はるの
2022-08-08 22:36:46
117528文字
Public スタートレック
 

未踏の楽園

全年齢|AOS spirk|2021.4.15|STBのあと、ヨークタウンでふたり暮らしをするジムとスポックがそのうち付き合う話。「そのうち付き合うタイムライン(https://privatter.me/page/65a92eff4fa14 )」シリーズの集大成になりますので、シリーズ内他作品からの遠慮ないエピソード引用を含みます。



 スポックの足に自分のそれを絡めると、彼は巻き取るようにして密着した。
 それが無性に嬉しくて、カークは近づいた彼の腰に腕も絡める。ぴったりとくっついた体から、ほかほかとした体温が伝わってきて、カークは彼の胸に頬を合わせると、感じ入るように目を閉じた。そこと同じか、それ以上に、ほてった手のひらが背中を撫でて、気持ちよくて息を吐く。スポックはこちらの髪に唇を落とすと、撫で下ろした手で腰を抱いて、カークを少しずり上げた。
 枕に埋もれるようにして、至近距離で目が合わさる。鼻先にいるスポックは、しっとりとした眼差しで、じっとこちらを見つめていた。微笑みかけると彼はまばたき、珍しく彼のほうから足を遊ばせてくる。膝の間に挿し込まれたその感覚に、カークはひくんと身じろいだ。いつも自分がしていることだが、されるとこんな感じなのか。そう考えると、自分はずいぶんとスポックに忍耐を強いてきたのだなと思う。けれど、後悔も反省もない。何故ならやめる気がないからだ。
 ――ジム。
 ゆるく抱きしめてきたスポックは、耳殻に鼻をくっつけて、ひそめるようにそう呼んだ。温かくて滑らかな、手放しに甘い、低い声。それを耳に通すだけでどうかなりそうで、カークはぎゅっと目を閉じた。彼の背中に回した手で、静謐な肌触りの、彼の寝巻を握り込む。
 スポックは、ゆったりと、けれどとっておきの獲物の部位に牙を立てる豹のような正確さで、耳を食み、柔らかく歯を立てた。ぬるりとした感覚に、カークは思わず、あ、と声を漏らす。すると彼は、優しく背中を撫でていた手を腰回りでうろつかせ、そのうちTシャツの隙間から、直接素肌に指を置いた。
 彼の長く繊細な指が、そっと背骨の凹凸をなぞる。声にならない吐息がこぼれて、頭の中がとろけ落ちる気がした。もぞ、と動けば戒めるように、スポックは抱き込む腕の力を強める。ぐいと腿まで押し込まれた足が、股を割ってこすれるのに、カークはびくびくと震えるしかなかった。あ、と再び声を上げる。あ、だめだ。だめだスポック。気持ちよさに支配された体はちっとも思いどおりにならなくて、ただ喜び、彼に差し出されるだけになっている。ああ、だめだ。だめなのに。
 ちゅ、と音を立てたスポックは、少しだけ顔を離した。至近距離の、その虹彩。奥に熾火を隠した瞳。彼は美しいそれをまぶたの裏に隠して、そっと顔を寄せてくる――



「ジム」
 ばち、とものすごい勢いで目が開いた。目の前に広がる白いシーツに、何が何だか分からなくなる。
 救いを求めるように見上げれば、制服姿のスポックが、やや不安そうに朝の光を浴びていた。
「具合が悪いのですか」
 そう問われて、カークはやっと我に返る。はあ、と大きく溜息をつけば、体じゅう、がちがちに力が入っていることに気づいた。脱力してベッドに沈むと、スポックは長身をかがめ、いたわるようにこちらの額に手のひらを当ててくる。
「いや、ちょっとだるいだけ。いつの間に起きた?」
「熱はないようです。先ほど私が起床した際、あなたは起きると言いましたが、覚えていませんか?」
「覚えてないな……。寝ぼけてた、ごめん」
「謝罪は不要です。だるいのであればどうぞお休みを」
「夏バテかな」
「あなたが頑として室温を下げないからです。せめて私の不在時には、あなたの適温に調整してください」
「やだ~」
「今日だけでもです」
「うーん」
「ジム」
 純白の爽やかな光の中で、スポックは少しだけ困ったような顔をした。それが純粋な心配でできてることは分かるので、カークはくすぐったい気持ちになる。ベッドの上で無為にごろんごろんと寝返りを打っていると、小さく吐息したスポックは、蹴られて足元でくしゃくしゃになっているタオルケットを手繰り寄せ、広げてカークを包み込んだ。
「よくお休みください。水分補給を忘れないように」
「はは、ずいぶんと甘い処分だな」
「言って聞く相手ならそうしています」
 まるで当てこするようにそう言って、スポックは片眉を上げる。そんな彼が愛おしくて、カークはその手を引くと、素直にかがみ込んできたスポックの額にキスをした。
「まじで健康だから安心して。いってらっしゃい」
……あなたを信じます。どうぞ違えないように」
「怖いんだよなあ、言い方が」
 スポックはこちらに倣って同じようにキスを返し、そんなことを耳元に言い残す。違えたらいったい自分はどうなってしまうのだろう、なんて思いながら、カークは寝室から彼の出勤を見送った。



 それからしばらく、閉じた寝室のドアを見つめて、スポックの歩く速度ならそろそろマンションを離れただろうと確信できるまで待ってから、カークは盛大にベッドへ突っ伏した。頭からのめり込むように枕に突っ込んで、ぱしん、と手のひらでシーツを叩く。
 もう内容は消えてしまったが、なんだかすさまじい夢を見た気がする。
 死ぬほどぞくぞくして、死ぬほど後ろめたい、そんな夢だ。先ほど自分を心配してくれた、あのピュアな存在を思い出すと、気持ちがめちゃくちゃに掻き乱れる。やましい、恥ずかしい、不甲斐ない。そんな感情を押し込めるように、シーツに掴みかかって皺を残す。
 はあ、と落とす溜息は、しっとりと熱く湿っていた。
 カークはぼんやりと白い波を見つめながら、今自分に起こっている事態を冷静に受け止める。
 つまり、まあ、溜まってるのだ。たぶん。
 クラールの事件からこっち、忙しい日々を送った末に、スポックの家に転がり込んだわけである。しばらくの間、『そういう』意図で、自身に触れる暇がなかった。まさかスポックの隣で慰めるわけにもいかず、放置しておいたらこのありさまだ。きっと一発さくっと抜けば、このわだかまるようなだるさも消えてなくなるだろう。スポックには無駄な心配をさせてしまって、非常に申し訳ない気持ちである。
 そう、思うものの、カークはうめき声を上げて、うだうだと顔をシーツにこすりつけた。
 絶対、今触ったら、絶対スポックで抜くことになる。
 それも、たぶんものすごく鮮明な、ふしだらな妄想にふけりながらだ。
 何故なら今の自分は、スポックの体温を正確に把握していて、彼のさらりとした肌も、少し苦しいほどの腕の中も、優しく触れる唇も、指先も、彼の舌の感触も、全部の記憶が頭の中にあるからだ。そこから好き勝手に参照して、想像上のスポックに、自分はとんでもないことをさせるだろう。
 それが、ひどく後ろめたい。
 けれど、一番落ち込みそうなのは、それでも構わないとしらふで思っている、高慢な自分の本心だ。
 はあ、と再び溜息をこぼす。そのうち自分の溜息で、シーツがずぶ濡れになりそうだった。このまま眠ってしまったら、起きたときにはすっきりしていないかな。そんな非現実的な願いを込めて、カークは腕で閉じた目を遮る。朝の光を遮断された薄暗がりに、スポックが浮かんで頭を抱えた。



 びく、と体を震わせて、カークは再び覚醒した。
 また自分の所在が不確かになって、混乱しながら部屋を見渡す。ロールカーテンの引かれた窓は明るく、夜中まで寝てしまったわけではなさそうだった。自分はまだベッドに転がったままで、頭がぼうっとして鈍い。
 あれから、うつらうつらしてしまったようで、また強烈な夢を見た確信だけがあった。あるいは自分の妄想だったかもしれない。夢うつつに覚えている内容が、まるで欲深い自分をそっくり写し取ったようにみだらで、途方に暮れて顔を覆った。スポックはあんなえっちなことはしない、と自分に言い聞かせてみるものの、あらゆる意味で体は裏切る。だいたい、あいつがときどきする、すげーエロいしぐさが悪いのだ。なんで自分はやつの舌の感触なんかを知ってるんだ。ちくしょう、ストイックに定評のあるヴァルカン人はどこいった。
 カークはとうとう観念して、そろりと利き手を持ち上げた。
 腹筋の筋をなぞるように指を下へ滑らせて、短パンの中に忍び込ませる。すでにきざしている自分の愚息は、少し触れただけでやたらと元気になった。淫夢を見て反応するなんて、精通直後みたいな初々しさだ。健やかに不健全で頭が痛い。
 ぐい、と腕でウエストを押し下げれば、防御力のないぺらぺらの短パンは、簡単に腿まで落ちる。下着も半分下ろしてペニスを取り出すと、期待にはち切れんばかりだった。お前はもう少し落ち着けよ。カークはうんざりとした心境でそれを見下ろし、ぐいと親指で先端を押しつぶす。途端にびりりと快感が走って、カークは仰向けに撃沈した。
 もうあとは、夢中でしごくだけだった。心拍と同じに息も上がって、喉を詰まらせながら身も蓋もなくあえぐ。あの長い指で、と頭が勝手に計算して、カークはぶんぶんと首を振った。凹凸を丁寧に指でなぞりながら、首をひねって頭を半分枕に埋もれさせる。普段、こんな触り方はしない。自分はこんなことしないけど、彼ならそうするかもしれない。性懲りもなくそんな妄想をする脳みそに、カークはううと声を上げる。
 先走りでべたべたになった手のひらで、竿を握りこすると信じられないくらいに気持ちよかった。くちくちと濡れた音がしても、そろそろ構えなくなっている。尾てい骨に火花が散るような快感が走り、背骨を伝って頭の後ろをとろけさせた。思考が鈍化するに合わせて体は勝手に動き出し、ゆらゆらと腰が揺れ動く。気持ちいい。スポック。
 片手でいつもスポックが使っている枕を手繰り寄せた。顔に押し当てれば彼の匂いがして、あっ、と高い声が出る。うるんだ視界を閉ざして現実から遠のき、一番気持ちいいところをぐりっとやると、腰が浮くほどに体が仰け反った。
 気持ちいい。スポック。そろそろいっちゃう。ああ。
 そんなふうに取り乱した言葉を脳内に反響させながら、子犬が鳴くような声を上げて先端を握り込んだ瞬間。
 寝室の扉が勢いよく開いた。



 びく、と快楽ではない衝動で体を揺らし、カークは完全に硬直した状態でそちらを見た。
 ドアノブを握ったままのスポックは、戸口から1歩足を踏み入れた格好のまま、同じく完全に硬直している。
 しん、と室内は静まり返った。弾んでいた息も聞こえないのは、自分が呼吸を止めているからだろう。
 とにかく、カークの頭は真っ白になっていて、そのまま気絶しそうなくらいだった。
 そのような沈黙をふたりは共有し、やがて、息をのむようなかすかな音がする。
 スポックは、まるで錆びついたブリキ人形のように、ぎこちなく足を揃えると、すごく真面目な表情で、ゆっくりと後ろに手を組んだ。
……手伝いが必要でしょうか、キャプテン」
「あ、大丈夫です……
「そうですか」
 あ、大丈夫です、じゃねーんだわ。
 と、自分の発言に内心ツッコミを入れていると、スポックはかすかに頷き、そっとドアを元通りに閉めて退室した。
 お前も、キャプテン、じゃねーんだわ。なんで突然副長モードに入ったんだ。とっさに仕事用の頭に切り替えることで、この死ぬほど気まずい事態に対して冷静を図ろうとしたのか? なるほど、クレバーな話だな。
 呼吸を止めていたことを思い出して、はあっと大きく息をつく。視界にちかちかと光が飛んで、ほとんど酸欠状態だった。苦しさに身をよじれば、爆発直前の息子が手の中でこすれて、油断した体に強烈なエクスタシーを叩き込む。
 あ、あ、あ、と勝手に口から甘い悲鳴が飛び出した。悦楽半分、戸惑い半分、特盛のやましさをトッピングしたその声音は、無情にも寝室に響いて跳ね返った。



 心身ともに落ち着けたあと、恐る恐る、カークは寝室のドアを開けた。まるで侵入者のようにこっそりと、リビングを窺ってみたが誰もいない。カークはほっと息を吐いて、とりあえずシャワーを浴びることにした。たぶんキンキンに冷えたやつをぶっかけたほうがいい。
 それにしても何故、スポックがいたのだろう。そんなことを考えながら、風呂場の壁に額をくっつける。
 あんなに勢いよくドアを開けたということは、彼は急いでいたわけだ。その割に何もせず去っていったので、用事があったわけではない。となると、カークが身をよじりながらくんくん鳴いていたあれを、うめき声か何かと勘違いしたのかもしれない。実際、ときどき唸っていたし、彼は朝から自分の体調を心配していたのだ。
 とすると、もしかしたらスポックは、休憩時間に抜け出して、自分の様子を見に来てくれたのだろうか。ありうる。
 何も言わずに出かけてしまったことを鑑みても、ものすごくありそうなことだった。つまり、彼はただ純粋に、自分を案じてくれていたのだ。
 はあ、とカークは溜息をついた。
 悪いことをしてしまった、本当に。
「ごめん、スポック」
 君のきれいさを踏みにじってしまって。こんなことをしてしまって、本当に。
 自分を責めるためだけの、誰にも届かない謝罪は、シャワーの冷水に押し流されてくるくると排出されていく。
 スポックが帰ってきたとき、どんな顔で迎えるのが正しいんだろう。
 ひたすらにそんなことを考えていたら、体はすっかり冷えてしまって、カークはひとつくしゃみをした。



 その夜、しれっとした真顔で、けれど内心はほとんど恐慌状態で、カークはスポックを迎えた。けれどスポックのほうも、しれっとした真顔で普通に帰宅し、いつものように夕食を整え始める。少しほっとしたのもつかの間、彼の行動の端々から、スポックも内心動揺していることが窺えて、カークはしこたま気まずい思いをこねくり回した。ごめん、と言えば墓穴だろうし、とにかく今の自分にできることは、いつもどおりに振舞うことだけだと腹に決める。
 それでも就寝の段になると、もうとにかく謝罪を叫んで彼の足元にひれ伏したい衝動に駆られた。どうしてバスルームとかで済ませなかったのだろう。そんな怒涛の後悔に襲われても、それこそ後の祭りである。
 スポックを思い浮かべて乱れながら慰めたそのベッドに、スポック自身が乗り上げて横たわるのを見て、カークはほとんど気絶するような心地だった。
 呆然と立ち尽くしていると、上掛けを引き寄せたスポックは、不思議そうにこちらを見やって首を傾げる。余計な詮索はさせるべきではない、と思いついて我に返り、カークは素早くベッドに乗り上げた。タオルケットを引っ掴んで頭からかぶると、ふわりと照明が落とされる。
 しばらく、息をひそめていた。
 いつもなら颯爽とスポックの布団に侵入するのだが、今日はさすがにためらわれる。
 いや、でも、いつもどおりに振舞ったほうが、スポックを損ねることにはならないのか?
 考え込んでいるうちに何が正しいのか分からなくなってきて、ぐるぐると回る思考はショート寸前に陥った。もうわけが分からない。
「ジム」
 そんなふうに馬鹿みたいに、心底途方に暮れていると、ほどなく、静かにスポックが名前を呼んだ。
 カークは、びく、と喉を締める。まともな返事ができそうもなくて黙っていると、彼はひそかに身じろいで、かすかに衣擦れの音を立てた。
「この家の書斎と物置は、可動式のパーテーションで区切られています」
 何を言われるのかとこわごわ身構えていたものの、断罪者たるスポックは、罪を咎めるのではなくそんなことを言い始める。意図が分からずきょとんとしてしまい、まばたきしながら耳を澄ませていると、彼は再び身じろいだ。
「ですから、壁を取っ払ってしまえば、ひとり分の部屋ができます」
……どういう、こと」
「その……、もし、あなたが望むなら、あなたの個室を作ることが可能です」
 ためらいがちに、考えながら、話されたその内容に瞠目する。つまり、寝室を分けよう、ということだ。それを理解して、カークはタオルケットの中でぎゅっと目をつむり、爪が食い込むほどの力で両手を握り込んだ。断罪者の言葉だ。たとえ首を落とされるのだとしても、自分はそれに従うしかない。
 カークはそろりと息を吸った。露骨に震えてしまって、困り果てる。
……分かった。ごめんな、スポック。部屋を分けるまではソファで寝るよ」
 普通の声音で話せているのか分からない。けれど、共有のベッドであんなことをするなんて、普通はマナー違反だろう。性的な事柄については、ヴァルカンでは特にタブーである。ものすごく悲しくて寂しいけど、自分の蒔いた種なら刈り取るしかない。
 カークはしぶしぶ、重苦しい身を起こした。ベッドに手をついて抜け出そうとすると、途端にぎゅっと、手首に熱い手のひらが巻かれる。
 驚いて振り返れば、スポックは半ば身を起こしながら、掴んだこちらの腕を引いた。
「ジム」
「えっと……?」
「いえ、あなたがそう望むのであれば、そうしてください。ですが、あなたから謝罪されるようなことは、何ひとつありません」
――でも」
「誤解があるように思います。私は、その、私は構わないのです」
「誤解?」
「私はあなたを遠ざけたいわけじゃない。ただ、あなたは、私から遠ざかりたいのではないかと」
「え……、なんで……
「その、地球人がそういったことを、必要とするのは知っています。ですから、その、必要なときには、離れたほうが、楽なのではと」
………
「あなたの体が……
 スポックのはっきりとした声音は、次第に弱々しくなっていって、とうとう語尾はフェードアウトしてしまう。けれどカークの手首を掴んだ熱さはそのままで、むしろ力がこもっていくようだった。引き留める彼の思いが熱にまじって皮膚に吸いつくようで、カークは背筋を震わせる。
 つまり、淫蕩な人間のそばで眠りたくない、ということではなく。
 エロい気分になったときにエロい処理をする部屋が必要じゃない? ということらしい。
 思わず、空いているほうの腕で顔を覆った。かつてない猛烈な勢いで、羞恥が頭部を席巻する。聴覚に異常をきたすんじゃないかという激しさで赤面したカークは、無言でもぞもぞとベッドに戻った。スポックはまだ腕の拘束を外さない。
「ジム」
……次からは、バスルームでするので、ごめんなさい」
……バスルームで」
「ここで寝たいです。いいですか」
「問われるまでもありません。あなたがそうしたいのなら、私のそばで眠ってください」
 こちらのしおらしい態度に安心したのか、スポックもその身を横たえて力を抜いた。カークの欲しい言葉だけを正確に寄こしてくれる、なんて芸当を、彼はいつの間に覚えたのだろう。腕の拘束が外されるのを待って、カークは身を乗り出した。いつものようにスポックの布団に侵入すると、彼はそっと背中に手を回してくれる。ほっとこぼれた満足の吐息が、布団の中の温度を上げた。
……スポック」
「はい」
……スポックには、『必要なとき』がない?」
……ジム、もう寝てください」
 ひそやかに、ちょっと気になったことを問いかけると、スポックは困り果てた声をひそめる。
 カークはそんな彼に微笑んで、うっとりと目を閉じた。