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匣舟
2024-06-18 20:25:09
68641文字
Public
東リベ
辿り着きたいのは美しい終焉
今まで書いたものをまとめました!年内には完結させたいなあと思っています!
転生パロです。関東事変で🎴くんと🦋くんを庇っ
て、死んだら直ぐに転生した🎍くんの話です。一応キャラクターの死表現あります。そこだけ注意してください。
若干pixivに出しているのと加筆修正やタイトル変更をしたものです。まあ気にしないでください。
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ゆびきりをしよう
「いつか、結局ひとりで生きていかないといけないですから。」
二人しか居ない部屋に凛とした声だけが響いた。そうか、この子はもう一人で生きる決意をしているのかと彼女は瞬時にわかってしまったのだ。施設長の彼女から見て、目の前にいる彼は不思議な子だったからだ。彼との出会いは、十七年前に遡る。
「あら、どうしてこんなところに。」
「あ、う、あ〜、」
「寒かったでしょう。温めてあげますからね。」
武道を初めて見つけたのは生後間もない頃、施設の門の前に捨てられている彼を見つけたときだった。
いつから置かれて居たのか分からないが、最低気温はマイナスを超える程の寒さの中ここに居たのなら低体温になっているかもしれないと、すぐさま彼を保護したのが武道との出会いだった。
行政や警察に連絡すると出生届は出されていないとの事で、唯一分かるのはゆりかごの中に入っていた彼の名前のような文字が書かれた紙だけだった。
そこにはふりがな付きで花垣武道と書かれており、名前がなかった赤子にそのままその名前が名付けられることになった。
「う、うわああん、」
「あら、どうしたの、武道くん。」
「あれぇ!こわい!」
「カエルのことかしら?」
「め、こわい!」
武道はよく笑ってよく泣く子だった。感情の起伏が激しいと言われればそうでもなく、同年代の子供たちのように癇癪を起こすことも少なく、子どもの中で一人だけ大人のような雰囲気を醸し出しているような子だった。
そんな彼、武道が泣かなくなったのは小学校に上がる手前の冬の事だった。
いつも毎日、海のように透き通った蒼眼に涙を溜めていることが日常だった武道がそれを境にパタリと無くなったのだ。
カエルの眼が怖いだとか、真っ暗闇が怖いだとか色んなことで泣いていたのに、それが何事も無かったかのように泣かなくなったのだ。
泣くのがパタリとなくなったのと平行して、武道はよくお手伝いをせびるようになった。
それ以前も、武道は施設の中ではよく手伝いをしてくれる子でなにか手伝うことは無いかと聞くことはあったけど、それ以上に聞いてくることが多くなった。
なんでそんなにお手伝いしようとするの?と一度疑問になって聞いたことがある。そう聞いた時も、今と同じ答えが返ってきた。
「オレはこの先もずっとひとりだから、自分でできることはしないと。」
小学生らしからぬ発言に目を見開く隙に、宿題やってきます!とパタパタと勉強部屋へと上がっていった武道の背を彼女はただ見ることしか出来なかった。
ここにいるのは、色んな理由から親から見捨てられ、愛を知ることが出来なかった子たちが身を寄せ合って暮らしている。
この施設では小学生に上がる手前に自分の置かれている境遇を子どもたちに知らせなければならないという決まりがある。
親に捨てられたという事を子どもたちに知らせるのは施設側としても慎重に伝えることにしている。どうしてと泣き叫ぶ子もいれば、そっか。とすんなりと受け止める子もいる。
武道はどちらかといえば後者で、今まで見た子どもたちの中で一番冷静に自分の境遇について受け止めていたように思う。まるで、自分がずっとひとりで生きていくと確信しているように。
私たちは大家族よ。といつも子どもたちに言い聞かせていた。
君たちはひとりじゃない、私たちがいるよ。と気づいてもらうために。
だけど、武道という子はいつまで経っても私たち大人を頼ろうとしてくれなかった。私たちに心を開いていると見せかけて、最後の心の鍵はずっと開けられなかった。何度もその扉を開けようと試みても、彼の扉は何重にも鍵がかかっているようだった。
やっと最後の扉に辿り着いたと思ってもその鍵を開けてみればまた何層にも重なった扉が彼女に待ち受けていたのだ。
だからひとり旅行として誕生日会を辞退した彼が、横浜に出掛けて施設に帰ってきた武道が誰かを連れて帰ってくるなど彼女は思わなかったのだ。
「先生、ただいま。」
「おかえりなさい。
…
あら、その後ろの方は?」
「
…
えっと、なんて言えばいいのか
……
。」
口をもごもごと動かす武道に首を傾げていると、武道の後ろに立っていた大人が武道がお世話になっております。と言った。
「
…
お知り合いの方?」
「
…
そうですね。」
「そうなの。
…
武道くん、お茶用意してくれる?」
「分かりました!」
パタパタとスリッパを履いてキッチンへと消えていく武道の姿を見ながら、武道の後ろにいた彼を彼女は応接室へと案内した。
「どちらでも好きなように座って下さい。」
「はい、ありがとうございます。
…
申し遅れました。私、鶴蝶と申します。」
「鶴蝶さんね。
…
それで、どういったご要件で?」
「
…
武道くんを引き取らせて頂きたいと思いまして。」
そう語る鶴蝶という名の青年の瞳は真っ直ぐにこちらを見つめており、彼女は彼の視線から目が離せなくなった。
実を言えば武道は、何度か里親として引き取らせてもらいたいという申し出もあった。が、結局運に恵まれず、武道はいつしかここの施設の最年長の十八歳になるまでここに居た。
今思えば武道は家族というものに興味がなかったのかと思う。武道はいつも独りで生きていこうとする意思が異常なほど強かったからだ。
まるで、一人で生きていくことが確定しているかのように一人で生きていくことを強調する武道に疑問を持っていたのも確かだ。
でも、こうして彼と共に武道がここに来たというのはそういう意思があって連れてきたのではないかと施設長である彼女は考えたのだ。それでも、武道はもうすぐ一ヶ月も満たないうちにここから巣立っていく。
だからこうして武道が鶴蝶を連れてそれを言いに来る意味が彼女はわからなかった。
「先生、お茶入れてきました。」
「あら、ありがとう。」
色んなことを考えて居るうちに武道がお茶を持ってきてくれたらしく、向かいの彼にもお茶を渡していた。
はい、どうぞ。と彼に声をかける表情と声から仲の良さが伺えるくらい、武道と鶴蝶は互いのことを知っているようだった。そのまま武道は鶴蝶の横へと腰を下ろした。
「先生、カクちゃ
…
鶴蝶さんから聞いた?」
「ええ、でももうすぐ貴方はここから巣立つでしょう?だから許可なんて要らないのだけど
…
。」
「許可というか
…
なんていうか、あの日のこと覚えてますか。横浜に行く前夜のこと。」
忘れるわけがなかった。あの日、言った言葉を。それほど彼女の心には武道が言った言葉が深く、深く刻まれているのだ。
「ええ。」
「あの日、ずっと一人で生きていくっていったオレに、先生は人を頼ることも必要だと仰いました。あのね、先生。オレ、ずっと一人で生きていくつもりだったんです。先生には詳しくは言えないけれど、自分のせいで他人を不幸にしたことがたくさんあったんです。だからそれを戒めにしてずっと一人で生きようとしてました。」
少し涙を溜めながらポツポツと話し始める武道に、彼女は耳を傾ける。鶴蝶はそんな彼を見守っていた。
「でもね、一人で生きようとしてたオレに手を差し伸べてくれた人がいました。ずっと一人で生きていくって決めて、手を差し伸べてくれてた先生たちを突っぱねてたオレを救いあげてくれたんです。」
武道のキラキラした笑顔に、彼女は息を呑んだ。こんな彼の表情は今まで過ごしてきた中であまり見た事がなかったから。その眼差しは鶴蝶にも注がれていて、彼が武道のこんな表情を見せてくれたのだと思うと少しだけ悔しくなった。
ずっと彼のそばにいたのは自分だ。でもその表情を引き出したのは彼で、ほんの少しだけ嫉妬したのだ。そんな彼女の心情など知らず、武道は言葉を述べていく。
「オレにずっと家族ってものを教えてくれたのは先生で、ずっとしょーもない反抗期みたいなことをしてたオレに、手を差し伸べてくれたのも先生。だからそんなオレの大切な家族の先生にケジメというか、ちゃんとひとりじゃないよって証明したかったんです。」
オレ、ちゃんと人を頼ることが出来ました。とにこやかに笑う武道を見て、さっきまで彼女の心の中で燻っていた嫉妬心などはすぐさま消え去っていた。
…
いや、敵わないなと思ったのだ。
もし武道が鶴蝶と出会ってなければこんな彼の表情は金輪際見れなかったのだろうと思う。ふたりがどんな関係なのか彼女は全く分からなかったが、強固な絆
…
。いや、愛で結ばれていることは確かなのだろうと施設長の彼女は感じ取った。彼女が言えることはただ一つ。
「鶴蝶さん。」
「
…
はい。」
ニコリと笑った彼女は鶴蝶に向けて武道くんのことよろしくお願いします。と微笑み、手を差し出す。鶴蝶もそれに応えるようにありがとうございます。と述べ、握手が交わされたのだった。
「うわああ〜、たけにぃ〜ッッ、いっちゃやだ〜!」
それから数日後。とうとう武道が施設を出る日になってしまった。もともとこの日に出る予定だったし、それは施設長にも、職員の人にも、もちろんここにいる子どもたちにもちゃんと通告はしておいたのだが、朝から小さい子どもたちが明日から武道がいないという現実に直面して大泣きしているところだ。
武道はここの施設で最年長だったと聞くし、それは子どもたちから慕われ、頼られ、愛されていたに違いない。
「もう〜、そんなに泣くなよ〜ぉ、オレが悪いことしてるみたいじゃん。」
「オレたちをおいていくからわるいんだ〜ッ!」
「置いていくわけじゃないってば〜。それが決まりだって。」
「
…
オレらのこと、きらいになったの、いらなくなった?」
武道の足にしがみついて離れない子どもに武道はそんなんじゃないよ。と笑いながらその子をそっと抱きしめた。
「嫌いになったわけでもないし、いらなくなったわけでもない。むしろずっと大好きさ。」
「じゃあ、なんでオレらのこと置いてくの!」
「オレはもう大人になるからかな。大人になっちゃったらここには居られなくなるきまりだからね。」
「そんなきまりなんて、いらないっ!」
「いるんだよなあ、それが。」
やだああ!と泣き喚く子どもに、武道は慣れた手つきで抱き上げて頭を撫でた。
「じゃあ、こうしよう。ちゃんと先生たちの約束を聞いていい子にしてたら来る。」
「
…
いいこ?」
「
…
そう、いい子にな。好き嫌いとかせずにご飯食べたり、こうやって泣かずに居られたらまた会いに行くから。
…
オレとの約束、守ってくれる?」
泣きじゃくっていた子どもはヒック、ヒックとしゃっくりを繰り返しながら、目の前に差し出された武道の小指を自分の小指と絡ませた。
「
…
やくそくやぶったら、はりせんぼんのーますだからな!」
その光景を見ていた誰もが微笑み、オレも、わたしも!と武道とゆびきりげんまんをしたがった。最終的に施設長のほら、武道くんの時間もあるからみんなお別れしますよ。という言葉にまたどんよりムードが全体を包み始める。
「
…
ぜったい、また会いに来るからそんな顔しないでよ。」
「
…
うん。」
「武道くん。」
施設長の彼女が武道の名前を呼ぶ。もう彼はここの施設の人間ではなくなる。彼女は今までのことを思い返して少し泣きそうになりなって、言葉を詰まらせながら何とか彼の顔に目を向けた。
「
…
ここは、貴方のお家ですからまたいつでも帰ってきてくださいね。」
「
…
ありがとうございます。また帰ってきますね。」
最後に握手をして、彼は道路の角に差し掛かるまで私たちに手を振り続けていた。最後に握手をした武道の顔は、今までに見た事のないような良い表情をしていた。
もし、武道が鶴蝶と出会っておらず、あのまま施設を出て行っていたのなら。武道はもうこの場所を永遠にさよならをしていたのかもしれないと彼女は思った。
ずっと一人で生きようとしていた武道のことだからだ。でも、武道は変わった。
ひとりぼっちだった彼を掬いあげてくれた人がいて、武道はこの世界にひとりではないということを学んだのだ。
武道が見えなくなってしまったあと、とぼとぼと子どもたちが施設に入っていった。とぼとぼと施設に入っていく子どもたちを見なから、ポツリと呟く。
「寂しくなるわね
…
。」
施設長の彼女もそう呟きながら、少し悲しそうな顔で施設へとはいっていったのだった。
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