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ツキシキ
2023-07-02 00:29:32
72006文字
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★刀剣乱舞・刀剣乱夢まとめ
7作品9振り。愛憎夢(刀さに)、死ネタ、ホラーなど。
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できない審神者と刀剣男士の鬱々とした朝 へし切長谷部・憐憫
女審神者(死にたがり、苛められっこ気質、痛々しい、口だけ、学習能力なし、無神経)。愛され嫌われより、蔑まれ要素が強め。出来の悪い上司みたいな奴が審神者になったら彼らはどう反応するのか、をコンセプトに短編連作の形式。
____________
今日は遠征も出陣も、内番すら当てられていない。暇を持て余し、何をするでもなく本丸内をうろつく。本来であれば休みが与えられようと主のため自己錬磨に励むべきだと思うのだが、それはもはや休みでないと控えめに窘められてしまった。
せめて掃除くらいなら休みの範囲に入るだろうかと考えつつ、普段皆が使うことのない物置部屋へ向かう。案の定誰もいないようで、襖越しに耳を立てても物音一つしなかったので、無遠慮に襖を開けた。
「
……
!?」
と。上げかけた声を、無理やり口の中で噛みつぶす。
居たのは主だった。部屋の中央で、何かを抱え込むような体勢で目を瞑っている。畳の上に直で身体を横たえているものだからひどく寝苦しそうだ。
さすがに主を無視して掃除をするわけにはいかない。いやむしろ、これは主の傍に控えて安眠をお守りせよと暗に天が告げているのではなかろうか。俺は極力音を立てないように襖を閉め、傍に寄った。触れるか触れないかの辺りまできてようやく微かな寝息が届く。呼吸に合わせてゆっくりと上下する身体をしばし見守り、考える。
赤子は身を丸めて眠るらしい。ならばこの方は赤子同然と言うことだろうか。
違わなくもないな、と自答する。自身を守る手段が少ないという点において、この方はいっそ憐れなほどに幼い。例え誰かと衝突することがあっても、決して怒らず、ただ自分ばかりを責め苛んでいる。加えて痛々しいのは、それがさらに相手の不快を誘うのだと知らないところだ。いつもこうして身を丸めて、二言目には謝罪をし、配下である俺達にまで遠慮している。
この方はずいぶんと弱々しい。奔放だった前の主と比べて────
「
………………
」
思考が不快な方向に行きかけたので、考えごとを打ち切る。代わりに、そうだ毛布でもお持ちしようと思い、腰を上げる。
「
…………
はせ、べ」
と、急に呼ばれて心臓が跳ねた。見れば、主の瞼が緩やかに開けられるところだった。焦点の合わなかった瞳が、次第に俺の姿を映して、途端に両目がかっと大きく見開かれる。
「あ、あああどうして、ええと、あの、違くて
……
」
ここでようやく夢現の境から戻ってきたのだろう。主はばね仕掛けのように身を起こしてうろたえ始めた。主の混乱を収めるべく、俺はひとまず傍に戻って正座をした。
「大丈夫ですよ、主。おはようございます。お休みのところを起こしてしまい、申し訳ありません」
「おはよう
……
? ああそっか寝てたんだ、いや、ここで寝てた私も悪いしそもそもこんな時間に寝てたのがどうかと思うので、その
…………
ええと、お気になさらず
…………
?」
動揺が際立つと、主は饒舌になる。が、要領は悪くなる。思考がそのまま言葉に流れ出るようで、何を言っているのか本人までわからなくなることも多いようだ。俺はとりあえず、戸惑いと共に与えられた気遣いを素直に享受することにした。
「そう言って頂けると幸いです」
「あ、はい
…………
えと、なんで、ここに」
「俺ですか? そうですね、せっかく休みを賜りましたので、ここの掃除でもしようかと思っていたのですが」
答えると、主はぽかんとして、俺を見つめ返してきた。
「え。え、えーと
…………
掃除は、休みじゃない気がする
……
?」
さほど強い口調ではなかったが、主なりの精一杯の否定であることはよく伝わった。
掃除も休みの範囲に入らないのか。休日とは存外難しい。
「
……
いけませんか?」
疑問を呈すると、さっと主の顔色が悪くなった。どうやら批判のように受け取られてしまったらしい。
「ああああああのごめんなさい
……
でもできれば休みの時は身体を休めないと年中無休になっちゃうかなっていうただでさえ身体が資本の貴方達なので
…………
はい
……
」
せっかく落ち着きかけてくれたのだが、また狼狽させてしまった。俺まで慌てるとますます悪化してしまうので、事務的な態度を心がけて、淡々と返す。
「ああいえ、俺の方こそ口答えしてしまいすみません」
「いやあのこちらこそあの差し出がましく
…………
」
こうなってしまうと謝罪合戦の始まりだ。俺の謝意が心から伝わっていないのには少し落胆したが、言い募ることはせず、話題を変えることにした。
「ところで主。引き続きお休みになられるのであれば、床の用意を整えますが」
「え。あ、いや、大丈夫
…………
ちょっとメンタルやられたっていうか自己嫌悪に塗れてぶっ倒れただけなので
……
」
「
……
とても大丈夫とは思えませんが」
「その
…………
」
主は言い淀んでしまったが、俺は構わず布団を敷くことにした。幸い、押し入れに予備の一式が畳んで置いてある。所在なさげに戸惑う主を放置するのは数分もかからず床の準備はできあがった。
「どうぞ、ご存分に」
「え、あ
……
ありがとう
………………
」
促せば、主は素直に布団へ潜り込む。
腰が低い分押しにも弱い。あまり主に強要はさせたくなかったが、これで俺にも主の休息を守るという命ができたので良しとする。枕元に改めて腰を降ろせば、主がひどく弱々しく口を開いた。
「長谷部、は」
「何でしょう?」
「
…………
日の高いうちから寝始める怠惰な主なんてどうなのとか思ったり軽蔑とかそういうのは、ないの
……
」
「主を軽蔑ですか? あり得ませんね」
吟味するまでもない質問だった。
「お仕えする以上、主は俺の至高の方です。
……
そういった扱いに居心地が悪いのであれば、もう少し肩の力を抜くよう、努力しますが」
「え、え、いや、大丈夫
……
長谷部は十分
…………
」
「お褒めに預かり恐悦至極です」
「うん
…………
」
肯定こそするものの、主はまだ何か言いたげに視線を彷徨わせた。その視線が窺うようにして俺に向けられたので、笑顔で返すと、再び目が逸らされる。何度かそれを繰り返してから、ようやく、主は独りごとのように漏らした。
「私、は
…………
自分が情けないと、思ってる
…………
皆も、怒らせたり、呆れさせたりで、審神者としても良くない
……
」
「ですが、主はいつも部隊を指揮して下さいます」
「それくらいなら
……
誰でもできることだから
…………
上から物を言うだけ、だし
……
」
物を言うだけ。それは違う。
俺の見立てでは、部隊の管理や資材の調整、行軍での指揮などにおいて主は及第点だ。多少慎重すぎるきらいはあるが、無謀な進軍を命じられるよりはずっと良い。とはいえ、それを正直に告げても、主はきっと受け取ってくれないだろう。主のこれは謙遜ではなく嫌悪に近い。だから俺は黙して話の続きを待つことにした。
主は身を横たえたまま、呟いていく。
「
……
本当は、ちゃんとたくさん話して皆と仲良くして過ごしやすい環境とか作るのが審神者の一番の役目だと思う、いや正しいかわからないけど私はそう思ってて
…………
でもそれは私が一番向いていないことだから
……
でも頑張ろうとするんだけどどうにも上手くいかなくて頑張り方を探すことすらとても難しい
…………
だから
……
」
そこで主はまた言葉を切って、言いかけたことを喉奥に閉じ込めようとしていた。けれど、ここで止められては俺の居る意味がない。
「だから
…………
?」
俺は誘い出すように声をかけた。主はそれでようやく、重い口を開く。
「
………………
死にたい、って
………………
」
たった一言で、主は言葉を詰まらせた。よく見れば、瞳が潤んでいる。それはすぐにボタボタと流れ出して、決壊してしまった。
「うぅ
…………
かっ、考えるのも言うのもいけないことなんだけど、わっ、わかって、るけど、っ、つい考えてしまうし口に出してしまうし言わずにいられなくなるのは、っ、弱いからで、でもっ、堪え、られなっ
………
」
拭ってもどうせ無駄と知りながら、つい手が伸びる。だが、軽率に触れるのも失礼と考え直して、懐の手拭いをそっと差し出した。けれども主が遠慮して受け取ろうとしないので、半ば強引に手拭いを押しつけて目元を拭う。
「
……………………
私は、弱いし、っ、ずるい
……
」
主の言葉はまるで告解のようだった。
些細な言葉に傷ついて、ありもしない悪意を想像するのは、どれほどのことだろうか。日々が針の筵のような生活はさぞ息苦しいだろう。自ら傷口を広げようとしているのだからなおさらだ。
なんだか俺は目の前の人がとてつもなく憐れに思えた。路上に捨てられた赤子のように。
「死にたいと、仰るならば」
深く考えもせず、言葉が転び出た。
「その際は、俺に命を下されば。もし、言葉だけで済まなくなるのであれば
────俺が介錯を致しましょう」
おそらく、下手に受け取られれば、俺の言葉は最大の拒絶と思われたかもしれない。だが、主はしゃくりあげるのを止めて、代わりにほぅ、と息をついた。安堵のようだった。
「
…………
あり、がと」
「光栄です」
初めてだ。一連の会話の中で初めて、ようやく俺の真意が心の底から伝わったことに、俺も安堵した。
落ち着きを取り戻した主の髪をそっと撫でる。すっかり心を擦り減らしてしまったのだろう、特に抵抗されることもなく、主の瞼は静かに下げられていった。涙の痕が残る頬も、目尻の赤く色づいた様も、全てが哀れでたまらなかった。
ひょっとすれば、ここで主を切り捨ててしまうほうが幸福なのかもしれない。
そんな考えも浮かびはしたが、出過ぎた真似だと捨て去った。
しばらくして、またあの微かな寝息が聞こえ始める。それでも俺は主の髪を撫でる手を止めなかった。
<終>
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