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匣舟
2024-06-18 20:25:09
68641文字
Public
東リベ
辿り着きたいのは美しい終焉
今まで書いたものをまとめました!年内には完結させたいなあと思っています!
転生パロです。関東事変で🎴くんと🦋くんを庇っ
て、死んだら直ぐに転生した🎍くんの話です。一応キャラクターの死表現あります。そこだけ注意してください。
若干pixivに出しているのと加筆修正やタイトル変更をしたものです。まあ気にしないでください。
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まだ夜は明けない
カタカタとキーボードを叩きながら黙々と作業をしている鶴蝶を見て、イザナはハァ
…
。と今日何回したか分からない溜息を吐いた。
これで幸せが逃げるっていうのなら絶対に鶴蝶のせいだ。と意味がわからない八つ当たりを脳の中でしている。武力行使に出ないだけマシだと思って欲しいくらいだ。
時刻はもうすぐ十九時を回る所だ。もう定時から一時間は経過しているところ。
関東事変が花垣武道の死亡によって幕引きとなり、天竺も稀咲という幹部からの逮捕者が出たため解散を余儀なくされた後。イザナと鶴蝶は養護施設を立ち上げていた。
その名は当然ながら天竺である。あの雪が降った日からずっと、ずっと二人で目指してきた夢。ふたりのように身寄りのない子どもたちが、笑って幸せに暮らせる国を作るという夢。
あの頃のように拳でのし上がって思うままに従えていたのと違って今は自分の頭脳だけが頼りだ。
思うように上手くいかないことが多いが、かつて天竺のメンバーだった灰谷兄弟や、望月、斑目、武藤たちを筆頭に色んな人たちからの援助もありながら、今日も天竺では元気いっぱいな子どもたちの声が聞こえる。
「カクチョー、きょう、げんきないね!」
「わー!ほんとだ!目のしたにくまさんできてるー!」
「わ、飛びかかると危ないぞ?」
「カクチョーをたおすならいまだー!」
「ほら、もうすぐご飯だから部屋の片付けしておいで。」
「いやだ〜!カクチョーたおすもん!」
そんな子どもたちに群がられる鶴蝶を見て、ほら見ろ、子どもたちにも心配されやがって。とイザナはまた溜息を吐いた。
鶴蝶の目の下には隈ができている。それもひと目でわかるくらいの隈が目の下に刻まれているのだ。こんなの労基に見られてみろ。一発で通報されるレベルだ。
鶴蝶に隈が出来るのは子どもたちが学校に行かない夏休み・冬休みシーズンの繁忙期の頃か、子どもたちの為の弁当を作ったり、子どもたちの活躍を記憶に残すために写真と動画撮影に奔走する運動会の前後ぐらいと、毎年、二月二十二日に近づいていく時ぐらいだ。
二月二十二日。イザナにとっては関東事変のあった日という認識だが、鶴蝶にとっては違う認識だということをイザナは理解している。それは、イザナも彼の死を目撃したひとりだからだ。
あの日、二月二十二日。天竺が勝つと信じてやまなかった日。たった一人の男が絶望的な戦況をくるりと変えた。殴られようが蹴られようがゾンビのように立ち上がって、拳を天に掲げる姿。
彼の姿を見て鼓舞された東卍は、怒涛の如く天竺色に染まっていた埠頭をみるみるうちに東卍色に染めていったのだ。あのキラキラと輝く青い瞳の中に持っている芯の強さと折れない心。
あの男が居なければ、きっと関東事変は天竺が勝っていたに違いないとイザナは思っている。
そんな殴られようが蹴られようがゾンビのように立ち上がっていた彼、花垣武道はイザナと鶴蝶を庇って鶴蝶の腕の中で看取られながら死んだ。
イザナは今でもあの光景が目に焼き付いて離れなかった。
「たけ、みち
…
ッ!おきろ
…
おきて、くれ、たのむ
…
ッ!」
既に事切れた彼の手を握りながら泣き続ける鶴蝶と、そんな鶴蝶の腕の中で幸せそうに眠るように死んでいる花垣の姿が思い浮かぶ。あんなに泣いている鶴蝶を見るのは久しぶりだった。
あんなに喧騒に包まれていた埠頭は鶴蝶の泣く声と、マイキーを筆頭とした東卍側のタケミっち
…
と言いながら声を押し殺して泣いている声が聞こえるだけだ。天竺のメンバーたちはただ、その光景を黙って見つめるだけ。
それもそうだ。花垣と出会ってまもない自分達には、彼の死を偲ぶほどの仲ではなかったのだから。ましてや敵だったし。
その静寂さを切り離すように、近くで既にもう遅い救急車のサイレンと、遠くでパトカーのサイレンが聞こえていた。
イザナでさえあの日の光景が数年経った今でも目に焼き付いているのだから、彼を間近で看取った鶴蝶はもっと目に焼き付いているのだろう。
あれからずっと、鶴蝶の時間は止まったままだ。鶴蝶の心の中にある時計の針はあれからピクリとも動かない。
死に際に花垣が鶴蝶に向けて言ったという“幸せになって”という最早呪いのような言葉だけが鶴蝶をこの世界に縛り付けているように思う。何とも残酷だとイザナは思う。
だって結局、鶴蝶は花垣が居ないことには幸せにはならないのだから。
割れた卵が元に戻らないように、イザナは死んだ人間が戻ってくるとは思っていない。それが自然の摂理だと信じてやまないからだ。
それでもイザナは、心のどこかで花垣武道という人間がこのままくたばる人間ではないと思っている。
自分でもこんな考えを未だに持っているなんておかしな話だと思う。会って間もなく死んで行った奴にそんな絶望に近い奇跡を抱くなんて。
(それでも、)
イザナはあのキラキラ輝く青い瞳が忘れられないのだ。総長も副総長もいなくてバラバラだった東卍が、もう天竺の勝ちだと誰もが信じてやまなかった時。
あの場で一人だけ、花垣武道だけが諦めていなかった。来るかすら分からない総長と副総長が来ると信じ続け、立ち続けた。ただ一人だけ、あの絶望的な状況で東卍が勝つと信じていた男。
”オレ、負けなかったっスよ“
真っ直ぐに天に掲げた拳と殴られようが蹴られようが輝きを放つあの青い瞳。あれより綺麗なモノを未だにイザナは見たことがない。
あのキラキラと輝く青い瞳に魅入られて東卍はいとも簡単に劣勢だった戦況を逆転させた。戦況を逆転させた一番の理由は総長であるマイキーと、副総長であるドラケンが来たからだ。
だけど、その二人が来る前。ずっと東卍を支えていたのは花垣武道だ。たった一人で仲間を鼓舞し続け、立ち上がらせた。
そんな奴があれ如きでくたばるなんてイザナは思っていなかった。というか思っているというより、あれ如きでくたばるなんて許さないという言い方の方が正しい。
花垣武道さえ居なければ、関東事変は天竺の勝利だった。オレたち天竺は東卍に負けたのでは無い。断固マイキーには負けたのは違うと断言出来る。
我らが天竺は、花垣武道というたった一人の人間に負けたのだ!
だから、イザナは許さない。我らが天竺に一人で勝っておきながら勝ち逃げするのは許さない。と。
だからずっとイザナは待っている。あの、キラキラ輝く青い瞳を持った彼が、鶴蝶のヒーローがまた現れる日を。そんな奇跡が訪れることを信じてやまない。
もし、そんな奇跡が起こったとして、彼がイザナの目の前に現れた時。イザナは武道にこう言ってやるのだ。
「関東事変はテメェの一人勝ちだよ、花垣武道。」
と。だから、早くオレの目の前に、鶴蝶の目の前に現れろ。テメェが居なきゃ下僕は幸せになれねェよ。といつかキラキラと輝く青い瞳を持った彼が目の前に現れると信じてイザナは待っている。
下僕たちの幸せを願うのも王の役目だから。
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