ツキシキ
2023-07-02 00:29:32
72006文字
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★刀剣乱舞・刀剣乱夢まとめ

7作品9振り。愛憎夢(刀さに)、死ネタ、ホラーなど。


刀剣男士が審神者を殺そうとする話 へし切長谷部の場合


へし切長谷部メイン、薬研がゲスト出演、ヤンデレ未満。審神者は台詞をちょこちょこ言うくらいで無個性寄り、性別の指定も無し。
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 主が死ねば俺達はただの刀に戻ってしまうのだろうか。
 その疑問が浮かんだのは実に唐突だった。あまりにも気軽に思い浮かんでしまったものだから、これがあまりにもまずい考えであるということにしばらく気づかなかったくらいだ。
 我が主は審神者という特殊な任にある。曰く、物の、刀の想いを引き出す力により俺達はこうして人の成りをしていられるそうだ。
 俺は人の姿でいるのが嫌なのか。
 自問すれば答えは否と容易に返ってくる。言葉を得、身体を用い、主に尽くすことは至高の喜びだ。この身が未だ振り回されるだけの物にすぎなかったとしたら、多くのもどかしさに埋もれながらきっと俺は狂っていただろう。いや、狂うという発想自体がもう刀のものではないか。そもそも人切りが人の形をしている時点で狂っているのか?

「長谷部?」

 は、と我に返った。見れば主が心細そうな面持ちで立っていた。

「ああ、申し訳ありません。少し……ぼうっとしていました」
……珍しい。何か気落ちすることでも?」
「いえ。大したことではありません」

 大したことでは。主を誤魔化すための嘘ではあったが、口にすれば本当に大したことのないような話に思えてくるから不思議なものだ。

「なら良いけれど。何かあればいつでも言うようにね」

 主の瞳が俺を刺す。主が俺を心配してくださっていることは伝わっているし、そもそも今の主が何かを責めるようなことはほとんどない。だというのに、妙に揺さぶられるような、激情を駆り立てられるような、おかしな心地がする。
 裏に潜んだ罪悪感のせいだ。


 ────あなたを殺せば俺は刀に戻るのですか。


 大したことではない。……はずがない。謀反だ。反逆だ。打ち首も手ぬるいほどのあり得てはならない考えだ。そうだろう、主を従物が裏切るなど。だというのに俺は何故こんなことを思いついてしまったのか。
 主に仕えることは喜びだ。ほんの少し刀身が曇っただけで、主はすぐさま手入れ部屋へ行くよう命じて下さる。ひそやかに吐いたため息を即座に見抜いて休息を下さる。続く出陣に破れた兵達を幾度も補充して下さる。立派な馬まで頂いた。さあここまでして頂けて、恐悦至極、何を不満に思うことがあろうか。仮に不満であったとして、今の俺には言の葉を紡ぐ口がある。否と言える、嫌と言える、それはおかしいと疑問を差し挟むことだってできる。素晴らしい、あまりに有難く、我が身には惜しいくらいの厚遇だ。


 だというのに、俺は何故、今、鞘から刀を抜こうとしている。


「主は、何故、我々をご寵愛下さるのですか」

 気づけば言葉が零れ出ていた。自分でも何を言っているのかわからなかった。平時であればこんなだというのに手は刀の柄を握り締め、もはや離れてくれそうにない。
 俺の唐突な問いに主は虚を突かれたような顔をして、少しばかり唸った。答えてくれなければ良いと思った。問うておいて我儘な話だ。それでも願わずにはいられなかった。
 答えが空白であれば、それを知るために俺は生涯をかけて主に忠義を誓うだろう。こんな戯けた考えは一種の気の迷いと忘れられるだろう。だから、どうか。

「理由などないけれど、君達のことが気に入ってしまったものだからね」

 ああ駄目だ。
 掌が力強く柄を握り締め足は一歩踏み出し腕を回し主の首が

「な、っ」
「おいてめぇ何やってやがる!?」
「薬研!?」

 首が、飛ぶことは無く、刀は空を切っただけだった。切っ先が振り抜かれた勢いで畳を削った。ささくれた畳が妙に目について、失態を犯してしまったと反省したが、心配すべきは畳などより主であるはずだった。
 主は尻餅をつくようにしてへたり込んでいた。何事もなければきっとあのまま主の首を刎ねていたはずだ。
 どこから現れたのか、薬研藤四郎は主を庇うようにして立ち、俺を睨みつけた。

「長谷部、これはどういうわけだ? 大将に切りかかるたぁ、よっぽどの理由があるんだろうな?」

 薬研藤四郎が主を後ろへ引いたのか。主の首は何故繋がったままであるのかという疑問が解け、なんだかすっきりした気分で俺は刀を鞘におさめた。俺の考えをこの短刀に語ったところで理解などされるわけがないことはわかりきっていたし、俺自身が理解できていないことをしたり顔で共感されるわけにもいかなかった。

……我が主、許しをなどとは申しません。溶かすも折るもどうぞご随意に」

 俺は何よりの拒絶を口にした。主は酷く思いつめたような顔をして、

…………ひとまず頭を冷やしなさい」

 とおっしゃった。ここまでしてなお、主は俺を見捨てるつもりはないようだった。その心の広さに感服し、やはり我が主は人徳が深いと感じはしたが、それでも先の行いを後悔することはできなかった。
 物想いにふけるのは一人でもできよう。与えられた主命を果たすべく、薬研藤四郎の鋭いまなざしを受けながら、俺は、ふらりと外へ出た。

 こうして、俺は、主の寵愛に対する最悪のご恩返しを成したのだった。



◇◇◇



 庭は緑が芽吹き、風は優しくそよぎ、春の訪れを感じさせた。
 それと同じくらい俺の心は穏やかだった。成すべき事を全て行ったという、達成感ばかりがそこにあった。

 ────主が死ねば俺は刀に戻るのか?

 どれほど頭を冷やそうと、深刻に思い詰めようと、きっとこの疑問は解決しない。あの一度で俺は悟ってしまった。ああいう風に邪魔が入ったのは、薬研藤四郎の勘が冴えていたからとか、俺の衝動が悪かったとか、もはやそういった次元の話ではない。主が死ぬなどあり得ないと、神が定めてしまったのだ。そうだ、だからもう思い悩むことは無い。
 こうなってしまっては成すべきことも果たすべき主命もなく、後は淡々と罰を待つばかりだった。早いところ刀解されてしまいたいような気もしたし、許されざる痴れ者として針のむしろに立っていたい気もした。俺は結局、素直な御好意を身に受けるには歪み過ぎたものだったのだろう。


 刀であり人である。愛とは不満である。
 呆れるほどの自己矛盾でへし切長谷部はできていた。



<終>