいのは美しい終焉
今まで書いたものをまとめました!年内には完結させたいなあと思っています!
転生パロです。関東事変で🎴くんと🦋くんを庇っ
て、死んだら直ぐに転生した🎍くんの話です。一応キャラクターの死表現あります。そこだけ注意してください。
若干pixivに出しているのと加筆修正やタイトル変更をしたものです。まあ気にしないでください。
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おめめをつむっても朝にはならない
二月二十二日。それは彼のヒーローが死んだ日。鶴蝶の幼馴染でヒーローであった花垣武道が鶴蝶を庇って死んだ日。あの日から鶴蝶の時間はずっと、ずっと止まったままだ。
「カクちゃんッ!イザナ
…
ッ!」
武道の切羽詰まった声と武道に肩を押された衝撃でよろけたと同時にパァン!と乾いた音が響いた。
音がした方向を向いてみると稀咲が銃をこちらに向けていて、は
…
?というあっけない声が聞こえた。
何が、何が起こったんだと武道の声がした方向を向くと、胸から血を流す武道の姿を捉える。フラフラとその場でふらつき、自分の身体を支えきれなくなったのかドサリ、と武道が地面に沈む音がした。
「た、けみち
…
ッ!」
火事場の馬鹿力と言うべきか、武道を支えなくてはいけない!と思った鶴蝶の身体はすんでのところで彼の身体を腕に抱くことができた。
腕に抱いた武道のことを見つめると、彼の胸にじわじわと血が広がっているのが見える。
なんで、どうして、と混乱しているとタケミっち!とマイキーたちが駆け寄る声が遠くから聞こえる。鶴蝶が王と崇めているイザナが驚いたままその場に立ち尽くしている。鶴蝶もまた武道を受け止めることで精一杯で、武道を支える手は震えきっていた。
天竺の下っ端たちも、幹部でさえ何が起こったのか分からずにぼーっとこちらを見つめているだけだ。
まるでここだけ、世界が止まったかのように誰も動かない、喋らない中で、渦中の武道だけが震える声で言葉を発した。
「は、はは、テメェの、思いどおりになんて、させねェよ、バーカ。」
額に汗を滲ませながら稀咲に対して中指をヨロヨロと立てる武道。あんなにやかましかった埠頭は、今や武道の煽りしか聞こえなかった。
その武道の煽りを向けられた稀咲は、武道を撃ったことを受け止めきれていないのか、は
…
と呆気ない声を零したまま動かない。
そんな彼をみて中指を立てて笑った武道がこちらを向いたかと思えば、かく、ちゃん。とオレの名前を呼ぶ。
「か、くちゃん、」
「
…
」
「かく
…
ちゃ
…
」
「もういい、喋んな
…
ッ!もうすぐ救急車が
…
ッ!」
武道が喋る度に血が地面に広がっているのが分かる。肩で息をする声が聞こえる。東卍の連中が稀咲を取り押さえる声が聞こえ、天竺の連中はそれをただ見つめる奴、稀咲に群がる奴など様々だ。
そんな周りの喧騒の方が煩いはずなのに、今の鶴蝶には武道の生命が削られていく音しか聞こえなかった。
じわり、じわりと地面と鶴蝶の赤い天竺の特攻服に負けないくらい鮮やかに広がっている血とだんだん冷たくなってゆく武道の手。
武道の命の灯火が消えていくのが目に見えてわかるようで、鶴蝶は武道、た、けみち!おきろ!と武道を呼び続ける。そうでもしないと彼の瞼が今にも閉じそうだったからだ。
誰かが呼んでくれたおかげで遠くの方から救急車のサイレンの音が聞こえる。早く、早く。と祈っていると、オレの声を聞け!とでも言うように武道の手が鶴蝶の頬を撫でる。
「か、く
…
ちゃ、ん」
銃で撃たれて絶対に痛いはずなのに、こんな状況の中でも笑う武道に鶴蝶は狼狽えてしまったが彼の自分の呼ぶ声に反応することにした。
「
…
なんだよ、たけみち?」
「
…
きみの、ヒーローに、なれた?」
額に汗を滲ませながら精一杯の笑顔を向ける武道に涙がボロボロと流れ出る鶴蝶。
彼の王は言わずもがなイザナだ。幼い頃のあの日から。彼の下僕になった日から、ずっと。
彼が鶴蝶に生きる意味を与えてくれたし、死のうと思っていた自分を救ってくれた。イザナがいてこそ自分が存在すると鶴蝶は思っている。
だけど、王と崇めているイザナに会う前。鶴蝶が施設に行く前。彼が横浜に行ってしまう前。
"
―
カクちゃん!“
鶴蝶の中で、幼い頃の記憶が思い起こされる。イザナと出会う前、彼の隣にいたのはいつだって武道だった。
今では喧嘩屋と知られるほど強い鶴蝶だが、幼い頃は喧嘩に負けてばかりでその度に武道が鶴蝶の代わりに仇をとっていたのだ。
"ヒーロー参上ッ!"
いつもそう言いながら鶴蝶のことを助けに来てくれた武道。二人でボコボコにされながらも次は勝とうな!なんて言いながら笑いあって。
それからずっと鶴蝶の中で武道はヒーローだった。会えてなかった間もずっとその定義は変わっていなかった。もちろんこうして再会してからも。
あの頃、喧嘩に負けてばかりで悔しくて泣いていた弱虫だった時、彼のヒーロー性に救われたのは本当だから。
だけれど、今。そのヒーロー性によって武道は鶴蝶を庇ってしまった。イザナを救ってくれだなんて武道に言わなかったらこうはならなかったのだろうかとか、なんで庇ったんだとか、グルグル頭の中で考えてしまったが、鶴蝶は考えることを放棄した。
だって、鶴蝶の中で昔も今もずっと武道はヒーローに変わりないのだから。彼はいつだって勝てる喧嘩はしなかった。
だからこそ、彼はヒーローと呼ばれるのだ。あの青い瞳がキラキラと輝きを放つ限り。彼はずっと、ずっと鶴蝶のヒーローだ。
「
…
何言ってンだよ、ずっと前からオマエはオレのヒーローじゃないか、バカ、ミチ。」
「ふ、ふ、そっ、かあ。」
鶴蝶が何とか震える声で言葉を絞り出して伝えると安心したように笑う武道。そしてゆっくりと目を閉じようとする武道が怖くて必死に声をかける。
「いや、だ
…
!死ぬなッ!武道ッ!死ぬな
……
!」
今度は逆に鶴蝶の頬を優しく撫でる武道の手をぎゅっと握ると彼は弱々しくも嬉しそうに笑っていた。
武道は既にもう自分がここで死んでしまうことを悟っているのか、最期ぐらい笑顔でいようと努めているみたいだった。
最後の力を振り絞って、武道は鶴蝶の小指を自分の小指と絡ませる。そして震える唇で、鶴蝶にだけ聞こえるように小さく言葉を紡いだ。
「カク、ちゃん、しあわせに、な、って
……
。」
オレ、との、約束、ね?そう笑った武道の瞼がゆっくりと閉じていく。鶴蝶がだいすきな青い瞳がもう見れなくなってゆく。
その頬にまた一滴、鶴蝶の涙がポタリと落ちた。鶴蝶の小指と絡まっていた武道の小指は重力に逆らえなくなってするりと解けて、やがて腕がだらりと地面へと落ちていった。
「
……
いやだ、たけみち
……
ッ!なあ、おい、おきろよ
……
ッ!」
必死に彼を揺さぶっても彼は動かない。ただ、冷たくなる彼の身体だけが武道は死んだのだと証明しているようだった。
その事実が受け止めきれなかった鶴蝶は、何度も何度も彼の名前を呼ぶが、彼の瞼が開く気配は一向になかった。
海のように透き通るあの瞳がもう開くことがないと実感させられて、ただ冷たくなっていく彼の手を握ったまま鶴蝶は泣くことしかできなかった。
「
…
ぅッ
…
。」
フワッと意識が急上昇して目が覚めて見えたのは見慣れた自分の寝室だった。頬にはいつものように涙が伝っていて、寝起きだからかボーッとする視界を正すために目を擦る。
視界は真っ暗でまだ夜が明けていないみたいで二度寝をすることも出来るはずなのに、鶴蝶は暖かいベットから起き上がった。
彼が死んでからずっと、鶴蝶は武道が死んだ日がどんどん近づいてくるにつれて眠ることすらできなくなってゆく。
鶴蝶が眠れなくなってしまうのは死に際の武道との最後のやり取りを夢で見てしまうから。カヒュ、カヒューという肩で息をしている音が今でも耳に残って離れないのだ。
最期に抱いた彼の温もりがだんだん冷たくなっていくのを思い出してしまうし、そして彼の澄んだ海のような青い瞳が閉じていく瞬間を思い出してしまうからである。
彼のだいすきだった海のように透き通るあの青い瞳は、あれからずっと鶴蝶を捉えて離さない。鶴蝶の時間があの時、止まったのと同じように。
「た、けみち
…
。」
そう呼んでも応えてくれる声はどこにもなかった。
なぜなら、彼のヒーローはもうこの世にはいないし、ここには鶴蝶しか居ないからだ。
無情にもカチッ、カチッという時計の針が動く音が時間は止まっていないということを知らせるかのように鶴蝶の頭に鳴り響いた。
…
今日も彼のいない日常が、世界が廻っていく。
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