ツキシキ
2023-07-02 00:29:32
72006文字
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★刀剣乱舞・刀剣乱夢まとめ

7作品9振り。愛憎夢(刀さに)、死ネタ、ホラーなど。


できない審神者と刀剣男士の鬱々とした朝 燭台切光忠・軽蔑


女審神者(死にたがり、苛められっこ気質、痛々しい、口だけ、学習能力なし、無神経)。愛され嫌われより、蔑まれ要素が強め。出来の悪い上司みたいな奴が審神者になったら彼らはどう反応するのか、をコンセプトに短編連作の形式。
刀剣男士は食事を日常的に必要としないという捏造設定を含みます。
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 今日の朝餉は焼き魚と卵焼きにお味噌汁、それからほうれんそうのおひたし。しっかり味見もして、出来は上々だった。僕らはあまり食を必要としないけど、それでも料理は楽しい。味や色どりに工夫を凝らすのも腕の見せ所と言う感じがして気合いが入る。
 小鉢を並べ終えたところで、あの子が丁度よく顔を見せた。

「おはようございます……

 消え入りそうな挨拶に、なるべく意識して爽やかな声で返す。

「うん、おはよう」

 相手は頭を下げてから、膳の前にちょこんと座った。
 僕はそんな彼女に笑顔を向けながら、でも心の内でひっそりと苦い顔をする。
 声に覇気がない。背筋が曲がっている。挨拶の時ですらこちらを見ようとしない。後頭部の髪が一跳ねしている。────かっこわるい。
 けれど、それら全てを指摘して直すとなると、せっかく作った料理が冷めてしまう。何より相手が委縮して、とても気持ちの良い時間は過ごせない。それにこうして色々と気になっている僕自身、常に完璧だとは言い切れないのだから、多少は大目に見てあげないといけないというものだ。
 ふつふつと浮かび上がる嫌な気持ちを内側に塗り込めてから、僕も定位置に腰を降ろすことにした。向かい合った彼女が手を合わせる。

「いただきます…………
「召し上がれ」

 何をするでもなく、自分の作った食事が口に運ばれていく様を眺め続ける。
 僕は、というよりもこの本丸に来たほとんどの皆は、食事を取らない。人の身を取っている以上食べようと思えば食べられるけど、根っからの人間とは身体の仕組みが違うようで、そもそもお腹が空くという感覚がいまいちわからない。そのせいで食事と言うのが習慣化されていない。
 一応、人の姿を謳歌して一日三食、三時のおやつを楽しむ子もいる(主に短刀の子達だ)。けど、僕自身の気持ちはあんまり食べる方には興味が湧いてくれないみたいだ。
 せっかく綺麗な食事を作っても、食べる人に喜ばれないなら意味がない。
 彼女が毎日、一人で背を丸めて食事する様は、ひどく侘しく見えたので。ある日堪え切れず声をかけて以来、僕達はこうして食事の時間を一緒に過ごすようになった。

「卵焼き……おいしい…………
「それは良かった。明日は葱を入れてみようかと思ってたんだけど、どうかな」
「うん……

 声の調子はかなり暗いが、彼女なりに喜んでいることはわかる。
 料理の感想を言ってくれたり、工夫したところを褒めてくれたりするのは、作り手としてとても嬉しい。人を褒めるのを躊躇わない辺り、性根は良い子なんだろうなあとは思う。
 人にとって食べることは生きること、らしい。僕は実感できないけど、常識としては知っている。なら、僕が作った食事は彼女の生に少しくらい役だっているんだろうか。
 啄ばむように遅々として食べ進める姿を見ながら考える。
 朱塗りの箸がいったん置かれて、緑茶が手に取られた。

…………明日」

 一口飲んでから、彼女が一言だけ呟く。でも僕には短すぎて意図が掴めない。

「明日、何かあるの?」
「いや……明日も明後日ものんびり生きる予感はなんとなくあるんだけどこうしてて私良いのかなみたいな……頑張らないとだけど何を頑張ればとかそういう……
…………うーん」

 少し見直したら、すぐこれだ。二の句が継げなくて困る。
 彼女の思考回路はよく理解できていないけど、見るに、些細な何かしらに対して彼女はいつも怯えて暮らしているらしい。彼女はしょっちゅう暗い考えに囚われてどこか遠くへ行ってしまう。そういう性質だと割り切っていれば楽だが、その火種が自分の言動だと妙な罪悪感が刺激される。かといって僕には何をどうすることもできない。せめてご飯を作るくらいで。
 返事に期待しているわけでもないのか、彼女は再び箸を手にとって、黙々と食事を再開する。
 食べこぼしもしないし、嫌いなものを除けるような真似もしない。箸の持ち方も正しくて、食前食後の挨拶もきちんとできる。なのに、この子はどうしてこうも、みっともなく見えてしまうんだろう。丸まった背のせいだろうか。

「とりあえず、背筋を伸ばすことから始めてみたらどうかなあ」

 提案すると、相手はいっそう俯いてしまった。

……ごめん……
「あ、いや、怒ってるわけじゃないんだけどね」

 慌てて訂正したけど、やはり責めるように聞こえてしまったのは確かなようで、陰鬱とした雰囲気がさらに濃くなった気がした。
 嫌だなあ、と思う。主をみっともないと思ってしまう自分も、ちょっとかっこ悪い。
 しばらく無言が続いて、気まずい空気の中、

「ごちそうさまでした」

 かた、と、箸が箸置きに収められて、食事が終わった。

「お粗末さまでした」

 僕も礼を返して、空になった膳を手に立ち上がる。すると彼女が立ち上がりかけて、

「あ、あの、あ、洗い物くらいは……

 と言ってくれた。でも、準備と片付けは僕の仕事だ。

「いや、台所の片付けついでだし大丈夫だよ。それより、そうだなあ」

 膳を片手に持ち直して、空いた方の手で彼女の髪に軽く触れる。妙にすそが元気いっぱいに跳ねている一房。

「ここのお転婆を直した方がいいかもね?」
…………あっ」

 それで彼女はようやく自分の寝ぐせに気付いたようで、慌てて跳ねた部分を手で押さえつけた。

「わ、わたし、直してくる……
「うん、行ってらっしゃい」

 珍しくパタパタと走り去っていく姿を見送ってから、改めて台所に向かった。

 単純な作業の合間はつい考えごとをしてしまう。
 流しを片付けていると、埋め立てたはずの不満がまた首をもたげるのを感じた。もやもやとしたそれは、僕の中でいつまでも蟠っていて落ち着かない。

(持ち主がかっこ悪いと、僕らまでかっこ悪い評価になっちゃうんだけどな)

 何度も何度も思って、それでも最後まで表に出すことはしなかった。だってよっぽどじゃないと、下剋上の物言いなんてできやしない。それこそ一番格好悪いのだから。
 最後に蛇口を捻れば、流しに溜まった汚れた泡が、ざあ、と排水溝に流れていった。