ツキシキ
2023-07-02 00:29:32
72006文字
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★刀剣乱舞・刀剣乱夢まとめ

7作品9振り。愛憎夢(刀さに)、死ネタ、ホラーなど。


できない審神者と刀剣男士の鬱々とした朝 大和守安定・憤慨


女審神者(死にたがり、苛められっこ気質、痛々しい、口だけ、学習能力なし、無神経)。愛され嫌われより、蔑まれ要素が強め。出来の悪い上司みたいな奴が審神者になったら彼らはどう反応するのか、をコンセプトに短編連作の形式。
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 気に食わない。
 と、いう第一印象は未だにズレてくれないまま、僕は行きどころの無い気持ちを持て余している。
 そもそも刀なんていう道具が気にいるいらないを感じる時点でおかしな話なんだろうけど、こうして人の形を取ってしまっている以上、嫌悪を感じてしまうこの感覚に我慢なんて効かないってことは自覚していた。頭の中で理屈をこねまわしたって結局気に食わないものは気に食わないんだから仕方ないじゃないか。
 だから、僕はあの人と極力関わりを避けるようにしていたし、あの時だって、こちらから声をかけるつもりはなかったのに。

 朝日が差し込まない薄暗がりで、あの人は鏡台を前に一人で座り込んでいた。手には何か、半月状のものを持っていて、それが持ちあげられて髪に添えられてようやくあれは櫛かと気付いた。さらによくよく見れば、あの人の髪はあちこちが跳ねていて、まるで寝て起きたばかりと言わんばかりの風体だった。
 そりゃ僕だって、加州清光ほど身なりに気は遣っていないし、髪だって雑にまとめているだけだけれど。それは僕が男として顕現しているから許される話であって、美醜が命の女子があんな恰好を晒したままというはどうかと思う。それが自分の主ということになっているのだからなおさらげんなりする。
 向こうは僕に気づいていない。こっちだって背中しか見えていないのだから当たり前と言えば当たり前だ。ろくに整えられていない身の着には皺が寄っていた。なんだかそれは寝たきりだった沖田くんの寝間着を思い出させて妙に癇に障った。
 小さな棘がちくちくと僕に刺さって煩わしいので、早々にその場を立ち去ろうと。

…………死にたい」

 したところであまりにふぬけて馬鹿げた腹立たしい言葉が耳に届いたので瞬間僕の目の前は真紅に染まって叫び出したくなったけど何を言えるわけでもなくとにかく足を踏み出しまるで僕は大捕物のような足音で彼女に近寄った。耳だけはまともなのか相手はこちらを振り返ったが逃げるには遅すぎてただ怯えた眼をこっちに向けることしかできていなかった。鈍い。鈍すぎる。戦場だとすぐ死ぬ。殺してやろうかもうここで。息を吸う。何かを口にしなければ気が済まない。

「いい加減それやめてって言ったよね?」

 言って、ああやっと言葉が見つかった、と思った。
 ふざけるなというのも、馬鹿野郎というのも、合わないなあと感じていたので。何より僕は怒鳴るなんてのが凄く苦手だ。

「あ、や、安定、ちが、あの」

 相手は意味を成していないことを呟きながら、ず、と後ずさった。その小動物らしい振る舞いがこれまた棘になって僕の胸を掻き荒らす。弱者になれば手加減がもらえると思っているんだろうか。それとも頭と心を病んだ哀れな気違いの振りをすれば手心を加えられると思っているんだろうか? だとしたらとんだ勘違いで救いようなく浅はかだ。馬鹿だ愚かだ塵屑だ。
 たとい病人であっても沖田くんとはちっとも違う。

「なに、死ぬの、そんなに死にたいの、思わせぶりだね。なんなら殺してあげようか、ね?」
「あ…………

 そこで違うとはっきり言ってくれればいいのに。
 相手はなんだか、魂が抜け落ちたかのような呆けた顔をして、ぼうっと僕を見つめ返すだけだった。殺されるならそれでもいいか、と言わんばかりの態度だった。肯定すらしないんだから始末が悪い。
 なんだよなんだよ。そんなんだったら斬らざるをえなくなるじゃないか。抜刀の姿勢を取ろうとしていた僕のほうが滑稽になってしまう。
 生きた人間というのは、健康なひとというのは、もっと瞳に情熱を燃やして、あるいは全身に力をみなぎらせて、輝くように生きるものなんじゃないのか。たった一瞬のきらめきに、あの日僕らがすがって求めたあと一日に、頓着しないだなんて。
 これじゃまるで死人だ。
 なら斬ったって意味がない。
 結局、僕は振るおうとした刃の代わりに、ため息を一つついて誤魔化した。

「ご、めん……なさい」

 小さく、小さく、風に吹き消されてしまいそうな声がする。

「もういいよ」
………………

 決して許しではなく、諦めで突き放した言葉を受けて、相手は黙って俯いた。身に染みてもいないのに、こうしてすぐさま謝って、弱い立場に入れ替わろうとするのも気に食わない。原因は全部向こうにあるのに、こっちも反省しなければならないような気がしてくる。
 でも、それは錯覚だ。だから僕は謝らない。それに相手は死人だ。謝罪だって責め苦だって相手が死んでちゃ意味がない。それでも僕は思い知らせるために、もう一言を吐き出して叩きつける。

「本当に、本当に、本当に死にたいなら。早くそうして」

 そうでなきゃ感傷に振り回される僕は耐えきれない。

………………ぁ」

 続く言葉が不快なものに変わる前に、僕はその場を後にした。